事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

シンホリ弁護士「赤松健に投票すると表現の自由に圧力をかける議員にも票が使われる恐れ」という煽動

二重におかしい

シンホリ弁護士「赤松健に投票すると表現の自由に圧力をかける議員にもその票が使われる恐れ」

シンホリ(堀新)弁護士が「赤松健に投票すると表現の自由に圧力をかける議員にもその票が使われる恐れ」とツイートしていました。

結論から言うとこれは暴論であり赤松健 氏への投票を忌避させるための煽動なのですが、複数の観点からそのおかしさを指摘することができます。

非拘束名簿式では個人の得票数が政党全体の議席数の確保に貢献するのは当たり前の話

参議院議員選挙制度の変遷(参議院関連資料集):資料集:参議院

① 名簿届出政党等ごとに、候補者名による投票の得票数と政党名によ
る投票の得票数を合算し、各政党等の総得票数を定める。
② 各政党等の総得票数に比例して当選人の数を配分する方式(ドント
方式)により、それぞれの政党等の当選人の数を定める。
③ 各政党等に配分された当選人の数の中で、各政党等ごとに得票数の
最も多い候補者から順に当選人を決定する。
④ 特定枠の候補者があるときは、特定枠に記載されている候補者を上位
とし(名簿記載の順位のとおりに当選人とする)、その他の名簿登載者に
ついてその得票数の最も多い者から順次に定める。

参議院比例区は非拘束名簿式であり、個人に投票しようが政党に投票しようが、ひとまずは政党全体の得票数として扱います。

[政党+その政党の個人]の得票数によって、その政党の候補者が当選できる議席の数が決まります。

つまり、個人の得票数が政党全体の議席数の確保に貢献するのは当たり前の話であり、それを通じて他の候補者が当選しやすくなる、という意味では、「ある候補者Aの得票が、他の候補者Bのためにも使われる」という関係にある、と言うことは間違いではありません。

しかし、この場合は「候補者Bの得票も候補者Aのためにも使われる」とも言えます。

シンホリ氏のツイートを模倣して具体的に言うと、「表現の自由に圧力をかける山田宏議員へ投票すると、赤松健にもその票が使われる恐れ」となります。

さらには、他の政党の内部においても同じことが言えてしまいます。

なので、この意味での「Aに投票するとBのためにもなる」という効果は、比例代表制の非拘束名簿方式という仕組みがある限り常に存在しますから、今般の選挙に際して言及する場合には、まったく意味の無い言及(当たり前体操)、ということになります。

これを大前提とした上で、さらに、参議院選挙の比例区の議席配分では、次項で述べる関係も指摘できます。

参議院比例区の非拘束名簿のドント式では基本的に候補者個人は政党の票から恩恵を受ける立場

「ある候補者に票が集中した場合には、他の議員への恩恵を与えるという関係にある」

この主張が正しいことになるのは、参議院比例区の非拘束名簿方式でドント式を採用しているという状況の下では個人で概ね100万票を超えなければなりません

そうでなければ「個人の得票が他の候補者に恩恵を与える」という関係にはなりませんから、「赤松健に投票すると表現の自由に圧力をかける議員にもその票が使われる」おそれすら生じません。

なぜ100万票なのか?

参議院比例区の当選者の決定方法は、非拘束名簿式の元、「ドント式」と呼ばれる計算方法を用いて[政党+その政党の個人]の得票数に比例して各政党に議席が配分され、その中で個人の得票数の上位の候補者が当選するというものです。

https://www.city.bando.lg.jp/page/page000591.html

イメージ図はこのようになります。

現実世界では政党が複数存在し、全体の得票数(投票数)は約5000万票です。

参議院の改選議席のうち、比例区は毎回約50議席ですから、この数字で割ると、「100万票」という数字が出てきます。

つまり、約100万票が政党の議席数1個分、という風に、最近の投票数の実態からは言えるわけです(有権者投票率100%なら200万票くらいになる)。

仮に赤松健氏が約100万票を超える得票をしない前提で自民党内の得票数上位に押し込めることができれば、赤松氏の得票分は100%赤松氏のために使われ、「自民党」と書かれた得票数の恩恵を赤松氏が受けるだけということになります。
※再度言うが前項で説明した各政党の議席配分の増加への貢献とそれにより受ける恩恵は無視した説明です。

したがって、シンホリ氏のツイートはこの意味でも非現実的な主張なわけです。

そして、仮に100万票を超えた場合でも、その恩恵は他の候補者に薄く広く平等に行き渡るのですから、ほとんど意味の無い指摘です。意味の無い指摘が大好きですね。

ちなみに自民党だけで言うと、個人の得票数だけで政党の1議席分を超えた例は比例代表非拘束名簿方式にしてから数名しか存在しません。

さて、【一人の候補者に過剰に集中することによるマイナスの影響】についても考えてみましょう。

ある界隈(主張)の利益を代表する候補者に得票が集中することのデメリット

ある界隈(主張)、たとえば漫画・アニメ業界の利益を代表する活動をしてくれそうな候補者が5人いたとします。

その界隈の有権者がその候補者のうちの1人だけに票を集中させた場合、どうなるでしょうか?他の候補者の党内での順位が下がり、当選できなくなるかもしれません。

逆に、「漫画・アニメを規制しろ(暴力や性表現など)」という主張の議員の得票数がが相対的に上がり、当選するかもしれません。

たとえば…

________

1:漫画・アニメ候補A:50万票
2:漫画・アニメ候補B:30万票
3:漫画・アニメ候補C:20万票
4:漫画・アニメ候補D:20万票
5:漫画・アニメ候補E:20万票
6:アンチ漫画・アニメ候補X:15万票

________

こうだったのが…

________

1:漫画・アニメ候補A:100万票
2:アンチ漫画・アニメ候補X:15万票
3:漫画・アニメ候補B:10万票
4:漫画・アニメ候補C:10万票
5:漫画・アニメ候補D:10万票
6:漫画・アニメ候補E:10万票

________

こうなります。

現実には他の候補者も居るので、もっと順位の低下が起こります。

もっとも、これはある界隈の有権者らの票が十分にある、という前提です。

票を集中させなければ1人の候補者すら当選させることができない、という状況であれば別でしょう。

ただ、今話題になっている漫画・アニメ業界の有権者というのは、そういう状況ではないように映ります。

結局は自分が応援したい人に投票すれば良いと思いますし、界隈の得票をすべてコントロールできるとは思わないので(特に漫画アニメ界隈は個人が独立して意思決定している印象)あまり心配はしていませんが、計算上はこのような展開になるということは頭の片隅に入れておくと良い気がします。

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