事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。リンク切れに備えて魚拓を活用しています。

"シーライオニング"の日本語界隈(Twitter)での拡散の仕方とその経緯

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「シーライオニング」という用語の日本語圏での広がり方の経緯について。

Google検索とTwitter検索をしても、言及されているタイミングは変わらなかったのでツイートを中心に整理していきます。

シーライオニングの元ネタ漫画は2014年

シーライオニングの元ネタ漫画は、David Malki ! 氏が連載しているWondermarkという単発シリーズにおける"Terrible Sea Lion"という題名の回です。

主に#GamerGate に関連して言及される形で英語圏で拡散されていますが、作者がその議論を意図してシーライオンを書いたのかは定かではありません。

「シーライオニング」という言葉の用語法は、この漫画で決定づけられたのではなく、漫画はきっかけに過ぎません。その後のネット上での用いられ方によって徐々に共通理解が形成されていきました

概ね「誠実に議論をするふりをして、相手の好意に乗じて一方的に情報提供・説明を要求し、負担をかけさせ、時間を浪費させ、しかも説明された内容を曲解したりしながら更なる質問を繰り返す」と理解されていますが、もっと短く「議論をする気も無いのに悪意を持って質問を繰り返す」と言われることがあります。

日本の既存のネットスラングで言えば「荒らし」≒「釣り」であり、「粘着」に近いものなので、対処法はこれまでと変わりません。

日本語界隈での拡散は2020年から

シーライオニングという言葉が日本Twitterで広まったのは、2020年に入ってからです。

厳密に言うと、2019年12月30日にシーライオニングの語義をUrbandictionaryから引用しつつ元ネタ漫画を提示したものが拡散されたのをきっかけに、何度か関連するツイートが拡散されていきました。

その際の言及のされ方にも変化があるので、その点をここでは整理していきます。

2019年までの"Sealioning"の認識と経緯

現存している日本語Twitterにおける最古のシーライオニングに言及しているツイート。

これ以降シーライオニングに言及しているツイートは2019年11月まで隔たりがあります。

そして2019年12月31日になされたこのツイートが日本語Twitterでシーライオニングの語が拡散されたきっかけになります。

翌日には棘(togetter)のまとめが作成されました。

これは1月1日時点ですが、2月に入ってからもとても多く拡散されていました。

リプライや引用リツイートを読む限り、7月に示されたような、作品をストローマンして理解するようないいかげんな論じ方はほぼ無いに等しいです。 

この時点では英語圏での用語法の認識と、元ネタ漫画とそこから意味が派生・発展・形成されていったという認識がきちんとあるのが見て取れます。

日本語訳が出てくるのは先の話で、概ね、英語(と英語圏での文脈)を理解しようとする人たちによって認識されていたと言えそうです。が、7月に拡散されたものと比べると小規模なものにとどまっています。

この頃から「フェミがやってることだよね」「某ネット論客そのまんまじゃん」みたいなツイートはありましたが、ほとんど個人の単発の感想に終わっています。

2月以降から6月までのシーライオニングの広がり方

2月はこの漫画化したツイートが拡散されています。

これは「女性が被害を受けやすい」という事が書かれているので、よりフェミニスト界隈に近い言説なのですが、「これってお前らがやってることだよね」とかその逆で「フェミらが論理的に話せないのを誤魔化すためだ」みたいな言及はあったものの、あまりその事で論争のような事は発生していなかったようです。

むしろ「春風ちゃんがよくやられてる」「現実のカップルでもそう」というように、肯定的なものが多かったです。

また、この漫画の作者がシーライオニングの用語法の出典や元ネタ漫画の出典を示していないので、英語圏での使用のされ方・マルキ氏の漫画の内容についてこのツイートから知った人はほとんどいなかったようです(何人かは特定していた)。

そのためかわかりませんが、1月よりは「論理的に説明できない連中が使う詭弁だ」といった受け止めが増えています

「半年ROMれ」という対処方法を指摘している人、既存の概念での置き換えが可能であることを指摘している人はそれなりにいました。

6月11日には、7月に話題になった際にも多く取り上げられた和訳版がツイートされており、このタイミングでも多く拡散されています。

7月までの「シーライオニング漫画と黒人差別・人種差別」 の言及

このような状況なので、「シーライオニング 黒人」「シーライオニング 差別」などというクエリで検索をしても、まったくヒットしません。

「アシカを黒人などの別人種に置き換えたら差別に繋がる」旨を主張するツイートは、6月31日までで3、4つしかありませんでした(7月21日検索)。

これが、7月の拡散時には非常に多くのツイートがみつかるようになります。

7月以降のシーライオニングの定義・意味の拡散のされ方

「須藤エミニ🕊フェミニストVtuber (@suto_emini)」という方がこのような動画を投稿したことが7月に「シーライオニング」にまつわる言説が拡散したきっかけです。

これに対する反応は2極化しました。

フェミニストを名乗る者が説明したことで「ほらみろ」というような反応が増大、他方でフェミニストであるか否かは別として「あるある、よくある」というような反応も多く、後に某ネット論客が「参戦」していくようになりました。

動画の内容的には宇崎ちゃんポスター事件をモチーフに「こういうポスターが子供の見る場所にあるのはよくないな」とフェミニストが感想を述べたところに、それに対してエビデンスを要求する人(Twitterのツイートを見た人などが念頭にある)の例、次に彼女が体験した具体例(「井の頭公園にアシカは居ない」に対するエビデンスを要求する人→ダイヤモンドオンラインの記事と同じ)を提示。こうした流れでシーライオニングの用語法の説明をしていました。

