事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

グッデイで和光葬儀社「肺炎が昨年の3倍」はデマ?情報提供した背景

4月22日のグッデイで和光葬儀社の渡辺社長が「肺炎が昨年の3倍」と言っていたことに対してデマだと評価する人が居ますが、直接メールでやりとりしたのでその結果を整理します。

4月22日グッデイの放送「肺炎が昨年の3倍」

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4月22日直撃LIVEグッディ!

4月22日グッデイの放送では、和光葬儀社の渡辺智史社長へ取材したところ、「肺炎が昨年の3倍」 になったという指摘が取り上げられました。

この件について私も和光葬儀社様に質問しました。

和光葬儀社の渡辺智史社長からの回答

私からは「比較したデータの時期」と「具体的な件数」をお伺いしました。

和光葬儀社の渡辺智史社長からいただいた回答は、「2019年10月.11月.12月(約100件データ)肺炎4件と、2020年1月.2月.3月(約100件データ)肺炎11件」を比較した結果、約3倍と言及したとのことでした。

また、連絡を取り合っている東京の葬儀社の方も「増えている」認識があるとも伝えられました。

この結果を考えてみます。

「前年比」として異なる時期を比較するのは妥当なのか

2019年の10~12月と2020年の1~3月の比較を「前年比」として比較するのは妥当なのでしょうか?

これを判断するために「肺炎死」の統計の取り方まで調べました。

誤嚥性肺炎は2017年に「肺炎」と別枠に:年間13万人の肺炎死

肺炎死亡率が増加、急減した理由【平成の医療史30年◆呼吸器編】|平成の医療史30年|医療情報サイト m3.com

実は「肺炎死」の統計の公表の仕方は変わっています。

2017年には「誤嚥性肺炎」が「肺炎」から独立してデータが公表されるようになりました。それ以前から誤嚥性肺炎の統計は取られていましたが、2016年は4万人弱の数字となっています。 両者合わせて約13万人もの死亡者が出ています。

私から和光葬儀社にこの点も確認したところ、上記の「肺炎」には『誤嚥性肺炎は含まれていない、細菌性肺炎・肺炎でお亡くなりになられた方である』ということでした。

ですので、誤嚥性肺炎以外の肺炎につき、季節による増加傾向があるのかを調べてみました。

「肺炎」は1~3月に3~4割増える傾向

肺炎そのものの月別死亡の統計があります。

以下は「肺炎」と「誤嚥性肺炎」とが独立して計上されている統計になります。

2018年:人口動態調査 人口動態統計 確定数 死亡 5-18  死因(死因簡単分類)別にみた死亡月別死亡率(人口10万対):https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003411662

2017年:人口動態調査 人口動態統計 確定数 死亡 5-18  死因(死因簡単分類)別にみた死亡月別死亡率(人口10万対):https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003214726

これを見ると、「肺炎」は1~3月に多くなっており(次いで12月)、それ以外の月と比べて3~4割増し、10~12月と比べると2~3割増しになっているのが分かります。

他方で「誤嚥性肺炎」は一年を通して発生件数にばらつきがありません。

小括:和光葬儀社の言う「3倍」はデマではないが

和光葬儀社の言う「3倍」はデマではありませんが、「肺炎死」のマクロの統計を見てみると、季節によって数字が上がる時期があるのであって、比較対象として10~12月と1~3月を比べるのは少し不適当な気がします。

ただ、2~3割増しであるはずのところが約3倍(厳密には2.75倍)になっていることは、この標本数だと季節性の誤差の範囲に過ぎない可能性もありますが、現場が注意を向けることはありうることだと思います。

そして、このような発信をした背景が分かりました。

横浜市では新型コロナの御遺体の火葬を断る葬儀社が?

