事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

HPVワクチン論文を紹介するブルームバーグとハフポストの記事が隠蔽工作:報道してるフリをする自由

HPVワクチンに関する報道が歪曲されています。「報道しない自由」ではなく、「報道しているフリをする自由」を行使しているようです。要するに隠蔽です。

HPVワクチンに関する報道が歪曲されているという指摘

 媒体の参照関係を言うと

ハフポスト⇒ブルームバーグ(英語版+日本語版(※日本語訳ではない!))⇒ランセット(医学雑誌)という構造。

ハフポスト「ブルームバーグの英語版と日本語「訳」をみると」

2020年12月23日 18時33分 JST 「日本はワクチンへの警戒が根強く、普及に遅れか」ブルームバーグが伝える
ワクチンの副反応に関する報道などが、不安感を根付かせた要因になったと指摘している。

 ワクチンに関する苦い歴史が、日本にとってコロナとの闘いの障壁となっている――。アメリカの経済メディア「ブルームバーグ」が12月23日、こんな見出しの記事を掲載した
はしか、おたふく風邪、風しんのMMRワクチン(新三種混合ワクチン)接種で副反応が多発し、使用中止となったことや、HPVワクチン接種をめぐる副反応の問題がマスコミに大きく取り上げられたことなどが、ワクチンに対する不安感を根付かせた要因になったと報じている。
日本語訳の記事では、そうした背景から、「(ワクチンの)普及が他の先進国に大きく後れを取るとの見方が広がっている」と伝えている。

※リンクも再現しています。なお、日本語訳の魚拓

 同紙は、ワクチンへの不信感が強い背景として、過去の「薬害事件」が影響していると指摘している。MMRワクチン(新三種混合ワクチン)の副作用として無菌性髄膜炎が1000人に1人の割合で発症し、定期接種が1993年に中止されたことや、子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)接種後に重篤な副反応が報告されたことを受け、厚生労働省が積極的な勧奨を差し控えることを決定したことなどを挙げた。
 「日本政府は、国民の信頼を損なわないよう慎重に審議を進める必要がある」と指摘し、ワイドショー番組などの報道による影響を懸念する専門家のコメントも紹介した。

ハフポストの記事にある「日本語訳」という記述は間違いです。

正確には日本語「版」であり、内容は英語版と若干異なります。

ブルームバーグの英語版と日本語版(日本語訳ではない)

A Bitter Vaccine History Means Hurdles for Japan’s Covid Fight
By Lisa Du and Grace Huang 2020年12月23日 5:00 JST Updated on 2020年12月23日 12:16 JST

The handling of the human papillomavirus (HPV) vaccine also looms large in public memory. After media coverage on claims the vaccine’s side effects included severe headaches and seizures, the health ministry in 2013 withdrew its recommendation for the shot, which has proven safe and effective in preventing cervical cancer. While it remained available on request, the vaccination rate plummeted from 70% to less than 1% currently. That may have led to an additional 5,700 deaths, according to one study.

ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの取り扱いも、公の記憶に非常に大きく影響しています。ワクチンの副作用に重度の頭痛や発作が含まれているというメディアの報道を受けて、2013年に厚生労働省は、子宮頸がんの予防に安全で効果的であることが証明された注射の勧奨を撤回しました。当該ワクチンは要求すれば利用可能でしたが、ワクチン接種率は現在70%から1%未満に急落しました。ある研究によると、それはさらに5,700人の死亡につながった可能性があります。

ワクチンに警戒感根強い日本、普及後れの可能性-過去の薬害が影か
黄恂恂、Lisa Du 2020年12月23日 5:00 JST

近年では子宮頸(けい)がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)感染予防のためのワクチン接種を巡る副反応が大きな話題となった。

 早稲田大学政治経済学術院の田中幹人准教授(科学技術社会論)は、センセーショナルに報道する傾向があるワイドショーの影響を懸念していると話す。ワクチンの恩恵を最も大きく受けるのが高齢者である一方で、高齢者にとっては「ワイドショーが重要な情報源」となっているためだという。

 東京大学大学院の坂元晴香特任研究員(公衆衛生学)は、新型コロナワクチンの接種を普及させるためには政府やメディアが積極的に広報の役割を果たすことが求められると指摘する。HPVワクチンではメディアが副反応を大きく取り上げた結果、最終的には政府が積極的勧奨を差し控える事態となったことを例に挙げ、それぞれが果たす役割は重要との認識を明らかにした。

  その上で、ワクチン忌避はどこの国でも存在するものの「違うのはマスコミ報道の在り方とそれに対する政府のスタンス」と述べた。

英語版と日本語版の違いが分かるでしょうか?

