事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

朝鮮学校無償化訴訟・大阪高裁判決:教育の自由と各種学校?

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大阪高裁で朝鮮学校無償化訴訟の控訴審判決が出され、文部科学大臣が無償化対象指定をしないとしても違法ではないという結論が出されました。

この訴訟と周辺知識について概略を整理していきます。

朝鮮学校無償化事案に関係する法規

これまでの朝鮮学校無償化事案に関係する法律は【公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律】(以下、支給法)という法律です。こちらの2条1項5号に「専修学校及び各種学校」も本法にいう「高等学校等」に含まれるとあります。

これを受けて【公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則】(支給法の施行規則)では、現在は削除されていますが1条1項2号ハ(平成25年改正前)において各種学校が適用対象となる場合の一つとして「文部科学大臣が指定したもの」が定められていました。各朝鮮学校は、この規定に当たるとして無償化申請をしました。

しかし、文部科学大臣が指定をしないので、朝鮮学校の生徒が国賠請求訴訟をし、さらには各朝鮮学校が国に対して無償化対象の指定をするよう義務付ける事を求める訴訟を各地で起こしました。これに対して国側は、朝鮮学校は学校教育法16条1項の「不当な支配」を受けているため不指定の判断をしたとして、適法であると反論しています。

他の関連法令は文部科学省のこちらのページからどうぞ

なお、上記に挙げた支給法は旧制度です。平成26年4月以降入学者についての場合は新制度です。

新制度は【高等学校等就学支援金の支給に関する法律】という法律に基づいています。

一条校じゃない各種学校だから?

朝鮮学校無償化補助金一条校と各種学校

http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/17420100331018.htm

ネット上ではよく「朝鮮学校は一条校じゃないから」と言われます。 

朝鮮学校は学校教育法1条の「高等学校等」に当たらないということですが、上述の通り、無償化や補助金支給の対象となるための要件は学校教育法とは別の法律に基づいていますから、各種学校だから直ちに支給されないことになるとは言えません。

確かに各種学校の場合には要件が別個に定められているため、一般的な高等学校に比べると対象になるハードルは高いのかもしれませんが(少なくともより面倒ではあるハズ)、区分が異なることから無償化や補助金支給の対象になる「資格」が無いということにはなりません。

たとえば各種学校であっても補助金支給を受けている学校は数十校あります。

一条校でないことを取り上げる人は、ハードルが高いことを指して言っているか、理想論として「そうであるべき」と言っていることが多いのだと思います。「一条校じゃないから対象ではない」と言い切ってしまうと、それはフェイクになります。

朝鮮学校無償化訴訟事案の全体像

朝鮮学校無償化訴訟は、全国各地の朝鮮学校関係者によって為されています。

大阪(平成25年(行ウ)第14号)以外では東京(平成26年(ワ)第3662号)、名古屋(平成25年(ワ)第267号、平成25年(ワ)第5590号)、広島(平成25年(行ウ)第27号)、福岡で同種の訴訟が行われており、既に判決が出ている東京、名古屋、広島では朝鮮学校側の敗訴となっています。高等裁判所レベルで判決が出たのは初めてのことです。福岡は2019年3月14日に判決が出るようです。

大阪での事例は以下の点が特徴的です

  1. 原告が生徒ではなく、朝鮮学校を運営する学校法人
  2. 支給法施行規則1条1項2号ハの削除が違法無効であることを判示
  3. 「不当な支配」判断における文部科学大臣の裁量を認めず
  4. 「不当な支配」判断における文部科学大臣の裁量の逸脱濫用を認定
  5. 「不当な支配」の客観的事実は不存在であると認定

原告が朝鮮学校であるというのは、広島地裁の事例が同じでした。

大阪地裁の判決内容

細かいところを突っ込んでも意味がないので重要なところだけ。

この訴訟は、結局は朝鮮学校が支給法の要件に該当するかが問題ですから、上記の5番の「不当な支配」の 客観的事実があるかどうかを避けて通ることはできません。東京地裁は先に5番を判断し、支給法施行規則の削除の適法性を検討しませんでしたが、それはそういう論理構造になっているからです。

大阪地裁は以下の事実を認めませんでした。

  • 朝鮮学校が朝鮮総聯に対して寄附等を行っていること
  • 朝鮮総聯が朝鮮学校に対して金日成、金正日の肖像画を太陽像に交換するよう指示したこと
  • 朝鮮学校の補助金を朝鮮総聯の直轄組織である教育会が管理して流用されていること
  • 文部科学大臣に提出された書面に「朝鮮学校は朝鮮労働党の日本での工作活動拠点である旨、朝鮮学校の学校運営及び教育は朝鮮総聯の指導を通じて北朝鮮政府の完全なコントロール下にある旨」が記載されていることからそのような事実の存在

