事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します

東京都ヘイト規制条例の問題点:東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例案

東京都マーク

平成30年第3回定例会提出議案として、第169号議案:【東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例】が提出されました。

この条例案の概要に対してパブリックコメントが募集されましたが、その際に問題点をしてきました。

ここで指摘した問題点は、未だ存在しています。

今回はその点について整理していきます。

核心的なのは、「議案提出された東京都ヘイト規制条例案の問題点」の項の「日本人で生まれ育った日本人がヘイトの被害者にならない可能性がある」という部分です。

東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例案の全文

私は入手していませんが、弁護士の山口貴士さんがブログにテキスト化したものをUPしています。

短い条例なのですぐに読めますが、さすがにコピペするには文量としては多いので(そしてコピーコンテンツとなって山口さんのブログの検索順位が下がるのを避けるため)、画像で代替します。クリックで拡大。

東京都ヘイト規制条例案

東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例案

クリックで拡大

また、都のホームページでは条例案の概要のみが示されています。

  1. オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現
    都が、啓発等の施策を総合的に実施していくことにより、オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念が浸透した都市となることを、条例の目的として明記
  2. 多様な性の理解の推進
    (1)性自認及び性的指向を理由とする不当な差別の解消並びに性自認及び性的指向に関する啓発等の推進
    (2)性自認及び性的指向を理由とする不当な差別的取扱いを禁止
    (3)都民等の意見を聴いて基本計画を定めるとともに、必要な取組を推進
  3. 本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進
    (1)不当な差別的言動を解消するための啓発等を推進
    (2)都が設置する公の施設の利用制限に関する基準を策定
    (3)不当な差別的言動の拡散防止措置及び概要等の公表
    (4)学識経験者等で構成する第三者機関(審査会)の設置

パブリックコメント前の東京都ヘイト規制条例の問題点

ここでは大きく2点の問題点を指摘します。

  1. 日本で生まれ育った日本人(ひとまずこの表現をとる)がヘイトの被害者にならない可能性がある
  2. 自治体の「外」での行為も罰則対象となること

なお、情報が分かりにくい、という側面があるということも指摘しておきます。

前項で示した条例案も、プレスリリースのページからしかたどり着けないようになっていますのでナビゲーションが悪いですし、なにより条例案の「概要のみ」というのが不可解です。大阪府では条例案の取りまとめ段階で閲覧可能でした。

こういう手続的な面でも東京都は不十分ではないか、ということはパブリックコメントの段階でも指摘しました。

パブリックコメントで寄せられた意見の結果

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東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念実現のための条例(仮称)の意見募集結果についてというページでパブリックコメントで寄せられた意見の結果が見られます。

「LGBTではなくSOGI(性的指向・性自認)にしてほしい」という点は条例案で採用されており、パブコメ前の条例案は「LGBT等」という表現だったのが提出された条例案では改まっています。よって、この点を私は問題視しません。

参考

また、「第三者機関の委員等に当事者等をいれていただきたい」という意見も、条例案では排除されています。代わりに申立者に対して意見書の提出を求めることができることが規定されていますが、これは申立者にとって有利にも不利にもなり得るということが分かるでしょう。よって、この点も問題視しません。

さらに、懸念されてきた「罰則規定」についても「公的機関の利用禁止」は含まれていません。ただ、「拡散防止措置」がどのような内容なのかが不明なので、その点は問題かもしれませんが、ひとまずその点は捨象します。

議案提出された東京都ヘイト規制条例案の問題点

 パブリックコメント前には以下の問題点があると指摘しました。

  1. 日本で生まれ育った日本人(ひとまずこの表現をとる)がヘイトの被害者にならない可能性がある
  2. 自治体の「外」での行為も罰則対象となること

順番にみていきます。

日本で生まれ育った日本人がヘイトの被害者にならない可能性

第三章 本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進
(趣旨)
第八条 都は、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(平成二十八年法律第六十八号。以下「法」という。)第四条第二項に基づき、都の実情に応じた施策を講ずることにより、不当な差別的言動(法第二条に規定するものをいう。以下同じ。)の解消を図るものとする。

嫌らしいのが都の条例上では「不当な差別的言動」という文言が使われているということです。これだけ見ると、すべての人が対象になると思います。

しかし、「法第二条に規定するもの」というのは、いわゆるヘイト規制法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)の二条のことです。

本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律

(定義)
第二条

この法律において「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」とは、専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するものに対して差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し又は本邦外出身者を著しく侮蔑するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう。

このように、「本邦外出身者」という指定が入っています。

東京都の条例案では表面上は「不当な差別的言動」という文言ですが、その内実は「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」という意味に限定されているということです。

すなわち、日本で生まれ育った日本人は、この条例では被害者にならないように規定されています。

そうすると、例えばオリンピック会場で「日本人だからという理由で差別的なブーイングを受ける行為」は、この条例は禁止していないことになります。

具体例を出せば、韓国人から元在日韓国人(日本国籍取得済み)に対して「チョッパリは大久保の韓国人街から出ていけ」などの言動は、この条例では補足できないことになります。こんなことで良いのでしょうか?

条例の文言上はすべての人が対象となるように見せておきながら、実は特定の人間のみを保護するという姑息な手段を使ってまで、どうして条例を策定するのでしょうか?

自治体の「外」での行為も罰則対象となることは憲法94条違反

東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例案

第十二条 知事は、次に掲げる表現活動が不当な差別的言動に該当すると認めるときは、事案の内容に即して当該表現活動に係る表現の内容の拡散を防止するために必要な措置を講ずるとともに、当該表現活動の概要等を公表するものとする。ただし、公表することにより第八条の趣旨を阻害すると認められるときその他特別の理由があると認められるときは、公表しないことができる。
一 都の区域内で行われた表現活動
二 都の区域外で行われた表現活動(都の区域内で行われたことが明らかでないものを含む。)で次のいずれかに該当するもの
ア 都民等に関する表現活動
イ アに掲げる表現活動以外のものであって、都の区域内で行われた表現活動に係る表現の内容を都の区域内に拡散するもの

東京都の「外」における行為も罰則対象となることが憲法94条違反のおそれがあります。

おおげさに言えば、東京都外に住んでおり、東京都に足を踏み入れたこともない人が、東京都民に対してブログ上で批判を行ったというだけで(しかも都民であるということは知らないで)、ある日突然、東京都から連絡が来て「公表」や「拡散防止措置」の対象となる旨を通知されるということが理論上は起こり得ます。

詳細は以下の記事で書いた通りのことがそのまま当てはまります。今回の都の条例案は、大阪市の条例のパクリであることが分かるでしょう。

まとめ

  1. 日本で生まれ育った日本人が条例では差別の被害者にならない
  2. しかも、条例上はすべての人間が対象となるように書かれておきながら、内容は本邦外出身者という限定が付されている
  3. 都の外における行為も補足対象となっていることは憲法94条違反のおそれがある

東京都議会第三回定例会は9月26日に代表質問、27日に一般質問、常任委員会は9月28日から10月3日、閉会(本会議)は 10月5日です。

より多くの都議会議員の方に問題を把握していただきたいと思います。

以上