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岸田総理、安定的な皇位継承の確保策「先送りの許されない課題であり、国会における検討を進めていく」

踏み込んだ発言

岸田総理、安定的な皇位継承の確保策「先送りの許されない課題・国会で検討を進める」

岸田首相、皇位継承策「先送りせず」=国会の議論促す | 時事通信ニュース

岸田文雄首相は26日、自民党大会の総裁演説で、安定的な皇位継承の確保策について「先送りの許されない課題であり、国会における検討を進めていく」と語った。与野党の議論が停滞する現状を踏まえ、党総裁の立場から早期の意見集約を促した。昨年の大会では皇位継承について言及がなく、一歩踏み込んだ形だ
 安定的な皇位継承の在り方を巡っては、政府の有識者会議が減少する皇族数の確保策として(1)女性皇族が結婚後も皇室に残る(2)旧宮家の男系男子が養子として皇籍復帰する―の2案を提示。昨年1月、政府から報告を受けた衆参両院議長は各会派に検討を求めたが、女性・女系天皇の是非などで各党の隔たりは大きく、意見集約は進んでいない。

令和5年(2023年)2月26日、岸田文雄総理が安定的な皇位継承の確保策について「先送りの許されない課題であり、国会における検討を進めていく」と自民党大会の総裁演説で語りました。

一つの節目なので記録するとともに、この発言の持つ意義について触れていきます。

令和3年12月の有識者会議報告書では「皇位継承の問題と切り離して、皇族数の確保を図る」

岸田首相、安定的な皇位継承策「検討進める」 - 産経ニュース

岸田文雄首相は26日、東京都内で開かれた自民党大会で、安定的な皇位継承策について「先送りの許されない課題で、国会での検討を進めていく」と表明した。

安定的な皇位継承策を巡っては、政府の有識者会議が検討したものの、令和3年12月にまとめた報告書では提言を先送りした。皇室活動を維持するため皇族数の確保策は2案を示したが、国会での議論は進んでいない。

令和3年皇位継承ヒアリング開催の経緯

退位特例法の附帯決議に「安定的な皇位継承を確保するため」の諸課題を議論せよとする文言があり、有識者会議がこの附帯決議に基づいて設置されました。「安定的な皇位継承」という表現は、この附帯決議から来ています。

報告書【「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議令和3年12月22日 報告書】では【4.皇位継承と皇族数の減少についての基本的な考え方】 において…

会議としては、今上陛下、秋篠宮皇嗣殿下、次世代の皇位継承資格者として悠仁親王殿下がいらっしゃることを前提に、この皇位継承の流れをゆるがせにしてはならないということで一致しました。

悠仁親王殿下の次代以降の皇位の継承について具体的に議論するには現状は機が熟しておらず、かえって皇位継承を不安定化させるとも考えられます。

以上を踏まえると、悠仁親王殿下の次代以降の皇位の継承については、将来において悠仁親王殿下の御年齢や御結婚等をめぐる状況を踏まえた上で議論を深めていくべきではないかと考えます。

産経新聞の記事にある「提言を先送りした」は、この部分を捉えたものです。同様の評価は当時の他の媒体(東京新聞など)でも見られます。

報告書ではこのように述べたあと、

まずは、皇位継承の問題と切り離して皇族数の確保を図ることが喫緊の課題であります。これについては、様々な方策を今のうちに考えておかなければなりません。

そして【5.皇族数の確保について】の「(2)皇族数確保の具体的方策」において

以上の①から③についての考察を踏まえると、皇位継承資格の問題とは切り離して、喫緊の課題と考えられる皇族数の確保を図る観点から、

① 内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することとすること
② 皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とすること

という二つの方策について今後、具体的な制度の検討を進めていくべきではないかと考えます。 

という結論に至っています。

そして、附帯決議では以下の項目がありました。

報告を受けた場合においては、国会は、安定的な皇位継承を確保するための方策について、「立法府の総意」が取りまとめられるよう検討を行うものとすること。

国会への報告は済んだのだから、次はまずは国会=立法府が仕事をするべきであり、行政府=総理はそれを見てから対応するのが附帯決議に照らせば筋ということに。

昨年時点の岸田総理の答弁も「今後は国会において検討が行われるものと承知…」というものであり、報告書の位置づけも「政府としては、この報告書を尊重することとし」ています(例:衆議議院本会議令和4年1月19日)。

政府としては必ずしも報告書の通りに拘束されない含みがあるような表現ですが、国会での検討に関しては他人事のような表現なのは、附帯決議による手続の流れ上、仕方がないのかもしれません。

もっとも、令和4年内の国会では安定的な皇位継承策について特段議論が深まったことはありませんでした。

それまでの政府側の認識や過去の有識者会議等の振り返りが一定程度できるものとして【第208回国会 参議院予算委員会令和4年3月14日における長浜博行議員の質疑】があるくらいです。

皇族数確保のための旧皇族の皇籍復帰や養子縁組が安定的な皇位継承に繋がる

令和3年12月の有識者会議報告書では、以下の認識が示されていました。

これらの方策を実現することは、悠仁親王殿下の後の皇位継承について考える際も、極めて大事なことであると考えます

岸田総理も同様の認識です。報告書は「提言を先送りした」と言われますが、女性宮家・女系天皇推進派との一致点を探った末にコンセンサスを得た内容だと評価されることもあり、私もこれ自体に不満や危機感を覚える類のものではないと考えています。

今年の自民党大会での岸田総理の発言は自民党総裁のものですが、総理としての発言と比べると従来のものよりも踏み込んだものになっているのは、現実の国会が先に進んでいるからでしょう。

安定的な皇位継承の在り方 “国会の議論踏まえ対応” 官房長官 | NHK | 皇室

これについて、松野官房長官は午後の記者会見で「国会は安定的な皇位継承を確保するための方策について、現在、衆参両院の議長のもとで検討が行われていると承知している」と述べました。

そのうえで「岸田総理大臣の発言は、自民党総裁としてのものだと承知しているが、政府としては国会での議論の結果を踏まえて、必要な対応を行っていきたい」と述べました。

令和5年2月27日(月)午後 | 官房長官記者会見 | 首相官邸ホームページ

政府側の認識としては松野官房長官が述べた通り。

従前の岸田氏の認識は、たとえば2021年9月の自民党総裁選時点では以下のようなものでした。

岸田文雄「旧宮家の男系男子の皇籍復帰をしっかり検討、女系天皇は考えるべきではなく女性宮家も慎重であるべき」

なお、いわゆる自称保守派からの信望が厚い高市早苗議員の認識に関しては以下のようなものがあります。

高市早苗「女性天皇に反対しない」文藝春秋インタビュー発言の問題点

有識者会議の報告書については以下エントリでその評価をしています。

【旧皇族の皇籍復帰の憲法問題まとめ】宍戸常寿の養子縁組に関する「違憲の懸念」への反応と反論

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