何のためのグレーゾーンアンケートだったのか?
- Hanada、衆院東京15区補選のXアンケートを削除
- 候補者の人気投票の経過・結果の公表を禁止した公職選挙法
- 投票者のみが閲覧できるXアンケートの途中経過は「公表」か?
- Hanadaがアンケートをした意味は何だったのろうか?出版社のリスク管理と選挙の公正性
Hanada、衆院東京15区補選のXアンケートを削除
「公職選挙法違反だ!」と騒いでいる方がおられますが、アンケートそのものを違法とする法律はあるのでしょうか?
— 月刊『Hanada』編集部 (@HANADA_asuka) 2024年4月18日
公職選挙法には「人気投票の経過又は結果を公表してはならない」とありますが、Xのアンケートは期間が終了されるまで公表されることはありません。… https://t.co/3wOU3RVzju
期間が過ぎると結果が公表されますので、アンケートは本日をもって終了いたします。
— 月刊『Hanada』編集部 (@HANADA_asuka) 2024年4月20日
飯山あかり候補はやはり強かった!
酒井なつみ候補と金澤ゆい候補がほぼ互角だったのも興味深かったです。
ありがとうございました! https://t.co/8J5vxBMVok
月刊『Hanada』編集部のXアカウントが、衆議院・東京15区補欠選挙に関し、4名の候補者のうちだれに投票するかを問うアンケートを実施していました。(魚拓)
アンケートの期限は4月21日でしたが、期限徒過前に当該投稿は削除されました。
多方面から「公選法違反では?」との指摘がありましたが、Hanadaは「東京都の選挙管理委員会にも問い合わせをいたしましたが、答えは「わかりません」でした。」と書いています。
候補者の人気投票の経過・結果の公表を禁止した公職選挙法
我が国の選挙運動規制の起源と沿革―大正14 年普通選挙法制定の帝国議会における議論を中心に―
(人気投票の公表の禁止)
第百三十八条の三 何人も、選挙に関し、公職に就くべき者(衆議院比例代表選出議員の選挙にあつては政党その他の政治団体に係る公職に就くべき者又はその数、参議院比例代表選出議員の選挙にあつては政党その他の政治団体に係る公職に就くべき者又はその数若しくは公職に就くべき順位)を予想する人気投票の経過又は結果を公表してはならない。
公職選挙法138条の3では選挙に関し、候補者の人気投票の経過又は結果を公表することが禁止されており、同法242条の2により二年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金の罰則が規定されています。
本条の趣旨として「人気投票がその方法、動機において必ずしも公正であるとはいえないものが多く、まして、これを選挙に反映させるということは決して好ましいことではなく、弊害が多いので、その公表を禁止しようとしたものである」という説明が為されています。
また、新聞社等の行う世論調査については、「その調査方式が投票の方法によるものであれば、その経過又は結果を公表することは本条違反となる。しかし、調査員が被調査者に面接したり、架電して口頭回答を得るような方法で調査をした場合は、ここにいう『人気投票』には当たらない」と解釈運用されています。
これは調査員の肌感覚を伝える分には良いが、投票が為されると正確な数値が分かってしまうので、それを公表したらアウトという趣旨と考えられます。*1*2*3
さて、Hanadaのアンケートは削除されたので「結果」が見れなくなりましたが、「経過」については投票者ならば見る事ができるのがXでのアンケートの仕様です。
これは「公表」に当たるのでしょうか?という解釈問題と実務上の運用問題が生じると言えます。*4
投票者のみが閲覧できるXアンケートの途中経過は「公表」か?
結論から言うと、すべては規制当局次第。公選法の規制はそういうもので、解釈論や立法趣旨を辿ることで確実な結論が導けるものではないものが非常に多い。
特にXのアンケートなんて立法当時に想定されていなかったわけですからね。
本件の特徴は、Xのアンケート機能の仕様上、投票者のみが途中経過を見ることができ、それ以外の人は見ることができないという特性があることと言えます。期限が過ぎれば、誰でも結果を閲覧することができます。
いわば投票に参加した仲良しサークルが形成され、その仲間内でのみ閲覧できるような状態。これを公選法が禁止対象とした「公表」と扱うのかどうか。
原則として選挙運動は自由だが種々の弊害から規制が為されている、という建付けを踏まえ、人気投票の禁止がそれを選挙に反映させることの弊害に基づくことから考えると、「投票者が経過を見たところで自分の投票したい人に入れるだけで、見解を変えることは稀」ということが言えるならば、その弊害は無いに等しいので禁止対象にはならないと解することも可能かもしれません。
※中には途中経過が知りたくて特に意味も無く投票ボタンを押す者も居るでしょうが。
人気投票の禁止が設けられた当時の公選法の改正案の要綱に関する法制局部長の説明があります。
第11回国会 衆議院 公職選挙法改正に関する調査特別委員会 第2号 昭和26年10月8日
○三浦法制局参事 ~省略~ どうも新聞紙、雑誌が選挙に関しまして人気投票を行いますことは、投票類似行為とも認められ、ことにまた選挙に立候補いたしまする人の価値判断をあらかじめ予定するというような結果にもなりがちでありますので、それらの弊害等にかんがみましてこれを禁止しようということであります。
禁止の趣旨は明確ではないですが、「特定の候補者がまるで当選の資格がある=人気があるかのように見せかけようとして操作された結果が公表される」ことが選挙の公正性に悪影響なことが問題視されているように思われ、要するにそれは「バンドワゴン効果=勝ち馬に乗る」が念頭にある気がします。
バンドワゴン効果でなくともアンダードッグ効果やスノッブ効果が発生することをも懸念するとして、それは投票者ではなくそれ以外の第三者が見た場合が想定ケースの中心にあるのかどうか。
そう考える場合であっても、投票者が非常に多い場合(1億人など)には、もはや閉じたサークル内での情報共有とは言えないはずなので、その事情にも左右される話です。*5
ただ、法的評価とは別にして「こういう行為をする所はなんだかんだダメだよね」という価値判断は正当だと思います。
Hanadaがアンケートをした意味は何だったのろうか?出版社のリスク管理と選挙の公正性
仮に最終結果前は違法じゃないとしても
「じゃあこのアンケートをした意味は?」
Hanada読者に日本保守党応援者が多いってのは予め分かっていたわけで、それを再確認するためなんでしょうか?そのために「グレーな事をしてるリスク管理のおかしい選挙の公正性に無頓着な出版社」とみられる危険を冒したの?という疑問が湧いてきます。
それとも、公選法の人気投票禁止規定を知らずにUPしてしまったのでしょうか?
この点、Hanadaとは別主体ではあるものの、日本保守党のスタッフが期日前投票に関する配信で「『江東区にあかりを』と付け足して書きました」などと無効票を投じたことに気づかずにしゃべってしまうというこの界隈の悲劇があったことを考えると、その可能性を考えざるを得ないのかもしれません。
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*1:実際に選挙情勢調査の報道では「〇〇候補がやや優勢」「各者横並び」などといった感覚的な表現が用いられている
*2:ところが、近年はSNSで各党各社の調査結果として〇〇%という具体的数値が出回ることがある。これは人気投票の禁止の趣旨に反しているだろう。
*4:なお、候補者は全部で9人居るところ4人しか対象になっていませんが、これはXのアンケートの仕様によるもの。ここでは「4人しか選べないから人気投票ではない」とは解されないという前提で進めます。
*5:Xの投稿は考え方の近い人にシェアされやすく、さらにアンケート投票となるとその傾向が強まるのが一般的ですが、他方で対立勢力によってアンケート結果への干渉を意図した拡散が行われた場合には話が変わってくる