事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

百条委員会とは何か:豊洲市場移転問題を具体例にわかりやすく説明

浜渦武生の百条委員会での証言

「百条委員会」とは、どういうものか?

一般的な説明だけではピンと来ない人もいるのではないでしょうか?

この記事では2017年東京都議会で設置された百条委員会の事例を引き合いに、百条委員会とはどういうものか?百条委員会で「偽証」認定がされた場合にどのような流れになるのか?ということについて浜渦武生氏の事案を元に整理していきます。
※都議会の議事録では「濱渦」とあることから、これが正式名称と言えますが、ここでは「浜渦」表記にしています。
※この記事は2017年4月に書いたものを2018年4月にリライトした記事です。

百条委員会とは何か?わかりやすく説明

百条委員会とは、地方自治法100条に基づいて設置される特別委員会のことです。

地方自治法100条の規定

第百条 普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の事務(自治事務にあつては労働委員会及び収用委員会の権限に属する事務で政令で定めるものを除き、法定受託事務にあつては国の安全を害するおそれがあることその他の事由により議会の調査の対象とすることが適当でないものとして政令で定めるものを除く。次項において同じ。)に関する調査を行うことができる。この場合において、当該調査を行うため特に必要があると認めるときは、選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができる。

「当該普通地方公共団体の事務に関する調査を行うもの」

これが百条委員会の目的・機能です。要するに「行政が」行った様々な活動について違法や不正がないかどうかを「議会が」調査することで、健全な自治体運営をしていくための強力な手段だということです。

なお、地方自治体の長が交付する政務活動費なども調査対象とすることができます。

自治事務とは?法定受託事務との違い

自治事務と法定受託事務と地域における事務

 

地方自治法2条2項では地方自治体は「地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する」と規定があり、2条8項ではこのうち法定受託事務を除いたものが「自治事務」とされています。

自治事務=①地域における事務+②法律・政令に基づく事務(狭義の自治事務)

このように整理できます。地域における事務の具体例は上記の図によれば各種助成金(東京都が独自に設けている保育士に対する給与の補助もこれにあたるでしょうか?)、公共施設の管理等が挙げられます。法律や政令に書いてなくても自治体が国の意向とは関わらず任意に行っている広範囲の活動、と言っていいでしょう。

自治事務と法令受託事務(総務省)

http://www.soumu.go.jp/main_content/000045550.pdf

総務省によれば法律・政令に基づかず任意に行うものの例が①地域における事務にあたるようです。

法定受託事務とは?国の事務、処理が義務付け

地方自治法2条9項では法定受託事務の定義があります。同項の1号と2号に規定されていることからそれぞれ「一号事務」「二号事務」とされています。2条10項では別表に一号事務と二号事務の法律が列挙されています。

具体的には先ほどの図で示したとおり、国政選挙、旅券の交付、国道の管理、戸籍事務、生活保護などが挙げられます。

別表はとっても長いので興味がある方は法令検索でどうぞ。

百条委員会の特徴と通常の議会との違い

百条委員会の目的機能特徴

地方議会に認められている他の権限との比較で見ていくとなんとなく分かるかとおもいます。

通常の議会の権限と百条委員会における議会の権限との違い

地方自治法98条では、自治事務に関する書類及び計算書を検閲することや、当該事務の管理、議決の執行及び出納を検査することができるとあります。

これは議会の調査権と呼ばれたりしますが、百条委員会はこれよりも厳格なものであり、強力な権限が付与されています。

具体的には地方自治法100条の各項を見ると分かりますが、議会の求めに対して官公署(主に行政機関)の側に応答の義務や制限時間が設けられていたり、虚偽の陳述などの所定の行為に対して罰則(刑事罰)が設けられています。
※「官公署」とは一般的に「国と地方公共団体の諸機関の総称」と言われますが、実務的には行政機関(行政庁)を念頭に理解されてきていました。官公署という名称を用いている法律は行政書士法の他にはあまり見られないらしく、定義はあいまいです。

