この判決の本当の意味
- 「まとめサイト保守速報裁判」事案の概要
- 判決内容:「まとめサイト」管理者への賠償は画期的
- 「差別」だから「違法」ではないことに注意
- 在特会の李信恵に対する事案:大阪高等裁判所判決/平成28年(ネ)第2767号
- 桜井誠の李信恵に対する発言は賠償に値する
- まとめサイト保守速報の侮辱表現とされた具体的文言
- 保守速報裁判の賠償額が高騰している点について
- 差別は許してはならないが、過度に委縮してはいけない
「まとめサイト保守速報裁判」事案の概要
いわゆる「まとめサイト」である「保守速報」という名前のサイトにおいて、李信恵という女性の名誉を毀損あるいは侮辱する発信がなされていたことについて賠償命令が出ました。
「保守速報」の記事掲載、差別と認定 地裁が賠償命じる:朝日新聞デジタル
この判決の本当の意味が誤解されているので整理していきます。
それから、「文言」が問題となるような事案では、具体的な文言が重要ですので、それについても整理していきます。
追記:なお、李信恵氏自身も共同不法行為の被告として提訴されています。
.@shoukootaden さんの「【主水事件シリーズ】2018/3/19 原告:主水さん 被告:李信恵さんら5名 大阪地裁 傍聴に行ったヲ茶会さんの..」https://t.co/0fqoZlzM8p をお気に入りにしました。
— 主水 (@VENOMIST666) 2018年3月31日
今回の事案は、保守速報の管理人が特定されて被告となりました。
管理人の主張の概略は
「情報の集約に過ぎず、転載したことに違法性はない」
という理由で名誉毀損や侮辱表現を行っていないというものです。
単に他人の発言を転載して掲載しただけ、ということを主張したということですね。
記事によれば、「匿名掲示板2ちゃんねる」に書き込まれた発言を寄せ集めた、ということです。
判決内容:「まとめサイト」管理者への賠償は画期的
- 表題の作成
- 情報量の圧縮
- 文字の強調
これらによって内容を効果的に把握できるようになり、新たな意味合いを有するに至ったと認定しています。
要するに、「別個の新たな表現が行われた」と認定されたのであって、単なる転載行為が賠償の対象となったわけではありません。
これまでは掲示板等へ書き込みを行った個人が賠償対象となることはあっても、まとめサイトが賠償対象となったことはありませんでした。
「まとめサイトの記述で管理人が賠償対象となり得る」
これがこの判決の重要な点であり、実は唯一の先例的価値です。
地裁レベルではなく、高裁レベルで作ってほしいという意味です。
— Nathan(ねーさん) (@Nathankirinoha) 2017年11月17日
それから、この判決の本当の先例性は「まとめサイトにも賠償可能性がある」という点であることをもっと代理人弁護士として誇っていいと思いますよ。 https://t.co/dyGAaMYAnS
「差別」だから「違法」ではないことに注意
この点がよく勘違いされてますが、「差別だから直ちに違法」、ということには法律上できません。今回の判決でも「差別に当たる」ことは認定されていますが、最終的には名誉毀損や侮辱の要件を充たすから違法、という判断となっています。
この点の判断は新しくもなんともないのです。
ただし、差別と認定されたことが慰謝料に影響したという別の裁判例があります。
おそらく今回の件も慰謝料の額に反映されているでしょう。
あの在特会の桜井誠に対する賠償判決です。実は、この時の被害者も李信恵氏でした。
在特会の李信恵に対する事案:大阪高等裁判所判決/平成28年(ネ)第2767号
大阪高等裁判所判決/平成28年(ネ)第2767号
こちらの民事訴訟の判決文に発言内容があります。
繰り返しますが、桜井誠の事案における大阪地方裁判所も、大阪高等裁判所も、名誉毀損や侮辱にあたるから違法、としているのであって、「差別だから違法」としているわけではないということが重要です。
この点がかなり勘違いされています。判決文を見ていきましょう。
そして,被告Y2による上記不法行為(名誉毀損及び侮辱)を構成する各発言も,その発言内容や経緯に照らせば,原告を含む在日朝鮮人を我が国の社会から排斥すべきであるといった被告ら独自の見解に基づき,在日朝鮮人に対する差別を助長し増幅させることを意図して行われたものであることが明らかである。人種差別を撤廃すべきとする人種差別撤廃条約の趣旨及び内容(人種差別撤廃条約2条1項柱書,6条)に照らせば,被告Y2の上記不法行為(名誉毀損及び侮辱)が上記のような同条約の趣旨に反する意図を持って行われたものである点も,慰謝料額の算定において考慮されなければならない。
桜井の言動が違法であることを前提に、その慰謝料額の算定にあたって「差別を助長する意図があった」ということが、考慮されたに過ぎません。
つまり、違法判断においては、普通の人による名誉毀損や侮辱の事案と全く変わらないということになります。差別表現だから名誉毀損や侮辱に当たりやすくなるということではありません。差別表現の内に名誉毀損や侮辱となる実質が含まれているということに過ぎません。
