事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

NHKの桜を見る会の記事が印象操作のお手本過ぎるので読んで欲しい

NHKの桜を見る会に関する記事で印象操作のお手本のような見事な記事がありました。

何がどう印象操作・誘導なのかを整理して紹介したいと思います。

 「桜を見る会」安倍首相の国会答弁と食い違う証言 | NHKニュース

「桜を見る会」安倍首相の国会答弁と食い違う証言 | NHKニュース別の魚拓

今回紹介するのは 2019年11月14日 20時02分に公開されたNHKの記事です。

まず、タイトルから「安倍首相の国会答弁と食い違う証言」という表記であり、まるで安倍側が虚偽の発言をしているかのような印象を一般的に受けるものになっています。

懇親会と会費徴収と政治資金規正法

まず「桜を見る会」の前日に「前夜祭」などと称して安倍総理大臣の後援会が都内のホテルで毎年、開いていた懇親会についてです。

NHKが入手した「桜を見る会」の案内文には、前日の懇親会について、安倍総理大臣の後援会が主催し会費は5000円だったと記されていて、ことしの懇親会に出席した女性は「850人ぐらいが出席していた」と証言しています。

最初に触れるのが前夜祭の事実関係。この部分は問題ありません。

政治資金規正法は、政治団体が会費を徴収して催し物を開いた場合には、その収支を政治資金収支報告書に記載することを義務づけています、政治団体「安倍晋三後援会」の収支報告書にはこうした懇親会の収支の記載はありません。

ここで、NHKは「会費を徴収」した場合には報告書に記載義務があるが安倍事務所は怠っている疑惑を指摘しています。

懇親会について安倍総理大臣は今月8日の参議院予算委員会で「各個人がホテルとの関係においてもそれはホテルに直接払い込みをしているというふうに承知している」と答弁し、会費は出席者がれぞれホテル側に直接支払ったと受け取れる説明をしています。

「出席者がそれぞれホテル側に直接支払ったと受け取れる説明」という部分。

これは安倍総理の発言の趣旨を分かった上で、敢えてそれと異なる方向に読者の認識をずらそうとしていることがうかがえる記述です。

どういうことか?

「参加者がホテルに直接払い込み」の法的な意味

あなたが飲み会の幹事だとします。

幹事は飲み会の代金を集めて一括でお店に支払うことが通常です。

その場では事実としては参加者⇒幹事⇒お店の順番でお金の受け渡しが発生します。

それは幹事にとって「参加者が渡したお金分の収入が発生した」と言えるでしょうか?

一定の場合には幹事は確定申告をしなければならないのでしょうか?

もちろん、そんなことはありませんよね。

幹事は単にお金をごく短時間の間に一つに取りまとめただけであって、収入を得たという処理にはなりません。

ですから、法的には参加者⇒お店にダイレクトに支払いが行われたとみる
※或いは前夜祭の話は参加者⇒旅行代理店 旅行代理店⇒ホテルという流れかもしれない

これが事実としての把握と法的な把握の違いです。

お店も特段に「幹事から徴収した」扱いにはしません。

事実としての行為と法的な行為の把握のズレを利用

さて、安倍総理が言っている「ホテルに直接払い込み」は法的な意味です。

それは11月15日に安倍総理が記者団に対する会見で述べています。

令和元年11月15日 「桜を見る会」(3)及び北海道大学教授の解放についての会見 | 令和元年 | 総理の一日 | ニュース | 首相官邸ホームページ

旅費、宿泊費につきましては、各参加者がそれぞれ旅行代理店に支払いし、夕食会費用につきましては夕食会場の入口の受付にて、安倍事務所職員が一人5,000円を集金し、ホテル名義の領収書をその場で手交し、受付終了後に、集金した全ての現金をその場でホテル側に渡すという形で、参加者からホテル側への支払いがなされた、ということであります。

NHKは「出席者がそれぞれホテル側に直接支払ったと受け取れる説明」と、理解の仕方に事実面の捉え方と法的な捉え方があり得るが、現時点ではいずれにも確定していないという表記でした。この記述自体を責めることはできません。

しかし、後の記述との関係で、これは見事な印象操作に変わります。

ホテル側「主催者や代表者から一括で受け取る」

「桜を見る会」安倍首相の国会答弁と食い違う証言 | NHKニュース

「代金は一括で受け取る」「最低で1人1万1000円から」

数百人規模のパーティーの代金を出席者一人一人がホテル側に直接支払うことは可能なのでしょうか?