参考人招致との比較の説明

地方議会の「参考人招致」とは地方自治法115条の2第二項に定めがあります。

第百十五条の二 普通地方公共団体の議会は、会議において、予算その他重要な議案、請願等について公聴会を開き、真に利害関係を有する者又は学識経験を有する者等から意見を聴くことができる。
○2 普通地方公共団体の議会は、会議において、当該普通地方公共団体の事務に関する調査又は審査のため必要があると認めるときは、参考人の出頭を求め、その意見を聴くことができる。

この規定を見ても、嘘を言っても罰則はありませんし、調査のために官公署(主に行政機関)に強制力を働かせる規定もありません。

百条委員会の設置方法

議会が決めます。東京都の場合「議会運営委員会」があり、そこでの議決で決まります。法的には議会が持つ権限を百条委員会に委任するという形になります。調査案件は具体的に特定される必要があります。

2017年の豊洲問題に関する場合、2月22日に「豊洲市場移転問題に関する調査特別委員会」設置の動議が出され、可決されました。これがいわゆる百条委員会です。なお、「豊洲市場移転問題特別委員会」という別の委員会もあるので注意。

議会運営委員会:委員会の速記録 | 東京都議会

豊洲市場移転問題に関する調査特別委員会の記録 | 東京都議会

過去に設置された全国の百条委員会の具体例

過去の全国の百条委員会

百条委員会が過去どれくらい行われたか、どのような内容だったのかについて、最近のものについては総務省に具体例のデータがあります。

設置された百条委員会についての総務省の調査資料

総務省|地方自治制度|地方自治制度に関する調査資料等

こちらのうち、「地方自治月報」のページに飛びます。

「議会関係」の項目のうち「法第100条の規定による議会の調査に関する調 PDF」を開くと、全国の自治体における該当期間の百条委員会についてのデータが見れます。

東京都において過去に設置された百条委員会の事例

東京都に関しては以下のような事例があります

  • 1951年 国有財産管理に関する事案
  • 1952年 証言の調査
  • 1964年 経済局賃金調査
  • 1965年 外郭団体調査
  • 1970年 国民健康保険業務に関して
  • 2005年 社会福祉総合学院の運営に関するもの。浜渦武生氏の前回の事案。

2005年の百条委員会においても、浜渦武生氏は「偽証」にあたるとして議会で認定されました。しかし、その後都議会が検察に告発したということは聞きません。

なお、2013年には「東京都知事猪瀬直樹君と徳田毅氏との金銭授受等に関する調査特別委員会」という名称で初の都知事対象の百条委員会が設置されました。この事例は、猪瀬氏が知事選の立候補表明の前日に徳洲会グループから無利子・無担保で5000万円を受領していた問題についての調査のためのものでした。しかし、当時の猪瀬都知事は百条委員会設置発表の翌日に辞任したため、調査は行われないこととなりました。

百条委員会における「偽証」と地方自治法100条

ここで「百条委員会」の名称の元である、地方自治法100条を見てみましょう

地方自治法100条第7項

第二項において準用する民事訴訟に関する法令の規定により宣誓した選挙人その他の関係人が虚偽の陳述をしたときは、これを三箇月以上五年以下の禁固に処する

 

地方自治法100条第9項

議会は、選挙人その他の関係人が、第三項又は第七項の罪を犯したものと認めるときは告発しなければならない但し、虚偽の陳述をした選挙人その他の関係人が、議会の調査が終了した旨の議決がある前に自白したときは、告発しないことができる。

7項で規定する罰則は禁固刑であり、重大です。これは、民事訴訟法では証人に対して偽証罪が規定されていないこと、民事訴訟法209条1項で当事者に適用される偽証罪の罰則である過料よりも重大なものです。

このような国家刑罰権の発動を、「議会」にさせるというのはおかしな話です。東京都議会は、「裁判所」ではないのですから。したがって、9項において告発義務が議会に課せられているのは、偽証罪として罪を負わせるためには刑事告発をし、裁判所における裁判という手続きを経る必要があるという意味です。

これは、憲法32条で『裁判を受ける権利』が保障されていることから当然に導かれることです。

事実として、前回2005年に浜渦氏が東京都議会の百条委員会で「偽証」認定を受けた際には、告発がなされていません。(浜渦氏が自白をしたのか、自白してないのに議会が告発していないのか定かではありませんが)

