読売調査の一次ソースが確認できないんだが…
- 日本は米・韓より偽情報に騙されやすい?
- 1次ソースが確認できるアメリカのWEBメディア
- 偽情報に対する回答は各国で比較できないのでは?
- 読売新聞と山口真一調査報道の一次ソース確認できず
- アテンションエコノミー・フィルターバブル・エコーチェンバーのデジタル空間用語の認知率比較
- 因果関係が示されていない「新聞を読む人はそうでない人と比べ、偽情報に気付く確率が高い」結果
- 追記項1:世界で断トツに高齢者の多い日本における高齢者の回答率や世代別比較は?
- まとめ:事実を伝える事が重要ではない記者が多い日本でのデジタル1次情報獲得の難易度
日本は米・韓より偽情報に騙されやすい?
日本は米・韓より「偽情報にだまされやすい」、事実確認をしない人も多く…読売3000人調査https://t.co/H63XCyeiAm#ニュース
— 読売新聞オンライン (@Yomiuri_Online) 2024年3月25日
日本の弱点は「情報に受け身」、デジタル空間についての教育充実が対策に…国際大・山口真一准教授https://t.co/avIugI9iR6#ニュース
— 読売新聞オンライン (@Yomiuri_Online) 2024年3月25日
3月25日に読売新聞から「日本は米・韓より偽情報に騙されやすい」という内容の記事が出されました。国際大学の山口真一准教授との共同調査の結果としています。
この記事にはSNSでは突っ込みが相次いでいますが、ここでも留意点を指摘します。
1次ソースが確認できるアメリカのWEBメディア
日本は米・韓より「偽情報にだまされやすい」、事実確認をしない人も多く…読売3000人調査
情報に接した際、「1次ソース(情報源)を調べる」と回答した人は米国73%、韓国57%に対し、日本は41%だった。「情報がいつ発信されたかを確認する」と答えた人も米国74%、韓国73%だったが、日本は54%にとどまった。
この記述には注意が必要です。
まず、「情報に接した際」とは、「デジタル空間」の情報という意味である点に注意。
次に、「1次ソース(情報源)を調べる」とありますが、各国でその難易度が異なります。
アメリカは新聞発行部数が多くなく、WEBメディアが充実しています。そのアメリカのWEBメディアは記事中にソースとなる発言等のリンクが貼ってあります。*1*2*3
ですから、「1次ソースを調べる」がほぼ自動的にできてしまう環境にあります。
他方で日本のマスメディア本紙のWEB媒体は、WEB上にソースがある場合であってもリンクを貼らず、法律・法律案や会議体の正式名称を書かず、検索で辿り着きにくい・検証不可能な程度に短縮或いは歪めている例が多すぎます。*4*5
ハフィントンポストやBuzzfeedNewsといったWEB専業メディアや、マスメディアのWEB媒体専門ページなどでない限り、リンクが貼られることはありません。*6*7
米国のメディアの記事の日本語版の記事は、元記事ではリンクを貼っていても日本語記事ではリンクが貼っていない、というケースもあります。
「情報がいつ発信されたかを確認する」というのも当該情報源にアクセスすることの難易度が日米では異なるわけです。韓国の事情は知りませんが、韓国メディアも大手はリンクは貼っていない印象です。
さらには、「どうやってそれが一次情報であると認識したのか?」という点はどうクリアされているんでしょうか?どんなに些細な事実でも「1次ソースを調べた」気になる閾値の問題の可能性。SNSで騒がれている話題について、発端となったSNSの投稿を見るだけで「1次情報を見た」と思う者も居ます。*8
※追記:例えば産経新聞のWEB記事では以下のように外部リンクを貼っているものが最近は見られるようになっています。
偽情報に対する回答は各国で比較できないのでは?
日本は米・韓より「偽情報にだまされやすい」、事実確認をしない人も多く…読売3000人調査
3か国でそれぞれ広がった各15件の偽情報について、「正しい」「わからない」「誤り」の三択で回答を求めたところ、「誤り」と見抜くことができた割合は、米国40%、韓国33%に対し、日本は最低の27%だった。
偽情報に対する回答は各国で比較できないのでは?
