事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

伊藤詩織の本名だとする官報の破産者情報について

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山口敬之による性被害を訴えるも不起訴(嫌疑不十分)になった伊藤詩織。

彼女の本名ではないかと疑問視されている破産者情報がでネットで出回っています。

この件について思うところを書いていきます。

伊藤詩織の本名とされる官報情報の拡散について

「官報は自由に閲覧できる」といわれることがありますが、間違いです。

確かに公告される性質のものですが、全てをタダで見れるというわけではありません。

インターネット官報では直近30日のものは見れますが、「法律・政令等と3年以内の政府調達情報以外」は有料サービスでしか見れません。紙も同じで購読料が基本的にはかかります。

また、図書館や大学はそこが契約しているからこそ市民が利用できます。

それぞれにおいて官報検索サービスの扱いは異なり、場所によっては自由に検索できたり、検索は職員が行うというところもあります。

破産者の情報を再拡散することはプライバシー侵害

破産者は自分の債務=借金が払えなくなって破産申請します。

なので、その者には「債権者」が居るのです。

債権者は多数存在するのが通例ですし、それ以外にも関係者が居ます。

破産したことが彼等に知られなければ、彼等は債権をとりっぱぐれることにもなりますし、一部の債権者だけが破産者から債権の満足を得る不公平な状況になりかねません。

そこで、破産者の情報を債権者ら全員に伝える必要があるのですが、いちいち破産手続にかんして書面を送付するのはとても時間がかかりますし、コストがかかります。

そこで、官報による公告という方法が採られたのです。

よって、官報における破産者情報の公告は、広く一般に周知するためのものではなく、破産者の債権者らに対して向けられたものであるという趣旨なのです。

したがって、そうではない者らに対して、再度破産者の情報を拡散する行為は、プライバシー侵害になりかねません。また、当時の住所を表示しているので、人が入れ替わっている可能性もあり、現在居住している人が変な疑いをかけられることになりかねません。

この話は「破産者マップ」が話題になった際にも問題になりました。

「伊藤」姓の破産者の住所が全部一緒だから同一人物?

これは拡散者がそう言ってるだけで、実際の住所地は異なります。

平成16年の官報は「東京都江戸川区平井」(詳細省略)です。

平成22年の官報は埼玉県です。

また、山口敬之から被害を受けたとする伊藤詩織が被害を申し出て検査したとされる病院の住所が「東京都江戸川区平井」であるということから、破産者情報上の「伊藤詩織」と同一人物視してる者が居るのですが、そんなのまったくあてになりません。

推論ではなく単なる妄想です。

それに伊藤詩織の本名を知ることができるのは何も破産者の官報情報に限られません。

民事裁判の裁判記録をなぜ参照しないのか?

伊藤詩織は現在、山口敬之に対して民事裁判を提訴して係属中です。

また、山口氏も伊藤氏に対して反訴提起をしています。

訴訟では原告を特定するために通称や芸名を使用している場合であっても訴状に本名を書くか、本名と通称等を併記しなければなりません。

そのため、訴状を見れば伊藤詩織の本名は分かるのです。

刑事訴訟の場合と異なり、民事訴訟の場合には訴訟係属中であっても第三者が裁判記録を閲覧謄写することは可能です。

芸名・ニックネームなどで訴訟 - 弁護士ドットコム

なのになぜそれをした上で論じないのでしょうか?

それをしないのに官報の破産者情報を参照しているのはあまりにも不自然です。

「伊藤詩織氏の本名はマスコミ人はみな知っている」

これは、「訴状をチェックすれば分かる話」という意味でしょう。

それを見れば直截的なのに、なぜ、ネットで騒いでいる者はそれをしていないのでしょうか?なぜ、その可能性について言及していないのでしょうか?

人違いの可能性を考えるべき

「香山リカの本名」の件でも指摘しましたが、根拠なく同一人物視するということは、無関係の第三者に迷惑がかかりかねない行為です。

ネット上には、明らかに伊藤詩織氏とは無関係な者の破産者情報も、近くに記載されているからといって隠されることなく表示されているものがあります。

そんな意味のないどころか有害なことをするよりも、山口ー伊藤事案のお互いの主張の妥当性を議論すればいいのにと思います。

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