したがって2005年の当時、浜渦氏は「偽証」認定をうけながらも、浜渦氏は禁固刑に処せられていません。

「偽証」認定の意味をわかりやすく説明

都議会偽証認定

告発を行う前提として東京都議会が多数決で「偽証」と認定をするのであり、警察、検察官の調査や裁判所による判断が介入するわけではありません。

 

「偽証」かどうかは、多数決で決められる

 

要するに、都議会の議員たちが結託して、『「偽証」ということにしましょう』と言えば、簡単に「偽証」認定ができるということです。そのためには、本当に「偽証」なのかということについての厳格な調査などなくとも可能なのです。
本来はそうすることが求められていますが…

今回の件で「偽証」認定を受けたとしても、その「偽証」認定は、刑事裁判で検察官に求められる立証の程度である「合理的な疑いを超える程度の証明」があったとは直ちには意味しません。よって、その後に刑事裁判になっても偽証罪に問われない可能性は残ります。

しかし、一般人が報道から受ける印象は、「真実として偽証がなされた」というものになる危険性がきわめて高いモノです。

したがって、印象操作として「偽証」認定がなされ、浜渦氏に対して政治的圧力をかけて告発をしなくても済むようにした可能性が極めて高いと思われます。

百条委員会設置から偽証認定とその後の流れ

 議会が検察に告発をした後の流れは以下です。

  1. 告発受理の判断
  2. 必要なら補充捜査
  3. 終局処分(起訴か不起訴かの判断)
  4. 起訴の場合には刑事裁判へ

刑事裁判の後の流れは以下です。

f:id:Nathannate:20180401235116j:plain

なお、刑事裁判は99.9%有罪である、と言われますが(実際には99.7%くらいらしいですが)、これは上記の④の起訴後の刑事裁判の段階まで行った場合の話です。

不起訴にも段階があり、詳細は上記法務省HPで見てもらいたいのですが、起訴猶予というものがあります。これは、被疑事実が明白な場合において、諸般の事情を考慮して訴追を必要としないときの処分です。つまり、検察官としては、裁判をすれば有罪になると考えていたとしても、起訴をしない場合があるということです。

たとえば、有田芳生参議院議員は、この起訴猶予処分を2回受けています。先日、3回目の刑事告訴がなされて現在審査中です。

2017年の豊洲市場移転問題の百条委員会の事例

2017年に東京都で設置された百条委員会は、豊洲市場移転決定判断の過程に都民の利益を損なう行為が行われたのではないか?ということから調査が始まりました。

しかし、論点は百条委員会で証言をした浜渦氏や赤星氏が偽証をしているのでは?という些末な論点に次第に移行していきました。結局、移転決定判断の過程に何か違法な行為があったという事はこの議会で認定されていません。

ただ、百条委員会の功罪と、偽証認定の顛末を学ぶには絶好のケーススタディです。

浜渦武生元副知事による、2001年7月に東京ガスと土地取得交渉の基本合意後の指揮系統に関する証言が「偽証」にあたるのかという問題から学んでいきましょう。ここで重要なのが以下の点です。

 

政治工作で議員が結託すれば、簡単に「偽証」認定ができる

 

この点を知らないと、百条委員会で偽証認定がされた場合にただちに「真実として偽証がなされた」という評価をしてしまいます。百条委員会で「偽証」認定がされたからといっても偽証罪の罪を負う訳でも、直ちに刑罰が科されるわけでもないのです。

では、どういう発言が「偽証」に当たり得るとされているのか確認しましょう

2017年2月22日:豊洲市場移転問題の調査特別委員会が設置

2017年2月22日に「豊洲市場移転問題に関する調査特別委員会」設置の動議が出され、可決されました。

ハイライトとしては音喜多駿都議が「土壌Xデー」と題して疑惑とした3月11日と3月19日、石原慎太郎元都知事を呼んだ3月20日、都議会多数派の偽証認定方針が打ち出され4月4日の日程でしょうか。結局、石原元都知事の発言からは何ら不当性は見出せませんでした。

豊洲移転決定判断に問題があったのではないか?という事から設置されたこの百条委員会ですが、何らそのようなものは見つけられず、浜渦氏や赤星氏の偽証があったのかどうか?という些末な論点に移行していきます。

