事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

東京都がヘイトスピーチ規制条例案のパブリックコメント募集:大阪市との違いからみる問題点

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東京都がヘイトスピーチ禁止条例案(正確ではないですが、さしあたりこの表現を使います。)を今年成立予定としており、現在パブリックコメント募集中です。東京都の総務局人権部企画課にも電話相談したところ、この件では以下の問題があると思います。

  1. 日本人がヘイトの被害者にならない規定になりそうであること
  2. 手続が情報公開を謳っているわりには大阪市に比べて不透明であること
  3. 罰則を付けるよう働きかけが予想されること
  4. そもそもオリンピック憲章が上位にくるような条例で良いのか?

先行してヘイト規制条例を制定した大阪市については憲法違反の疑いがあることを含め、運用面でも問題があることを指摘しています。

このブログでは何度も書いてますが、まずは「ヘイトスピーチ規制法上のヘイトスピーチ」の定義を確認しましょう。

「そんなの分かってるよ」という方は「東京都のヘイト規制法案」の中身へどうぞ。

ヘイト規制法上のヘイトスピーチとは?

特定の国の出身者に対し、「叩き出せ」「帰れ」など、帰国や排除をうながすような文言は、ヘイトスピーチに当たる。これは、2016年のヘイトスピーチ対策法施行後、法務省も明言している。

よく、このような言及のされ方がありますが、これは全くの間違いです。

確かに、法務省は「祖国に帰れ」などの文言がヘイトスピーチにあたると言っていますが、それはあくまでも「典型例」であって、そのような文言を使ったからと言って直ちにヘイトスピーチ規制法の禁止しているヘイトスピーチに当たるなどとは一言も言ってません。

ヘイト規制法にいうヘイトスピーチとは、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」です。

本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律

「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」とは、【専ら】本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するものに対して差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し又は本邦外出身者を著しく侮蔑するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう 

要するに、単に「外国人だから」「外国出身者だから」「外国人の血を引いてるから」という理由に基づいて「帰れ」と言うならそれはヘイトスピーチです。

しかし、例えば違法な行為をした外国人や、迷惑な行為をしている外国人に対してそうした行為を理由に「出ていけ」「帰れ」と言うことは至極当然の表現であるということです。

司法はそこまで杓子定規な判断をしません。

もっとも、外国人が違法或いは迷惑な行為をしているからといって、軽軽に「祖国に帰れ」などと言うことは私も与しませんし、安易にそのような文言を使っているとなると、ヘイトスピーチと認定される可能性は高いと考えられるので注意しましょう。

ヘイトスピーチ解消法の附帯決議の中身とは?

附帯決議とは、法律案を審議した際に議論された事項について、その法律の運用や将来の立法による法律の改善についての希望等を表明するものです。

これは、法的な拘束力を有するものではありませんが、政府はこれを尊重すべきとされており、事実上の法規範となり得るものです。

平成28年5月12日 参議院法務委員会

 国及び地方公共団体は、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消が喫緊の課題であることに鑑み、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。

1 第2条が規定する「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」以外のものであれば、いかなる差別的言動であっても許されるとの理解は誤りであり、本法の趣旨、日本国憲法及びあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の精神に鑑み、適切に対処すること。

2 本邦外出身者に対する不当な差別的言動の内容や頻度は地域によって差があるものの、これが地域社会に深刻な亀裂を生じさせている地方公共団体においては、国と同様に、その解消に向けた取組に関する施策を着実に実施すること。

3 インターネットを通じて行われる本邦外出身者等に対する不当な差別的言動を助長し、又は誘発する行為の解消に向けた取組に関する施策を実施すること。

衆議院の付帯決議も同様の記述があります。

1項の指摘はなんかいい事を言ってそうですが、ヘイトスピーチの外縁が曖昧になってしまい、どんな行為がヘイト規制法で規制されるべき行為なのかがわからなくなってしまうものです。

