事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

森法務大臣から黒川検事長に訓告処分:懲戒処分、懲戒免職はされないのか

黒川検事長に訓告処分

森法務大臣から黒川検事長に訓告処分とする方針とのことですが、軽微すぎる処分であり、それだけでは人事院の指針を無視した違法な不作為である可能性すらあります。

なお、黒川検事長の懲戒免職等があり得るとして以下で関連規定をまとめています。

賭けマージャン黒川検事長の懲戒免職と検察官適格審査会後の罷免の勧告について 

森法務大臣から黒川検事長に訓告処分

黒川検事長 辞表提出 法相が受理 あす辞任へ | NHKニュース

このあと森大臣は記者団に対し「黒川検事長は、東京高等検察庁の検事長という立場にありながら、緊急事態宣言下の今月1日と13日の2回にわたり、報道機関関係者3名とマンションの1室で会合し、金銭を賭けたマージャンを行っていたことがわかった」と法務省の調査結果を安倍総理大臣に報告したことを明らかにしました。

そのうえで「この行為は誠に不適切と言うほかなく、極めて遺憾で、黒川検事長を、訓告の処分とした。先ほど黒川検事長から辞表が提出されたので、あすの閣議で承認をいただく予定だ」と述べました。

森法務大臣から黒川検事長に「訓告処分」をしたようです。

これは国家公務員法上の懲戒処分である「免職、停職、減給又は戒告の処分」のいずれでもありません。下限の「戒告処分」よりも軽いものであると言えます。

安倍内閣は森法相のこの措置だけで終わらせるつもりでしょうか?

当たり前だが黒川検事長の賭けマージャンは刑法上の賭博罪

「金銭を賭けたマージャン」の事実があるという前提で戒告処分だけだとしたら、これは余りにも異常です。

実際上、事件化して起訴するかはともかく、黒川検事長がやっているのは刑法185条の賭博罪の構成要件に該当する行為であり、但書きの事由にも該当しません。

過去の事例や人事院の指針と比較すると、戒告処分だけというのは到底納得いくものではありません。

過去の検察官の懲戒処分の事例

平成二十四年六月二十一日提出 質問第三一二号 懲戒処分を受けた検察官の処遇等に関する質問主意書 浅野貴博

〇戒告処分…三十八件
 ・業務処理不適正を理由とする戒告の処分が十三件
 ・業務処理不適正を理由とする検事に対する戒告の処分が一件
 ・報告怠慢を理由とする戒告の処分が一件
 ・欠勤を理由とする戒告の処分が一件
 ・セクシュアル・ハラスメントを理由とする戒告の処分が二件
 ・セクシュアル・ハラスメント、旅費の不適正受給及び欠勤を理由とする戒告の処分が一件
 ・旅費の不適正受給を理由とする戒告の処分が一件
 ・不適切行為を理由とする戒告の処分が一件
 ・占有離脱物横領を理由とする戒告の処分が一件
 ・暴行を理由とする戒告の処分が一件
 ・酩酊による粗野な言動を理由とする戒告の処分が二件
 ・器物損壊を理由とする戒告の処分が一件
 ・確定申告の怠慢を理由とする戒告の処分が一件
 ・業務上過失傷害を理由とする戒告の処分が一件
 ・交通法規違反を理由とする戒告の処分が二件
 ・指導監督不適正を理由とする戒告の処分が七件
 ・指導監督不適正を理由とする検事に対する戒告の処分が一件