豊洲市場移転問題に関する調査特別委員会の記録 | 東京都議会

浜渦武生元副知事の発言の内容

  • 3月19日の百条委で2001(平成13)年7月の東京ガスと移転に関する基本合意を締結した後は、「そこから先は一切触っていない」と発言
  • 瑕疵担保責任免除規定が盛り込まれたことについて「知らなかった」と発言
  • 2003年5月に共産党員が浜渦氏の指示に対する土壌汚染の交渉の報告などのために作成したとみられる浜渦氏宛ての文書を直接見せた際に「(受け取った)記憶にありません」「指示をした記憶はありません」と発言

これらの発言が「偽証」と目されていました。

2017年4月4日の百条委員会で、偽証罪の疑いを持った質疑が行われ、この時点から都議会の偽証認定方針が発生していたということになります。

第19期 豊洲市場移転問題に関する調査特別委員会速記録第十号

2017年4月10日:浜渦氏の記者会見の法的意味

浜渦氏は偽証認定をしようとする議会に対して反論の記者会見を行いました。

「偽証」認定の意味と効果については以上の次第ですから、浜渦氏が反論の記者会見を行ったことには以下の意義があります。

  • 前回と異なり、今回は都議会が「偽証」認定をしても受け入れるということはしないという意思表示
  • 仮に「偽証」認定がなされても「自白」はしないという決意
  • つまり、議会は告発を迫られ、刑事裁判で検察官の捜査と裁判官による公平な判断の下に、疑惑が合理的ではないということを晒すということ

既に示した通り、議会における「偽証」認定は、多分に政局的な意味合いが含まれることから、記者会見等での牽制をする事も場合によっては必要になるということでしょう。

浜渦氏は「偽証」と認定されるに値する?「悪魔の証明」の議論

 

「あなた」

 

「今私のブログを読んでいるあなたですよ」

 

「殺人を犯しましたね?」

 

「やってない?やってる奴はみんなそう言うよ。」

 

「やってないことを証明しろよ!」

 

……

 

このやりとりがおかしいことは明らかですよね?

悪魔の証明議論の正統な理解

浜渦氏が積極的に自分の潔白を晴らすなどという必要性はゼロです。

それは「犯罪事実が存在しない事の証明を求めること」ですから、いわゆる「悪魔の証明」です。悪魔の証明は、例えば「黒い白鳥は存在しない」という「不存在事実の証明」を求めることです。

これを証明するには地球上のすべての白鳥を調べる(他の存在事実をすべて調べる)必要があるので不可能ですから、このような立証負担を課すことは不公平・不正義であるという認識が生まれました。

浜渦氏の犯罪事実があるという事は都議会が立証しなければなりません。

上記の記事が悪魔の証明について文明社会が採るべき態度を正しく伝えています。

悪魔の証明議論を歪める者に騙されないように

話は逸れますが、この「悪魔の証明」に関する議論は、豊洲移転問題に関する都議会百条委員会から森友問題にかけて注目されてきましたが、悪魔の証明の議論を歪めて伝える者がいます。

財務省の公文書書き換え問題での佐川氏の証人喚問時の発言について、この大前治弁護士が言うには「佐川氏は官邸からの指示は無いと断言した」だから「佐川氏が自ら悪魔の証明を買って出た」と言うのです。

このような論は明確に誤りであり、騙しの類です。このような態度こそが文明社会が忌避した悪魔の証明を求める態度そのものです。

実は、誰かが「無い」と言うとき、それは「他の存在事実をすべて調べた結果、不存在事実が証明できる」という意味ではないという事に気づきます。普通は「把握した事実から合理的に導かれる結論として、ある事実が存在しているとは認められない」という意味です。「無い」と言ったからと言って、その発言者の意図として「悪魔の証明を請け負う」などという意識があるということは在り得ず、ファンタジーです。そのような意思があると認められるのは明示的にそのような主張をする場合に限られます。

主張立証責任という概念

上記の浜渦氏の反論記者会見でも記者の質問に対して浜渦氏が主張立証責任に触れている場面がありました。犯罪事実があるというのなら記者や議会がそれを証明しなさいと。

浜渦氏も言うように、ある程度の証拠が出れば、浜渦氏に反論をする必要性が出てきます。要するに有罪側に心証が振れた場合です。しかし、出所不明なメモ程度で無罪側に心証を振れ戻させるための反論を要求するような程度の疑惑が生じることは本来ありえないのであって、後から振り返ってもこの時点で浜渦氏に反論を求めるのは追及側の怠慢だと言えます。

