事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

カナダで外国人参政権・地方参政権が認められているという誤解

 

カナダの外国人参政権の現状

カナダで外国人参政権が認められているという誤解が少なからずあります。

私が疑問に思って調べてみたら、これは伝言ゲームのせいであったり、一部の報道で勘違いが発生したものと思われます。

カナダの外国人参政権の事情

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https://www.waseda.jp/folaw/icl/assets/uploads/2014/05/A04408055-00-046010043.pdf

カナダの「外国人参政権」の事情を調べると、一般的な外国人参政権が付与されているという情報はありません。

「サシュカチュワン州で一部の英連邦市民にのみ地方参政権が与えられている」とするニュージーランドの外国人参政権 後藤光男 山本英嗣 という報告もありますが…

https://www.elections.ca/content.aspx?section=res&dir=his&document=chap3&lang=e

Right of foreigners to vote - Wikipedia

上記サイトを見ると、どうもサシュカチュワン州で一部の英連邦市民にのみ地方参政権が与えられたのは1971年6月23日の選挙に際してであり、2007年のサシュカチュワン州のHPには、カナダ人であることが要件として記載されているが、この時に選挙権があった一部の英連邦市民は選挙権がある、という書き方になっています。

追記:法規としてはサシュカチュワン州憲法の【The Election Act, 1996, S.S. 1996 c.E-6.01, s.16(2).】に根拠があります。これは現在も有効のようです。

https://www.canlii.org/en/sk/laws/stat/ss-1996-c-e-6.01/latest/ss-1996-c-e-6.01.html

以降、カナダや現地コミュニティの分析をした文章においても、外国人参政権の存在が語られることはありません。

ヴァンクーバーにおける華人コミュニティと華人秘密結社洪門民治党の現状 安田峰俊

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カナダの投票情報サイトでは、18歳以上のカナダ人が州選挙で選挙権がある、とだけ記述されています。

カナダで外国人参政権が認められているという誤解

 魚拓

では、なぜ「カナダで外国人参政権が認められている」という誤解が一部で広がっているのでしょうか?

このアカウントだけでなく、Twitter上では検索するといくらでもこのような認識の者が見つかります。

バンクーバーでのチャイニーズコミュニティの報道

Twitter上では既に2009年にはカナダと外国人参政権(地方参政権)が結び付けられている投稿を目にすることができます。

このような認識を持つに至った原因と考えられるものとして、「海外脱出」中国人がカナダで大暴走】と題するノンフィクション作家、河添恵子氏の週刊文春2008年7月31日号の寄稿が挙げられます。

2010年のバンクーバーオリンピックを控えた時期から、彼女の文章が多く拡散されているのがTwitter上で確認できます。ネット上で検索すると、多くの個人ブログでこの記事の文章が転載されている別のブログのURLが引用されているのが確認できます。

河添氏の趣旨は、バンクーバーで中国人移民が増えたことによってチャイニーズコミュニティが発生、既存コミュニティ内での中華系住民の勢力が強まり、他の住民の生活習慣を破壊するような行動が目に余るようになっている(マンションの管理組合でルールを守らないことが問題視されていたが、過半数を中華系住民が占めるようになり、ルール変更、それまでの住民が出ていったなど)という現地の現状を伝えるものです。

同様の問題を伝える記事は、2019年にファーウェイCEOが勾留された時期に多く報道されるようになります。たとえば巨額の中国マネー、カナダに流入 豪邸が爆買いされ、地元住民が取り残された:朝日新聞GLOBE+

しかし、彼女の文章には、外国人参政権との関連はまったく記述されていません。

何かの拍子で、いつの間にか外国人参政権との関連で認識するような人が出始めたのです。

民主党政権時代に外国人参政権の可能性が危惧された

「カナダ」「中国人(中華系)住民による地域コミュニティ破壊」「外国人参政権」

これらを結び付けた認識をするようになった要因としては、当時の民主党政権下の平成21年(2009年)において鳩山由紀夫議員が「日本は日本人だけのものではない」などと発言したことも影響しています。

