池上彰だからって虚偽で貶めてはダメだろう
- 「池上彰が天安門事件では一人も殺されてないと言った」デマが拡散
- 池上彰の現代史講義「天安門広場の前の長安街では群衆に向かって無差別射撃」
- 「天安門広場内部では虐殺は起きずデモの学生は死ななかった」のか
- 「池上彰が歴史捏造・デマを話している」というデマのネット上での再三の拡散
「池上彰が天安門事件では一人も殺されてないと言った」デマが拡散
それでは本番,ご講演をご視聴下さい。冷静に聴いて下さいね,血圧上がります。割れ物,壊れ物,飲み物等は近くに置かないで!🧐 pic.twitter.com/PeDSYebDRO
— ハープスター (@k7LssPYI5D85fxI) 2023年5月9日
この動画付きツイートが拡散。動画に編集で「問題発言まで〇〇秒」という文字が追加されカウントダウンされるよう表示されています。
が、池上彰氏の発言は「天安門広場では」となっており「事件では」ではありません。
このアカウントの他のツイートでは「天安門事件では」などと書いています。
「天安門事件ではデモの学生は一人も死ななかったということが後に分かりました。」と学生達に講演する池上彰氏。🤔ほう! pic.twitter.com/uiShbsxQos
— ハープスター (@k7LssPYI5D85fxI) 2023年5月9日
つまり、「池上彰が天安門事件では一人も殺されてないと言った」とするデマが拡散されているということです。動画を見た者の中には「事件では」の意味で池上氏が否定したと理解する者が多数いることがリプライ等で見て取れます。
池上彰の現代史講義「天安門広場の前の長安街では群衆に向かって無差別射撃」
池上氏の当該動画は、【池上彰の現代史講義】というBSジャパンで2011年に放送された教養番組の第11回目の講義の映像でした。
拡散されているシーンのすぐ後には「天安門広場の前の長安街では群衆に向かって無差別射撃があり、多数の死者が出た」という旨の発言をしていました。
拡散されてるシーンの直後には天安門の前の長安街では無差別射撃が行われて多数の死者が出た、という事を説明してるわけで、気になる点があるのはともかく、2011年当時の言論状況として苛烈に問題視されるようなものではないだろう。 pic.twitter.com/wiLARjSj94
— Nathan(ねーさん) (@Nathankirinoha) 2023年5月10日
もっとも、「天安門広場ではデモの学生は一人も死ななかった」という事実関係については、次項で指摘するように論争があるようです。
「天安門広場内部では虐殺は起きずデモの学生は死ななかった」のか
(3ページ目)「肉味噌のようにすり潰された死体が路上に」六四天安門事件”最大の激戦地”から生還した男の回想 | 文春オンライン 安田 峰俊2021/05/10
この夜、広場内部で虐殺が起きなかったことは、現場に最後まで残っていた台湾人歌手の侯徳健や、広場内の学生の無血撤退に尽力した文学者の劉暁波など複数の当事者が証言している(ただし2017年10月に明らかになった英国大使館の機密文書には広場内での虐殺を示す詳細な記述があり、議論は再燃している)。ともかく、六四天安門事件において最大の悲劇の舞台となったのは、郊外から天安門広場まで東西を貫いて延びる大道路・長安街の沿線をはじめとした市内の各地だった。
「天安門広場内部では虐殺は起きずデモの学生は死ななかった」ということは、従前は現場に居た当事者らの証言があったことなどから通説化していたようです。
が、2017年にイギリスの機密文書の機密指定解除によって広場内部での虐殺の記述があることから議論が再燃している状況です。
天安門事件の死者は「1万人」 英外交機密文書 - BBCニュース
一連の光電はこれまでロンドンの英国立公文書館で保管されていた。10月に機密指定が解除され、香港のニュースサイト「香港01 」が閲覧した。
ドナルド大使によると、情報源は事件以前から信頼できていた人物で、「事実と憶測と噂を慎重に区別」していたという。
大使は当時、「学生たちは広場退去まで1時間の猶予を与えられたつもりでいた。しかし、5分後に装甲兵員輸送車(APC)が攻撃を開始した」と書いている。
「学生たちは腕を組んで対抗しようとしたが、兵士たちを含めてひき殺されてしまった。そしてAPCは何度も何度も遺体をひき、『パイ』を作り、ブルドーザーが遺体を集めていった。遺体は焼却され、ホースで排水溝に流されていった」
「負傷した女子学生4人が命乞いをしたが、銃剣で刺されてしまった」
「池上彰が歴史捏造・デマを話している」というデマのネット上での再三の拡散
本件において池上氏が講義をしたのが2011年であり、2017年に議論が再燃する前のことであることから、「天安門広場では」という場所的限定をした上で「デモの学生は一人も死ななかった」と話したことについては、歴史的事実・ファクトとしてどうなのか?という点はさておき、当時の主流な認識を伝えていること、直後に「長安街では無差別射撃による虐殺が発生した」と話しており天安門事件での虐殺は否定していないということから、細部はともかく「問題発言」とまで言われるような瑕疵は無いと思われます。
※追記:加えて、池上氏が歴史学の専門家ではないため、諸説ある事柄について断定的判断を示したとしても、それが学問上の態度としてどうかはともかく、それだけで苛烈な非難を加える必要性はないと思われます。
「池上彰が歴史捏造・デマを話している」というデマは、定番化しています。
過去にも以下のような事案がありました。
もっとも、池上彰氏の番組内で事実誤認やミスリーディングな発言が多数あった、ということもまた事実です。
こうしたことから「池上が問題視されてる=デマだ」という図式が受け入れやすい土壌が生まれていると言えますが、それとこれとは別問題。
「デマを吐く池上彰」という藁人形を作って叩く空想のエンタメで認識を歪めることに加担してはならないと思います。
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