事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

「安倍総理大臣が前面に出て選んだ元号」というフェイク:新元号制定手続の流れ

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「安倍総理大臣が元号を選んだ」「元号を選んだ者が会見を行うのは出しゃばりだ」

という事実誤認に基づく言説が流れています。

元号制定の手続きについてまとめます。

この件について思うところを書いていきます。

元号法と日本国憲法第73条第6号に基づく政令

元号法(昭和五十四年法律第四十三号)

1 元号は、政令で定める。

この政令は日本国憲法第73条第6号に基づいて内閣が制定する命令のことです。

つまり内閣が元号の制定に関わるということは、法律で決まっているということです。

政令に新元号の選定手続きが書いてあります。

新元号の選定手続きの関係政令

新元号の選定について | 首相官邸ホームページ

新元号は、4月1日に公表されます。選定の手続は、次のように行われます。(「元号選定手続について」(昭和54年10月23日閣議報告))

昭和54年10月23日閣議報告とは、平成改元時の手続を定めたものです。

それを踏襲するということです。

なお、この手続を踏襲することとした決定は【皇位の継承に伴う改元に向けた手続について平成31年2月8 日元号選定手続検討会議決定】に基づいています。

元号選定手続検討会議とは、議長を内閣官房長官とし、議員からは内閣官房副長官(政務)、内閣官房副長官(事務)、内閣官房副長官補(内政担当)、内閣法制局長官、内閣府事務次官が構成員に就くこととなっています(【平成31年2月7日内閣総理大臣決裁】)

新元号選定の手続の流れ

昭和54年10月23日閣議報告による手続の流れは大きく整理すると以下です。

  1. 候補名の考案
  2. 候補名の整理
  3. 原案の選定
  4. 新元号の決定

1について、内閣総理大臣は、高い識見を有する方を選び、これらの方に次の元号とするのにふさわしい候補名(以下「候補名」という。)の考案を委嘱する。(3月14日に委嘱)

2について、内閣官房長官は、考案者から提出された候補名について、検討し、及び整理し、その結果を内閣総理大臣に報告する。

3について、内閣官房長官は、各界の有識者の参集を得て、元号に関する懇談会を開催し、新元号の原案につき意見を求め、その結果を内閣総理大臣に報告するものとする。

この懇談会には、京都大iPS細胞研究所所長の山中伸弥教授らが起用される方向で検討されました。

4について、内閣総理大臣は、新元号の原案について衆議院及び参議院の議長及び副議長に連絡し、意見を伺う。その後、全閣僚会議において、新元号の原案について協議し、閣議において、改元の政令を決定する。

この説明からも分かるように、内閣総理大臣は元号の選定についてはノータッチです。

総理大臣は、元号選定をする者を選定したり、候補名や原案の報告を受けはしますが、自身が絞り込みをすることはありません。

「首相が前面」?

上記手続きからは、官房長官が前面に出ていることは明らかです。

「首相が前面」というのは、どういうことなのかよくわかりません。

安倍総理が「元号に意味を込める」?

魚拓:http://archive.is/gang5

菅官房長官は総理が会見をする理由に「新元号に込められた意義や国民へのメッセージを総理から直接国民に伝える」ためだとしました。

ただ、意義を込めるのは第一には候補を絞ったり原案を決定したりした者たちであり、その後は内閣の閣僚全員で協議して決定しています。

したがって、安倍総理一人の意思によって、元号に意味が込められるということは在り得ません。元号を選んだのは法律に基づいた手続の関係者全員です。

まとめ:内閣総理大臣が「前面」という手続きではない

  1. 憲法と法律に基づき、政令により元号選定の手続きが定められている
  2. 政令は平成改元時の手続を踏襲
  3. 踏襲することと決定したのは、内閣官房長官を議長とする会議
  4. 新元号制定の手続において、総理大臣は自ら候補の考案や原案の選定は行わない
  5. 最終的な新元号の決定は、閣僚全員の協議によって行われる

「内閣」の政令に基づく手続きですから、内閣総理大臣が談話を発表するのは殊更おかしなことではありません。

また、「談話の発表」については平成改元時の手続において定められているわけではありません。

そして、元号を選定する際に最も影響力があり、携わる機会が多いのは官房長官です。

したがって、むしろ官房長官の方が前面に出過ぎないように、という考え方の方が、比較的まともな感覚でしょう(もっとも菅官房長官が談話を発表しようが問題ないが)。

手続きの流れをろくに見もしないひとたちが、いいかげんなことを言っていますが、そういう言説に引きずれれないようにしましょう。

我々は新しい元号とともに、先に進んでいきましょう。

以上