都議会の偽証認定前:根拠となる物証の欠如

都議会の追及派は浜渦氏への報告書があるから関与があったとしていますが、それについて本当に浜渦氏に届けられたものなのかの調査を議会は行っていません。また、そのような報告書があるというのなら、浜渦氏から何か指示書などのようなものがある可能性があるのに、それについては全く触れられていません。

こんな程度の立証で証言と食い違いがあるとして人を禁固刑に処す「偽証」認定をするのは恐ろしいモノです。もしこのような状態で「偽証」認定がされても、告発が受理されるとは思えません。 

この話が話題になっていた時点において、上記のような感想を持っていた人は相当数存在していました。

都議会では自民党会派と日本維新の会のやながせ裕文氏、無所属の塩村文夏氏のみが偽証認定に反対でした。

2017年4月26日:都議会自民党会派が偽証の決議拒否

都議会自民党会派は、偽証認定の決議を拒否する意向を示しました。しかも、偽証認定への手続の流れを進めてきた委員長が異例の意見表明。本件で集まった証拠程度で「偽証」認定をすることは難しいと判断したということです。

浜渦氏の反論記者会見の効果はあったと思います。

ここで面白いのは、前回の百条委員会で浜渦氏を偽証認定することに加担したはずの都議会のドン、内田さんも、今回は偽証認定をしないということ 。前回は政局絡みで偽証認定したことが濃厚ですが、今回は既に一私人となった浜渦氏ですから、その必要はない、という判断だったのでしょう。

http://archive.is/v8F5r

2017年5月31日:都議会で偽証認定

さらにその後、委員長は解任され、公明党会派の議員が議長となりました。果たして都議会は偽証認定はするのか?自民党以外の主要会派は過半数勢力のため、公明党会派の動向が注目されましたが、結局は偽証認定がされることとなりました。

2017年6月2日:百条委員会閉会

第19期 豊洲市場移転問題に関する調査特別委員会速記録第十五号

豊洲市場移転問題に関する調査特別委員会 調査報告書

https://www.gikai.metro.tokyo.jp/images/pdf/record/market-relocation-task-force/19-15.pdf

調査報告書には「違法性があった」という文言はありませんでした。

2017年7月2日:都議会議員選挙

偽証認定方針が決定したのが4月4日、そこから偽証認定がされるまでに約2か月もタイムラグがあったのは都議会議員選挙に向けて「偽証告発をして悪を暴いた都議会」という印象を有権者に与えるためであると強く疑われます。

しかも無責任なのは、選挙までに偽証罪での告発をしていないということ。

都議会議員選挙によって、都議会の構成員は変わりました。構成員が変わった都議会に、前の構成員が下した決定である告発をさせようというのですから、おかしいと言えます。「告発のための資料を揃えるため」というのは理由になりません。偽証認定を議会でするまでの間に告発に必要な資料は本来は揃っているはずなのですから。

2017年7月20日:都議会が偽証罪での告発

2017年7月20日、浜渦武生元副知事と彼の部下だった赤星経昭元理事が東京都議会により東京地検に対して告発されました。

偽証認定から2か月以上後、告発方針決定から約1か月後のことです。

都議会議員選挙の結果は、自民党が大敗し、偽証認定を推進した派閥やそれを支持していた小池都知事の子飼いとも言える都民ファーストの党員が大勝しました。

もしも都民ファーストの党員が都議会で勝っておらず、自民党会派が議会の過半数を占める事態になっていたら、偽証罪の告発はなされなかったでしょう。前の構成員での偽証告発をしなかったのは、都議会の結果を待つという政局的な判断があったという事が強く疑われます。これは偽証認定の正当性に疑念を生じさせる外形的な事実でもあると言えます。

2017年9月21日:東京地検が告発受理

9月21日に告発が受理されました。

告発を受理すると、犯罪捜査規範によって迅速に捜査をしなければならないという規定があります。しかし、それは努力規定であり、告発を受けてから終局処分(起訴、不起訴の判断)を検察がするまでの時間制限は設けられていません。

