事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

「石破総裁の解散表明は憲法違反、天皇の権能の冒涜、国会無視、手続軽視、宮中行事無視で保守ではない」という不毛な議論

こんなのにリソース浪費するなよ

※本稿は追記しています。記事末尾の批判を見てください。

「石破総裁の解散表明は憲法違反、天皇の権能の冒涜、国会無視、手続軽視」

令和6年9月30日に石破茂自民党総裁が衆議院の解散総選挙の日程に関する希望を表明したことについて「石破総裁の解散表明は憲法違反、天皇の権能の冒涜、国会無視、手続軽視」という主張をする者が出てきています。

まず、「天皇の権能の冒涜!」については、石破氏が「権限行使」に相当する行為をしていない時点で無意味な話です。

で、「国会軽視・手続軽視だ!」については、これまでも「総理になったら●●する」ということは様々な事柄に対して散々言われてきた現実からは鼻白む話です。

これと相似形の話が「総理大臣の改憲方針」に関して共産党が流しているデマ言説。

今回の解散総選挙で上掲のような主張をしているということは、共産党による「総理の改憲議論」の主張を認めるということになります。

「この時期の解散は宮中行事や天皇陛下の御日程を考慮しない不敬行為で保守ではない」

この時期の解散総選挙は宮中行事を考慮してない不敬な行為で保守ではない」という謎理論も存在しています。「神嘗祭や新嘗祭と被るのはおかしい」みたいな話がSNSでも書かれています。

では、直近の衆議院解散と投票日*1

平成26年11月21日 平成26年12月14日 
平成29年9月28日 平成29年10月22日
令和3年10月14日 令和3年10月31日

毎年、神嘗祭は10月17日、新嘗祭は11月23日に執り行われ、他、この時期は秋分の日にも祭典があります。*2宮中行事は主要なものだけでもほぼ毎年あるので、これらを全て回避するのは不可能です。

上掲の日程だけでなく、現行憲法下での解散・投票日の間に神嘗祭や新嘗祭がある日程は複数存在しており、最近の内閣の傾向ということでもありません。国会議事録を調べても、この観点から日程の是非が問われたことも無さそうでした。

なお、岸田総理は令和3年=2021年10月4日に第100代内閣総理大臣に国会指名・任命され、その日に解散・投票日の日程を表明しています。上掲の観点から今回の石破氏と比較して「岸田の方がまとも」と言える現実が存在していません。

宮中行事、天皇陛下の御日程を念頭に国会等の政治日程を決めるべきというのは基本だが…

もっとも、宮中行事、天皇陛下の御日程を念頭に置いて国会等の政治日程を決めるべきである、という観念は、政治家の間で存在しているようです。

解散台風北上中 | 衆議院議員 河野太郎公式サイト 2014.11.13

国会の召集や組閣、選挙などという行事は、常に天皇陛下の御日程を念頭に置いて決められていく。宮中の日程は、国会の日程を驚くほど縛る。

大日本帝国憲法下の衆議院解散時期と総選挙の実施時期を見ると、驚くほど時期が似通っていることに気づきます。解散は12~1月が圧倒的に多く、他は3,4,5,6,8月。投票日は2,3,4,5月が多く、7,8,9月が僅少ながら存在するといったところです。

これに意味を見出すとすれば、「収穫の時期」が避けられていた?と考えることもできそうですが、現代においてこれを貫徹すべきなのか?という疑問があります。

上掲の河野太郎議員ブログではマスメディアが解散総選挙の日程として天皇誕生日(12月23日)を避けるべきと主張していることが紹介されていますが、戦前でも昭和天皇の誕生日である4月29日が解散から投票日の間に来ることはままあり、基本的にはあまり関係の無い話だろうと思われます。

宮中行事、天皇陛下の御日程を念頭に置くことは当然でしょうが、それと何らかの政治日程が被ったとして即座に非難の対象となる理由は無いでしょう。そんな事では戦争を仕掛けられるリスクが高いのでは?

追記:「全国の選挙管理委員会で準備を進める観点」は権限踰越的で問題がある

総選挙必勝へ一致結束の布陣石破総裁 「10月27日衆院解散総選挙」の意向を示す | お知らせ | ニュース | 自由民主党

早期に解散総選挙の時期に言及する理由については「全国の選挙管理委員会で準備を進める観点」と指摘しました。

石破氏は早期(総理就任前の9月30日)に解散総選挙の時期に言及する理由として、「全国の選挙管理委員会で準備を進める観点」と説明しました。

これはこれまでに論じていた観点とは違って、明らかに問題があります。

なぜなら、衆議院小選挙区選挙の事務を管理する都道府県選挙管理委員会は行政委員会であり*3、行政権を持っていない単なる政党の党首に過ぎない石破氏の発言で行政組織を動かそうとした、ということを意味するからです。

実際に動いたか否かとか、この手の話では行政機関が予定の予想を立てて内々で準備している慣行があるとか、そういう事情はどうでもいい。ただの予定としての希望を超えて、行政組織が自身の発言を汲み取って動いて欲しいという考え方自体が、手続軽視と言われても仕方がない。

たった1日の差で「配慮」と言うなら、公示や投票日を1日遅らせて、日程発表は10月1日の内閣総理大臣への指名・任命を待てば良かった。それをしないで「選挙管理委員会の準備」などと口走ってしまう頭の軽さは度し難く、今後の舌禍事件を予期するものと言わざるを得ません。

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