事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

NHK受信料制度の合憲判決:最高裁判決文原文あり:実質的にはNHKの敗訴

実質的にNHKの負けです

NHK受信料最高裁判所判決平成29年12月6日

NHKの受信料制度に関する最高裁判所判決が2017年12月6日にありました。

魚拓:http://archive.is/zFh1J

実質的にNHKの負けです

どういうことか、判決の概要と今後の展望について整理していきます。

判決文はこちら↓↓↓ 

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/281/087281_hanrei.pdf

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87281

最高裁判決原文から抜粋したNHK受信料訴訟の概要

  1. 事案は、受信機を設置した「未契約者」に対する請求
    ※受信機を設置していることに争いがなく、契約の承諾がない消費者
  2. 契約の申込ではなく、NHKの請求認容の判決確定で契約が成立する
  3. 受信設備設置時からの支払い義務が生じる
  4. 消滅時効は判決確定から進行する

図式化したのがこちらです

f:id:Nathannate:20171207125532p:plain

NHK受信料制度合憲判決の影響:実質的には国民の勝利

今回の判決のメリットとデメリットを見ていきましょう

判決のメリット

  1. NHKはわざわざ訴訟を提起しなければならない
  2. 判決確定の日から契約が成立するので、それまで不払いだった分の利息を支払う必要がない(履行遅滞に陥らない)
  3. 不払いは不法行為や不当利得に当たらないとしたので、弁護士費用は敗訴者負担にならず、NHKは勝っても弁護士にかかる費用を失う

判決のデメリット

  1. 「受信機設置」と認定されれば、本人がNHKを見ていまいがNHKの放送が偏向報道だろうが問答無用で契約義務が発生する。
  2. 消滅時効は不払い分には働かないため、受信機設置月まで何十年でも遡って請求されてしまう

私見1:普通の(不払いの)国民にとっては完全勝利に近い

NHKの主張は、「受信契約をしていない人(TV設置はしていることが前提)に対してNHKから契約の申込みをすれば契約は成立する」というものでした。しかし、判決ではこれが否定されました。この判決をNHK側から見ると、訴訟提起と弁護士費用を天秤にかけると一般国民に対してわざわざ訴訟を起こすことは、コスパが悪すぎるということになります。

「訴訟を起こす」と言われても、「あーそうですか」でよいのです。

訴訟で法廷に出頭することををすっぽかしても構いません。 

NHKは、その分だけ弁護士費用がかかり、損をするだけです。
※NHK側から内容証明郵便が送達された場合や、その後訴訟提起されて裁判所から「訴状」が送達される場合には必ず目を通してください。NHKの主張内容によっては、反論をする必要が出てきます。滅茶苦茶な主張がされてるのに放置すると、それが真実として裁判所に認定されてしまいます。
※上記打消し部分は、性善説に立った考えです。NHKが誠実に対応した場合の話です。注意すべきは、もしもNHKが真実の受信機設置日よりも前の日付から受信機設置をしていたと主張してきたらと考えれば、放置することは危険だとわかるでしょう。

そもそも、「受信機設置」の事実をどうやって証明するのか?という入口の場面で、ほとんどの場合にNHKは詰んでいます。

こういう場合も契約不要のようです。

ただ、以下のようにNHKが受信機設置を証明できる場合はいくつかあるので、該当する人は注意が必要です。特にB-CASカードがある場合にはNHKが把握している可能性が高いです。

理論上はともかく、現実的には「受信機設置が捕捉される者で、長年に渡って不払いを続けており、悪質と判断された者」のみが攻撃対象になるにとどまると思われます。 

私見2:ホテルなどの事業者にとっては厳しい受信料負担の判決

既に東横インなどが訴訟提起されて、「TV等の受信機設置台数分の支払い」を命じられています。今回の判決では「未契約者」が対象ですが、そのようなホテルがあった場合には受信機設置日までいくらでも溯って請求が可能になってしまいました。

ホテルの受信機の台数は数百に上ることもあり、いくらでも遡れるということで、訴訟提起をする「旨味」はあるでしょう。

しかも、ホテルはNHK調査員が宿泊するなどして、「受信機の設置の有無が簡単にわかる」という環境にありますから(それ以前にアンテナ等でわかるのでしょうが)、消滅時効にかからないという今回の判決は、理論上は新たに負担が増加するものと言えるでしょう。

ただし、「受信機設置の日」は、NHKが把握した日となります。

つまり、真実としては数十年前に設置していたとしても、自白しなければその間の受信機設置をNHKが把握するのはほぼ不可能です。

 

NHKから受信料訴訟提起されたらTVを捨てればよい!?