つまり、終局処分がなされるまでは、告発を受けた人は長い間不安に晒される場合があるということです。今回も議会からの告発という事で検察は慎重に捜査を進めた結果半年間もの時間が経過しました。

2018年3月30日:浜渦、赤星両氏の不起訴決定

2018年3月30日、東京地検特捜部は浜渦武生氏と赤星経昭氏を不起訴処分にしました。

不起訴処分の種類

さて、不起訴処分には種類があります。

  1. 罪とならず
  2. 嫌疑なし
  3. 嫌疑不十分
  4. 親告罪の告訴取下げ
  5. 起訴猶予

今回で可能性があるのは嫌疑なし、嫌疑不十分、起訴猶予であると思われます。この内、起訴猶予とは、被疑事実が明白な場合において、諸般の事情を考慮して訴追を必要としないときです。今回の不起訴の理由が何かは現時点でまだ報道では見られませんが、ひとまず不起訴という運びになったということです。

浜渦元副知事ら2人を不起訴 豊洲移転の議会証言巡り 2018/3/30 12:43 日本経済新聞

赤星氏は不起訴となったことについて「理不尽な告発だった。一言も嘘を言ったことはなく、自分の主張を認めてもらった」と話した。

この記事からは嫌疑なしや嫌疑不十分の可能性が高いですね。検察が不起訴理由を開示すれば追記します。

浜渦氏が取れる法的措置

不起訴理由が「嫌疑なし」である場合「誣告罪(ぶこくざい)」による関係議員の告訴が可能になる余地もあります。また、名誉毀損による不法行為があったとする民事訴訟も可能でしょう。

国会議員とは異なり、憲法51条の免責特権が地方議員にはありません。よって、今回の「偽証認定」に積極的に加担した都議会議員は、個人として、浜渦氏から何らかの法的措置を取られる可能性があります。

※追記:浜渦氏の不起訴理由は嫌疑不十分

魚拓:http://archive.is/IlWef

浜渦氏の不起訴理由は、嫌疑不十分だったと東京検察庁から東京都に告知されました。

予想通りの結果です。自民党の東京都議会幹事長、秋田一郎氏の談話があります。

都議会百条委員会不起訴嫌疑不十分

さて、この落とし前はどうつけてくれるのでしょうかね?

豊洲市場移転決定:百条委員会とは何だったのか?

豊洲市場移転問題に関する調査特別委員会=百条委員会は、元々豊洲移転決定判断に違法な行為があったのでは?ということで設置されました。違法性があると疑われたからこそ、強力な権限のある百条委員会が設置されました。

しかし、違法性があるとはとうとう認められませんでした。6月2日の上記議会を最後に百条委員会は閉会しました。 

第19期 豊洲市場移転問題に関する調査特別委員会速記録第十五号

再掲:豊洲市場移転問題に関する調査特別委員会 調査報告書

https://www.gikai.metro.tokyo.jp/images/pdf/record/market-relocation-task-force/19-15.pdf

そして、結局は小池都知事は2017年12月20日、豊洲市場への移転を2018年10月11日に行うことを決定しました。実に約2年以上の遅れで移転されることとなりました。

2017の東京都議会、百条委員会が無駄だったという事が明らかになりました。誰が責任を負うべきなのか?都民はしっかりとチェックしなければなりません。

政局や選挙のために百条委員会が悪用されてきた。それは浜渦氏が2回経験した百条委員会と偽証認定を見れば明らかです。それは過去には都議会自民党が仕掛けたものであり、2017年には音喜多駿都議をはじめとする小池百合子都知事の息がかかった議員や共産党議員によるものであることが明らかです。

更には、この動きをマスメディアが後押ししたということも忘れてはなりません。

地方議会の運営を正常なものにするために住民がしっかりと行政をチェックしていく必要があります。住民訴訟の道もあり、実際に築地の業者である生田よしかつさんが行動しています。

地方議会は誰のためにあるのか、住民は議会に白紙委任してもいいのか。浜渦氏の事例は多くを考えさせられるものとなりました。

※追記2:小池都知事に対する請求は棄却

移転が遅延したことによる小池都知事本人への賠償請求を都に求める住民訴訟は棄却されています。*1

以上