事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

東京都ヘイトLGBT条例の制定過程がブラックボックス:情報公開はどこへ?

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東京都ヘイトスピーチ・LGBT条例(東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例(169号議案))が可決されました。

本条例が審議された日の質疑から、本条例の問題点について指摘していきます。

条例案の提示後に質疑が行われたのは【東京都議会総務委員会平成30年10月2日(火)】のみです。

 東京都のヘイトスピーチ・LGBT条例の問題点については以下で触れています。

「ヘイト」に日本人が保護対象になるか?

答弁を聞いている限り、どうやら日本人は保護対象にならないようです。

また、この点を補う附帯決議も提案されませんでした。

そもそも、日本人が対象になるのか?という点について質問をしたのが【総務委員会平成30年6月22日(金)】の早坂義弘委員の質疑のみです。

総務委員会平成30年6月22日(金)

○早坂委員 -省略ー
 ここで、一つ指摘しておきたいことがあります。
 都内における我ら日本人に対するヘイトスピーチも、野方図であってよいわけがありません。しかしながら、この部分は、なぜかこの条例案概要からは欠落していることを指摘しておきたいと思います。これはとても重要な部分だと私は考えます。他人にされて嫌なことは他人にしてはならない。当然のことであります。
 そこで、ヘイトスピーチに関する東京都の見解について伺います。

○仁田山人権部長 東京二〇二〇大会の開催を控え、ホストシティーとして、今後ますます多くの外国人の方が訪れることになります。このような状況の中で、東京において、お互いの個性を尊重し、認め合う共生社会を実現していくことは不可欠でございます。
 特定の民族や国籍の人々を排斥する差別的言動、いわゆるヘイトスピーチは、品格ある国際都市東京としてあってはならず、許されるものではございません。ホストシティーとして、ヘイトスピーチ解消法を具体化するため必要な取り組みを条例で示す中で、ヘイトスピーチが決して許されるものではないことを発信してまいります。

早坂委員の質疑が雑駁なのは、この時点では「条例案の概要」しか提示されておらず、条例案という形での条文が出来上がっていなかったからです。

仁田山人権部長は、「日本人は対象になるのか?」について言及していません。

10月2日の鈴木章浩(自民)委員の質問『なんで「オリンピック」と冠して人権施策のうち外国人の人権とLGBTの2項目だけなのか?』に対しては、「オリンピックは外国人が来るから」「これだけで終わるわけではなく他の人権施策も今後行っていく」と回答しています。

答弁者は10月と同じですので、 本条例が日本人を保護対象としていないことが分かります。

条例案の審議の過程が不明であり、期間が短い

本条例の制定過程は以下です。

  1. ヘイト・LGBT条例案の「概要」提示(方針のみ条文無し)
  2. 6月5日パブリックコメント募集開始
  3. 第二回定例会の質疑
  4. 6月30日パブリックコメント募集終了
  5. 9月14日条例案提示
  6. 10月2日第三回定例会総務委員会の質疑
  7. 10月3日総務委員会採決
  8. 10月5日本会議採決

これを見ると分かるように、条例案の原文が提示されてから議会で審議を行ったのは、10月2日のたった1日のみです。3日と5日は実質審議はしていません。

審議が十分でない上に、条例案の決定過程もブラックボックスです。

鈴木委員の質疑に対する答弁によれば、4番目のパブリックコメント募集終了以降、専門家や有識者を集めた審議会等(条例案の内容をどう決定するかの会議)が開かれていません。

単に、「個別に専門家やLGBT当事者の意見を伺った」とだけ答弁しています。

これは大阪市ヘイト規制条例の制定過程と比較すれば非常に閉鎖的であると分かります。

大阪市はヘイト規制条例の策定の際は専門家で構成される「検討部会」とその他有識者で構成される「審議会」で複数回議論が重ねられて条例案が議会に提出されていました。

以下の図を見れば5か月の期間、検討部会と審議会を複数回重ねて議論していたころがわかります。議事録或いは議事要旨も非公開措置が一部とられている部分以外はすべて公開されています。

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ちなみに、パブリックコメント募集中に私が東京都に電話で確認した際には「議事録を公開する予定は無い」とは聞いていました。

しかし、まさか審議会すら開かれてないとは思いませんでした。

審議が不十分な点は複数の議員から指摘がありましたが、継続審査動議も付帯決議も否決されました。

都民等に対する表現活動の「等」とは?

本条例抜粋

第十二条 知事は、次に掲げる表現活動が不当な差別的言動に該当すると認めるときは、事案の内容に即して当該表現活動に係る表現の内容の拡散を防止するために必要な措置を講ずるとともに、当該表現活動の概要等を公表するものとする。ただし、公表することにより第八条の趣旨を阻害すると認められるときその他特別の理由があると認められるときは、公表しないことができる。
一 都の区域内で行われた表現活動
二 都の区域外で行われた表現活動(都の区域内で行われたことが明らかでないものを含む。)で次のいずれかに該当するもの
ア 都民等に関する表現活動
イ アに掲げる表現活動以外のものであって、都の区域内で行われた表現活動に係る表現の内容を都の区域内に拡散するもの

条例12条1項2号アが対象にしている「都民等」に関する表現活動の「等」とは何を意味するのか?

まさか他の自治体の住民が「等」に含まれることもあるのか?と質問されてましたが、そうではありません。

これは個人に限らず、「法人や団体等の個人以外の主体も含む趣旨」であるという旨の答弁がありました(質問者も答弁者も明確にしていないが、そうとしか思えない)。

そうすると「構成員には東京都民は含まれないが、都内に拠点を置く外資系企業」に対する言動も、ヘイト規制の対象になるということになりそうです。

東京都はオリンピック委員会の下部組織か?

西沢けいた委員の質疑で「オリンピック憲章が変った場合には、本条例は変更されるのか?」という旨の質問がありました。

仁田山人権部長

本条例案はオリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指すものであり、憲章の改正があった場合にただちに改正が必要とは考えておりませんけれども、憲章の改正の内容によって個別具体的に判断するということになるというふうに考えております。

これはヤバいですね。

東京都はオリンピック憲章が変ったら、それと連動して条例も変える必要が出てくる可能性があると言っています。

つまり、東京都の法体系はオリンピック委員会の下位に属すると言っているに等しいです。

オリンピックが東京で開催決定される前から、東京都総務局人権部 じんけんのとびら | 東京都の人権施策に表れているように、東京都は主体的に人権施策に取り組んできました。

にもかかわらず、なぜわざわざオリンピックにかこつけて条例制定を目指すのでしょうか?

いや、百歩譲って、条例名に「オリンピック」を冠しても、条例制定の動機にオリンピックの開催があっても良いでしょう。

しかし、条例の存立基盤をオリンピック憲章と紐づけるという状況は、あまりに異常です。(しかし、この点が将来争点となることはあまり考えられないので、実際上は問題が表面化することは無いと思われますし、そうなった場合に裁判所が違った判断をする可能性はあります)

なお、川松真一朗議員をはじめ、自民党会派の議員は国会のレベルでヘイトスピーチ規制法についての法案が提出される予定があるのに、それを待たずに都の条例レベルで先に規制内容を決めるのは拙速ではないか?という指摘もしていました。

まとめ:情報公開はどこへ?

都の職員の答弁を聞いていると、「情報が降りてきていない」印象を持ちました。

小池都政は「情報公開」を謳っていたにもかかわらず、大阪市との比較でも明らかなように、ブラックボックスが多すぎて情報公開には程遠い現状であると言わざるを得ません。

豊洲移転延期問題が終息しても、まだまだ小池都政の問題は山積です。

以上