「1937年の南京大虐殺を日本政府が公式に認めた」
これは嘘です。
日中歴史共同研究の報告書と、日本政府の見解を誤解させて伝えようとする者がいますので、ここで確認します。
そして、南京事件についての考え方を整理し、有益な文献を紹介します。
この話題については夥しい書物が出版されていますが、論点整理として最適なのが日中歴史共同研究の報告書です。
- 日中歴史共同研究と日本政府の見解
- 日中歴史共同研究報告書の内容
- 南京大虐殺についての日本政府の見解
- 「南京大虐殺」の意味内容
- 「南京事件」の参考文献
- もう一つの南京事件
- まとめ:南京大虐殺の捏造と真実
日中歴史共同研究と日本政府の見解
「日中歴史共同研究」というものがあります。
2005年4月の日中外相会談で提案され、2010年に報告書が発表されているものです。
報告書の構成は以下のようになっています。外務省HPでは一部省略されています。
- 日本語論文
- 中国語論文
- 1,2双方の日英中訳
日本語論文と中国語論文は、対象としているテーマは同じですが、執筆者も参考文献も導かれている結論や考察もまったく異なるものです。
そして、これは日本政府の公式見解ではありません。
第189回国会文教科学委員会第1号平成二十七年十二月十一日
○政府参考人(石兼公博君) -省略ーなお、この日中歴史共同研究報告書に収められた論文は学術研究の結果として執筆者個人の責任に基づき作成されたものでございまして、政府として個々の論文の具体的記述についてコメントはしないとの立場でございます。
したがって、日中歴史共同研究の報告書の内容をもって、「日本政府の見解」であると言うのはデマであるということです。
なお、日本語版と中国語版の両方が収録されている書籍が出版されています。
日中歴史共同研究報告書の内容
中国語論文は30万人説を提唱していますが、日本語論文を確認します。
日本軍の侵略と中国の抗戦 (4)南京攻略と南京虐殺事件
日本軍による虐殺行為の犠牲者数は、極東国際軍事裁判における判決では 20 万人以上(松井司令官に対する判決文では 10 万人以上)、1947 年の南京戦犯裁判軍事法廷では 30 万人以上とされ、中国の見解は後者の判決に依拠している。一方、日本側の研究では 20 万人を上限として、4 万人、2 万人など様々な推計がなされている。このように犠牲者数に諸説がある背景には、「虐殺」(不法殺害)の定義、対象とする地域・期間、埋葬記録、人口統計など資料に対する検証の相違が存在している
日本語論文では不法殺害の人数を断定しておらず「諸説ある」と言うに留めています。
20万人を上限としていますが、下限は設定していません。
南京大虐殺についての日本政府の見解
平成十八年六月二十二日受領答弁第三三五号では、「千九百三十七年の旧日本軍による南京入城後、非戦闘員の殺害又は略奪行為等があったことは否定できないと考えている。」とあります。
これが日本政府の見解です。
「南京大虐殺を日本政府が認めた」というのがデマだということが明白でしょう。
「南京大虐殺」の意味内容
そもそも、「南京大虐殺」という言葉は、その内容に「非戦闘員を含む30万人を日本軍が軍事目的で組織的に殺戮した」という含みをもって使われ始めました。
この言葉の意味内容を分解すると以下の性質に分けられます。
- 非戦闘員を含む数の問題
- 組織的に不法殺害を行ったか否かの問題
日本政府や民間研究では2番は認めたとは言えない情況です。
1番目の数の問題も、諸説ある中で民間研究では30万人は無いだろうという説が優勢です。
さて、「虐殺」という言葉は曖昧なものです。
殺害の仕方が残虐なものであれば「虐殺」であると言う人も言えば、それなりの規模をもった殺害事象でない限り「虐殺」ではないと言う人もいます。
英語では"Terror","Massacre","Genocide","Atrocity"という語が使われます。
南京に関しては"Atrocity","Terror","Massacre"が多い。また、"Rape"は広義の暴行の意味もある
したがって、「虐殺」があったのか『「大」虐殺』だったのか、という論点設定は、不毛な議論に終わります。定義がないのですから。
「南京大虐殺」肯定派も否定派も、お互いの定義する「南京大虐殺」の有無を論証しているだけで、有益な議論になっていないことが多いです。
「南京事件」の参考文献
世の中の「南京事件本」の多くは、上記のような定義問題を引き起こすだけなので、読む価値はありません。
日中共同歴史研究の日本語訳の参考文献に挙げられたものでは以下が重要でしょう。
南京事件増補版 「虐殺」の構造 (中公新書) [ 秦郁彦 ]
秦郁彦の『南京事件』は、増補版を読むべきでしょう。初版から数年経ったあと、どのように南京事件の研究に進展があったのか、これからの研究はどうなるのか?についても触れています。
不法殺害の中身が、投降兵なのか、捕虜なのか、便衣兵なのか、民兵なのか、ということをしっかりと考察しています。「非戦闘員」の中身の問題でもあります。
不法殺害の人数についても、各論者の説として何人の立場なのかをまとめており、0人から数千人~4万人の説があるということも紹介しています。
また、秦郁彦氏の『南京事件』も、主な参考文献は「南京戦史資料集」です。
これは当時南京に駐留した日本軍兵士らの日記の内容が収録されており、生々しい実態が書かれています。
南京の状況について一例を挙げれば、中島今朝吾中将の日記において、司令部と表札を掲げている建物なのに侵入されて物品が奪われたり、陶器などの展示物がある建物は錠をかけてようやく盗難が治まった、という状態だったということが書かれています。
もう一つの南京事件
南京雨花台の、虐殺記念館がある烈士陵園には、「人民英雄碑」と言われる石碑が立っていて、ここには毛沢東の揮毫とともに「南京虐殺は国民党によるものであった」という碑文がある
これは「1927年」の南京事件についての記述です。
蒋介石が日本を含む外国の居留民を襲撃した事件のことです。
一般に言われる南京大虐殺は「1937年」の出来事ですから、別物です。
しかし、毛沢東は1927年についての碑文を建てたにも関わらず、なぜか1937年の「南京大虐殺」については何ら言及していないのです。
「南京大虐殺」は中国共産党のプロパガンダに過ぎないということが伺えます。
まとめ:南京大虐殺の捏造と真実
- 日中共同歴史研究の報告書は、日本政府の見解ではない
- 日本政府の見解は「非戦闘員の殺害又は略奪行為等があったことは否定できない」
- 「虐殺」「大虐殺」の定義問題になる議論は不毛
- 「南京大虐殺」は中国共産党のプロパガンダの側面がある
このテーマは不法殺害の人数の問題以外にも、南京における様々な犯罪行為についても問題になります。
少なくとも日本軍の無謬性に基づいてしまうと、事実と齟齬が生じることになってしまうのでおススメできません。
以上