条例の制定改廃や解職請求(リコール)の際の署名簿は、審査後に「縦覧に供する」こととなっていますが、「署名者の個人情報が流出する危険がある」などと騒がれることががりますので、「縦覧に供する」具体的な方法と縦覧できる者の具体的範囲について選挙管理委員会に確認しました。
- 地方自治法上要求される解職請求における署名簿の縦覧
- 選挙管理委員会に確認した縦覧に供する方法と「関係人」の範囲
- 署名受任者と請求代表者が縦覧できる範囲
- 署名簿の告示・公告・公報はしない
- 「署名簿で個人情報がだだ洩れ」は基本的にデマ
地方自治法上要求される解職請求における署名簿の縦覧
地方自治法
第七十四条の二 条例の制定又は改廃の請求者の代表者は、条例の制定又は改廃の請求者の署名簿を市町村の選挙管理委員会に提出してこれに署名し印をおした者が選挙人名簿に登録された者であることの証明を求めなければならない。この場合においては、当該市町村の選挙管理委員会は、その日から二十日以内に審査を行い、署名の効力を決定し、その旨を証明しなければならない。
○2 市町村の選挙管理委員会は、前項の規定による署名簿の署名の証明が終了したときは、その日から七日間、その指定した場所において署名簿を関係人の縦覧に供さなければならない。第八十一条 選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の三分の一(省略)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の長の解職の請求をすることができる。
○2 第七十四条第五項の規定は前項の選挙権を有する者及びその総数の三分の一の数(省略)について、同条第六項の規定は前項の代表者について、同条第七項から第九項まで及び第七十四条の二から第七十四条の四までの規定は前項の規定による請求者の署名について、第七十六条第二項及び第三項の規定は前項の請求について準用する。
地方自治法上、知事の解職請求の署名簿は、その署名の効力の審査の後に縦覧に供することとなっています。
この制度は、署名簿を一定期間関係人の縦覧に供することで署名簿の署名の効力決定の正確を期するため、関係人をしてその効力決定の過誤の有無を検討させ、修正の申立てを行わせる趣旨とされています。
参考:逐条地方自治法 新版 第9次改訂版[本/雑誌] / 松本英昭/著
「縦覧の告示」は行われますが、縦覧をする旨とその場所と期間を告示するだけで、署名簿そのものを告示として公報するわけではありません。
では、この「縦覧に供する」の具体的な方法は何でしょうか?
愛知県選挙管理委員会に確認しました。
選挙管理委員会に確認した縦覧に供する方法と「関係人」の範囲
地方自治法上、署名簿を縦覧できる者は「関係人」と限定されています。
この「関係人」とは、「選挙人名簿に記載のある者」、すなわち、その者が住民票上の住所を有している市区町村の「有権者」を意味します。
審査後の署名簿の管理は市区町村毎に行っているということです。
そもそも、この場合の署名簿は市区町村ごとに作製しなければなりません。
地方自治法施行令
第九十三条 条例制定又は改廃請求者署名簿は、都道府県に関する請求にあつては市町村ごとに、指定都市に関する請求にあつては区又は総合区ごとに、これを作製しなければならない。
第百十六条 第九十一条から第九十七条まで、第九十八条第一項、第九十八条の三及び第九十八条の四の規定は、地方自治法第八十一条第一項の規定による普通地方公共団体の長の解職の請求について準用する。
よって、その市区町村の有権者でなければ、署名簿の縦覧はできません。
そして、選挙管理委員会に確認した縦覧の具体的な方法ですが、署名簿は通常膨大な数に及ぶため、該当ページのみを縦覧希望者に見せる運用が取られているとのことでした。
自分が署名したものが有効になっているかを確認したり、自分の名前が盗用されていないかを確認したりする場合に縦覧をするのが制度趣旨なので、各自治体の窓口で有権者である旨を伝えると、職員の側で当該有権者が署名簿に記載されているかをチェックし、記載されていれば当該ページのみを見せ、そうでなければ「記載されていない旨を伝える」運用になっているとのことです。
つまり、縦覧希望者が当該市区町村管理の署名簿をすべて見てチェックをする、などという方法は採られていない、ということです。
なお、請求代表者でも受任者でもない単なる有権者は自分の名前部分しか見れないのか、当該署名があるページだけなら一覧できるのかはその市区町村の運用次第であるためここでは明言しませんが、基本的には自分の署名部分しか見れないと思っていた方が良いです。
※愛知県選挙管理委員会は、厚紙等を切り抜いたものを敷いて他の署名者の情報が見れないようにして対応しているようです。
署名受任者と請求代表者が縦覧できる範囲
請求代表者は、全部の署名簿を縦覧できます。
署名受任者の場合には、その者が担当した分の署名部分だけを縦覧できるとのことでした。つまり、市区町村の署名簿の中でも更にその一部しか見ることができません。
署名簿の告示・公告・公報はしない
こうした扱いであるため、署名簿記載の署名者の氏名住所が告示・公告・公報されるということはあり得ません。
この点は請求代表者の氏名住所の告示(地方自治法施行令によって規定)が行われているのとは別個の扱いです。
「署名簿で個人情報がだだ洩れ」は基本的にデマ
したがって、「署名簿で個人情報がだだ洩れ」という言説は基本的にデマです。
署名簿によって個人情報が漏れるとすれば、署名簿自体がどこかに流出したり、署名簿記載の情報を自治体職員が不法に閲覧したり請求代表者が悪用して情報を流す、という場合が考えられます。
※追記:私が他の自治体において過去の直接請求の際の「縦覧」方法について確認したところ、署名簿をすべて見れるような運用になっていたところもあったようですが、請求代表者だからだったのか、単なる一般有権者からの縦覧希望だったのかは不明でした。
以上