事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

財務省福田事務次官のセクハラ認定:退職金減額へ:人事院規則と懲戒処分の指針

27日2時配信の記事

財務省は26日、週刊誌でセクハラ疑惑が報じられ財務事務次官を辞任した福田淳一氏について、事実上の処分に踏み切る方針を固めた。調査を通じて懲戒処分相当のセクハラ行為が確認されたとして、退職金を減額する。

セクハラに該当するとされたということですが、民間企業と省庁とでセクハラの定義が異なるため関係する法令を見ていきます。男女雇用機会均等法上のセクハラの理解についてはこちらで紹介しています。

国家公務員の懲戒処分の規定とセクハラの定義

国家公務員法82条1項には以下のようにあります。

第八十二条 職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。
一 この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫理法第五条第三項の規定に基づく訓令及び同条第四項の規定に基づく規則を含む。)に違反した場合
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

人事院規則12-0で懲戒処分について定めがあります。

(停職)
第二条 停職の期間は、一日以上一年以下とする。
(減給)
第三条 減給は、一年以下の期間、俸給の月額の五分の一以下に相当する額を、給与から減ずるものとする。
(戒告)
第四条 戒告は、職員が法第八十二条第一項各号のいずれかに該当する場合において、その責任を確認し、及びその将来を戒めるものとする。

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=327RJNJ12000000

人事院規則の懲戒処分の指針

人事院事務総長発の懲戒処分の指針については以下

セクハラの定義、人事院規則懲戒処分の指針

第1 基本事項

  本指針は、代表的な事例を選び、それぞれにおける標準的な懲戒処分の種類を掲げたものである。

 

第2 標準例
 1 一般服務関係
(13) セクシュアル・ハラスメント(他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動)
   ア 暴行若しくは脅迫を用いてわいせつな行為をし、又は職場における上司・部下等の関係に基づく影響力を用いることにより強いて性的関係を結び若しくはわいせつな行為をした職員は、免職又は停職とする。
   イ 相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞、性的な内容の電話、性的な内容の手紙・電子メールの送付、身体的接触、つきまとい等の性的な言動(以下「わいせつな言辞等の性的な言動」という。)を繰り返した職員は、停職又は減給とする。この場合においてわいせつな言辞等の性的な言動を執拗に繰り返したことにより相手が強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹患したときは、当該職員は免職又は停職とする。
   ウ 相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞等の性的な言動を行った職員は、減給又は戒告とする。

 

上記の懲戒処分の指針を見るとわかるように、イとウはセクハラの行為者が相手の意に反するという認識の元で行われる必要があるということです。これは男女雇用機会均等法上の定義とは異なります。

福田元事務次官は懲戒処分として退職金減額か

懲戒処分の種類として免職、停職、減給、戒告があるということがわかります。

今回は退職金減額措置を取ると言うことなので、懲戒処分の指針としては(ウ)に相当すると考えられたのでしょうか。

麻生財務大事が近く会見をするということですが、どのような事実が認定されたのかがきになります。

※追記1:福田事務次官の懲戒事由について

27日11時31分配信の記事

【財務次官セクハラ疑惑】福田淳一前財務次官の処分、減給20%6カ月分退職金減額へ、セクハラ問題で麻生太郎財務相 - 産経ニュース

麻生氏は「(福田氏とセクハラ被害を受けた女性の)2人が面会した事実は福田(前)次官も認めている」としながらも、セクハラ認定の有無に関しては「答える段階にない」と述べるにとどめた。

表現が後退していますね。

セクハラ以外の懲戒事由に該当しているということでしょうか?

追記2:財務省記者会見:セクハラ認定

財務省が福田事務次官の「セクハラ認定」をしました。27日18時配信記事です。

既に論じていたように、人事院規則上のセクハラに該当すると認定したということです。福田氏は処分は受け入れるとしていますが、セクハラの事実は引き続き否定しています。

ただ、この件はなぜセクハラに該当すると認定したのか?また、その認定は妥当なのか?という問題があると言えるので、この点について以下、整理していきます。

財務省はなぜセクハラの認定をしたのか?

財務省の福田事務次官セクハラ認定の判断枠組み

以下の伊藤氏の説明で全て語られていると思います。

伊藤氏「テレ朝から発表のあった以外の音源などを確認できれば、事実関係は確認できると思っていたが、福田氏が弁護士に行為を否定している段階で、これ以上は事実認定できない。福田氏は否定していてるのに、私共のほうは『中身を教えてくれ』と言っている状況で、テレ朝が社員保護の観点から協力に慎重になることは構造的に理解できる。これ以上の真相解明は難しい。被害の女性社員の方には精神的にも、いろんな意味でマイナスに作用するので、これ以上の対応は財務省としてとれないと思ったので、調査を打ち切って、今の段階で処分決めた」

外務省は、公開されているつぎはぎの音声データ以外に元データを聞くことはできなかったということ。それはテレビ朝日が元データを外務省側に聞かせることを拒んだためである、ということです。

  • 外形的に「セクハラではないか?」と思わせるような発言があることは事実。
  • 福田の声であることは事実。
  • 女性社員が被害を受けたと申出をしている事実。

これらの事情からは、「セクハラの側に天秤が傾いていた」と表現できます。

これに対して福田からも事情を聞いたが、天秤の傾きを戻すほどの反証がなされたとは言えないと判断したということです。

財務省のセクハラ認定は妥当なのか?