動画では具体的な言及はしていませんが、動画の概要欄にワンダーマークのHPダイヤモンドオンラインの解説記事が添付、質問の全てがシーライオニングではないという注意事項も説明がありました。

英語圏でのシーライオニングの用語法から説明したものではないのですが(重ねて言うが、マルキ氏の漫画は概念が形成されるきっかけに過ぎず、漫画におけるシーライオンの行為だけがシーライオニングの定義として使用されているのではない)、それと照らしても概ね合致している説明内容です。

あくまでシーライオニングに関する説明についてですが。

この拡散は7月15日にピークになりました。

シーライオニングのTwitterでのトレンド、拡散

yahooリアルタイム検索:http://archive.is/XLmZn

フェミニストvs反フェミニスト+某ネット論客の文脈

ここからは私の私見の要素が強まる内容になっています。

 「フェミニスト」に対する評価ですが、ネガティブなものが多く、「議論をしようとしない、反論されてもそれに対してちゃんと応じない」という評価がネット上では定着しています。

1つリプライで指摘しただけで14分でブロックされた例ですが、こういう例がいくらでも存在しています。

7月の「シーライオニング」の日本Twitterにおける拡散は、フェミニストに対してこういう認識を持っている者が「フェミニストが言っていることだからおかしい言葉だろう」という先入観を持って理解するものと、フェミニストらによる理解が対立する形で論争化しました。

そうした状況もあったためか、「フェミニストがそれを論じていること」に留まらず、6月までにはほとんど見られなかった「シーライオニングという言葉自体」や、「元ネタ漫画の作品自体」を否定的に論じる様子が目立つことになります。

なお、元ネタ漫画を持ち出してきたのはフェミニスト界隈であるが、普段あんたらがやってる論理展開からは、あんたらのような連中が寄ってすがるべき漫画ではなく、逆に足元を掬われないか?という文脈で論じられているのがCDB氏のこのエントリ。その限りでは私も同意。これもフェミvsアンチフェミの文脈での捉え方と言えるでしょう。

某ネット論客とシーライオニングの用語法

同時に、某ネット論客に対する評価から「シーライオニングという言葉、わが意を得たり」という視点で論じられるケースも多く存在しています。

そのため、フェミvsアンチフェミ文脈も相まって、英語圏でのシーライオニングの用語法とは離れた文脈で理解されることが多くなり、「その漫画はシーライオニングを上手く表現できていない」、などの時系列からは間違っている理解も一部見られました。

さらに、自分で英語読解ができない者が他人の単語の説明文を一知半解して和訳の内容を否定する、ということも起きていました。

和訳についてはその意図と作品解釈も含めて私も以下で論じています。

ワンダーマークの表題"The Terrible Sea Lioning"を無視した用語法

そしてこの話になるのですが、7月の拡散の中心となった某ネット論客が和訳されたものだけを参考にし(和訳ツイートを「原典」として物を書いている)、原作の表題"The Terrible Sea Lioning"や漫画HP上のTags: annoyances(=ウザい・苛立たせるもの)を無視したことで、独自理解で「シーライオニングしよう」とまで主張した、という展開になりました。

結局このような用語法は受け入れられるハズもなく、まったく広まらなかったのですが、「フェミが詭弁に利用しようとしている怪しい道具」の先入観や、原作ツイートなりHPではなく原題の誘導が無い和訳が広まったことで(和訳者には責任が無い)、「女性が悪いのであってアシカは悪くない」「アシカを黒人や在日朝鮮人に置き換えることができるので漫画はダメだ」という主張も多くみられるようになりました。

アシカを黒人に置き換えたら…のストローマン論法

先述のように、6月31日までは「シーライオニング 黒人」「シーライオニング 差別」ではほとんど誰も論じていませんでした。

それが、7月の拡散時には相当数のツイートが引っかかるようになり、ツイッターの検索窓で「シーライオニング」と入れると関連に「黒人」が出てくる時期もありました(設定環境によっては違いがある)。

「女性の非難対象がアシカという存在であるのが黒人や在日朝鮮人への代入可能性がある」と言うなら、なぜ5コマ目や6コマ目にも代入しないのでしょうか?

黒人や在日朝鮮人は、5コマ目や6コマ目のように、拒否られた相手の部屋に深夜に侵入したり朝食の時間にも議論を吹っかけて粘着するような人々なのでしょうか?

漫画は6コマあって全体の展開から理解すべきものを、5コマ目以降を無視しているのはストローマン(藁人形)論法ではないでしょうか?

こんなのがありますが、ならばもはや女性が嫌悪するのは正当性があるということになぜ気づかないのだろうか?

なお、2014年に英語圏で拡散された際もこのような難癖は多くつけられたようですが、作者が「そういう読み方は普通しないだろ」と一蹴しています。

嫌悪対象を擬人化する展開を否定するのは表現の自由の観点から危険なのでは?

7月の拡散時に見られた光景は、嫌悪対象を擬人化するという風刺の表現を狭めるような論理を、表現の自由が大事だと言ってる側が、反フェミの文脈で相手を論破できればそれでいいと思って主張している様でした。

それを見るのは何とも言い難い気持ち悪さを覚えますし、誠実さの欠片もないなと思います。

以上