事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

「欧州議会がカタールのW杯スタジアム建設従事の外国人労働者ら数千人死亡と主張」⇒【偽】共同通信報道のファクトチェック

虚偽報道です。

※FIJなどの一定の形式に則ったファクトチェック手法を用いたものではありません。

共同通信「欧州議会がカタールのスタジアム建設従事の外国人労働者ら数千人死亡と主張」

https://archive.is/duhFo

カタール人権状況「遺憾」 欧州議会が決議 2022/11/24 共同通信

共同通信が「欧州議会がカタールのスタジアム建設従事の外国人労働者ら数千人が死亡したとして、調査の実施を要求」と報道。

この記事は産経新聞や東京新聞などにも掲載されて拡散されています。

結論から言ってこれは【偽】報道です。

共同通信報道のファクトチェック⇒【偽】EU議会はスタジアム建設という限定なし

報じられているのは11月24日にEU議会が採択した決議文である【Situation of human rights in the context of the FIFA world cup in Qatar】。

しかし、"stadium"という単語はありませんし、そのような限定をすると理解できる文脈はありません。

"during construction works" "construction sectors"  "construction sites"という表現にとどめています。

また、海外メディアもこの決議について報じていますが…

これらはいずれも欧州議会の決議文から外れた表現はせず、「スタジアム建設で」などとは一切書いていません。

原因分析:「スタジアム建設で」が付加されて報じられる遠因

  1. 却下された決議案において「スタジアム建設で」という文言があった
  2. 欧州議会のカタールとの交渉担当者であるNacho Sánchez Amorの発言に仄めかすものがあった
  3. 従前の言説の影響があり、決議文の原文を読まずに書いた

マスメディアのレベルで「スタジアム建設で」という尾ひれがついて報じられてしまう遠因として考えられるのが上記3つの事情です。

1:却下された決議案において「スタジアム建設で」という文言があった

実際に採択された決議文には「スタジアムの建設で」という文言はありませんが、決議案は複数あり、そのうち当該文言が含まれている決議案の文面があります。

※採択された決議は P9_TA(2022)0427であり(2022/2948(RSP))、元となった決議案はRC-B9-0538/2022(B9-0539/2022, B9-0541/2022, B9-0542/2022, B9-0543/2022, B9-0537/2022, B9-0538/2022の動議の置き換え版)であり、 B9-0537/2022 and B9-0539/2022 は却下されている

しかし「スタジアムの建設で」や「少なくとも6500人の」という文言が含まれている決議案(B9-0537/2022 and B9-0539/2022)は却下されたということが書かれています。

2:欧州議会のカタールとの交渉担当者であるNacho Sánchez Amor議員などの発言

S&Ds negotiate the European Parliament’s message on human rights violations in Qatar, urging FIFA to wake up! Published: 24/11/2022

Nacho Sánchez Amor, S&D human rights spokesperson and European Parliament’s negotiator on the resolution on human rights in the context of the FIFA World Cup in Qatar:

“Today, we will reiterate our concerns. This is our duty, because stadiums for the greatest tournament on Earth are built at the cost of thousands of workers’ lives, and because women and the LGBTIQ persons in the host country live in extremely regressive conditions. Our Group has always fought for their rights to be respected everywhere in the world, and Qatar is no exception.

欧州議会のカタールワールドカップに関する人権交渉担当者であるNacho Sánchez Amor議員が、採決にあたって「地球上で最も偉大な大会のためのスタジアムが、何千人もの労働者の命を犠牲にして建設されている。」と発言したと報じられています。

※追記:Lives(=Lifeの複数形)は「生活」や「人生」の意味で用いられることもある

決議にあたって、賛同議員らからこのような発言があったために、決議の内容にもそのような文言が入れ込まれている、とメディアが思い込んだ可能性があります。また、当該決議の採択以前の討議において同様の発言がみられ、それが参照された可能性もあります⇒議事録はこちら

しかし、決議のオフィシャルは文書の形式であり、実際に採択された決議文には「スタジアムの」という文言は無いということ、その文言が含まれている決議案の文面は採択されなかったということは前述の通りです。

3:「スタジアム建設で」という限定がかかった言説の従前からの拡散と原文の未調査

『カタールワールドカップの「スタジアム建設で移民労働者6500人が死亡」』という限定がかかった言説が従前から拡散されていました。

これは「英ガーディアン紙が報じた」などと言われますが、報じてません。

元のガーディアン記事は「スタジアム建設で」という限定を付していませんし、「ワールドカップに関連して」という文脈を明示したこともありません。

ただ、そのような印象となるような仄めかしは記事中で行っていたとは言えます。

こうしたことも含めてドイツの放送局がファクトチェックをしており、正確な理解をするには言及対象の「時間・場所・人・因果関係」の範囲を注意深く見ていく必要があります。

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