カナダにおける中華系住民らの行動に関する報道に対して、「地方参政権を与えたらどうなるか…」というコメントをする者も目立ちます(このコメント自体はカナダにおいて外国人参政権が認められていると認識しているわけではない)。

このような危惧がなされている中で、当時、いわゆる保守系の間での支持が高かった田母神俊雄氏もブログで河添恵子氏の中国人の世界乗っ取り計画【電子書籍】[ 河添恵子 ]を引用し、カナダのリッチモンド市において中華系移民が半数を超えたことなどを捉えて、日本における外国人参政権付与に対して警鐘をならしているのが分かります。

リッチモンド市が存在するブリティッシュコロンビア州の選挙の立候補者の顔ぶれを見ると、中華系の候補者が多数いるのがわかります。(参考

しかし、この中でもカナダで外国人参政権が認められているという記述は、まったく存在していません。

出でよ日本派の政治家 | 田母神俊雄オフィシャルブログ「志は高く、熱く燃える」Powered by Ameba

リッチモンド市長選に立候補した洪紅"Hong Guo"弁護士

カナダの中国人女性市長候補「中国に人権侵害ない、弾圧はウソ」大紀元魚拓

中国国務院外国専門家局で法務を担当していた洪紅=Hong Guo氏 が、2018年のリッチモンド市長選挙に立候補した件が報道されています。

結局、汚職事件の疑惑などによって、市長職にはなっていないようですが、ファーウェイCEOの勾留が行われた際に弁護士として登場しているので、職業活動はそのまま行っているようです。

彼女の国籍について、大紀元の記事では表題で「中国人」となっているため、この報道を見た人が「カナダでは外国人参政権が一般的に認められているのだ」と勘違いした可能性があります。この記事はライブドアニュースにも転載され、かなり拡散されました。

しかし、彼女については中国系カナダ人と表現するツイートが見つかります。日本語のツイートは以下。

カナダのブリティッシュコロンビア州のHPでは、カナダ人に選挙権があるとしていますが、州内の地方選挙では州選挙法が適用されないと書かれているので、各自治体の選挙の事情を見る必要があります。

しかし、リッチモンド市が出している2014_voter_s_guide魚拓)では、選挙権の資格者をカナダ人に限定しています。

カナダで外国人参政権が認められている?リッチモンド市の選挙資格

投票権(選挙権)と被選挙権は一応区別されますが、洪紅=Hong Guoの立候補書類にも"I am Canadian Citizen" というチェック項目があり、誓約署名があります。

2018 General Local and School Election

したがって、リッチモンド市は外国人参政権を認めていません。

なお、彼女に中国籍があるのか、あるとしてカナダで二重国籍者に被選挙権を認めるのか、については分かりません。中国視点では中国の国籍があるのかもしれません。

この点に関連して、目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画【電子書籍】[ クライブ・ハミルトン ]では、表向き中国では二重国籍は禁じられているが、それでは中共の海外戦略に都合が悪いので、現実には外国籍を取得しても中国のパスポートも持ち続けているケースが多いという旨が書かれています。

まとめ:カナダで外国人の地方参政権が認められているという誤解

  1. カナダの国政選挙、州レベルでの選挙において外国人参政権は認められていない
  2. 過去に一部の都市で特定の選挙において外国人参政権が認められていたに過ぎない
  3. しかもそれはカナダがイギリス連邦の一国であるということから、英国国民の一部にそれが認められていただけ
  4. 州よりもさらに小さいレベルの自治体(市町村)では異なるルールがあり得る可能性があるが、話題になっていたリッチモンド市においても外国人には投票権=選挙権と立候補権=被選挙権を認めてはいない

流石に全ての自治体の選挙のルールを見ているわけではないので、「カナダで外国人に対する地方参政権を認めているところは無い」と言い切ることはしません。

しかし、認めているとする証拠がまったく出てきていないというのもまた事実です。

以上