会見でも矢野官房長が言っているように、本来の事実認定の作業は、このような程度の確度で行われるべきものではありません。ただ、これ以上調査を進めると第三者機関を設置するなどして相当長期にわたることとなり、被害女性にも負担になるから、やむを得ず現時点で存在する全資料を基に「セクハラ認定」という判断をしたということです。

これはいわば、セクハラの事実があったのか?という判断の外側の事情を考慮して、真実としてそうであったという断定をしているのではなく、財務省の対応としては人事院規則上の「セクハラ認定」という判断をしたということです。

また、この判断によって、財務省としては「セクハラと言われかねない発言は控えるように」という内部に対する指針を示したことにもなります。この点は正当であると感じます。追記:「相手の意に反することを認識の上で」という文言との整合性について。これは心の内の話であり、読心術を使うわけにはいきませんから、客観的な状況から推認するしかありません。ここで、客観的な状況の一つに、用いられた文言そのものがあります。「おっぱい触っていい?」などという文言が会食の場で使われているということは、それ自体が一般的に相手の意に反する言辞であるといえます。たとえその言辞が言葉遊びとして使用されたとしても、一応は相手からの意に反すると扱ってよい。相手方の意に反していないということは発言者の側が主張立証すべきだが、今回はそのような事情の伺えるような弁明もなかった。したがって、上記文言を使用した時点で「相手の意に反することを認識」していたと認定できる、というような解釈が可能です。財務省側は、このような解釈をしたと思われますし、このような解釈はあり得るものであり、正当だと感じます。

 

追記3:今後の訴訟・裁判等の可能性

財務省による人事院規則上のセクハラ認定はこれで決着しました。

しかし、これで終わりではありません。3つの展開の可能性について整理します。

福田氏による新潮社への名誉棄損訴訟

名誉毀損という不法行為による損害賠償ですね。

セクハラがあったか?ではなく、記事が事実だったか?という話に尽きます。

これは既に福田氏が訴訟を表明しており、財務省によるセクハラ認定後もその意思は変わっていないようです。今回の認定が訴訟で不利に働くとは思えないので、このまま戦うのでしょう。

ただ、新潮社の誌面では「女性記者」と「民間企業の女性」の2つについて言及しており、後者については福田氏によれば企業の上司も事実を否定しているようなので、それが事実なら新潮社はその部分については負けるのではないでしょうか。

問題は「女性記者」の誌面の部分。

新潮社としては、1:被害女性を証言台に立たせる、2:編集していない録音テープを証拠提出するという2つの手段が考えられますが、1は取材源の秘匿の面からもやらないでしょう。2は在り得ますが、そうするとテレビ朝日にも影響するので証拠提出するのか疑問です。

「被害女性」から福田氏への不法行為訴訟

これもセクハラだから、ではなく、不法行為で損害を受けたとして女性社員から福田氏へ慰謝料請求等の民事訴訟を提起するという方向。

まぁ、無いでしょうね。現時点で開示されている情報からは無理筋ですから。因果関係の立証、できませんよ。できないからタレこむしかなかったんデショウ()

もちろんこれ以上の情報があるのであれば別ですが。

こうして整理すると、セクシュアルハラスメント対策というのは、不法行為にならない部分をも捕捉し得る体制づくりの面もあるんだなぁと気づきました。

厚生労働省からのテレビ朝日に対する是正勧告等

男女雇用機会均等法違反に該当する場合には厚生労働省からの是正勧告があり得ることは上記記事で既に指摘していましたが、逆に言えばそれ以上のことはないということです。

しかしこれも、テレビ朝日が公表している事実からすると均等法違反に該当するといえるかというと難しいと言えます。というか、テレビ朝日は全事実を公開してませんからね。

テレビ朝日はオーナーである朝日新聞の傘下にあるハフィントンポストやAbemaTVを共同運営しているサイバーエージェント社ですら記者会見場に入れないように規制をかけた。記者から会社の責任に繋がる事実について質問を受けることを避けるためにそうしたとしか思えません。

だって、この騒動に加えてTOKIOの件もある最中に、女性に無理やりキスをしたために不法行為訴訟で高裁で敗けた菅野完が、4月28日の朝まで生テレビに出演しているんですからね。神経を疑います。

まとめ:真実解明は裁判に委ねられることに

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テレビ朝日が真実解明を妨げる行為をしたのは女性の二次被害を防ぐためということでしょうが、誰が今回被害を申し出ているのか?ということは既に多くの者が当たりをつけているのであり、ほとんど意味がないことだと思います。

新潮社が公開したつぎはぎの音声データのみによっては真実はわからないというのは明らかです。裁判では新潮社が真実性の証明、或いは真実性の誤信を証明する事になりますから、少なくともつぎはぎではない音声データに基づいて裁判上の事実認定が行われることになると思われ、それを期待したいとおもいます。

以上