事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

NHKとハフポストの「若年層の性暴力被害報告書」報道が紛らわしい:内閣府男女共同参画局による「性暴力被害」の定義

報道では何も正しい認識を得られない

内閣府男女共同参画局「女性に対する暴力」に関する調査研究報告書

内閣府男女共同参画委員会による性暴力被害調査報告書

「女性に対する暴力」に関する調査研究 | 内閣府男女共同参画局魚拓

若年層の性暴力被害の実態に関するオンラインアンケート及びヒアリング結果報告書 令和4年3月 株式会社リベルタス・コンサルティング魚拓

内閣府男女共同参画局が若年層の性暴力被害の実態に関するオンラインアンケート及びヒアリング結果報告書を3月に報告し、6月にHP上で公開していた件について。

本調査は2022年1月、2回にわたってオンラインで実施され16〜24歳の若年者を対象。

有効回答数は8941人(1回目:6224人、2回目:2717人)。

「性暴力」の定義を「望まない性的な言動」とした上で、性暴力被害を次の5つに分類して実態を調べています。

  1. 言葉による性暴力
  2. 性器を見せられるなど、視覚による性暴力
  3. 体を触られるなど、身体接触を伴う性暴力
  4. 性交を伴う性暴力
  5. 裸を撮影されるなど、情報ツールを用いた性暴力

一般的な言葉の意味における「性暴力」は4が標準で、3のいわゆる痴漢と呼ばれるようなものもその中に含める用語法がある、というものですが、それをさらに広げる用語法を採用している、という点で非常に注意が必要な調査・報告書です。
※「性的」の意味が不確かであり、申告された「被害」について、明らかに「性的」に該当しない場合に除外した、というような処理は書かれていない。

報告書では回答率が低いことから「母集団の特性を反映する疫学的なデータとは言えない」と注記した上で、1回目の回答者のうち、4人に1人(1644人、26.4%)が性被害に遭ったことがあるとしています。

この高い数値が出た背景には、こういう言葉の定義が影響しているということです。

他方で「性被害」についてはセクハラも含めた用語法がありますが、今回のような分類が為された報告書というのは珍しいです。

「性交を伴う性暴力8.2%」の意味⇒「最も深刻な性暴力被害」回答者内訳

HUFFPOST 若者の“最も深刻な”性被害、学校が最多に。「性交を伴う性暴力」は8.2%【内閣府調査】調査では、16〜24歳の回答者のうち4人に1人が何らかの性被害に遭っていたことが分かりました。國崎万智(Machi Kunizaki)2022年06月17日 17時25分 JST

「学校・大学の関係者」は最多の36%
1回目と2回目の調査を合わせた有効回答者8941人のうち、性暴力被害を経験したと答えたのは2040人。
性自認ごとの内訳は、女性が 82.6%、男性が 12.5%、X ジェンダー・ノンバイナリーが 3.1%、その他・答えたくないが 1.8%だった。

最も深刻な/深刻だった性暴力被害では、「言葉による性暴力」が最も多く38.8%。次いで「身体接触を伴う性暴力」(28.2%)、「情報ツールを用いた性暴力」(16.3%)ーーの順だった。
「視覚による性暴力」は8.5%、「性交を伴う性暴力」は8.2%だった。
被害に遭った場所別(複数回答)では、学校(22.5%)が最も多く、次いで公共交通機関(16.8%)、 インターネット上・SNSアプリ上(11.9%)の順だった。

ハフポストの記事では「性交を伴う性暴力8.2%」が強調されています。

しかし、NHKでは「性交を伴う性暴力4.1%」の数字があります。

性暴力被害 若者の4人に1人が“遭ったことがある” 内閣府調査 2022年6月17日 16時44分 NHK

また、性暴力の被害で最も多かったのは、
▽ことばで性的な嫌がらせなどを行う「ことばによる性暴力」で17.8%、
次いで、
▽体を触ったり抱きついたりするなど「身体の接触を伴う性暴力」が12.4%、
▽スマートフォンで性的画像を撮影されるなど「情報ツールを用いた性暴力」が9.7%となり、
「性交を伴う性暴力」も4.1%の回答がありました。

これはいずれかが間違っているのでしょうか?

