国政政党が組織としてプライバシー情報の流布に加担している
- 国政政党の日本保守党による闇クマ本名投稿拡散事件
- 訴状に『我こそは元暴力団の日本保守党広報である!』
- 開示で得た氏名のみだりな使用は情プラ法7条違反だが罰則の不存在
- 国政政党の党首・幹部らによるプライバシー情報の流布問題
- 「虚偽情報で政治家サンドバッグ」の収益構造と日本保守党vs闇クマ
- 裁判官の開示を認めた判断は正しかったのか?Googleの異議訴訟取下げ
国政政党の日本保守党による闇クマ本名投稿拡散事件
【報告書】元暴力団を称する者から発信者情報開示請求を受け、個人情報を匿名のユーザー名と紐づけられて政党党首らにSNS上で拡散された経緯、および複数のプラットフォーマーを横断した収益構造https://t.co/wNeEhwOZCx
— 小坪慎也🎌行橋市議(トレンド1位) (@kotsubo48) 2025年6月30日
(報告の趣旨)
1…
「闇のクマさん」のネームでXやYouTubeで活動している闇クマ氏が、猫組長から開示請求をかけられ、それによって得た闇クマ氏の本名と思われる氏名が投稿された事案が発生していました。
これは実際に開示された本名であり、既に国政を巻き込んだ大事になっていることが小坪慎也議員から報告されています。後の記事では代理人弁護士は弘中惇一郎氏が受任したとあります。
この報告書には衝撃的な背景事情が数珠つなぎで関連付けられており、それ自体がスキャンダルですが、本稿では開示命令周りの事柄について簡単に整理します。
訴状に『我こそは元暴力団の日本保守党広報である!』
11 訴状では、第1 当事者において『国政の政党である日本保守党の支持者として同政党の広報活動を行っている者であるが』と述べた上で、
12 『特定抗争指定暴力団である神戸山口組二次団体である佐藤組の本部長及び三次団体である渡辺組組長を務めていた』と記述し、1100万円を支払えと請求した。
なんと、鎌倉武士よろしく、名乗りをあげていました。
損害賠償請求訴訟の「訴状で」ですよ!?*1
しかも訴状の冒頭の当事者に関する説明の所で記述しているのは、本当に我々の理解を超えた伝説的な訴状だと思います。
闇クマ氏が、問題視された動画内で猫組長の事を元ヤクザであると言及していたから、それに呼応した記述かな?とも思ったのですが、そんなことを当事者の項で書く必要は無いし、ましてや「国政の政党である日本保守党」という部分は原告本人の同定のためや請求内容においても必要性がまったく無い内容です。
いったいなぜ、このような書き方をしたんでしょうか?
代理人弁護士もよくこの記載をそのままにしたなあ…とたまげました。
国政政党である日本保守党は、こうした名前の使われ方をしていることについて、どう考えているのでしょうか?という観点からは、これ自体が一つの事件です。
開示で得た氏名のみだりな使用は情プラ法7条違反だが罰則の不存在
特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律
(発信者情報の開示を受けた者の義務)
第七条 第五条第一項又は第二項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者情報に係る発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。
発信者情報開示命令の場合も情プラ法7条(旧プロバイダ責任制限法では4条3項の時代もあった)のこの規定が適用されます。
闇クマ氏の本名と思われるものが含まれる内容がXで投稿され、それを日本保守党の党首と事務局長が引用リポストしているという有様です。それは現時点でも残り、表示されたままです。
この規定は罰則が無いため、被害者が個別に削除請求や仮処分の申し立て、訴訟提起して民事損害賠償請求をするしかありません。
これでは実効性が無いのでは?という問題意識が生まれました。
開示命令制度で手続迅速化をした反動で実質的な要件緩和となるなら、開示で得られた発信者情報を濫用する者が出現することへの抑止力も働かせなければならないでしょう。
特に裁判官は「本訴で争ってね」という方針を安易にとることに、何らのリスクが無い状態です。匿名活動者が情報開示されれば失われる利益*2は取り返しがつかないのだから、本訴で不法行為が認められなかった場合に何らかの手当てが必要では?という立法論が思いつきます。
裁判例では誹謗中傷の損害よりもそれにかかる開示請求で得られた発信者情報の流布による損害の方が多く認定された事案もあります。
参考:発信者情報をネットでさらしたら目的外使用、損害賠償 | 神奈川県厚木市・横浜市のジン法律事務所弁護士法人
もっとも、猫組長側は、公益性のある事案として実名を知らしめるべきと判断した、という旨を言っているので、これは敢えて上の条文に引き付けて言うならば、「みだりに用いて」にあたらない、という主張に当たります。それとは別に、実際にこの点が訴訟になったならば、闇クマ氏のこれまで言動、事案の特殊性などから違法性阻却事由として主張されるのでしょう。
しかし、この規定が犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(平成 12 年法律第 75 号)第3条第3項及び刑事確定訴訟記録法(昭和62 年法律第 64 号)第6条と同趣旨のものである*3ことを考えると、闇クマ氏の本名をSNSで公開することの意義があるとは到底認めがたいが、何か他の事情でもあるんでしょうか?
