高須院長が町山智浩,香山リカ,津田大介を刑事告発しました。
- 高須院長が町山智浩,香山リカ,津田大介を刑事告発
- 告発理由はツイートによる署名運動妨害罪
- 署名の自由妨害罪は適用されるのか?
- 署名簿の縦覧の具体的手続について
- 愛知県選挙管理委員会の方法は違法?
- 町山智浩,香山リカ,津田大介らが署名妨害罪になるか?
高須院長が町山智浩,香山リカ,津田大介を刑事告発
告発状公開 pic.twitter.com/yg9k8ygkZv
— 高須克弥 (@katsuyatakasu) 2020年9月1日
通告書公開 pic.twitter.com/lzmJoQbrbL
— 高須克弥 (@katsuyatakasu) 2020年9月1日
高須院長が町山智浩,香山リカ,津田大介を刑事告発しました。
その具体的な中身とその展望をしていきます。
告発理由はツイートによる署名運動妨害罪
Twitter社に対するアカウント停止の要求を記載した書面(※発信者情報開示請求の訴状ではない)を見ると以下記述があります。
貴社の下記利用者は、いずれも、貴社のアカウントを悪用して、重大な犯罪公、具体的には、署名運動妨害罪(地方自治法第81条2項、同74条の4第1項第2号…)をしたものを思料され…
これだけでは何のことかわからないのですが、Twitter上の経緯を知っているのでここでまとめると、要するに愛知県知事の解職(リコール)請求のための署名収集がこれから高須院長ら主導で行われるわけですが、「町山・香山・津田らは、署名審査の後に行われる署名簿の縦覧において署名者の個人情報が誰でも見れるようになっている旨のツイートをして、愛知県選挙管理委員会の方針とは異なる内容を発信し、さらには署名を躊躇させるような内容の言辞を弄したため、署名の自由を妨害した」という主張をしています。
地方自治法の関連規定は以下です。
地方自治法
第七十四条の四 条例の制定又は改廃の請求者の署名に関し、次の各号に掲げる行為をした者は、四年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。
一 署名権者又は署名運動者に対し、暴行若しくは威力を加え、又はこれをかどわかしたとき。
二 交通若しくは集会の便を妨げ、又は演説を妨害し、その他偽計詐術等不正の方法をもつて署名の自由を妨害したとき。
三 署名権者若しくは署名運動者又はその関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する用水、小作、債権、寄附その他特殊の利害関係を利用して署名権者又は署名運動者を威迫したとき。
署名の自由妨害罪は適用されるのか?
こちらでは町山氏が請求代表者の氏名住所が告示で公報されている内容を、転載したことについて署名の自由妨害になるかを考え、それは難しいだろうと結論付けました。
しかし、高須院長が問題視しているのはそれとは異なり、将来行われる予定の署名簿の縦覧に際する「誤った説明」についてですから、ここでもあらためて検討します。
署名簿の縦覧の具体的手続について
あくまで現時点の方針ですが、地方自治法上定められている署名簿を「縦覧に供」する手続について、愛知県選挙管理委員会の方針は、各自治体の窓口で有権者である旨を伝えると、職員の側で当該有権者が署名簿に記載されているかをチェックし、記載されていれば当該ページのみを見せ、そうでなければ「記載されていない旨を伝える」運用になっているとのことです。
ですから、単なる有権者たる縦覧希望者が当該市区町村管理の署名簿をすべて見てチェックをする、などという方法は採られていないと説明されています。
縦覧の運用について、私は静岡県静岡市・河津町、埼玉県川島町、名古屋市など、過去に住民による直接請求が行われた自治体の選管担当者に当時の「縦覧に供」する際の具体的内容について確認しました。
すると、選挙人=有権者であれば署名簿を渡して指定された場所にて読んでもらった、署名した者か署名していない者かは区別していない・請求代表者かそうでないかは記録が残ってないので定かではない、などという回答を頂きました。
つまり、一般的には「縦覧に供」するという場合には、署名簿全体が見れるような方法が採られていたということになります。
愛知県選挙管理委員会の方法は違法?
とすると、むしろ愛知県選挙管理委員会の方法が違法?と思う人も居るかもしれませんが、私はそうは思いません。以下でまとめています。
昭和24年の立法当時から憲法で保障されている投票の秘密の趣旨との抵触関係が指摘されていたが、署名の偽造があったためそれを防ぐ必要性が優先され、その憲法的許容性は無視されてきただけだと考えています。
実際に、縦覧手続を逆手にとって、署名を躊躇させるビラが町議によってばら撒かれたり、ある議員が署名簿縦覧を行い、そこで見つけた知人に対して後日署名の真意を問うなど、威迫的な行為が行われた事案もありました。
参考:宇都宮市陳情第61号「署名簿縦覧の目的外を防止する条例等の制定を求める陳情」
参考:署名縦覧を盾に議員らがビラで暗黙の圧力?町長リコール運動をめぐる川島町住民の狼狽 | 相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記 | ダイヤモンド・オンライン
よって、愛知県選管のような運用を採ったとしても違法では無いとするべきでしょう。
なお、比較法的にも直接請求の署名簿の縦覧制度があるのは韓国くらいのもので、欧米ではそのような手続は確認できないことについて以下。
町山智浩,香山リカ,津田大介らが署名妨害罪になるか?
こうしてみると、『「縦覧制度」はその自治体の選挙人=有権者であれば署名簿が見れるものである』という観念は一般の人間が持っているのであって、その認識で行われたツイートは、それだけでは署名妨害罪にはならないと考えられます。
愛知県選挙管理委員会の方針も、現時点では未定です。現時点では方針は変えるつもりは無いが、より詳細な運用について話を詰めているところであるとしています。
このような流動的な状況下で、「署名簿の縦覧において署名者の個人情報が誰でも見れるようになっている」とツイートすることは、愛知県選管の運用と異なる話をしていることになるかもしれませんが、そのことが直ちに署名の自由妨害になるかというと、少なくとも故意が否定されて、難しいだろうと私は思います。
もっとも、愛知県選管が方針を固めた後も、敢えてそのような主張をしているというのであれば、署名の自由妨害罪となる可能性はあるのではないでしょうか?
以上