事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

新潮『保健所長会が厚労省に「2類指定を外して」』とタイトル詐欺⇒実際は「柔軟な対応」「指定感染症解除の条件提示」を要請

新潮の記事によって保健所長会の要望が誤解されています。

新潮『保健所長会が厚労省に「2類指定を外して」』

保健所が厚労省に「2類指定を外して」 体制の見直しで医療逼迫は一気に解消へ 週刊新潮 2020年12月24日号掲載

 12月8日、全国保健所長会が厚労大臣宛てに「緊急提言」を送っている。新型コロナウイルスは現在指定感染症(2類相当以上)の扱いだが、これを緩めてほしいというものだ。メディアは保健所の逼迫を受けて「医療崩壊だ」「外出するな」と叫ぶが、本当に必要なことは指定感染症2類扱いの見直しではないのか。

週刊新潮に掲載された記事内容を転載したデイリー新潮の記事タイトルでは『保健所長会が厚労省に「2類指定を外して」』となっていますが、これはタイトル詐欺です。

新潮のタイトル詐欺:実際は「柔軟な対応が可能なように」「指定感染症解除の条件提示」を要請

保健所長会の提言

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000704454.pdf90頁~

保健所は国に対して「地域ごとに感染症法上の運用をより柔軟に対応すること」「指定感染症の指定解除の条件や時期の展望を示すこと」などを提言しています。

国への要望
・現在の「全国的に流行期である保健所の感染症対策」を早急に示すこと
・迅速なワクチン接種体制の構築を進めること
・指定感染症としての対応を検証すること
現時点で、判明している「新型コロナウイルス感染症」の概要について、我が国の情報を整理し、国外の対応策も参考にした上で、改めて本疾病についての疾病概念の認識を国民及び保健医療関係者に示すこと。
流行の終息が見えない中で、指定感染症の指定解除の条件や時期について展望がないことは、保健所職員や医療従事者の健康障害や意欲の限界を生じ、感染拡大地域のみならず、全ての地域の保健所における業務遂行が不可能となる事態も危惧される。

決して「2類指定を外せ」などという雑なことは言っていません。

過去の全国保健所長会|活動|宣言・要望書等を見てもそんなことは言っていない。

したがって、新潮が『保健所が厚労省に「2類指定を外して」』とタイトルに書いたのは、好意的に見ても【タイトル詐欺】なわけです。 

感染症法上の指定感染症の仕組み

新型コロナウイルスは感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)上、「指定感染症」に指定されています。

指定感染症は「第三章から第七章まで、第十章、第十二章及び第十三章の規定の全部又は一部を準用する」とされています。厳密ではないですが、ざっくり言えば「新感染症」と「結核」に関する規定以外は「準用できる」のです。

当然、その中には5類感染症に関する規定も含まれています。

指定感染症はその中からカスタマイズして準用できるのであって、現在は1類感染症だけが使える規定も準用しているものの、おおむね2類感染症の場合に使える規定が準用されていることから「指定感染症の2類相当」と、比喩的に言われています。決して2類感染症に指定されているわけではありません。

ただし、実際の運用は、2類感染症の場合と比べて「緩やかな」扱いになっている面が多いです。

詳しくは以下

現在の新型コロナウイルスの法律上の扱い|Nathan(ねーさん)|note

「新型コロナを2類から5類へ」「指定感染症を外せ」「季節性インフルと同等の扱いに」という陰謀論|Nathan(ねーさん)|note

「5類感染症指定」をすればどうなるか

そんな中で「季節性インフルエンザ」と同じ「5類感染症指定」をすればどうなるか。

保健所が厚労省に「2類指定を外して」 体制の見直しで医療逼迫は一気に解消へ 週刊新潮 2020年12月24日号掲載

東京大学名誉教授で食の安全・安心財団理事長の唐木英明氏が指摘する。

「感染者数がピークでも1日2千~3千人で済んでいる日本は、5万~20万人の欧米から見れば感染対策に成功している。欧米の状況と比較するのは重要で、多くの政治判断は相対的な基準を拠り所に行われるからです。たとえば10万人当たりの感染者数をくらべれば、2類扱いを維持すべきかどうかは明らか。2類扱いだから医療が逼迫し、指定病院は一般患者が遠のいて赤字になり、医療関係者や保健所はオーバーワークを強いられ、その家族まで風評被害を受ける。インフル同様5類にすれば受け入れ可能な病院も増えるのに、それができないのは、新型コロナは“死ぬ病気だ”という意識を国民に植えつけた専門家、テレビ、新聞のせいです」

新潮記事でこう言っている人が引用されているわけですが、「インフル同様5類にすれば受け入れ可能な病院も増えるのに」という点はかなり疑問な将来予測です。

保健所長会の提言・要望にも、「受け入れ可能な病院の拡大」は盛り込まれてません。

高山医師のFacebook上での以下の指摘が非常に具体的でコンパクト。

高山義浩 2020年12月23日 13:08

なお、いま5類相当に落としたら・・・ こうなります。
1)入院医療費の自己負担が発生するため、高齢者など重症化リスクの高い人も自宅療養を選択する。そもそも受診しない人も増え、早期治療が行われなくなる。自宅での急変、重症化が多発して、さらに医療がひっ迫する。
2)当然ながら、ホテル療養も有料となる。すなわち終了となり、自宅療養が不安な人の受け皿が失われる。入院による見守りを希望する人、軽度の体調変化を感じた人が救急外来に殺到し、さらに医療がひっ迫する。
3)コロナを特別扱いする法的根拠が失われる。保健所の疫学調査は行われなくなり、PCR検査は自己負担となり、全数サーベイランスも終了する(先進国初!)。よって、日本だけ何が起きてるか分からなくなり、社会不安は確実に増大する。
4)当然ながら、ワクチンもインフルエンザと同様のスキームになり、せいぜい定期接種に位置付けられる程度となる。市町村ごとに対象者や負担割合がバラバラになる。もちろん、日本だけ感染拡大が続く(いずれ終わるが、経済は周回遅れに)。
ま、だから2類相当のままで延長するんですけど・・・

新たな立法をしない限り(かなり大掛かりな変更が必要)、現行法上はこうなります。

「新型コロナの類型を設けろ」という立法論をするなら理解できるのですが…

Facebook上の内容は沖縄での実態も含めて非常に具体的に記述されています。

新潮の記事は指定感染症の仕組みを理解していない者による発言を取り上げていて、この点で誤謬拡散だと思います。編集部が法令の仕組みを理解していないのは仕方がないのですが、せめてタイトル詐欺はやめれ。

以上