NHKは過去に懇親会が開かれていた都内の2つのホテルに取材しました。いずれも個別のケースについては答えられないとしましたが、「ANAインターコンチネンタルホテル東京」は「パーティーの代金は原則として出席者から個別に受け取ることはなく主催者や代表者から一括で受け取る」と説明しました。

 「ホテルニューオータニ」は「代金を個別に受け取るか一括かはケースバイケースで相談次第だ」と回答したうえで、会費5000円のパーティーのプランはあるかどうか尋ねたところ「パーティープランの最低価格は1人1万1000円からで値切り交渉などには応じられない」などと説明しました。

ホテル側は事実としての行為を説明するのでこのような説明にならざるを得ません。

これを見た一般人は、「安倍は嘘をついてるのではないか」と思う可能性が高いです。

特に、NHKの記事タイトル自体が「安倍首相の国会答弁と食い違う証言」となっている前提では、そのように理解する人が出るのが当然だと思います。

この文章の項目の見出しも「代金は一括で受け取る」とあり、安倍総理の「各個人がホテルとの関係においてもそれはホテルに直接払い込みをしている」という発言と齟齬が生じているということを言わんばかりです。

「パーティープランは1万1000円を下回ることはない」

「桜を見る会」安倍首相の国会答弁と食い違う証言 | NHKニュース

 「ホテルニューオータニ」は「代金を個別に受け取るか一括かはケースバイケースで相談次第だ」と回答したうえで、会費5000円のパーティーのプランはあるかどうか尋ねたところ「パーティープランの最低価格は1人1万1000円からで値切り交渉などには応じられない」などと説明しました。

NHKの当該記事中で最も作為的なものが感ぜられるのがこの部分です。

これは取材方法を意図的に調整していると考えられます。

1万1000円からの「パーティープラン」とはパッケージプランのこと

ホテルニューオータニのパーティープラン

ホテルニューオータニ公式HP

ホテルニューオータニの公式HPでは「パーティープラン」という項目があります。

たしかに1万1000円からの表記になっています。

要するに、これはホテルニューオータニ側がある程度の大枠を決め、その中で客が要望を伝えて微調整する「パッケージプラン」であって、値下げ交渉を行わないというのは当然なのです。

しかし、ニューオータニが用意している宴会プランはこのプランだけではありません。

ホテルニューオータニの宴会プランは「パーティープラン」だけじゃない

ホテルニューオータニのパーティープラン

ホテルニューオータニの宴会プランの一覧です。

上述の「パーティープラン」は、この中の一つに過ぎないというのが分かります。

下部に「ケータリングプラン」がありますが、この料金体系を見ると、人数が多くなればなるほど一人当たりの価格が下がるというのが分かります。

50名と100名とでは一人当たりの価格が1000円も異なります。

安倍事務所主催の「前夜祭」が850人の規模ですから、これを参考にして考えると十分にあり得る値段だということがうかがえます。

多局では「5000円でできるかは宴会の形式等次第」と回答したと報道

「5000円でできるかは宴会の形式などによる」

ホテルニューオータニはこのように回答しています。

NHKは、この回答を引き出せなかったのでしょうか?

NHKはなぜ他の宴会プランについて書かなかったのか?

疑問なのがNHKはなぜ他の宴会プランについて書かなかったのか?ということです。

ホテルニューオータニには1万1000円からのプラン以外にも多数のプランがあるのにもかかわらず、敢えて1万1000円からのプランの話しか書かなかったのは、単なる取材不足だったのでしょうか?

私はそうは思いません。

私は日ごろからNHKの記事を見ていますから、その速報性・取材密度・正確さについて尊敬しています。たまに五月雨式に追記される場合がありますが、それも必要な情報を順次追加しているという感じで、組織力を見せつけられている思いです。

そんなNHKが一般的なパッケージプランの価格についてだけ報じ、HP上で簡単にほかの可能性を認識でき、他局も報道している「5000円でできるかは宴会の形式などによる」というニューオータニの認識を報じなかったのは、なぜでしょう?

敢えて質問しなかったか、ワザと1万1000円のプランだけ書いたか

2パターンあると思います。

  1. 最初からパッケージプランについてのみ質問して取材を終えた
  2. 5000円でできるかは形式によると聞いたが敢えてそれは書かなかった

いずれも記事中に書かないことによって「嘘をついた」ことにはなりません。

こうやって、事実のみを報じることで読者の認識を誘導する記事が完成します。

締めの違法疑惑と偏向報道批判回避 

NHKの記事の最後には「政治資金収支報告書への記載漏れ たびたび問題に」という項目で、政治団体の催しで政治資金収支報告書への記載漏れが生じたケースとして「菅原一秀後援会」のバス旅行、工藤彰三衆議院議員の政治団体「彰友会」での総会・報告会の収支が不記載だった事例を紹介しています。

当初の説明と異なる結果となったとして、今回の安倍事務所の対応もそうではないかと読者に思わせる書きぶりになっています。

そして、最後に立憲民主党の近藤昭一元副代表の政治団体の不記載の事例も出し、「偏向報道」との誹りを免れる形を整えようとしていることが伺えます。

まとめ

  1. タイトルと見出しで記事の理解の方向性を限定
  2. 事実としての行為の把握と法的な事案の把握のズレを利用した印象操作
  3. 容易に他の可能性を確認できるハズなのに、わざわざパッケージプランの料金体系だけを記述する誘導
  4. しかし、嘘は書いていない
  5. 他の類似事案を紹介して違法の印象を与える構成
  6. 申し訳程度の野党の事例で「偏向報道批判」回避

このNHKの記事は印象操作の教科書として記憶にとどめたいと思います。

実は他の新聞社の記事でも桜を見る会に関する記事は同様の手法が行われていますので(特に上記2と3)、読んでみるといいでしょう。

以上