国政政党の党首・幹部らによるプライバシー情報の流布問題
仮に猫組長の行為が情プラ法7条違反ではなかったり、許されざるプライバシー侵害としての不法行為ではなかった場合でも、日本保守党の党首である百田尚樹氏と事務局長の有本香氏による引用投稿は、それ自体が非難を浴びるべき所業です。
それは彼らと闇クマ氏が敵対関係にあるからとか、そういう事では正当化し得ないもので、国政政党を運営する者としての政治倫理が問われる話だからです。
国政政党が組織としてプライバシー情報の流布に加担しているという事実は、重い。
「虚偽情報で政治家サンドバッグ」の収益構造と日本保守党vs闇クマ
本筋から離れますが、闇クマ氏の側に立とうとする者に、嫌悪感を感じる者もそれなりに観測されますので、第三者視点から解説しておきます。
実は、「虚偽情報で政治家をサンドバッグにしてお手軽に収益を得る構造」が日本保守党界隈中心に形成されており(もちろんそこが全てではないが)、リアルの政治の世界では、こうしたバッシングの言論空間を改善することで、政治家個人を守るのみならず、国政や自治体行政への負担を取り除かなければならないという共通意識が存在していました。一党内だけの話では無い。
それと闇クマ氏の関係ですが、闇クマ氏も「虚偽情報で政治家をサンドバッグにして収益」に加担していたところを、正しい情報に気づいて反省し、比較的正しい発信へと方針転換したということがあります。日本保守党界隈とは従前は百田氏と直接対面するなど、一定の関係性がありました。
が、闇クマ氏の情報発信の方針転換により、日本保守党界隈の問題が多くのフォロワーにバレ、闇クマバッシングが始まりました。闇クマ氏の元々のフォロワーも10万人ほどが離れていきました。
そうした「禊」を経ているという評価が為されているから、国会議員や地方議員も本件でフォローする側に回っている、という側面もあるということです。
また、闇クマ氏だからこそ、同じく方針転換したフォロワーが多数出現したというのも事実です。外部から事実を整理されて指摘をされても変わらないが、「信頼していた相手」が発信するならそうなんだろう、という層は、確実に存在する。
それを狙って関係構築をしてきた者が居る。それを怪しむこともまた自由ですが、そこには多くの行動と流された汗があった、ということは、外側から眺めるだけだった私が証言しておきます。
日本保守党界隈の嘘の例を置いておきます。
「コオロギ給食」、「能登半島地震時の台湾救助隊」、「上海電力と橋下徹」など、政府・自治体にかけた迷惑は甚大です。
裁判官の開示を認めた判断は正しかったのか?Googleの異議訴訟取下げ
なお、事案の詳細が見えない上に、あくまで理屈上の可能性に留まるため判断は留保しますが、開示命令(開示請求)の要件として「権利侵害の明白性」があるところ、これを認めた裁判官の判断乃至は開示関係役務提供者たるGoogle側の対処の仕方に問題は無かったのか?というのは、いちおうの考慮事項として残しておきます。
令和4年=2022年10月1日に当時の改正プロバイダ責任制限法が施行され、新設された「発信者情報開示命令」の手続が始まり手続が迅速化しましたが、「権利侵害の明白性」の要件充足が必要であることは従来の発信者情報開示請求と変わりありません。
が、開示命令の一連の手続における裁判官の判断が【実質的な要件緩和】となっていないか?という点は、検証されるべきでしょう。
ちなみに、本件では、開示命令に対する異議訴訟がGoogle側から提起されましたが、それは後に取り下げられています。
参考として、現・情報流通プラットフォーム対処法の前身である旧・プロバイダ責任制限法の関連する部分(現行法でも変わりない部分)の総務省による逐条解説を以下載せておきます。
プロバイダ責任制限法逐条解説 2023 年3月 総務省総合通信基盤局消費者行政第二課
14 ただし、プロバイダ等が任意に開示した場合、要件判断を誤ったときには、通信の秘密侵害罪を構成する場合があるほか、発信者からの責任追及を受ける場合もあることから、慎重な検討が必要となる。他方で、裁判例等も踏まえ、プロバイダ等が開示要件を満たすと判断した場合には、裁判外の開示に応じることとなる。
「明らか」とは、権利の侵害がなされたことが明白であるという趣旨であり、不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことまでを意味する。もっとも、発信者の主観など被害者が関知し得ない事情まで被害者に主張・立証責任を負わせるものではない。したがって、発信者が合理的根拠を示して開示に反対しているような場合には、開示関係役務提供者において開示を請求した者の権利が違法に侵害されたことが明白であるとの確信を抱くことができる場合は多くはないであろうから、不当に開示の範囲が広がることはないものと考えられる。なお、この点についての要件判断を誤って開示に応じた場合には、開示関係役務提供者は、場合によって民事上、刑事上あるいは行政上の責任を問われることになるので注意を要する。
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