事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

統一教会の名称変更の文化庁審査と自民党安倍政権下の文科大臣下村博文についての暫定的まとめ

実態や如何に

※追記あり

統一教会の名称変更に関する当時の文科大臣下村博文の回答

統一教会(「世界基督教統一神霊協会」)に関して「自民党・政権を支配していた」というナラティブがあり、「統一教会が名称を世界平和統一家庭連合に変更できたのは安倍政権になったおかげだ」という言説があります。

これに関して、当時の文科大臣である下村博文議員が週刊誌からの質問に回答した際の文書をSNSで公開。

要するに通常の手続として部長決裁であり、自身は関与していないとのこと。

紀藤正樹弁護士「長年宗務課が名称変更の認証を保留してきた」

これに対しては統一教会による被害者らの弁護を長年務めてきた紀藤正樹弁護士から「この件、統一教会案件として、長年宗務課が名称変更の認証を保留してきた案件です。むしろこの重要案件につき、文化部長限りで、大臣にお伺いをたてないこと自体に問題がある」という指摘がありました。

このツイートも含めて弁護士ドットコムが文化庁等に取材した記事があります。

文化庁宗務課「宗教法人の名称変更は認証制、要件が揃えば認証、それまでは整っていなかった」

文化庁宗務課の担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して、1997年に旧統一教会から名称変更の届出があったが、2015年まで認証されていない理由を次のように説明した。

宗教法人は許可制や認可制ではなく、認証制なので、必要な書類がそろえば認証される仕組みです。2015年の名称変更も、要件がそろったので認証されたということです

20年近くもの間、なぜ認証されていなかったのかという質問に対して、担当者「要件が整っていなかったためです」と回答した。

「宗教法人法にもとづいて、各宗教法人では規則改正の定款が決められています。その定款にもとづき、変更がある場合は責任役員会の議事録や、規則の新旧対照表などが求められます。そうした要件がそろっていなかったということです」

一方、下村氏の関与について、宗務課の担当者は「下村氏がご回答されている通りです」と話した。

つまり、紀藤弁護士の言う「宗務課が長年名称変更を保留してきた」というのは単に要件充足してなかったからで特別な対応をしてきたわけではないという事を示しています。

また、紀藤弁護士は「特別対応していたのにあっさり認証が通ったこと」を問題視していたものから「特別対応していないならそれこそが問題」、という風に【問題意識をスライドさせている】ということが指摘できます。

この点については興味深い証言があります。

1997年当時の文化庁宗務課課長の前川喜平「実体が変わらないのに名称を変えることはできないと言って断った」

https://archive.ph/Vt5B8

1997年当時の文化庁宗務課課長の前川喜平が2020年12月に「実体が変わらないのに名称を変えることはできないと言って断った」とツイートしているものを、2022年7月14日に高千穂大学経営学部教授の五野井郁夫 氏が取り上げ、「政権との癒着」を示す証言として扱い、同様の認識を持つ者が出現しました。

しかし、この前川氏のツイートはこれが本当なら

  1. 課長レベルで蹴ることができる案件が大臣まで行くはずがない
  2. 「実体が変わらないから」を理由として名称変更を拒否したのであれば裁量の逸脱濫用ではないか?

という代物であり、むしろ「自民党・政権・行政が統一教会に支配されていた」とは決して言えない実態を表すものと言えます。

前川氏のツイートは、何やらさも特別なコト(良い判断をした)かのように書いてますが、ツイートの論調とは裏腹に、実際には単に形式要件を欠いていたために審査を通さなかった、というだけのことを言っているような気がしますが…

※前川ツイートでは「名称変更を求めて来た」であり「申請があった」と書いてない点に注意。

参考:所轄庁への届出に必要な様式 | 文化庁

有田芳生議員による文化庁への質問への回答との整合性について

さて、無視できないのが、ジャーナリスト時代にカルト問題に取り組んでいた有田芳生参議院議員(当時)による2015年のツイート。

これは有田事務所が文化庁に対して統一教会の名称変更について問い合わせをした結果の回答を示すものです。

「文科大臣=下村博文は関与?」という問題意識については、「周辺情報」という意味で大臣にはお話ししたとあり、事前説明があったというのはそういう意味で認証判断には無関与である、との体裁です。