なぜなら、「3か国でそれぞれ広がった各15件の偽情報」の意味からは、「15件の偽情報」の中身は日米韓で異なるハズで、すると回答の難易度は異なるからです。また、当該偽情報に関してメディアが注意喚起をしていたのか否かといった外部要因も影響します。
(※もしも同じ偽情報だとしても各国での拡散の度合いや訂正情報の拡散度合いも異なる)
そして、仮に比較できるとしても、読売の2記事では「正しい」と回答した日本の回答者は37%としていますが、米韓の「正しい」と回答した者の割合が出てきていないので、記事だけでは日本人が騙されやすいと言えるかの判別がつかないということになります。
読売新聞と山口真一調査報道の一次ソース確認できず
なにより、読売新聞と山口真一調査の【一次ソース】は、読売新聞記事からは確認できない、という問題が指摘できます。研究やアンケート・論文の正式名称もなく、リンクも貼られていません。研究手法の記述も、まったく不十分です。
「日本は情報の事実確認をしない人が多く」などと書いているのに、当のメディアがそれをさせないなんて…
一般にマスメディアですら、タイトルや無料部分では「怒り」の反応が出るような記述にしておいて、本文や有料部分では穏当なものになっている、というような手法が用いられることもあります。
今回の読売記事も、不十分な情報を読者に与えることで記事に対して言及させ、拡散させることで利益を得ている可能性も考えてしまいますが、そうであれば実に姑息だと言えます。
データが揃ったにすぎず論文化は先の話なのだとすれば、せめてその事情は書いてほしかったと思います。
アテンションエコノミー・フィルターバブル・エコーチェンバーのデジタル空間用語の認知率比較
なお、Xのシェア時にサムネイル画像でも出てくる【デジタル空間を理解するための用語の認知率】について。SNSではこれについてのみ言及する投稿も多く見られました。
「アテンションエコノミー」「フィルターバブル」「エコーチェンバー」といった用語の認知率を日米韓のグラフを並べていますが、英語の言葉なのだから日本語話者が多い日本では当たり前の結果でしょう。
また、韓国語は日本語よりも世界での通用度が低いので韓国社会では英語を学ぶ必要性と有用性が高いという一般的事実があり、本調査の結果において韓国が日本より高いものになったのは、それも背景にあると考えられます。
そして、これらの言葉を知っているかは「偽情報に騙されやすいかどうか」とは直接は関係ありません。ただ、このことは調査実施者も当然理解しているでしょう。記事ではそうした用語の存在を伝える意味も込められていると考えられます。
因果関係が示されていない「新聞を読む人はそうでない人と比べ、偽情報に気付く確率が高い」結果
日本は米・韓より「偽情報にだまされやすい」、事実確認をしない人も多く…読売3000人調査
一方、だまされにくかったのは「新聞を読む人」「複数メディアから多様な情報を取得している人」だった。新聞を読む人はそうでない人と比べ、偽情報に気付く確率が5%高かった。
「新聞を読む人はそうでない人と比べ、偽情報に気付く確率が5%高かった。」という結果自体は、その通りなのでしょう。相関関係。
ただ、この記述や結果は「新聞を読むことが偽情報に気づく確率を高める」という因果関係までも示しているとも言えないので注意です。
「新聞を読む人」という独立項だけ見ても、「新聞を購読して読み進めることができるほど金銭的或いは時間的に余裕のある人は情報のチェックをする余裕がある」というだけである可能性は無いのかどうかを検討するべきでしょう。
追記項1:世界で断トツに高齢者の多い日本における高齢者の回答率や世代別比較は?
本調査、年代別比較はしてるのだろうか?
老人ほどリテラシーがない、ということを山口准教授が過去の調査で指摘しているので*9、世界でもダントツの高齢者社会である日本に関しては、国際比較をする場合には高齢者バイアスを考慮するべきということになります。*10
まとめ:事実を伝える事が重要ではない記者が多い日本でのデジタル1次情報獲得の難易度
Worlds of Journalism の調査で「事実をありのままに伝えること」の項目を「最も重要」・「とても重要」と回答した率が、日本のジャーナリストは非常に低かったことが明らかになっていますが、仮に日本人が偽情報に騙されやすいのだとしたら、そうしたメディアの在り方が影響していないのか?も同時に問われるべきでしょう。
事実を伝える事が重要ではない記者が多く、そうした者らで作られる記事によって認識をかき乱されている日本でのデジタル1次情報獲得の難易度は、ある観点からは高いと言えるのかもしれない。
特に最近では「エビデンス」を求める風潮について批判を試みる言説をメディアが積極的に紹介しているという実態まである始末。
検証可能性を担保するために、読売新聞と山口真一准教授調査のデータが早期に公開されることが望まれます。
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*1:The New York Times - Breaking News, US News, World News and Videos
*2:Fox News - Breaking News Updates | Latest News Headlines | Photos & News Videos
*3:Breaking News, Latest News and Videos | CNN
*4:例1:性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律⇒これを「LGBT理解増進法」としているが、その名の通り「SOGI理解増進法」です。具体的なLGBT本人に配慮しろというのではなく、SOGIについての知識を深めようという趣旨のはずが、これでは認識が歪められる
*5:例2:テロ等準備罪法案⇒これを「共謀罪法案」と報じていたメディアが多数。しかし、共謀罪とは共謀の事実が認定されれば犯罪が成立して処罰対象になるところ、成立以前からテロ等準備罪は共謀とは異なるところの「準備行為」が求められ、さらには基本となる犯罪行為についての準備行為のみが対象なので、限定された行為しか捕捉しない。それが「居酒屋で上司の悪口を言っただけで捕まる」などと報道されていたという現実を覚えている者は多い
*6:能登半島地震のボランティアのWEB募集を報じる記事ですら、リンクが貼られていない
*7:他方で、特定の政治的主張に関する署名サイトにはリンクが貼られているケースがあった
*8:例えば街中でインタビューしてみると日本人が「英語ができる」と回答する率が低いが、海外の人は日本人が「英語ができる」と思うレベルではないとしても「英語ができる」と回答する、といった要素