事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

【VTuber戸定梨香】千葉県警「性犯罪誘発の懸念が削除理由ではない」藤末健三議員が確認

VTuber戸定梨香、性犯罪誘発の懸念が削除理由ではない

フェミニスト議員連盟が「VTuber戸定梨香」の交通安全PR動画について警察アカウントからの削除を要求し警察が応じた件について重要事実が判明しました。

藤末健三「千葉県警は性犯罪誘発が戸定梨香の削除理由ではない」

  • 質問状にある「性犯罪を誘発する懸念」があるということが削除理由ではない
  • 非接触型による交通安全教育・啓蒙の新たな手法として考えたことであり、性的な対象として認識したことはない
  • 本来の目的と異なる意図で伝わることは本意ではなく、掲載期限(9/17)が迫っていたこともあり、削除した

「本来の目的と異なる意図で伝わることは本意ではないから」

という理由のようです。

つまり、フェミニスト議員連盟が騒がなければ「異なる意図」で伝わる懸念は無かったということではないでしょうか?

本件は「フェミニスト議員連盟の主張の問題」と「千葉県警が安易に削除した問題」がありますが、前者について書いていきます。

VTuber戸定梨香の交通安全PR動画削除要求のフェミニスト議員連盟

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フェミニスト議員連盟の理屈は「女児を性的対象」にしているため「性犯罪誘発」の懸念がある、というもの。

判断理由として「へそ出しルック・ミニスカート・動くと胸が揺れる」を挙げてます。

これだけでは到底「女児を性的対象」とは言えませんし(というか「性的対象」とはどういう意味だろうか?)、更には「性犯罪誘発」というのは飛躍にもほどがあります。

VTuber戸定梨香管理の板倉節子代表「逆に女性蔑視」

「見た目をとらえて、本来の作品の意図に目を向けずに活動を抑制することは、それ自体が逆に女性蔑視ではないのでしょうか。本当に女性のことを考えての行動なのかという疑問はありますね」

VTuber戸定梨香を管理する"Art Stone Entertainment"の板倉節子代表は、フェミニスト議員連盟の主張は「逆に女性蔑視」であると主張。

なお、交通安全PR動画は警察公式アカウントからは削除されましたが、同社が運営しているVTuberプロジェクト「VASE」の公式アカウントでは継続して掲載されています。

全国フェミニスト議員連盟宛抗議と公開質問状チェンジオルグで

キャンペーン · 全国フェミニスト議員連盟宛抗議と公開質問状 · Change.org

9月24日を期限として「女児を性的対象とする」・「性犯罪を誘発する」の根拠を言え、というような内容の公開質問状としてチェンジオルグで署名活動が行われています。

チェンジオルグについて私見を一言。

私は、このサイトは技術的に1人による複数投稿が可能でありそのチェックもできないため、「通用力」を付与させる動きには反対してきました。

たとえば、政府に対する政治的な抗議の場面では、ネット上で簡単にできることからスパム的な署名活動が横行していますから、内容がまったく別方向であっても、チェンジオルグを利用すること自体が、そうした動きに加担するものと考えています。

しかし、今回の名宛人は「全国フェミニスト議員連盟」です。

公的な組織ではなく議員同士の私的な集まりです。

よって、署名の通用力は「この界隈」でのみ判断されることになります。

特にフェミニストを名乗る人たちは普段からチェンジオルグで署名活動をするような人たちと近しいので、今回のような抗議をチェンジオルグを使って行うことで、彼女らにとって無視できないものとなると言えます。

したがって、本署名の存在を周知することにしています。

VTuberに対する名誉毀損や侮辱は成立するのか?

ある人格に対して「○○は犯罪を誘発する懸念がある存在だ」と明言すると言うのは、存在自体を否定する重大な侮辱行為だと言えるでしょう。

戸定梨香の造形は、あれが「服装」というよりも、あの容姿が【存在そのもの】なわけで、そこが他の二次元作品とは異なるものと言えるでしょう。
※戸定梨香の動画をサムネだけ見てみたが、温泉に入ってる動画以外はあの服装だった。

そこで【VTuberに対する名誉毀損や侮辱は成立するのか?】という論点が生じます。

ただ、VTuberは、保護法益の客体になり得るのか?

静岡大学学術院情報学領域准教授の原田 伸一朗氏が書いた「バーチャル YouTuber の人格権および著作者人格権」という論稿を参考にして考えていきます。

キャラクター型VTuberに対する言動が法人への誹謗中傷になるか

原田准教授はパーソン型VTuberキャラクター型VTuberという分類をしています。

前者は『あくまで人間(自然人)が、キャラクター・アバターの表象を衣装のようにまとって、動画配信などの活動をおこなっている』もので、以下がその例です。

他方、戸定梨香はキャラクター型 VTuberで、『「中の人」の存在をうかがわせず、キャラクター自体が VTuber として活動しているかのようにふるまう』ものです。

この場合に【キャラクター自身が「人格主体」として「人格権」を持つ】と考えるべきかについては、私は否定すべき(作者によるそのキャラに対する扱いもまた非難対象になったりすることに)だと考えています。

原田准教授は『キャラクターを「法人」化する』方法も考えられるとしていますが、確かに法人化すれば名誉毀損・侮辱から保護される主体になります。

ただ、直接の誹謗中傷の対象が法人ではなくとも『実質的に法人に対する誹謗中傷』であると考えられれば、名誉毀損・侮辱として法的措置の対象になり得ます。

たとえば、京都地方裁判所令和元年11月29日判決 平成30年(わ)327号とその控訴審である大阪高等裁判所令和2年9月14日判決 令和2年(う)第46号では、京都朝鮮学校公園不法占拠抗議事件に関して、「朝鮮学校」と「朝鮮学校の校長」を指して発言した行為が、当時京都朝鮮学校を運営していた法人に対する侮辱罪が成立するとしました。

戸定梨香に対しても、それが運営会社の株式会社Art Stone Entertainmentに対する名誉毀損・侮辱であると言えるならば、民事刑事の訴訟を展開することも可能でしょう。

しかし、VTuberに対してそのような認定をするべきかどうか。

本件は、そうした議論を喚起させる事件だと思うのです。

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