
「攻撃」ではなく【政策論】が国を動かす例
- 外国人の脱退一時金問題が週刊新潮に掲載
- 制度の欠陥と永住外国人等の潜在的な生活保護要因
- 厚生労働省社会保障審議会年金部会での脱退一時金の議論
- 福岡県行橋市議会の小坪慎也議員の質疑:自治体・全国市長会の要請
- 市民・地方自治体・地方議員からの政策論で国に制度改善を促す道
外国人の脱退一時金問題が週刊新潮に掲載
【週刊新潮 2024年7月18日号】にて外国人の脱退一時金問題に関する特集が掲載されました。この問題の構造や解決策の概要について一読して把握できるようになっており、昨年からこの問題を追ってきた者としても充実した内容になっていると思います。
脱退一時金に関する過去のまとめは以下などがありますが、本稿では週刊新潮にこの話が掲載されるまでの流れの一端について少しだけ開陳します。
制度の欠陥と永住外国人等の潜在的な生活保護要因
改めてこの話の問題点の外観を新潮の記事から整理します。
- 外国人でも年金保険料納付義務があるが、年金受給資格者となるまでに帰国した場合に掛け捨てとなる不公平を解消するための制度が脱退一時金
- 脱退一時金支給の裁定件数は直近の10年間では72万件(コロナ禍前の2019年は10万件以上)で制度発足当初の単年度6000件を考えると大幅に増加している
- 本来の趣旨に反し、日本人の雇用主と社労士等が結託してボーナス感覚で受給させている例がある
- 帰国が条件なのに帰国せずに再度就労する者が後を絶たず、それを奨励しているケースが実際に存在する
- 自治体と各制度の所管官庁の縦割り行政によって出国や年金番号の追跡が不可能だった
- 脱退一時金を利用した者が永住資格を有する外国人や元外国人の帰化日本人として定年を迎えた場合に無年金乃至は低年金状態となり、生活保護を受給せざるを得なくなるケースがあり、このままでは今後膨大な数になると予想される
- 生活保護の費用は自治体が4分の1負担なので、自治体財政の問題でもある
- 今後はマイナンバーによる情報の紐づけにより追跡可能になる
この話は既に厚労省の社会保障審議会年金部会で議論されており、根拠となる数字についても以下のようにグラフ化された資料がオープンソースになっています。


また、国会でも脱退一時金問題が取り上げられており、稲田朋美議員の質疑等で厚労大臣による制度改善に関する答弁も引き出しています。
永住資格の取消事由拡大の話や永住外国人への生活保護措置の話とも関連していることにスケールの大きさが伺えます。
厚生労働省社会保障審議会年金部会での脱退一時金の議論
厚生労働省社会保障審議会年金部会でも脱退一時金の制度改善について議論されており、複数の委員から現行制度について疑問視され改善方向が提案されています。
第13回社会保障審議会年金部会 議事録|厚生労働省令和6年3月13日(水)14:00~16:00
○小林委員 ~省略~
次に、議題2の脱退一時金についてです。
日本での永住をやめて母国に帰国されるということであれば理解できますが、永住権を保持した人なら、日本に戻ることを前提に国外に出るということでしょうから、そのときに脱退一時金を受け取ることができる仕組みには違和感があります。仮に何らかの事情で日本に戻れなくなったときのことを考慮しての制度ということであるのなら、申請、給付の手続等に関する技術的な問題はあると思いますが、脱退一時金相当額の受領の権利を確保するという形の制度にすることも一つの方法ではないかと思います。こうした権利留保の形にすれば、一時金の受け取りによって加入期間がリセットされてしまうという問題も多少は解消できるのではないかと思います。
○島村委員 ~省略~
次に、脱退一時金について、再入国が予定されている場合について清算することはやはりおかしいと思いまして、そういう場合は脱退一時金を請求できなくすることがよいのではないか、つまり、永住者の場合には再入国つきかどうかをひもづけることが可能であればできるとありがたいと思うところです。私も、できるだけ社会保障協定を締結する国を増やして、しかも通算できるような内容での協定をできるだけ進めていくことで、老後のための年金の給付にしていくという方向に誘導的な制度にしていただきたいと思っております。
○小野委員 ~省略~
脱退一時金に関しては、最終的な到達点が生活保護になってしまうので、ある意味、モラルハザード的なことを考えると、なかなかつらい部分があるのではないかと思っております。そういうことしかコメントができないのですけれども、事務局の資料の中で、5年までが上限で脱退一時金の給付があるということですが、滞在期間が長くなるとこれを9年まで延長するということも含めて考えられているということなのかどうか、分からなかったので、そこだけ質問させていただきたい。
○菊池部会長 今の点は、いかがでしょうか。
○総務課長 特に今の時点で上限期間を延ばそうといった考えがあるわけではございませんが、今後とも様々な御意見を聞きながら考えていきたいと思っております。もともと脱退一時金は法律の中でも附則に位置づけられているもので、御指摘がありますように、社会保障協定が締結されていくまでの経過的な措置といった位置づけでもございますので、そういう中で期間を単純に延ばすことがいいのかどうかといったところはよく議論する必要があると考えております。
○嵩委員 ~省略~
