事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します

検察の捜査情報の漏えいは違法?山本真千子・大阪地検特捜部長の秘密漏示?

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大阪地検特捜部の女性特捜部長が捜査情報をリークしていると江田憲司議員がツイート

女性特捜部長とは山本真千子氏であると判明しています。

本当に山本真千子氏がリークしたかは現時点で不明ですが、一定の取材からそうではないかと目されている状況です。

捜査情報のリーク(漏えい)があれば、即、違法であるという言説が大勢を占めていますが、法的に考えるとどうでしょうか?

ここでは法律上の罰則規定を整理していくことで、捜査情報のリークは違法なのか?について検討していきます。

秘密漏示が罪になる規定

検察官は国家公務員なので、国家公務員法が適用されます。

国家公務員法109条12項が罰則対象とする100条1項

国家公務員法

第百条 職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。

国家公務員法109条12項で、100条1項違反に対する罰則規定があります。

検察の捜査情報は、職務上知ることのできた秘密に当たり得るということは間違いありません。

同様の規定は刑法134条と地方公務員法34条にもありますが、微妙に規定ぶりが異なっています。

刑法134条

刑法134条は主体が医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者、宗教、祈祷とう若しくは祭祀しの職にある者又はこれらの職にあった者です。要件は「正当な理由がない」のに「業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密」を漏らしたときです。

ここで、「人の」秘密という点が国家公務員法や地方公務員法とは異なります。

地方公務員法60条2項、34条

地方公務員法は60条2項で34条違反に対する罰則規定があります

地方公務員法34条(秘密を守る義務)
1 職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も 、また、同様とする。
2 法令による証人、鑑定人等となり、職務上の秘密に属する事項を発表する 場合においては、任命権者(退職者については、その退職した職又はこれに相当 する職に係る任命権者)の許可を受けなければならない。
3 前項の許可は、法律に特別の定がある場合を除く外、拒むことができない

それぞれの規定を見てきましたが、全てに共通するのは「秘密」という要件なので以下で見てきます。

秘密漏示罪の「秘密」とは何か?

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この図は内閣人事院のページにありました。

秘密を守る義務:http://www.jinji.go.jp/fukumu_choukai/shuhi.pdf

ただ、ここで言及されているのは秘密の具体例であったり、「職務上知ることのできた」の意義についてです。「秘密」の意義については書いてありません。

そこで、国家公務員法上の「秘密」について判示した判例を参考にします。

国家公務員法100条1項の「秘密」についての判例

最高裁判所第1小法廷 昭和51年(あ)第1581号 国家公務員法違反被告事件 昭和53年5月31日でも引用されている最高裁昭和四八年(あ)第二七一六号同五二年一二 月一九日第二小法廷決定において、以下の判示があります。

国家公務員法109条12号、100条1項にいう秘密とは、非公知の事実で あって、実質的にもそれを秘密として保護するに値するものをいい、その判定 は、司法判断に服する

 「非公知の事実」+「実質的に秘密として保護に値するもの」が要件ですね。

この判例では愛知外務大臣とマイヤー駐日米国大使との間でなされた、いわゆる沖縄返還協定に関する会談の概要が記載された電信文案が国家公務員法100条1項の秘密にあたるとされました。

「実質的にも秘密として保護に値する」かどうかについては以下で判示しています。

条約や協定の締結を目的とする外交交渉の過程で行われる会談の具体的内容については、当事国が公開しないという国際的外交慣行が存在するのであり、これが漏示されると相手国ばかりでなく第三国の不信を招き、当該外交交渉のみならず、将来における外交交渉の効果的遂行が阻害される危険性があるものというべきであるから

これは本件の事案に即した具体的判断です。

「実質的に秘密として保護に値する」について、どのような基準でそのように判断されるのかについては、よくわかりません。「司法判断に服する」とあるので、具体的な事案に即して裁判所が認定するということです。

ただし、地方公務員法の判例、実務や刑法134条で「秘密」がどう扱われているのかが参考になると思いますので以下に示します。

刑法134条の「秘密」

既述の通り刑法134条は「人の」秘密ですが、検察の捜査情報にも被疑者や被告人の個人に関する情報が含まれるため、参考にすることができます。

実は、刑法134条の「秘密」は何であるかには見解に争いがあり、決着がついていません。刑法的保護に値することが必要とされていますが、主観説と客観説の対立があります。

