名護市議選が9月9日に控えているので、相変わらずネット上では対立陣営に対する攻撃が行われています。今回取り上げるのは今年の名護市長選で当選した渡具知武豊市長に対する誤解です。
- 「政府役人が派遣されて渡具知武豊市長の代わりに答弁」
- 政府からの職員は総務省から1名「派遣」
- 地域政策部長に松田健司氏が着任
- 役人派遣が地方自治に反すると直ちに言えるのか?
- 名護市議会の大城敬人(ヨシタミ)議員の議事録
- 国と地方公共団体の人材交流
- まとめ
「政府役人が派遣されて渡具知武豊市長の代わりに答弁」
ツイッター上での発信源は以下の2つです。
@_rxj4_2018によるこのツイートが最初の出所
【名護市議会】
— _rxj4 (@_rxj4_2018) August 19, 2018
名護市議の大城ヨシタミ議員の市議会報告。現名護市長になって政府から招かれた32歳の役人が議会に入り込み、市長の代わりに政府役人が答えているとのこと。
市長の名前で政府の菅官房長官に要請、総理側から派遣された役人。
市議会を政府が乗っ取り。。
自治権の放棄状態らしい。
元々は名護市の大城ヨシタミ議員の市議会報告がソースとのことですが、このツイート画像を使いつつ、とぐち市長から菅官房長官にあてた要望書の写真と併せて拡散したのが以下のツイート。
とぐち武豊名護市長が就任直後、官房長官に送った"直筆サイン入り"要請文です。国からの「優秀な人材」の派遣を要請しています。この要請に応じ32歳の若手官僚が市役所に送り込まれ、市長に代わってほとんどの答弁に立っているとのこと。市議会の意味って何なんでしょうか…。 #名護市議選 pic.twitter.com/SKFw2hEQ6v
— 【徹底検証】名護市議会 (@nagoshigikai) August 20, 2018
騒がれている内容を整理すると
- 渡具知市長が菅官房長官に政府からの人材派遣要請をした
- 渡具知武豊市長に代わって政府役人が議会で答弁している
これが「地方自治に反する」と騒がれていますが、どうなんでしょう?
政府からの職員は総務省から1名「派遣」
◎石川達義総務部長
次に、質問の事項2、要旨(3)、⑦の人材派遣要請についてお答えいたします。国からの職員派遣につきましては、他の議員の一般質問でもお答えしたところでございますけれども、総務省から職員を1人派遣していただくよう、現在調整を図っているところでございます。その目的としましては、要請に掲げた項目を含めた公約実現に取り組むということでございます。
「総務省から職員を1名派遣していただくよう、現在調整を図っているところ」
3月19日の議事録ではこのようになっています。
地域政策部長に松田健司氏が着任
名護市広報「市民のひろば」5月号に4月1日付の人事異動情報が載っています。
魚拓:Wayback Machine
総務省から松田健司氏が地域政策部長に着任しているのがわかります。
沖縄タイムスや琉球新報では副市長や政策調整官として「派遣」されるのではないかと言われていましたが、違いました。
任用の形式について名護市の総務部に確認したところ、総務省を退職して名護市職員として採用したとのことで、現在の身分は名護市の公務員のみということでした。
つまり、形式的には通常の職員の任用と同じ形での採用とのことです。総務省職員を名護市の部局に配置するという形での「派遣」ではないとのことでした。
部長級なので、地域政策に関係する内容の質疑が行われた場合に答弁に立つということは通常予定されていることです。
役人派遣が地方自治に反すると直ちに言えるのか?
地方自治法 第百六十二条
副知事及び副市町村長は、普通地方公共団体の長が議会の同意を得てこれを選任する。
これは一例ですが、地方自治法にあるようにたとえば市長権限で外部の人間を副市長として据えるということは認められていますし、特別顧問という形で自治体に役職を持っている外部の人間はたくさんいます。
役人を政府から「派遣」されるからといって、地方自治に反するとは直ちに言えないということは明らかです。
政府側から自治体に人事異動がなされるという例は決して多くは無いですが、たまにそのような人事が為されています。
そして、「派遣」された者が答弁をしているとしても、今回の場合、それは名護市の職員として発言しているということであって「政府の立場で名護市議会で答弁」しているわけではないということです。
もちろん、たとえ正式な手続きを踏んでいても市長の周囲の人間がほとんど外部からの人間だというのであれば「実質的に地方自治が損なわれているのではないか?」という問題提起が可能でしょうが、あくまでも「派遣」されたのは1人だけなので、そのような危険はまったくありません。
大城ヨシタミ議員が「地方自治が害される」と問題視する兆候は3月の定例会からうかがい知れます。
名護市議会の大城敬人(ヨシタミ)議員の議事録
この時点ではまだ政府からの人事異動は為されていませんが、大城議員が問題視している内容の一端は名護市議会平成30年第190回名護市定例会-03月19日-09号を見れば窺い知れます。名護市議事録検索はこちら
大城ヨシタミ議員が市長に答弁を要求している場面において石川達義総務部長が答弁に立ったので「市長が答弁に立っていない」「市長の代わりに役人が答弁に立っている」と言っているのですが、大城ヨシタミ議員はよく質問の最後に「市長にお聞きします」というような質問の仕方をしています。果たして聞く意味があるのか首をかしげざるを得ない内容が多いです。
議事録を読んでいると、市長は法的な定義などが絡むような細かい質問については市の役人に役割分担をしているというような感じがします。
また、3月時点の話ですが、渡具知武豊市長の発言回数ですが、検索可能です。
この数字は発言数そのものではないですが、渡具知市長が答弁に立っている回数はふつうにあります。
この時点でも大城議員は「市長が答弁に立たない」と言っているのですから、総務省の者が着任した後も変わらないでしょう。
仮に大城議員が言うような「ほとんど答弁に立っていない」という状態が客観的にみてあったとすればその可能性は著しく低いでしょう。あくまでも地域政策に関わる内容のみであり、役割分担の結果だと思います。
通常、9月に6月以降の定例会の議事録がUPされるので確認できるでしょう。
国と地方公共団体の人材交流
内閣官房の国と地方公共団体との間の人事交流の実施状況を見ると、平成29年10月1日現在における国から地方公共団体への出向者は1794人、地方公共団体から国への受入数2750人とあります。
人事交流の方針については内閣人事局のページにまとめてあります。
まとめ
- 政府から名護市地域政策部長として着任した者が1名居る
- 着任した者の身分は『名護市職員』であり、他の職員と同様の通常の任用方法
- とぐち市長に代わって着任者が答弁に立った事実はおそらくある
- しかし、それは役割分担として通常あり得る範囲のもの
- 「外部の者」を職員として任用することが法令等で認められている例がある
- よって、政府から来た者が答弁に立つことが地方自治に反するとは言えない
- 「渡具知市長が答弁に立たない」というのは質問者が無駄に市長に答弁を求めているからという側面が大きい
渡具知市長が当選した名護市長選挙が行われた当時、渡具知氏や渡具知陣営に対する様々な誹謗中傷やデマが横行しました。今回もそのような現象が起きているなぁと思います。
名護市長選に絡んだごみ分別問題についてのフェイクニュースについては以下参照
以上