実は、両方とも正しい
NHKは「性暴力」の定義を紹介していないという問題がある。ハフポストは定義の5分類を紹介していた。

まず、この割合は全回答者中の割合ではなく、「性暴力被害を受けた」と回答した者の中での割合だということ。

その上で、ハフポストが強調している8.2%という数字は、「最も深刻な/深刻だった性暴力被害」であり、複数の「性暴力被害」を受けた者が「その中で最も深刻だと感じた性暴力被害」の中で「性交を伴う性暴力と回答した数字」です。

その基準は個人によって違うのですが、「性交を伴う性暴力」を経験した者はそれを挙げると予想され、したがってこの問い方では「性交を伴う性暴力」の数字が上がることが容易に予想されます。

内閣府調査、性暴力被害者率

他方でNHKの4.1%というのは、「性暴力被害」の中での「性交を伴う性暴力被害の遭遇率」の「申告件数」の内訳です。

内閣府調査、性暴力被害者立

ハフポストは、より数字の大きい方を読者に対する印象のインパクトを強めるためにタイトルに持ってきたのでしょう。

「性交を伴う性暴力被害」の回答件数は、全回答者のうち、性暴力の被害を受けたと回答した「26.4%の内の4.1%」ですから、【1.0824%】ということになります。

これは法務省が男女2000人超に調査した結果、法律上の処罰の対象とはならない行為を含む性的事件について被害を受けたと回答したのは1.3%だった、という調査結果と比べると多いですが、一般的な性被害の被害者のボリュームゾーンは13~29歳(法務省の年齢の区分け方による)であるところ、法務省の暗数調査は「過去5年間」に受けた性被害について、回答者の年齢制限が無い調査だったことが内閣府調査との違いを生んだと言えます。
「過去5年間で」の条件は、法務省が準拠した欧州犯罪・安全実態調査(European Survey on Crime and Safety:EU-ICS)でも同様で、これにより国際的データが集められていた

「性交を伴う性暴力」の「被害に遭った場所」と学校に関するハフポストの記述

内閣府男女共同参画委員会による性暴力被害調査報告書

被害を受けた場所について、ハフポストのタイトルをもう一度見てみましょう。

HUFFPOST 若者の“最も深刻な”性被害、学校が最多に。「性交を伴う性暴力」は8.2%【内閣府調査】調査では、16〜24歳の回答者のうち4人に1人が何らかの性被害に遭っていたことが分かりました。國崎万智(Machi Kunizaki)2022年06月17日 17時25分 JST

これだと「性被害」という言葉の一般的な用語法のイメージと「性交を伴う性暴力」という言葉が近くに置いてあることから、「学校において性交を伴う性暴力が最も多いのだ」と勘違いする人が出てくることが予想されます。

実際は上掲図の通り、「性交を伴う性暴力」の場合には「加害者の家」が32.9%で最も多く、「ホテル」「自宅」「加害者の車」と続いて「トイレ」と「学校」が8.4%で同率となっているのが分かります。

「X ジェンダー・ノンバイナリー」の被害遭遇申告率の異常な高さと性自認の割合と調査方法の致命的欠陥

内閣府男女共同参画委員会による性暴力被害調査報告書

「X ジェンダー・ノンバイナリー」の被害遭遇申告率の異常な高さが目立ちますが、これは回答者数が極端に少ないことから留意が必要だということは報告書でも触れられています。

なお、LGBT≒性的マイノリティ―と自称する者の全人口に占める割合について電通調査の「9%」が持ち出されることがありますが、電通自身も注意喚起していました。

国立社会保障・人口問題研究所による調査では概ね3%以下と予想される結果でした。

内閣府男女共同参画局の調査でも「X ジェンダー・ノンバイナリーが 3.1%」なので、この数字と近似していることになります。

さて、なぜこういう数字が出ているのか?

性自認と本来の性別とで分けて、被害率はどちら(生物学的女性と男性)の方が多いのか、という点について見ることができなければ、何か対策をするにしても有効な手段が採られないのですが、大丈夫でしょうか?それが分からない調査に、意味なんてあるのでしょうか?

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