和光葬儀社の渡辺社長からは「横浜市の新型コロナ感染者の御遺体の火葬について「役所」から相談があり、他の葬儀社では請けてもらえないため探している、専門知識がない葬儀社では請けて頂けないとのことなので私たちが請けなくてはと思っている」という現状をお聞きしました。

市営の斎場ではそういった理由での受け入れ拒否は無い・葬儀社に関して何か取りまとめをする部署が無いということを横浜市の健康福祉局の方からはうかがっていますが、民間の葬儀会社においてどういう実態となっているのかについては保健所に確認中です。新たな事情が分かれば追記します。

新型コロナによる死亡者の火葬請負をお断りされる葬儀社もあるというのは、その葬儀社において感染対策の準備が整っていない事が示唆されます。そのため、仮に肺炎死された御遺体が新型コロナに感染していた場合に対策不十分となってしまい、その葬儀社の方が危険に晒されてしまうと思います。

この辺りは別の原因で来院した患者が後に新型コロナ感染者と判明した場合の病院側と同じようなリスクであると言えそうです。

その意味で、肺炎死が増えているという内容が特定業種の方(葬儀関係者等)に伝わることは、彼らに対して行動を促すことになるのだろうと思います。渡辺社長としてはそういう思いで情報提供したのでしょう。

ただ、グッディの番組中でも昭和大学医学部客員教授の二木芳人氏が「新型コロナは空気感染するものではないため、遺体からは体液以外にウイルスが飛び出るということは無く、非透過性納体袋に適切に収めれば問題はない」旨指摘しています。

マクロの肺炎死亡者統計から見る新型コロナ肺炎死亡者数の予測

誤嚥性肺炎を除く9万人の肺炎死亡者の3ヵ月分は2万2500人ですが、昨年(の10~12月)に比べて新型コロナウイルスによる影響で3倍も肺炎による死者が増えているなら、マクロの数字としても7万人弱の肺炎死亡者の増加として表れてこないとおかしいですよね。

国立感染症研究所がインフルエンザ・肺炎死の統計を出しているのですが、それを見ると明らかにそういう傾向は無いです。

インフルエンザ関連死亡迅速把握システム

今冬のインフルエンザについて (2018/19 シーズン)

ということで、少なくとも「約3倍」というのはあくまでも和光葬儀社における数字であって、日本全体でそのような数字で増加しているかどうかは、今の時点からも否定できるでしょう。このデータからでは2~3割の季節性の増加分に十分吸収されていると考えられます。

※国立感染症研究所のデータは「死亡」の定義が異なるため他の統計の数字と比較することができない(どういう定義なのかは不明)。

※なお「東京都は閾値を超えている」ということから新型コロナの影響を仄めかす人が出てきそうですが、東京都は昨年も閾値を超えているし他の新型コロナ流行都市で閾値を超えていない所もあることから、ここからそのように推測することは不可能。

グッデイはなぜ別の情報を取り上げなかったのか

標本数が1社だけであれば誤差がある可能性を考えるものです。

統計の数字などを調べることなく「3倍」だけを取り上げてなんの意味があるのか。

グッデイはなぜ別の情報を取り上げなかったのでしょうか。

まとめ

  1. 和光葬儀社の言う「3倍」は、2019年10~12月と2020年1~3月との比較
  2. 誤嚥性肺炎を除く肺炎は1~3月には2~3割増加するのであり、誤差の範囲内の可能性が高い
  3. いわゆる「隠れコロナ死」に対する他の同業者への注意喚起になればという背景があった
  4. グッデイは1社の話を聞いただけで何も報道の役割を果たしていない

感染症法30条3項では、墓地埋葬法の特例として死亡後24時間以内の火葬が認められていることや、新型インフル等特措法では火葬が間に合わない場合の規定があることから分かるように、感染症に対する社会の対応としては葬儀社の役割もまた大きいものです。

そうした現場の苦労がある反面、別の「現場」では「日本政府は隠蔽している」などという誹謗中傷があり、しかもCNNの記者などがそれを仄めかす発信をしており国際的な情報汚染が起こっています。

グッデイの放送はその観点から無視できないのでここで詳細に取り上げました。 

以上