最後に、脱退一時金は、当初から、年金の資格期間である10年を下回る期間について滞在予定であるという外国人の方でも、公的年金制度加入中は障害や死亡リスクへの保障が及んでおりまして、保険の利益は一定程度享受していますので、そもそも脱退一時金について合理的な仕組みなのかということについては、若干疑問の余地があります。また、今までの委員の方におっしゃっていただきましたように、本来であれば社会保障協定の進展で対応すべき問題かと思います。ただ、外国人の受入政策との関係で、大幅に脱退一時金を見直すことは難しいかと思いますので、日本に生活基盤を持つと考えられる永住資格のある方について、実際の運用上の問題を指摘されていることもありますので、脱退一時金を制限していくという方向性には賛成したいと思います。
永住資格者への脱退一時金の制限や、永住資格の審査時の脱退一時金支給の有無について考慮するのかどうか?といった点は、今後の課題として残されています。
福岡県行橋市議会の小坪慎也議員の質疑:自治体・全国市長会の要請
【無年金外国人の急増】外国人は(自ら)年金を脱退し一時金を得たうえで、将来的に無年金・低年金となり、かつ生活保護の対象である公的証明。 | 小坪しんやのHP|行橋市議会議員 2023.09.12
週刊新潮の特集では脱退一時金問題に取り組んでいる福岡県行橋市議の小坪慎也議員の弁が取り上げられています。昨年9月の彼のブログで既に問題の骨子が語られています。
ただ、この問題提起や解決のために奔走したのは特定の議員のみではありません。
直近の行橋市議会の質疑では【全国市長会】という法定組織六団体・地方六団体*1の一つからの要望があったことが語られています。
全国市長会ホームページ - 「社会保障分野における外国人労働者への総合的な対策について」を要請(令和6年6月7日)
社会保障分野における外国人労働者への総合的な対策について 令和6年6月7日 全国市長会
昨年12月に全国市長会から国へ意見が述べられた件については以下でまとめています。
市民・地方自治体・地方議員からの政策論で国に制度改善を促す道
この話がネット上に出てきたのは昨年9月からですが、実は2,3年前から地方行政職の方々が脱退一時金の裁定件数等のデータの所在に当たりを付けて調査をしていた、ということを聞き及んでいます。
新潮のこの記事が出るまでに、更には上掲のグラフを厚労省に出させるまでにも、国民から議員等への実態の相談、行政職による調査、議会でのコンセンサス、省庁側との折衝、有力な人・団体との情報共有や連携といった汗をかいた人たちの姿があります。
国・政府に対して「何をやってるんだ、遅い」と言うのは簡単ですが(実際にその指摘それ自体は正当であることは多いが)、一つの問題意識についてデータが積み上げられ、表に出てきて制度改善に繋がるまでに要する膨大な活動量、公権力を動かすのに必要な程度のエビデンス、各所の協力を得るためのアジェンダ設定と言葉選び、合目的的な人付き合い、政治を扱う者としての正しい在り方、といったものに思いを馳せることができます。
国民側・地方側の問題意識から始まって国の制度を変えることができるのだと。
振り返ってみれば、そういう例が垣間見えるものは多数ある*2。
しかし、それは他のバズりによって覆い隠されがちで、仮に問題が認知されたとしても、制度が改善に向かっていること、さらには既に改善されたことすら気づかれずに*3永遠に問題が問題のまま存置されることの方が都合が良い人たちによってインプレッション稼ぎのネタにされることもあります。
テレビやネットでは「文春砲」みたいなスキャンダルや個人攻撃、質の低い論を相手に論難したり特定の集団への不信感を煽る「叩くエンタメ」がバズるのが常ですが、制度改善に繋がらないどころか的外れな「攻撃」によって制度改善の動きを阻害するバズりがあります。
そうしたくだらない感情や妄言で埋め尽くされるのではなく、有益な情報共有のために活用されるのが「生き延びる」ための道なんだと。
新潮の記事はそういった振り返りをしつつ読むと味わい深いのではないかと思います。
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*1:地方自治法 第二百六十三条の三 都道府県知事若しくは都道府県の議会の議長、市長若しくは市の議会の議長又は町村長若しくは町村の議会の議長が、その相互間の連絡を緊密にし、並びに共通の問題を協議し、及び処理するためのそれぞれの全国的連合組織を設けた場合においては、当該連合組織の代表者は、その旨を総務大臣に届け出なければならない。
② 前項の連合組織で同項の規定による届出をしたものは、地方自治に影響を及ぼす法律又は政令その他の事項に関し、総務大臣を経由して内閣に対し意見を申し出、又は国会に意見書を提出することができる。
③ 内閣は、前項の意見の申出を受けたときは、これに遅滞なく回答するよう努めるものとする。
④ 前項の場合において、当該意見が地方公共団体に対し新たに事務又は負担を義務付けると認められる国の施策に関するものであるときは、内閣は、これに遅滞なく回答するものとする。
⑤ 各大臣は、その担任する事務に関し地方公共団体に対し新たに事務又は負担を義務付けると認められる施策の立案をしようとする場合には、第二項の連合組織が同項の規定により内閣に対して意見を申し出ることができるよう、当該連合組織に当該施策の内容となるべき事項を知らせるために適切な措置を講ずるものとする。
*2:この件もそうだと言える⇒【住民票の続柄・同性事実婚問題】行橋市議会の質疑答弁が引き出す国の対応:大村市長の虚偽公文書作成罪の成否 - 事実を整える
*3:「外国人と保険証」で顕著だった⇒【国士烈伝】外国人に”タダ乗り”されてきた医療費、法改正をもって改善 「 #自見はなこ 」 #参議院全国比例 | 小坪しんやのHP|行橋市議会議員