桜井誠の李信恵に対する発言は賠償に値する
具体的にどういう言動があったのかみてみましょう。
原告の容姿について,「立てば大根,座ればどてかぼちゃ,歩く姿はドクダミ草」,「ひげの生えた女性,世にもめずらしい女性でございますのでね」などと侮辱的な表現で揶揄し,また,別紙3番号1では,「鮮人記者」が「撒き散らしている虚言」などと不穏当な表現をした上,「結果として不逞鮮人への嫌悪感がより広がっているように思います。」と述べるなどしており,これらを全体としてみると,被告Y2の別紙1番号1及び別紙3発言1は,原告の記載した記事の真偽とは何ら関係のない原告の容姿を侮辱的な表現で揶揄したり,その人格を不穏当な表現で執拗に攻撃したりするものであって,原告の記事の真偽に関する意見表明に仮借して,いたずらに原告を誹謗中傷することを主たる目的として行われたものと認めるのが相当である。
この説示の前にも、李信恵を罵倒する表現が認定されています。
これは酷いです。酷い。間違いなく酷い。差別とは無関係に、桜井誠の発言は許容し難いということがわかります。
ただ、ここで注意したいのは、「これらを全体としてみると」という点です。単に「不逞鮮人」と言っただけで侮辱等が成立するのではたまったものではないですからね。
なお、この訴訟では、桜井側から李信恵氏の側も桜井を言論で攻撃したとの桜井の主張がされていますが、その主張は退けられてます。「相手が悪いことをしたからその相手に対して悪いことをしてもいいんだ」ということにはなりません。李信恵側の違法行為については別途裁判が行われており、そこで裁かれるべきでしょう。
まとめサイト保守速報の侮辱表現とされた具体的文言
上記の桜井誠の発言と比較すると、どうも拍子抜けするような内容です。
「朝鮮の工作員」だから「侮辱にあたる」というのは、実は在特会が朝鮮学校が公園を不法占拠していることが認められた(そして在特会側も侮辱と業務妨害とされた)京都地裁の裁判例と同様の認定
京都地方裁判所判決/平成22年(ワ)第2655号
示威活動②及び映像公開②は,本件学校が本件公園を占拠したことで日本の子どもたちの笑い顔を奪ったこと,本件学校が北朝鮮のスパイを養成していること,本件学校が無認可で設置されたこと,本件学校は学校ではないこと,本件学校で働く教師が北朝鮮の工作員であることを,不特定多数人に告げるという行為であり,原告の学校法人としての社会的評価たる名誉を著しく損なう不法行為である。
このように判示されていますが、この判断に至るまでにも、夥しい数の名誉毀損、侮辱行為が認定されています。単に「朝鮮の工作員」と言ったから「不法行為だ」と言っているわけではありません。
つまり、今回の保守速報の事例においても、単に「朝鮮の工作員」と言ったから侮辱なのではなく、40ほどある文言(その中にはおそらく桜井が発したような酷いものが含まれる)を「全体として見て」侮辱にあたるとしていると思われます。
保守速報裁判の賠償額が高騰している点について
名誉毀損や侮辱の賠償請求訴訟は、賠償額が弁護士報酬と比べて低く、訴訟を起こすメリットが無い場合が多いという指摘があります。今回の賠償額は200万円とのことですが、これについての評価の仕方はどうすればいいのでしょうか。
この点については以下のブログが分かりやすいです。
李信恵「裁判」結果で保守速報まとめサイトに200万の賠償【画像】 | 独女ちゃんねる
ただ、近年では賠償額は一般的に高騰しているという指摘もあり、以下が参考になります。
日本人の外国人或いは外国にルーツを持つ者に対する差別的言動の場合には賠償額が高額になり、外国人或いは外国にルーツを持つ者が日本人に対してする差別的言動の場合には賠償額が少ないということになるのであれば、それは不公平です。
差別は許してはならないが、過度に委縮してはいけない
再掲
「保守速報」の記事掲載、差別と認定 地裁が賠償命じる:朝日新聞デジタル
このようにしてみると、ニュース記事にあるような文言を使用するだけでは、実は名誉毀損や侮辱にあたらない場合が多いということが言えます。
ニュースの配信側が、どのような意図で軽い表現も違法になるかのような報じ方をしてるのかはわかりませんが、私たち一般人が過度に委縮して気を使う必要はないということを指摘したいと思います。
正当な言論まで萎縮させる意図がマスメディアにはあるのではないか?
名誉毀損・侮辱表現でもって相手を非難する手法は採り得ないということ、そのような文言を再生産する類の行為は規制されるべきです。
その意味で、今回の判決は(賠償額を捨象すれば)妥当なものと考えています。
追記:李信恵氏自身が被告となっている共同不法行為事件については共犯とはならず、原告が控訴しています。
皆様
— 主水 (@VENOMIST666) 2018年3月29日
李信恵氏 @rinda0818 ら5名による私に対する傷害事件に係る損害賠償請求訴訟ですが、第一審判決を不服とし本日控訴しました。控訴審の詳細については、追ってお知らせいたします。
以上