国家公務員法上の懲戒処分の下限である戒告処分の例を一覧表示します。

これらの中で他人に危害を加えていないものであり且つ軽微なものと考えられるものとして「報告怠慢」・「欠勤」・「酩酊による粗野な言動」があります。

これらは刑事犯ではありません。刑事犯ならそれと分かる記述が為されます。

にもかかわらず「訓告処分」よりも重い「戒告処分」とされているのです。

黒川検事長に対する措置が訓告処分だけであるならば、それがどれだけ異常かがわかるでしょう。

懲戒処分をしなければ人事院の指針を無視していることに

懲戒処分の指針について最終改正: 令和2年4月1日職審―131 魚拓

 具体的な処分量定の決定に当たっては、
 ① 非違行為の動機、態様及び結果はどのようなものであったか
 ② 故意又は過失の度合いはどの程度であったか
 ③ 非違行為を行った職員の職責はどのようなものであったか、その職責は非違行為との関係でどのように評価すべきか
 ④ 他の職員及び社会に与える影響はどのようなものであるか
 ⑤ 過去に非違行為を行っているか
 等のほか、適宜、日頃の勤務態度や非違行為後の対応等も含め総合的に考慮の上判断するものとする。
  個別の事案の内容によっては、標準例に掲げる処分の種類以外とすることもあり得るところである。例えば、標準例に掲げる処分の種類より重いものとすることが考えられる場合として、
 ① 非違行為の動機若しくは態様が極めて悪質であるとき又は非違行為の結果が極めて重大であるとき
 ② 非違行為を行った職員が管理又は監督の地位にあるなどその職責が特に高いとき
 ③ 非違行為の公務内外に及ぼす影響が特に大きいとき
 ④ 過去に類似の非違行為を行ったことを理由として懲戒処分を受けたことがあるとき
 ⑤ 処分の対象となり得る複数の異なる非違行為を行っていたとき
 がある。また、例えば、標準例に掲げる処分の種類より軽いものとすることが考えられる場合として、
 ① 職員が自らの非違行為が発覚する前に自主的に申し出たとき
 ② 非違行為を行うに至った経緯その他の情状に特に酌量すべきものがあると認められるとき
 がある。
  なお、標準例に掲げられていない非違行為についても、懲戒処分の対象となり得るものであり、これらについては標準例に掲げる取扱いを参考としつつ判断する。

省略

第2 標準例

省略

3 公務外非行関係

 (9) 賭博
   ア 賭博をした職員は、減給又は戒告とする。
   イ 常習として賭博をした職員は、停職とする。

検察は「準司法機関」として刑事司法に組み込まれており、起訴をするかしないかを判断できる権限を有しています。検察が起訴すると判断しない限り、刑事裁判自体が行われないのです。

検事長は1級検事であり、天皇陛下に認証を受ける認証官」です。

それほどまでの職責を有する検察のナンバー2(東京高検の検事長)が、形式的ではあるにせよ刑法上の犯罪に該当する行為を行っているという事実が明らかになったのに、戒告処分というのは軽すぎるのではないでしょうか?

上記の処分量定の決定の際の考慮事項として②の故意は当然存在するし、③の職責や④の社会に与える影響は甚大であると言えるでしょう。

また、標準例に掲げられていない非違行為も懲戒処分の対象となり得るのであり、標準例にある種類より重い処分にすることが考えられる場合として当該職員が「管理・監督の地位にある」場合や「公務内外に及ぼす影響が特に大きい」と言える場合があります。

その中で、「賭博」行為は標準例に定められており、しかも【賭博をした職員は減給又は戒告とする】と明記されています。しかも黒川氏の場合は常習として賭博とされる行為を行っていた疑惑もあるのです。

森法相が訓告処分で済まそうとしているなら、森法相自身が裁量を逸脱した違法な不作為を行っていると言わざるを得ません(国務大臣は特別職国家公務員なので一般職に適用される国家公務員法の懲戒処分の話にはならない)。

これでは何のための人事院なのか?

当然、安倍総理の任命責任も問われる話です。

まとめ:最低でも減給又は戒告

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https://www.jinji.go.jp/fukumu_choukai/handbook.pdf

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森法相は「最終的な処分ではない」と言うかもしれませんが、であれば速やかに法律上の懲戒処分の量定の判断をするべきです。

人事院が出している「義務違反防⽌ハンドブック」では、訓告処分は各府省の内規で定められている例があり、これは国公法に基づく懲戒処分ではなく指導監督上の措置として行われるものであるとしていますから、懲戒処分に先立って別途の処分として行われる場合には何ら問題の無い行為と思われます。

ただ、総務省の資料では戒告処分は「懲戒処分に至らない非違行為」について行うとされており、法務省においてどういう意味で戒告処分が為されるのかは判然としません。

将来的には最低でも減給又は戒告、これは内閣の傘下にある人事院で定められた指針なので、それを下回る処分にとどまるというのはおかしい。

森法相は検察庁法改正案の審議において、役職延長の際には内閣の定めたルールにで決めるという改正法の具体的な基準を示せませんでしたが、将来的な懲戒処分の可能性を見せずにこういう態度では恣意的に運用されると疑われても仕方がないでしょう。

ゴーン事案で「無罪を証明すべき」などと言い放ったときから言ってますが、さっさと辞任しろ、と思います。

以上