『蓮舫議員のスパコン事業の事業仕分けにおける「2位じゃダメなんですか?」発言は正しい』という評価がSNSで広まっていますが、何かもにょったのでその原因を書いていきます。
- 蓮舫議員の「2位じゃダメなんですか?」発言への見解
- 行政刷新会議ワーキングチーム「事業仕分け」
- スパコン事業の目的と演算速度世界1位という手段
- 演算速度1位の意義:スパコン事業の手段の1つに過ぎず
- 蓮舫議員の意図は「1位じゃないとダメなんですか?」
- 「2位じゃダメなんですか?」は、やはり不適切である
- 「事業仕分け」でメディアの力を利用しようとした自業自得
蓮舫議員の「2位じゃダメなんですか?」発言への見解
結論から、私の蓮舫議員の「2位じゃダメなんですか?」発言に関する見解は以下です
- スパコン事業の事業仕分けに関しては正しい
- 蓮舫議員の「2位じゃダメなんですか?」発言はやはり不適切
- メディアの力を利用しようとした自業自得
以下のようなツイートがあり、その評価に引きずられている人が多いのですが…
京の事業仕分けの議事録を改めて読み直したが、やはりこの件に関しては蓮舫氏が正しい。氏の発言を要約するとこうだ。
— 大貫剛 (@ohnuki_tsuyoshi) 2020年6月23日
議事録を読んだ上で、上記評価となりました。
行政刷新会議ワーキングチーム「事業仕分け」
行政刷新会議ワーキングチーム「事業仕分け」第3WG 平成 21年度 11月 13日(金)
文科省や理化学研究所の説明では、「10ペタクラスの世界最高性能のスパコンを作る」、ということが強調されていました。
スパコン事業の目的と演算速度世界1位という手段
議事概要の12ページから13ページにかけて、金田康正という円周率計算ソフト「スーパーπ」などを開発した計算機科学の教授の発言が重要だと思います。
スーパーコンピューターというのは物だけを作るのが目的ではなく、スパコンを支える技術が継承される環境、競争させて良いものが作られる環境など、日本のインフラ整備あるいは外国に伍して競争できるような人材を輩出するような土壌を継続的なものにしよう、という趣旨の話をしています。
その中で演算速度についても以下指摘がありました。
○金田評価者 省略
もう一つ複数のセンターをつくるときの問題は、デバッグをやるときに、フルノードを使 わ ざ る を 得 な い わ け で す 。そ の 間 、本 来 の 計 算 が と ま る ん で す 。そ う い う こ と も あ っ て 、複 数 個 あ っ て 、実 際 使 う と き に 10 ペ タ が あ っ た と し て も 、使 う こ と は ま ず な い 。1 ペ タ を10 台に分けてやった方が、よほど皆さん助かるということになるんだと思います。
見ていて、現場というか、こうやれば日本のインフラ整備あるいは外国に伍して競争できるような人材を輩出するような形の構想になっていないような気がするんです。それが私の感じるところです。
演算速度1位の意義:スパコン事業の手段の1つに過ぎず
○金田評価者 長年スーパーを見ていて、今の議論についてかなりおかしなところがいっぱいあるような気がします。
まずベクトル云々という話がありましたけれども、実は地球シミュレーターでIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次報告書を出したときには、基本的にはベクトル構造なんです。ソフトウェアというのは、皆さん、書かれていないからおわかりにならないでしょうけれども、マシンが変わると物すごく大変な作業をするんです。
ちなみに私は円周率の記録を持っていますけれども、1兆桁の記録を出したとき、1年8か月かけて4倍性能が上がる。要するにそれくらいかけないと上がらない。逆に言うとマシンというのは、使い方を一生懸命やると、性能が出るものではあるんです。
つまり、演算速度1位というのはスパコン事業の目的じゃなくて手段の1つだろうと。
【刹那的に1位を獲得しても、他国の開発環境・運用環境によってすぐに追い越されるのは目に見えているのに、なぜ演算速度の世界一に固執しているのか?】
その理由を問うた際の説明は以下になります。
○泉内閣府大臣政務官 省略
もう一つは、アメリカが 24 年までに同じ 10 ペタのものをつくろうとされているというふうに伺っている中で、日本としてのトップワンでいられる期間は、どれくらいだと考えておられるのか。恐らくアメリカが本気で挑戦をすれば、すぐまた順位が入れ替わるということが想定されるのではないかという中で、果たして一時的にでもトップを取るというこ と の 意 味 が 、本 当 に ど れ く ら い あ る の か と い う こ と も 、併 せ て お 聞 き し た い と 思 い ま す 。
