事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

車椅子インフルエンサー中嶋涼子がイオンシネマ炎上事案を釈明

現実は建設的な方向に向かっているようです。

車椅子インフルエンサー中嶋涼子がイオンシネマ炎上事案を釈明

車椅子インフルエンサーを自称している中嶋涼子氏がイオンシネマ炎上事案を釈明。

イオンエンターテイメント側と話し合いをした結果をX上で報告しています。

1:映画「52ヘルツのクジラたち」はグランシアターでのみ上映

シアタス調布と52ヘルツのクジラ

最重要事実として、中嶋氏が3月15日の当日に鑑賞したかった映画の「52ヘルツのクジラたち」はイオンシネマシアタス調布ではグランシアターでのみ上映されていました。

この映画を当該映画館で見ようとしたらグランシアターに行くしかありません。

グランシアターは「プレミアムシート」の機能がサービスの中核であり、シアタス調布では3000円の価格で提供されていました。なので、特性として「車椅子席」を設ける意味が無いということになります。

なお、シアタス調布のグランシアターには車椅子席は設けられていませんが、全国で6つあるグランシアターのうち、岡山だけは車椅子席を設けています*1*2*3

中嶋氏の説明文ではイオンシネマ側は、別の時間帯で車いす席のある他のスクリーンで同じ作品を上映するなど対策を考える、としています。

2:シアタス調布でのグランシアターの鑑賞は4回目という個別事情

中嶋氏のシアタス調布でのグランシアターの鑑賞は4回目だったとしています。過去の利用時の写真も投稿されており、イオンエンターテイメント側も現在はその事実を認めています。

この際に事前連絡があったのか?は気になりますが、中嶋氏の投稿を見る限りは事前連絡はしていないようです。その「成功体験」があったからか、その後も事前連絡をせずに利用していた、としか読めません。*4

イオンエンターテイメントが3月16日に出した文章の中で「不適切な発言」と書かれた部分については、「お互い良い気持ちでいられる」という発言について、「一方的な言い方であり、社内でもこれは問題だという見解になった」と説明されたとあります。

後述しますが、「今回の中嶋氏に対して行ったような、身体や車椅子を持ち上げたり座席に移動させたりする対応を今後はしないとしたこと」へのお詫びではないということです。

3:「グランシアター以外の劇場」は映画館全体ではなく「他のスクリーン」の意味

中嶋氏が先日Xで書いたイオン従業員の説明で「今後はこの劇場(グランシアター)以外で見てもらえると…」と言われたとする際の「劇場」の意味は映画館全体ではなく「他のスクリーン」の意味だった、と釈明しています。

中嶋氏はこれを『SNSの側の誤解・事実誤認』として書いていますが、彼女自身が「なんで…入館拒否になったんだろう」と書いていたのであり、「グランシアターでのみ上映されている映画」という事情からは、「シアタス調布全体」の意味にしか理解できません。中嶋氏がSNSユーザーの読解力の問題に責任転嫁していると言えます。

従業員の説明が不十分だった説、中嶋氏が勘違いした説、本当に言葉のすれ違いがあった説などが考えられますが、「SNSでの発信の仕方」という点では中嶋氏に問題があったと言えます。

魚拓⇒https://archive.is/ReNnp

身体や車椅子ごと持ち上げる介助方法の危険とサービス対応の変遷

中嶋氏がグランシアターを利用するためには

  • 4段ある階段を持ち上げる
  • 車椅子から座席に移動させる

この介助が必要となりますが、このような介助は明示的に拒絶している映画館もある一方、明示的に可能であるとしている映画館もありました。

(※可能であるとしていたのは109シネマズだが、この事実が広まって以降の令和6年3月31日現在、当該ページは削除されています。現在は「よくある質問」への回答に「*お客様のお身体や車いすを持ち上げるような対応は安全を考慮し、お断りする場合がございます。」と明示するようになっています。この案内は2020年以前は存在していませんでしたが、遅くとも2021年5月には現われていました)

イオンシネマに関しては、明示的には可能であるとはしていないものの、中嶋氏とは別の車いすユーザーが同様の対応をしてもらったことをブログ投稿している例も見られ、公にはしてないが内部では推奨される例もあった、といった感じでしょうか。