それから、立花さんの 別の動画では「訴訟提起されたらTVを捨てたらいい」と言ってますが、最高裁判決の補足意見を見ると、どうもそうは言い切れない不穏な表現があります。

裁判官小池裕、同菅野博之補足意見

また、受信設備を廃止した場合の問題点も指摘されるが、過去に受信設備を設置したことにより、それ以降の期間について受信契約を締結しなければならない義務は既に発生しているのであるから、受信設備を廃止するまでの期間についての受信契約の締結を強制する事ができると解することは十分に可能であると考える

補足意見は判決の一部ではないので、これが今後妥当するかはわかりません。裁判で決せられることになるでしょうね。 

「受信契約者」が不払いの場合の受信料

最高裁判所第2小法廷判決/平成25年(受)第2024号 平成26年9月5日

NHKの受信料は「定期給付金債権」であり、民法169条が適用されて消滅時効は5年である

NHKは、NHK受信料は「定期金債権」に当たるとして民法168条により消滅時効は10年であると主張していましたが、「定期給付金債権」であるから民法169条が適用され、消滅時効は5年であるという判決になりました。
※比喩的に言えば、「定期給付金債権」とは、「流しそーめん」であり、「定期金債権」とは「ざるそば」のようなものです。全体の総量が決まっているのが「定期金債権」です。ざるそばは1つ注文したら1つのざるの上にあるものしかないため、それを数回に分けてつゆに入れて食べますが、流しそーめんは後から後から流れてきますよね(笑)

よって、今年の平成29年の判決の「未契約者」の事案と異なり、訴訟提起されてから5年までしか遡って請求できません。

ただし!

これは現行民法の規定によった場合です。

実は民法の規定は改正されたものが2017年6月2日に公布され、2020年6月2日より前に施行されることになっているのです
※細かいですが、施行日は附則により公布日から3年以内に政令で定めるとされており、この政令は未だ制定されてないので具体的な施行日は未定です。

改正後の民法では、なんと定期給付金債権にかんする規定が存在しません。短期消滅時効についての規定も削除されました。よって、上記の最高裁判例は改正民法施行後における受信機設置の事案には妥当しない可能性が高いです。

定期金債権(現行・改正民法168)は、その性質上これにはあたらないでしょう。よって、改正後166条によって判断していくことになるので、おそらく10年の消滅時効になるのではないでしょうか? 

疑問点:契約者と未契約者の場合の結論の矛盾と論理構成

一般に、不法行為や不当利得の場合も20年や10年の時効にかかるのに、未契約者の未払い分のNHK受信料については消滅時効にかからないというのは、かなり不思議です。そして、契約者の不払いは5年の消滅時効にかかるのに対して、未契約者の未契約期間の不払い分は消滅時効にかからないというのも不均衡です。

補足意見などでは、前者については、契約して受信料を支払っている者との公平性を根拠に正当化してやむを得ないとしています。

消滅時効が判決確定時の契約成立の時点から進行することの理論的説明としては、上述の裁判官小池裕、同菅野博之補足意見に一応納得できる説明があります。

上記判決の確定により「受信設備を設置した月からの受信料を支払う義務を負うという内容の契約」が、上記判決の確定の時(意思表示の合致の時)に成立するのであって、受信設備の設置という過去の時点における承諾を命じたり、承諾の効力発生時期を遡及させたりするものではない。放送受信規約第4条第1項は、上記のような趣旨と解されるのであり、承諾の意思表示を命ずる判決の確定により受信契約を成立っせることの傷害になるものではない。

ただ、なぜこのような解釈が可能なのかは不明です。

まぁ、しょせん補足意見なので、最高裁がこの見解を採っているのかは闇の中です。

まとめ:NHK受信料判決は法律が悪い

こんなおかしな状況になっているのは、そもそも放送法という法律がおかしいからです。

これを最高裁のせいにして「司法の汚染ガ―」と言う気は全くありません。

NHKの放送内容の偏頗性の問題も含め、私たちの民意を反映した国会で正しい放送の在り方について議論していただきたい。

放送法64条が憲法に違反しないとされた論理として、NHKの公共性が強調されたのだから、NHKは公共放送の使命をきちんと果たせ

以上