賭けマージャン疑惑の黒川検事長の懲戒免職と検察官適格審査会後の罷免の勧告について、関連法規と事例を調べました。
週刊文春による黒川検事長の「賭けマージャン」スクープ
5月21日発売(電子版のスクープ記事分は20日から)の週刊文春の記事において、黒川弘務検事長が大のマージャン好きであり産経新聞記者と定期的にマージャンに興じているとして、その中で次のような事実が仄めかされていました。
- 賭けマージャン(賭博罪に該当し得るもの)をしていた事実
- 黒川氏がハイヤー代金分の利益供与を受けていた事実
実は、マージャンの内容はぼかされています。
記事内では直近の5月1日と13日の産経新聞社記者宅でのマージャン(産経記者2人と朝日新聞記者1人が同席)について書かれていますが、そこで実際にどういうことが行われていたのかは記事上の記述からは不明です。
刑法185条の賭博罪に該当する行為があったのか?
唯一、7~8年前に雀荘に通っていた黒川氏と記者を一緒に乗せたことがあるタクシー運転手が語った記者の本音として「ある程度負けてあげないといけないんだ」「今日は十万円もやられちゃいました」という発言が紹介されたことと、タクシー運転手の言葉として「動くのは少ない時でも四万~五万円」と言っている部分のみです。
仮に本当にマージャンの勝敗によって金銭の得喪を争っていたならば、間違いなく刑法185条の賭博罪の構成要件に該当する行為を行っていることになります。
(「金銭」であれば「一時の娯楽に供する物」には該当しない)
すると、国家公務員法98条の法令順守義務、99条の信用失墜行為の禁止に違反していることにもなり、82条1項3号「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」という懲戒処分の事由に該当することになります。
ところで、5月には朝日新聞記者も同席していたのですが「金銭を賭けていたかどうかについては、事実関係を調査して適切に対処します。」と記事にしています。
マージャン報道後、急転 緊急事態中、記者らと 黒川氏辞意:朝日新聞デジタル
産経新聞は文春の記事にあること以上の事はコメントをしていません。
※追記:「賭けマージャン」を認めたと報道されていました:黒川検事長 賭けマージャン認める 法務省の聞き取り調査で | NHKニュース
接待マージャン?供応接待の事実は
マージャンの場において何らかの供応接待が行われた事実は文春の記事にはありません。
ただ、マージャン行為について「接待マージャンだから偶然性が無いため、賭博罪の構成要件に該当しない」のような主張がなされるのでは?という予測がなされています。
ただ、この場合には「供応接待」を受けていたことになると思われるため、国家公務員倫理法・国家公務員倫理規程上の報告義務があるため、その義務違反が問題になりそうですが、報告は四半期毎に行えばよいので5月分の報告は問題になりません。
それ以前の「供応接待」の事実があれば別ですが、もし報告していたなら黒川検事とマスメディアの関係を検察庁・法務省が容認していたことになるため、おかしなことになると思います。
そして「供応接待」の程度によっては次の問題があります。
ハイヤー代金の供与は賄賂罪ではないが国家公務員倫理規程違反の可能性
ハイヤー代金については「記者側がいつも会社のチケットなどで支払っていた」「五月一日の例で調べてみるとハイヤー料金は二万五千円~三万円ほど。」という記述があります。
刑法197条以降の賄賂罪は賄賂に「職務関連性」が必要なのですが、今回はそのような事実が無いため無関係と思われます。
しかし、国家公務員倫理法に基づく国家公務員倫理規程5条では「職員は、利害関係者に該当しない事業者等であっても、その者から供応接待を繰り返し受ける等社会通念上相当と認められる程度を超えて供応接待又は財産上の利益の供与を受けてはならない。」とされており、ハイヤー代金の扱いが記事の通りであれば、黒川氏はこの規定に抵触している疑惑があります。
黒川検事長は懲戒免職になるのか?