むしろ最近は「いかなる批評的言動であってもヘイトであるとの理解」が広まっているので、拡大解釈の危険の方が大きいと言えます。

附帯決議3項:「等」が加えられていることの意味

附帯決議の3項をみると、本邦外出身者「等」とあります。

  • 本邦外出身者=専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住する者
  • 本邦外出身者等=上記の者に限られない者(具体的に誰かは不明)

「等」の意味合いは不明ですが、以下のような解釈の可能性があります。

  1. 純日本人(尊属が日本人で日本生まれの者)も保護対象となる
  2. 不法に滞在する者も保護対象となる
  3. 滞在していない者も保護対象となる

1の可能性を期待したいですが、2は「不法」というとアノ人たちのことでしょうね。3はインターネットによる不当な差別的言動の場合に限って「等」がつけられていることから可能性を考えてしまいますが、あってはならない運用だと思います。

現実的には日本人は被害者になりにくいが…

ヘイト規制法はマイノリティ保護のための法律です。

マジョリティたる日本人が、外国人居住者から「この地域から出ていけ」と言われることは現在の日本ではあまり想定できないため、このような規定であっても運用上の妥当性があるのかもしれません。

しかし、ドイツのように一部の地域が難民によって占められるような場所が、今後日本においても出てこないとも限りません。

北朝鮮が崩壊した場合、難民が何百万人日本に流れ着くのかわかりませんからね。

そのような場合に「純日本人」も本法の対象となるかどうか?この事態が到来したときに本法が悪法となる可能性もあります。

そこで、行政の側、つまり各自治体がどのような条例を敷くのか、そしてどのような運用を行うのかが重要です。最近は「日本」が嫌いな人たちが攻撃をしている例が目立つので、日本国を護る、日本人を護るという高い倫理観が必要なんじゃないですかね。

東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念実現のための条例(仮称)

東京都ヘイトスピーチ規制条例のパブリックコメント

東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念実現のための条例(仮称)

東京都が予定している規制対象となるヘイトスピーチは、国のヘイトスピーチ規制法の定義と同じであることがわかります。よって、これまで言及してきた問題点が全て東京都に当てはまるということになります。

パブリックコメントの締切は2018年6月30日です。

こちらのページでは条例のポイントとロードマップ意見聴取者一覧と主な意見が掲載されています。

さて、東京都の手続はこれでよいのでしょうか?

東京都のヘイトスピーチ規制条例の手続について

冒頭で大阪市と比べて東京都は透明性がないと言いました。

大阪市等の法制定・改正審議の手続

大阪市のヘイト規制条例の検討は人権施策推進審議会によって進められ、議事録は公開されていました。

これは審議会が条例で設置根拠のあるものであり、審議会は公開とすると定められていたからです。そのおかげで、個々の委員がどういう発言をしていたのかがよくわかります。

例えば刑法で司法取引の規定が導入されましたし、民法の債権法が改正されて施行待ちですが、これらの場合は法務省の刑法部会民法債権法部会などが設置されて議事録が公開されていました。大阪市の場合はこのような場合と同様の仕組みだったということです。

東京都の情報公開はどこにいったのか?

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東京都の総務局人権部企画課の職員に確認したら「今回のヘイト規制条例については審議会や部会の議事録を公開する予定はない」とのことでした。

都民ファーストでつくる「新しい東京」~2020年に向けた実行プラン~ 冊子・計画内容のページでは政策企画局が運営しており、情報公開を推進するかのようですが、それにしては大阪市よりも条例制定の経緯が分かりにくいものになっていると言えないでしょうか?