「過去に名称変更申請が却下された理由は?」という質問に対しては、申請そのものが無いから却下も無いという回答です。この部分が前川ツイートとは矛盾しているように見えますが、前川が嘘をついてるのか、文化庁が嘘をついているのか、「当時」の意味が違うから矛盾はないのか、「当時」とはどの時期なのか質問文が無いため不明です。

また、有田氏のツイートは有田事務所が担当者とのやりとりをまとめたものに過ぎず、正式な文書として文化庁から送付されているものではないことに加え、注意が必要な点があると思われます。

文科省の標準文書保存期間基準(保存期間表)と文化庁宗務課の保存期間表

それは、有田事務所への回答における「名称申請がなかったので却下した事実は無い」という発言(一言一句その通りに発せられたとして)は、「名称申請の事実が確認できなかった」という意味である可能性はないのでしょうかという点。

前川氏のツイートは1997年=平成9年の認証の話、有田事務所が文化庁に質問したのが平成27年だから、【18年】経過しているわけです。

宗教法人の名称変更申請において形式要件を充たさないから審査を通さなかったという場合の文書保管期間なんて、過ぎてしまっていたために、そのような事実は確認できなかった、という可能性は無いのでしょうか?

ということで、標準文書保存期間について調べてみると…

標準文書保存期間基準(保存期間表):文部科学省

文化庁宗務課 保存期間表

宗教法人の名称変更申請にかかる書類がこの表のうちどれに該当するのかは不明ですが、「法人の権利義務の得喪及びその経緯」に関する文書でも10年なのだから、有田事務所質問の当時は既に文書が残っておらず、確認不可能だったでしょう。

で、有田氏がその後、国会質疑において統一教会の名称変更について政府側に問いただしたという形跡はありませんし(国会議事録を調べても無い)、Twitter上でも名称変更の経緯についてそれ以上追及するものはありませんでした。

つまり、有田氏においても本件はあまり重要視していなかったということが伺えます。

まとめ:世界基督教統一神霊協会⇒世界平和統一家庭連合の名称変更は通常の手続、自民党安倍政権は無関係では?

  • 統一教会の名称変更が長年行われていなかったのは形式要件不備が理由(との文化庁側の弁)
  • 安倍政権下の2015年の名称変更時には下村博文文科大臣に対し、周辺情報として事前説明はした、との文化庁担当者の有田芳生議員への回答がある
  • 1997年当時の文化庁宗務課課長の前川喜平のツイートは、むしろ自民党・政権が統一教会に支配されていたのではないことを示唆するもの
  • 有田議員への文化庁担当者回答と前川ツイートには矛盾があるように見えるが、文書保管期間を徒過したため確認できなかったという可能性はないのか?

というわけで、まとめると現段階では自民党安倍政権は無関係では?という方向になりますが、それでも周辺事情から別の実態が見えてくる可能性も残されてはいます。

※追記:前川喜平「不受理にしていた。申請を受けて却下したわけではない」と証言

【統一教会】前川喜平氏が明かす「統一教会」名称変更の裏側【前編】文化庁では教団の解散が議論されていた|日刊ゲンダイDIGITAL

宗務課がどう対応したかは、ツイートした通り。組織の実態が変わっていなければ、規則変更は認証できない。そう判断し、申請を受理しなかったのです。申請を受けて却下したわけではありません。水際で対処したのです。

行政手続法施行以後であっても、相手方が任意に行政指導に従う以上、不受理の運用は妨げられていませんから、この対応自体が何か問題かというとそうではないでしょう。

統一教会の側も、この対応に反することはできないと思っていたと推察されます。

すると、有田議員への文化庁担当者回答と前川ツイートには矛盾が無いことに。

いずれにせよ、前川ツイートは政権・行政が統一教会に支配されていたのではないことを示唆するものであることには変わりがないということです。

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