黒川検事長は懲戒免職になるのでしょうか?
仮に賭けマージャンが刑法上の賭博罪該当行為であり、ハイヤー代金の供与が国家公務員倫理規定違反であれば、国家公務員の懲戒処分の対象になると思われますが、懲戒免職がなされるかは過去の検察官の処分例を見るとよくわかりません。
参考1:平成二十四年六月二十一日提出 質問第三一二号 懲戒処分を受けた検察官の処遇等に関する質問主意書 浅野貴博
政府答弁書では懲戒処分を受けた検察官について書かれており、免職は以下の通り6件(平成24年時点)しかありません。
免職処分…六件
・詐欺・公務員職権濫用等を理由とする免職の処分が一件
・不適切交遊及びセクシュアル・ハラスメントを理由とする免職の処分が一件
・有印私文書偽造・同行使等を理由とする免職の処分が一件
・証拠隠滅を理由とする前田恒彦検事に対する免職の処分
・犯人隠避を理由とする大坪弘道検事に対する免職の処分
・犯人隠避を理由とする佐賀元明検事に対する免職の処分
刑法犯でも減給処分や戒告処分にとどまっている例があり、賭博罪とはいえ賭けマージャン程度で免職処分まで下るかはよくわかりません。
ただ、人事院 懲戒処分の指針についてを見ると「③ 非違行為を行った職員の職責はどのようなものであったか、その職責は非違行為との関係でどのように評価すべきか」
「④ 他の職員及び社会に与える影響はどのようなものであるか」という項目があります。
黒川検事長は「1級検事」であり、「認証官」です。
したがって、過去の検察官に比してこの観点から非難を受けるべきとされる可能性があり、もしかしたら免職処分の対象になるかもしれません。
検察官適格審査会で不適格となり罷免の勧告を受けるのか?
検察庁法
第二十三条 検察官が心身の故障、職務上の非能率その他の事由に因りその職務を執るに適しないときは、検事総長、次長検事及び検事長については、検察官適格審査会の議決及び法務大臣の勧告を経て、検事及び副検事については、検察官適格審査会の議決を経て、その官を免ずることができる。
3 検察官適格審査会は、検察官が心身の故障、職務上の非能率その他の事由に因りその職務を執るに適しないかどうかを審査し、その議決を法務大臣に通知しなければならない。法務大臣は、検察官適格審査会から検察官がその職務を執るに適しない旨の議決の通知のあつた場合において、その議決を相当と認めるときは、検事総長、次長検事及び検事長については、当該検察官の罷免の勧告を行い、検事及び副検事については、これを罷免しなければならない。
国家公務員法上の懲戒処分以外にも、検察官の場合には検察官適格審査会があり、検事長の場合は法務大臣から罷免の勧告を受ける可能性があります。
検察官適格審査会の議事概要は平成20年頃からのものが公開されていますが(法務省:検察官適格審査会)どうもこれまでで審査の申出がなされた事案で不適格とされた者は元厚生労働省局長事件においてフロッピーディスク改ざん事件に関連した者しか居ないようです。
それどころか、ほぼ全てで「随時審査の開始決定」すらしないと議決されています。
検察官適格審査会は実際上は機能していないという批判もあり、この筋があり得るのかは今のところ疑問ですが、一般人から申出をすることは可能です。
まとめ:辞任で幕引きになるのか?
- 文春の記事では賭けマージャンの事実関係が不明瞭
- 賭けマージャンが賭博罪と認められれば懲戒処分の対象だが、過去の事例を見ると懲戒免職にまでなるかは不明
- ただし、検察幹部は認証官であることから事態を重く見られる可能性
- 検察官適格審査会が機能するかは問題視されている
懲戒免職にならず、黒川氏からの任意の辞任で幕引きになるのでしょうか?
このエントリは5月21日の昼あたりまでの情報をもとに書いてますので、追加の事実関係が明らかになれば結論部分が変わってくる可能性があります。
以上