主観説は、本人がその事実を秘密にする意思をもっていれば足りるとする説です。

客観説は、その事実を秘匿することについて本人に客観的な利益が認められる事実でなければならないとする説です。

細かい事はここでは書きませんが、要するに人の秘密の場合には、本人の意思が絡んでくる可能性がある、ということです。

地方公務員法34条の「秘密」の実例

では、人の秘密に限らない捜査情報の場合はどうなるのか。

地方公務員法における「秘密」については明確に示されています。

『「秘密」とは、一般的に了知せしめることが一定の利益の侵害になると客観的に
考えられるものをいい、本条第1項の「職務上知り得た秘密」とは、職務執行上
知り得た秘密を、第2項の「職務上の秘密」とは、職員の職務上の所管に属する
秘密を指す。(昭和30年2月18日行政実例)』

「一定の利益の侵害になると客観的に考えられるもの」とあります。

刑法134条でいうところの客観説と類似した見解に立っていると言うことができます。

違う法律の話のため一概に比較はできませんが、地方公務員法は例えば警察官が捜査情報を漏えいした場合に適用されます。ここから国家公務員法の場合の目安を測ることはできると思われますので、具体例を挙げてみます。

警察の捜査情報漏洩による地方公務員法34条違反の例

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検察ではなく、警察による情報漏洩の事案をいくつか紹介します

捜査上作成、入手された鑑定書等の漏洩

東京地方裁判所 平成23年(特わ)第1528号 地方公務員法違反被告事件
平成24年2月17日

本件は,現職の警視庁警部として業務上過失致死事件の捜査を担当していた被告人が,以前の同僚であった医療機関の職員に対し,当該捜査に関する資料を渡し,職務上知り得た秘密を漏らしたという事案である。
ー中略ー
被告人が渡した捜査関係資料は,当該業務上過失致死事件の発生原因や捜査状況等に関する書類であり,これらが捜査対象者に漏洩されれば,罪証隠滅を容易にするなど,捜査遂行に大きな支障を来すものである。現に,捜査対象者側は,これらの書類を活用して強制捜査や取調べへの対策を立てるなどしたことが認められる。本件犯行は,捜査の公正を害するとともに,警察組織全体に対する信頼の失墜を招くものである。秘密漏洩事案の中でも,特に悪質というべきである。

罪証隠滅が容易になるということは、「一定の利益の侵害になると客観的に考えられるもの」に当たりますね。ここで、「一定の利益」は公益も含まれるのだということに気づきます。

暴力団に捜索等の実施予定を告げた行為

福岡地方裁判所 平成24年(わ)第1069号、平成24年(わ)第1141号 収賄,地方公務員法違反,犯人隠避被告事件、贈賄各被告事件 平成25年11月8日

被告人(福岡県東警察署刑事第二課薬物銃器係長)は,暴力団関係者に,(1)捜索等の実施の予定を告げて職務上知り得た秘密を漏らし,

この判示では「秘密」にあたるか否かを明確に論じていませんが、それは暴力団関係者に捜索等の実施予定を告げることは「一定の利益の侵害になると客観的に考えられる」ということが火を見るより明らかだからでしょう。

捜査情報のリークは違法?国会の質問主意書と政府答弁

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捜査情報の漏洩に関する質問主意書:質問本文:参議院

捜査情報の漏洩に関する質問に対する答弁書:答弁本文:参議院

平成21年3月27日に松野信夫氏から参議院議員に対して質問主意書が提出されました。その中で刑法と国家公務員法上の情報漏洩に関するものがありますが、捜査情報を捜査機関が漏洩する事に関する政府の認識として以下の回答があります。

捜査機関においては、従来から、捜査上の秘密の保持について格別の配慮を払ってきたものと承知しており、今後も、同様の配慮を払うものと考えているが、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第百条第一項の違反の有無は、事案に即して個別具体的に判断すべきものであるから、答弁を差し控えたい。

上記で示した最高裁判例でも「司法判断に服する」とあったように、事案に即して個別具体的に判断すべきという政府の認識です。注意すべきは、政府は捜査情報を外部に示すことが直ちに違法であると回答したわけではないということです。その点についての判断を政府としては示さず、司法に委ねるということです。