中嶋氏の説明文ではイオンエンターテイメントが「サポートの基準を設けていなかったため混乱を招いてしまった」と言っているとありますが、シアタス調布における職員間の中嶋氏に関する情報共有というよりは、イオンシネマとしての或いは業界全体での車椅子介助に対する対応の在り方の周知・見直しの問題だった可能性があるのではないでしょうか。

もちろん、そのような介助をするかどうかは運営会社の方針次第です。

ただ、車いす利用者の体を持ち上げたり車いすごと持ち上げて運搬するという方法は、重量があるということ以外にも落下による受傷の危険があるため特に注意すべきという意識が広まってきたのでしょう。SNSではそのような介助ミスによって神経障害が残ったとする方の投稿も見つかります。

特に今回は女性二人」で車いすごと階段を持ち上げていたと中嶋氏が説明しているので、これは労働法体系上の努力義務に抵触し、障碍者差別解消法上の「過重な負担」に当たると言えます。したがって、「合理的配慮」に違反した事案ではありません。

この点は騒動当時に以下で整理しています。

イオン側は車いす・身体を持ち上げる事は標準対応とはしないと明言

中嶋氏の説明文にはイオンシネマ側の今後の対応についても書かれています。

  • (ソフト面/人員面)これまでサポートの基準を設けていなかった事で混乱を招いてしまった為、緊急時の避難が安全に行えることを踏まえ、車椅子ユーザーがどのようなサポートが必要か今後検討していく
  • 友人や介護者など、サポートしていただける方が居る場合は「イオンシネマ シアタス調布」グランシアターでの鑑賞が可能

イオン側は【車いす・身体を持ち上げる事は標準対応とはしない】と明言しました。他方でシアタス調布での「簡易スロープや電動昇降機での対応」を検討しているとしています。

これはあるべき姿だと思われます。

これに対する中嶋氏側の要望も、文面上では「簡易スロープ」などの設備面に言及しているのみで、「サポートしてくれる友人と一緒にグランシアターで鑑賞・もしくは車いす席のあるスクリーンで鑑賞する」という方向で納得しているようであり、騒動時のような対応を常に要求する、ということはしていません。

書かれている内容の限りでは建設的な対話だと感じます。

「事前連絡」の点についてはなぜか触れられていませんが、イオン側が事前連絡が不要でも対応可能な案内に留めているということと思われます。

まとめ:理性的に教訓を共有したSNSと中嶋氏へのデマや誹謗中傷で吹き荒れたSNS

私は、最初から中嶋氏が今回のような直接対話をしてればよく、SNS投稿は無用な混乱を招くだけなのでやめるべきだったと思います。

SNSの反応は(いつものことですが)二極化しました。

車いすユーザーや介護職の方による介助を受けた際の危険についての体験談や事業者側の負担、他の映画館の対応についてまとめる発信、過去の類似の社会運動の問題点を指摘する投稿など、教訓を共有したSNS。

伊是名夏子事案以上に存在しない事情を付加したり歪めたりし、必要な事情(特に今回は「グランシアターでのみ上映」という点が無視された)を認識せずに中嶋氏へのデマや誹謗中傷で吹き荒れたSNS。

後者は「怒り」を煽動して注目を集めますが、ただの「中嶋涼子叩きエンタメ」で終わる性質のものです。中にはイオンシネマに対して「過去にこんな対応をしたのが悪い・いい迷惑だ」などと無関係の者が何故か言い放つ始末。営業の自由をどう思っているのか。

SNSでの怒りとは裏腹に、現実世界は、109シネマズですら明示的にお断りする例を書いたように、合理的な方向に向かっていると感じます。

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*1:※イオンシネマはいわゆる「シネコン」であり、シアタス調布では11スクリーンある全体では20席の車いす席がある。これは現在検討・予定されている建築設計のバリアフリーに関する新基準を満たしています。

*2:他4つのグランシアター⇒新利府白山心斎橋川口

*3:岡山のグランシアターが車椅子席を設けている理由は謎ですが、その際は障害者料金で見れるようにしているのかが気になりますが、営業上の勝手でしょう

*4:※SNSでは「イオン側から事前連絡をするように言われていたのに敢えてそうしなかった」という言説が広がっていますが、そういう事実が認められる事情は確認できません。