事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。リンク切れに備えて魚拓を活用しています。

専門家会議の西浦博教授は「全体像把握に抗体検査は不要」とは言っていない

西浦教授と抗体検査と爆発的感染拡大の蓋然性

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の西浦博教授が3月30日の東京都の記者会見において「全体像把握に抗体検査は不必要」と言ったという言説が一部で広まっていますが、そのような事は言っていません。

あの上昌広医師と久住英二医師がそのような言説を拡散していますが、実態を整理します。

上昌広・久住英二「専門家会議の先生が全体像を把握するのに必要な検査は抗体検査ではありませんと言った」

魚拓

魚拓

上昌広医師と久住英二医師が「専門家会議の先生が全体像を把握するのに必要な検査は抗体検査ではありませんと言った」というツイートをしています。

しかし、これは事実と異なります。

時系列的に上教授は蔭山洋介氏のツイートを見た可能性がありますが(そこに西浦教授の言葉として「全体像把握に抗体検査は不要」という旨が書かれていた)、蔭山洋介氏は当該ツイートは削除し、その後は西浦教授の発言の書き起こしをしています。

西浦博教授「全体把握のために抗体検査は必要ではないとは言っていない」

西浦博教授は「全体把握のために抗体検査は必要ではないとは言っていない」 という趣旨のツイートをしました。

むしろ、『抗体検査は実施中・計画中のものがあり、感染者の全体像を把握するために必須』とまで言っています。

これだけだとちょっとわかりにくいので、動画の書き起こしを以下に紹介します。

ポイントは『全体像把握のため』ではなく『オーバーシュート=爆発的感染の兆候を把握するため』という目的においての発言だということです。

西浦教授「爆発的感染の蓋然性の判断のためには抗体検査ではない」

西浦教授の核心部分は動画の42分49秒からです。

以下、それ以前の記者の質問も重要(間の西浦教授の回答はあまり重要ではない)なので、書き起こしました。

記者 本日の資料の中に「更なる未来のデータを分析することにより、今後、感染者数が急増する蓋然性について調査することが必要」というふうに書かれています。これは具体的に感染爆発の兆候を早めに掴むことを目的とした調査だと思うんですけど、具体的にどういった調査をした方がいいのか具体例を教えていただけないでしょうか

西浦 省略

記者 新しい大規模な抗体検査ではなくPCR検査を行うのでしょうか

西浦 PCRの患者数っていうのは、確定された患者数であって、全感染者数の氷山の一角でしかないです。で、それに対して、今どういう調査をするかということなんですけど、他の調査を実施しながら、いわゆる私たちがオーバーシュートと呼んでいるような爆発的な患者数の増加がない蓋然性が高いことを僕たちで確認させていただいています。それをするためにやるべきことというのは抗体調査ではありません。抗体調査というのは、人口の何%が感染しているのかというのを、リアルタイムを含めてですけども人口レベルで感染してきた人の割合をある程度で理解するために実施するもので、今警戒すべきというのは、倍々で2、3日ごとに感染者が増え始めていないということをしっかりと確認すること。もし増えているのであれば、速やかに対策を実施するということなんですけども、それをするためには、例えばわかりやすいものであると、帰国者接触者相談センターを通じて、受診した外来患者数というのを見ると、発熱した上で、電話相談をして、受診した人の数が診断される前の段階で見れますので、それが増加傾向にあるかどうかが見られます。他にもSNSを利用した発熱者が集積しているかどうかが東京にないかどうか、多角的なデータを使って、クラスター対策班で、いま増加傾向にあるのは事実なんですけれども、爆発的な増加を警戒すべきものがないことを確認しつつ、報告をさせていただいている。

「PCR検査で陽性になった患者数」を念頭に爆発的感染の兆候を調べると言ってます。

西浦教授は感染者数の把握のための抗体検査を否定していない

厚労省新型コロナウイルス感染症対策本部クラスター対策班

全体像を把握する」というと、「日本国内(東京都内)にどれくらいの数の新型コロナウイルスの感染者が居るのかを把握する」というように聞こえてしまいますが、そのための抗体検査については、西浦教授は一言も否定していません(そもそも質問内では言及していないし、ツイートではそのためには抗体検査が「必須」とまで言っている)。

あくまでも「今やろうとしている調査」についての質問に対する返答であり、それは「爆発的感染の兆候を確かめる目的である」から、その手段としては「抗体検査は使わない」と言っているのです。

東京都の資料は小池知事「知事の部屋」/記者会見(令和2年3月30日)|東京都を参照

抗体検査とは

ここまで抗体検査について説明無しで来ましたが、抗体検査はPCR検査と比べて感染者数の全体像を把握する=疫学的な調査のためには向いているとは言えます。

ただ、万能ではありません。

抗体検査の特徴については、臨床検査医学講座講師の越智小枝氏の寄稿が誠実に書かれており、これを読むと正確に理解できると思いますが、一部を引用すると以下の指摘があります。

  • 抗体が陰性でも、感染していないとは言えない。
  • IgM抗体が陽性でも感染症状が出るとは限らない。
  • IgG抗体が陽性になっていても抵抗力が十分である保証はない。
  • IgG抗体が陽性でも人にうつさない保証はない。

まとめ

  1. 「全体像を把握する」というと、「日本国内(東京都内)にどれくらいの数の新型コロナウイルスの感染者が居るのかを把握する」というように聞こえる(実際に上医師はそういう意味で言っている)
  2. 西浦教授は「全体像を把握するため」とは言っていない
  3. 西浦教授は「爆発的感染の兆候を確かめる目的」において、記者が抗体検査をするのかと質問をしてきたからそれを否定したに過ぎない
  4. それは「PCR検査で陽性になった患者数」を念頭に置いている
  5. 西浦教授はツイートではむしろ「感染者の全体像の把握のためには抗体検査は必須」とまで言っている。
  6. よって、西浦博教授は「全体像把握に抗体検査は不必要」などとは言っていないし、そう思ってもいない。

以上