省略
○説明者((独)理化学研究所) 省略
先ほどから、例えば費用対効果の話が出ておりますけれども、サイエンスには費用対効果に馴染まないものもございます。勿論、経済効果とかそういうことも必要でございます 省略○中村進行役 その一般論は皆さん共通の認識でございますので、これだけのお金をかけてこれを来年度やる必要性について、具体的にお答えください。
○説明者((独)理化学研究所) こうした国民に夢を与える、あるいは世界一を取ることによって夢を与えることが、実は非常に大きなこのプロジェクトの1つの目的でもあります。
こんな調子の説明しかできていなかったというのが実際です。
ですから、当該事業をいったん凍結したというのは、正しかったなと思います。
蓮舫議員の意図は「1位じゃないとダメなんですか?」
蓮舫議員の「2位じゃダメなんですか?」発言はこうした文脈から出てきたものです。
○蓮舫参議院議員 思いはすごくよくわかるし、国民に夢を与えるものを、私たち全員が否定しているものでは全然ありません。ただ、ちょっとわからないのは、今回あと 700 億円を投じて、今回のスパコンができること。この段階で既に 100 億円を超える予算超過をして、今後 700 億円を投じて国民に夢を与えたい。それは本当にこの額が必要なのかどうかというところを、もうちょっと教えていただきたいんですけれども。
国家に必要な最先端IT技術の獲得が目標にあるんです、そして比較参考値で、今日いただいた中には、中国が1ペタを開発していて、アメリカが間もなくで、もう日本はアメリカの後にいるんだと。世界一になる理由は何があるんでしょうか。2位じゃだめなんでしょうか。
あるいはアメリカがつくった後に、そこになってある意味ソフトあるいはどこかで共同開発、つまり日本とアメリカが一緒にできるような、何かそういう夢の共有というのは、できないんでしょうか。なぜ1位なんでしょうか。
本人も一番じゃなきゃダメですか?などという書籍にしていますが、要するに、蓮舫議員の発言は【文科省や理研が、スパコン事業において演算速度1位を獲ることに固執する必然性に対する疑問を投げかけた言葉であった】ということです。
「予算をとにかく削ろうとして単に目標を下げる」ということを意図したものではなかったように見えます。
「2位じゃダメなんですか?」は、やはり不適切である
それでも、やはり蓮舫議員の発言は不適切だと思うのです。
議事録の前後を見れば、蓮舫議員も演算速度の向上をしつづける事(その結果として世界一の速度を実現すること)それ自体は否定しておらず、ただ、複数ある手段の中で演算速度だけ1位になること(しかもそれ自体は刹那的なもの)に固執する意味は無いだろうという意味で言及しているのが分かります。
しかし、だからこそ、なおさら「2位じゃダメなんですか」というのは出てこないハズの言葉ではないかと思うのです。
本人はたとえ話として発した言葉なのかもしれません。「2位」にその通りの意味はなく、3位だろうが4位だろうが、とにかく「1位以外であってはいけないという国側の説明に対するアンチテーゼ」だったのでしょう。
ただ、「2位じゃダメなんですか」発言は、まるで2位という特定の順位を狙うようにしか聞こえないし、演算速度の向上をしつづける事すらスポイルするような印象を受けます。
そういう意味で、蓮舫議員が議論の本筋を正確に理解していたかどうかに疑問符がつく発言なのです。その場の他の専門家に乗っかって言っているだけなんじゃない?と。
そして次の点も要考慮事項だと思います。
「事業仕分け」でメディアの力を利用しようとした自業自得
「2位じゃダメなんでしょうか?」発言はメディアの報道によって大きく取り上げられ、その後にネットで継続的に話題にされてきたという経緯があります。
ネット民がアーカイブから持ってきて広まった、という拡散経路ではありません。
そもそも民主党政権の「事業仕分け」という演出装置は、マスメディアによる報道を期待して作られたものじゃないですか。
その力を利用しようとしたら、自分がその餌食になってしまった。自らその罠にハマったということでしか無いと思います。
「発言を切り取られた」と言うのは簡単ですが、「いや、あなた方はその手法を(平成21年当時ですら)散々やってきたでしょう?」としか思いません。
以上