もちろん、議事録を公開するべき義務はないですし、全ての場合にそうすることが果たして良いことなのかということは議論があると思います。

時間をかければいいわけではないですが、パブリックコメントを受け付けてから意見を精査・整理して審議会で検討し、条例案を最終的に報告しなければなりませんから、このスケジュールでいいのか。

パブリックコメントの手続そのものの問題

さらにはパブリックコメントの段階で条例案の「概要」だけが示されており、あまり具体的に決まっていない規定をどう評価すればいいのかよくわかりません。

条例案の条文そのものは見れないようになっているのは、多くのパブリックコメントの場合とは異なる状況です。なぜ条文案を隠すのでしょうか?総務局人権部企画課に問い合わせたら、条例案の条文はパブリックコメントを受けてから作成する方針とのことでした。

しかも、パブリックコメントのページへのアクセスが悪く、HP上のナビゲーションも最悪レベルです。私はGoogleからいろんなワードを試してやっとたどり着きました。

どうも東京都は拙速な感が否めません。

総務局人権部企画課によれば、例えば「この段階でのパブリックコメント募集はいかがなものか?」とか「条例案が出来たら再度パブリックコメントをしてほしい」といったような、不随的・手続的な側面についても意見は読んでもらえるとのことでしたので、そういった部分も含めて意見するのもありだと思います。

上記で示したロードマップも案の段階なので、そこについて注文をつけることで変化させることも可能だと思います。

東京都のヘイト禁止条例は都議会議員によるチェックを 

現状のままですと、都民からのコメントは非常に漠然かつ曖昧なものにならざるを得ません。 したがって、実のある議論が審議会で行われず、ほとんど都民のチェックが入っているとは言い難いものが都議会に提出される可能性があります。

都議会議員の方にはこの条例案について厳しくチェックしていただきたいと思います。

大阪市の場合は議会でのチェックが全く行われていないので、これまで指摘してきた行政の手続の不備の分を覆すような働きをしてほしいと思います。

反差別界隈やLGBTから罰則をつけるよう都に働きかけがなされる可能性

東亜日報の6月13日の記事では以下のような文があります。

しかし、ヘイトスピーチ対策法には処罰条項がなく、限界が指摘されている。大阪市の条例にも罰則条項なく、川崎市も問題になる場合、集会を事前に規制できるガイドライン程度の状態だ。東京都も現在、施設利用制限規制といった程度のことを構想している。特に在日韓国人を狙った嫌韓デモが社会問題になっており、確実に根絶するには強力な罰則が必要だという声が出ている。

「反差別」「アンチレイシズム」を標ぼうしている輩がどういうことをしているか、少し調べればわかります。こうした勢力からもパブリックコメントは送られるということを考慮して、予め反対意見をする必要があります。

このような動きを見てかどうかはわかりませんが、保守派が主導権を持ってLGBT施策を積極的に進めることで、「利権屋」に利用されないようにしようという動きもあります。

オリンピック憲章が上位に来るような条例で良いのか?

条例案の仮称や条例の目的を見ると、オリンピックにかこつけるためにヘイト規制とLGBT施策を混ぜている条例案のようです。しかし、なぜ私的団体に過ぎないIOCのオリンピック憲章の「下」にヘイト規制というスポーツに留まらない広範囲な内容の東京都の条例が作られるという議論になっているのか?この点からして既に疑問です。

オリンピックが廃止されたら、IOCが解体されたら、ヘイト規制やLGBT施策は無くなるということですか?東京都はIOCの傘下なのでしょうか?

ここは思想の左右関係なく、法体系の歪さを生じさせるものとして非難されるべきだと思います。

まとめ

  1. オリンピック憲章が上位法という構造はおかしい
  2. ヘイト規制法の問題がそのまま東京都ヘイト規制条例の問題になる
  3. いわゆる「純日本人」が保護対象となるかが問題
  4. 条例制定過程にある審議会の議事録が公開されないのは妥当か
  5. パブリックコメントのための参考情報として十分ではないのではないか
  6. 東京都のWEBページのナビゲーションが雑
  7. 反差別・LGBTを利用しようとする者からの罰則規定追加の要請を考慮するべき

大阪市の施行後の運用面の問題も併せて検討してもらいたいと思います。

以上