事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

Vtuberへの名誉毀損・侮辱の理論の問題点まとめ:「アバターの人格権」と非実在青少年規制

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Vtuberへの名誉毀損・侮辱が成立する場合の一般的な理解と「Vtuberには人格がある」の注意点についてのまとめ

キャラクター型VTuber

静岡大学学術院情報学領域准教授の原田伸一朗 氏の分類表記として【パーソン型VTuber】と【キャラクター型VTuber】があります。

前者は『あくまで人間(自然人)が、キャラクター・アバターの表象を衣装のようにまとって、動画配信などの活動をおこなっている』もの。

バ美肉してる大田区議会の荻野稔議員がこれに当たるでしょう。

他方、フェミニスト議連によるいちゃもんの対象になってしまったVASEの戸定梨香などはキャラクター型 VTuberで、『「中の人」の存在をうかがわせず、キャラクター自体が VTuber として活動しているかのようにふるまう』ものです。

VASEに限らず、世の中にはこういうVTuberが多数存在しています。独自の「設定」を持っていることが多いです。

ここではキャラクター型VTuberについて論じます。

VTuberへの名誉毀損・侮辱の法的扱い

名誉毀損と言うには「社会的評価の低下」が必要なので、通常は「中の人」が誰か分からない場合には何らかの言及によって名誉毀損となることはありません。

ただし、「中の人」が誰であるかが知られており、VTuberに関する言及が「中の人」を対象としていると評価できる場合は、その「中の人」という自然人に対する名誉毀損の問題になります。アニメのキャラの声が気持ち悪いだとかいう話は演じている声優さんへの誹謗中傷と捉えられる事があるかもしれませんが、キャラクター型VTuberの場合はこのパターンは基本的に存在しない。あったとしても極めて例外的でしょう。

他方で、ネット上である程度の期間ハンドルネームでの活動をしていた者に対して、そのハンドルネームを名宛人とした誹謗中傷が為された事件では、ハンドルネームに社会的評価が確立しているとして名誉毀損が成立した裁判例もあります。この事案では中の人とハンドルネームとの結びつきは認定されていませんでした

これと同様に、VTuberに対する客観的な社会的評価が確立されている場合には、「中の人」が不明でも名誉毀損が成立する可能性があります。

また、VTuberの所属する事務所や運営会社への名誉毀損と評価されるような言及の場合は、事務所や運営会社との関係で名誉毀損が成立します。

さらに、「中の人」を特定できなくとも、「中の人」の主観的な名誉感情が害された場合には「中の人」に対する侮辱であるとされる可能性もあります。この場合は社会的評価の低下は不要です。

以下の事例は社会的評価が確立したVへの名誉毀損なのか中の人への侮辱なのか記事では分かりませんが、「現実の自分が傷ついた」とあることから、いずれにしても背後の自然人への不法行為と捉えられているのが分かります。

朝日新聞 分身キャラへの中傷、「現実の自分が傷ついた」 Vチューバーが提訴 有料会員記事 新屋絵理2021年12月30日 20時00分

ここまで外観してきましたが、注意すべきはアバターそのものに人格を与えるかのような言説についてです。

「Vtuberには人格がある」の注意点:労働時間規制

フェミ議連が騒いでいた当初、既にこういうものを書いていました。

Vtuberには人格がある」と主張する人が居り、それ自体は良いことだと思うのですが、それは一体どういう意味で言っているのか?その中身によっては「非実在青少年規制」と類似の展開を引き起こすことになりかねない。

上掲記事では懸念の一つとして、年齢設定がある場合に労働制限がかけられるおそれがあると指摘しました。今回はさらに具体的に言及してみます。

例えば東雲めぐという株式会社Gugenka(旧 株式会社シーエスレポーターズ)のキャラクターとして誕生したVTuberが居ますが、彼女は年齢設定が現実世界の時間進行に応じて加齢するキャラクターです。現在は19歳ですが、活動を始めた2018年2月当初は15歳でした。ただ、この年齢設定は架空のものであるという体裁のようです。アクターの年齢とリンクしているのかどうかは定かではありません。

QJWEB バーチャルYouTuberの年齢問題を徹底考察 元祖はデーモン閣下?9/14(火) 18:02

「VTuber」キャラクターそのもの(造形や設定)に人格を付与するとどうなるのか?

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東雲めぐの場合、現在は「フリーランスになりました」という記述があることから、かつては雇用されていた可能性を示唆しています。

芸能人の勤務形態問題と同様にVTuberも考えられますが、業務委託契約ではなく雇用契約の場合もあり得、また、書面上は別契約の記載でも実態にかんがみて実質的に労基法上の労働者とすべき場合もあり得ます。

すると、東雲めぐは一見すると労基法上の「年少者」として扱われるべき可能性が浮上し、この場合は変形労働時間制の適用や深夜業(午後10時から午前5時)が禁止に。

https://archive.is/SfLd6

そうなるとこの番組出演というのは形式的には違法の疑いが生じる。

ただし、報酬を貰っていないだとか、他の事情によって規制に当たらない可能性も否定できない。

とまあ、人格が生じるということはそれに伴う法規制の対象にもなり得ること。

外野がいちいちクレームをつけたり警察や労基署に通報したりするかもしれない。

VTuberを守ろうとしている者によって、むしろVTuberの活動に制限がかけられてしまうという矛盾が生じかねない。

VTuberの「アバターの人格権」と非実在青少年規制問題まとめ

このように「VTuberには人格がある」という発想は、ややもすると【非実在青少年規制】と同じ帰結に陥りかねないということは認識しておくべきでしょう。

アバターの造形+モーションも併せてVTuberの命である、と言うことを否定するつもりはありませんが、法的な扱いとしてそれらに人格権が発生するとなると、不都合が大きいということ。

背後に自然人の人格があることを尊重する趣旨で論じるのが重要ではないでしょうか。

背後の自然人と切り離したアバターの人格を認め、それに対する名誉毀損や侮辱を肯定してしまうと、当然ながら【背後の自然人によるアバターの権利侵害】という事象も起こり得る。運営会社によるアバターのデザイン(服装)変更がアバターの人格権侵害だと叫ばれる。アバターの消滅の場合は…?

現在、VTuberを応援している人は、こういう危険な発想はしないでしょう。

しかし、表現規制派が「VTuberには人格がある」という言葉を逆手にとって攪乱してくるということは容易に想像できるため、予め論理的可能性を示しておく意義はあると思いました。

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