山本真千子大阪地検特捜部長の捜査情報リーク?について

未だ山本特捜部長がリークしたとは断定できませんが、仮にそうだとして今回の場合はどうか?について考えていきます。

魚拓:http://archive.is/NVHbQ

江田憲司氏がリークと言ったのはこのニュースの情報です。

特捜部リークと目されているのは以下の内容です。

財務省の職員が学園側に対し「トラックを何千台も使ってごみを撤去したと言ってほしい」などと、うその説明をするよう求めていたこと

学園側は「事実と違うのでその説明はできない」などと断ったということですが、こうした一連のやり取りについて職員はメールで財務省内の複数の関係者に報告していた

さて、これは最高裁判例の言う「実質的にも秘密として保護に値するもの」にあたるでしょうか?地方公務員法で言えば「一定の利益の侵害になると客観的に考えられるもの」に当たるでしょうか?

もちろん司法判断される内容のためわかりませんが、仮に検察がリークしたとすれば、検察は秘密として保護するに値するものには当たらない、と考えたのだろうと言えないでしょうか?

捜査情報のリークは悪いのか?

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ここに疑問を差し挟むのはタブー視されていますが、事実上、捜査機関しか知り得ない情報がマスメディアによって発信されているというのは周知の事実です。検察がリークをしているというのは公然の秘密という扱いです。

ただ、一応はなんとなく悪いものである、という認識が共通理解としてあります。そのような感覚はある意味正当です。だからこそ今回の江田憲司氏の暴露(?)が物議を醸しているのです。

特捜部リークが守秘義務違反かはグレーゾーン

元検察官の弁護士、矢部善朗氏はこう指摘します。

法律の規定や判例、政府答弁を見れば、グレーゾーンがあるというのは理解できます。

警察が記者会見を開くのは公式発表なのですが、本質的には「捜査情報の外部への開示」なので、検察がこっそりとリークする場合と変わらないという指摘です。これはその通りだと思います。

確実に問題だと言えるのは「検察の意図しないリーク」。

検察以外からのリークというのも可能性としてはある。

大阪地検以外からのリークの可能性

大阪地検以外のリークの可能性と、リークによる利益を得る者は地検以外にもあり得るという指摘です。これは私もそう思うところがあります。

検察リークと目されている情報の中には赤煉瓦(法務省)からのリークのものがあるのかもしれないということについて。検察庁は形式上は法務省に属しますが組織としては独立しています。しかし法務省との連絡が無いわけではありません。写真は元検事総長、伊藤栄樹氏の回想録「秋霜烈日」の売春汚職事件に関する一節です。

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伊藤氏は、捜査情報がなぜか読売新聞に抜けていたため、ガセネタを敢えて法務省に渡したところ、そのガセネタを読売新聞が報道したため、法務省内の漏洩者が特定できたとしています。伊藤氏は当時、単なる応援検事であり、主任検事もリークについて捜査員を疑っていたということです。

一捜査員でもリークは可能。要するに検察情報のリークだから特捜部長のリークと断定するのは早すぎるということになります。

今回がそうであるとは断定できませんが、法務省ルートがある以上、検察リークと断定するのは拙速に過ぎないでしょうか。まぁ、相当の取材に基づいて検察リークと判断している方もいらっしゃるので、それについては触れません。

リークを禁止するとどうなるか?

おおっぴらにこの点を強調して「リークにも正当性があるんだー!」などと言うつもりはありませんが、しかし、利点があるという側面を認識することは重要です。

リークを全面的かつ完璧に禁止したら、裁判になるまで事件の内容はほとんどわからないという点は重要でしょう。

また、これは推測ですが、リークをすることで各所の「動き」を観測できるという面もあると思います。リークの全面的な禁止は、この「動き」を捜査の端緒とする事が出来なくなるという事を意味するのではないでしょうか。

このようなリーク全面禁止の「正義」は果たして国民の利益になるのでしょうか?

まとめ

  1. 国家公務員法上、秘密漏示は違法とされている
  2. 捜査情報が全て「秘密」にあたるかというとグレーゾーン
  3. 捜査情報のリークをすべて禁止することは「正義」なのか?
  4. 本件のリーク元が検察であると特定されたわけではない(推測)
  5. 本件のリーク元が検察だとしても山本真千子特捜部長ではない可能性も残る
  6. 江田憲司氏のツイートには信憑性に疑義がある

「検察のリーク」が「冤罪」だったらどうするのか?

この件については慎重に議論がされるべきだと思いますね。

以上