他方で、以下の事実は認められるとしましたが、「不当な支配」が認められるとはしませんでした(すべてではないですが抜粋)

  • 大阪朝鮮学校とは異なる朝鮮学校の校舎及び敷地が朝鮮総聯の関連する金融機関の破綻を原因として仮差押えされていること
  • 東京都内の朝鮮学校において不適切な財産管理が見られたこと
  • 神奈川県で朝鮮総聯と関係が深い教育会が朝鮮学校の生徒等の保護者に対し生徒等に支給された学費補助金を教育会に納付させたケースがあること
  • 朝鮮学校では北朝鮮の国家理念を賛美する教育を行っていること

特に、全国一律に判断するべきではなく大阪朝鮮学校においてどうだったのかを検討するべきだという判断方法が採られているのが他の地裁と異なるところです。

他の朝鮮学校における事例でもって大阪の朝鮮学校の判断をするべきではないということや、朝鮮総聯と北朝鮮との関係が朝鮮学校全体に一定程度あるにしてもそれを大阪の朝鮮学校に推し量ることはできないという旨の判示が見られました。

他の地裁の判示内容を見ても、当事者が主張している内容や提出された証拠はズレがあるようであり、単純比較できません。ただ、大阪地裁は「不当な支配」の事実認定にあたって、他の地裁よりも国側により一層高い証明度を求めているような印象を受けます。

大阪地裁判決の西田隆裕元裁判長は:判決代読

大阪地裁判決を読み上げたのは、西田裁判長の後任である三輪方大裁判長です。西田氏が判決を書き上げた後に異動したため「判決代読」という手続を行っているだけです。

ネット上では三輪裁判長の顔写真でもって西田裁判長であるとしているものがありますが、明確に間違いなので注意しましょう。

なお、西田元裁判長は「判検交流」で裁判官の身分ではなく検察官の身分になっていますが、この制度が持つ問題は別稿を書くかもしれません。

とりあえず以下のツイートのツリーに問題点を書いています。

大阪高裁の判示内容

大阪高裁については判決文が手に入ってから記述したいと思いますが、報道にあらわれているものを見ると、大阪地裁よりも国側に求められる証明度が下がっている印象です。

「北朝鮮の指導者を絶対的な存在として礼賛し、朝鮮労働党や朝鮮総連を褒めたたえる」教科書を朝鮮総連の傘下事業体が発行していること、朝鮮総連が財政面での支援をしていることなどを挙げ、朝鮮総連は「教育内容にかなり強い影響力を行使している」

無償化によって学校側が窓口となって受け取る就学支援金について、大阪朝鮮学校では「管理が適正に行われないことを疑わせる」としています。

こうした事実は地裁でも認定されていたので、高裁で判断が覆るとすれば新たに証拠が出されたのか、高裁の判断手法が地裁と異なっていたことが予想されます。 

教育を受ける権利の侵害?

朝鮮学校の側から聞こえてくるのは「子どもたちの教育を受ける権利を守れ!」という言葉ですが、これはまったく事実に反します。

彼らは朝鮮学校で学ぶことを妨げられていませんし、教育内容を変更しなくとも朝鮮学校で教育を受けられることは変わりありません。単に無償化のためのお金が学校に下りてこなくなるだけです。教育内容が現在のままであっても、朝鮮総聯との関係次第では無償化が認められる余地があります。

それに、朝鮮学校に通っている生徒は、他の学校に進学・転校することも妨げられているわけではありません。自らの意思で朝鮮学校に通うことを選び取って来ています。

教育を受ける権利が侵害されているという事実は不存在です。各地裁の判示においても、教育を受ける権利の侵害を認めているものはありません(侵害が正当化されると言っているかのような微妙な言い回しをしている地裁はあるが)。

駅前の予備校に通っている者が「塾代を無料にしていないから浪人生の受験教育を受ける自由の侵害だ」などとは言わないでしょう。それと同じことを言っていることになります。

なお、朝鮮学校の生徒の教育を受ける権利を殊更に強調している弁護士が大量懲戒請求を受けた者にも居るようです。

まとめ:朝鮮学校無償化のためには朝鮮総聯を切れ

反社会的組織との関係があったら、一般企業であればアウトです。

そのような状況に朝鮮学校の生徒を置かせているのは、朝鮮学校の運営者です。

重要なことですが、各地裁の判決は、教育内容が反日的であるという認定はしていません。朝鮮総聯という組織との関係性を問題にしています

子どもたちに不利益を負わせるべきではないというならば、コンプライアンスとして健全な学校運営を促すのが筋ではないでしょうか?

以上