英語版と異なり、日本語版は東大の坂元研究員の個人的な見解として「メディアが副反応を取り上げた結果、政府が積極的勧奨を控える事態となった」という記述になっていますが、英語版はブルームバーグの認識として書かれています。

さらに、英語版では「安全で効果的であることが証明された注射」とあるのが、日本語版ではごっそり抜け落ちています。

メディア報道によってワクチン接種率は現在70%から1%未満に急落し、さらに5,700人の死亡につながった可能性がある、ということについて書いたのが次項のランセットの論文です。

(※ブルームバーグの記事にはもう一つ、【Mapping global trends in vaccine confidence and investigating barriers to vaccine uptake: a large-scale retrospective temporal modelling study ワクチンの信頼性における世界的な傾向のマッピングとワクチン摂取の障壁の調査:大規模な後ろ向き時間モデリング研究】というランセット論文のリンクが貼ってあるが、日本のHPVワクチンに関するものに特化したのは次項のもの)

次項のランセットの論文は、ブルームバーグの日本語版記事にはリンクが貼ってありません。

ランセットの論文「日本の子宮頸がんに対するHPVワクチンの躊躇の影響」

囲み部分にHPVワクチンに関する日本の報道と政府機関について述べている部分があります。

Impact of HPV vaccine hesitancy on cervical cancer in Japan: a modelling study

  Although the HPV vaccine is still included in the Japanese national immunisation programme and is provided free of charge for girls aged 12–16 years, the Japanese Government suspended proactive recommendations for the vaccine in June, 2013, after unconfirmed reports of adverse events following immunisation appeared in the media. Vaccine coverage declined rapidly from more than 70% to less than 1%. Despite a large amount of evidence supporting the safety of HPV vaccination, the suspension of proactive recommendation has now continued for more than 6 years, and has not only negatively impacted vaccine confidence within Japan, but might also have influenced the perception of the vaccine in other countries, such as Denmark, Ireland, and Colombia. In January, 2019, WHO listed vaccine hesitancy as one of the top ten threats to global health.

HPVワクチンは未だなお日本の全国予防接種プログラムに含まれており、12〜16歳の少女に無料で提供されていますが、予防接種後の有害事象に関する未確認の報道がメディアで為された後日本政府は2013年6月にワクチンの積極的な勧奨を一時停止しました。ワクチン接種率は70%以上から1%未満に急速に低下しました。HPVワクチン接種の安全性を裏付ける大量の証拠があるにもかかわらず、積極的な勧奨の停止は現在6年以上続いており、日本国内でのワクチンの信頼性に悪影響を及ぼしただけでなく、デンマーク、アイルランド、コロンビアなどの他の国でのワクチンの認識にも影響を及ぼした可能性があります。2019年1月、WHOは「ワクチンを躊躇すること」を世界の健康に対する脅威のトップ10の1つとして挙げました。

ランセットの論文では、日本におけるメディアによる報道がHPVワクチン接種の低下を引き起こし、さらには他国でのワクチンに対する認識にも影響を及ぼした可能性があると痛烈に批判しています。

ブルームバーグの英語版の記事も、マイルドな表現になっているのが分かるでしょう。

この論文の参考文献の一つに、私が以前に紹介した論文があります。

それが「日本の新聞におけるヒトパピローマウイルスワクチン接種に関するメディア報道の傾向」というもので、朝日新聞の記事がHPVワクチン副反応に関する報道の火付け役になった、ということを指摘する論文です。英語での正式名称と著者と掲載誌は以下。

22.Tsuda K Yamamoto K Leppold C et al.
Trends of media coverage on human papillomavirus vaccination in Japanese newspapers.
Clin Infect Dis. 2016; 63: 1634-1638

日本の新聞におけるヒトパピローマウイルスワクチン接種に関するメディア報道の傾向(論文)

Trends of Media Coverage on Human Papillomavirus Vaccination in Japanese Newspapers

この論文の内容の重要部分について、以下で日本語でまとめています。

2013年3月8日の記事(朝日新聞の記事)がHPVワクチンの副反応やリスクが喧伝される「発端」であると指摘しています。

朝日新聞がHPVワクチンの副反応への過剰反応を引き起こした発端の記事

朝日新聞がHPVワクチンの副反応を過剰に煽り立てた報道の発端の記事

朝日新聞2013年3月8日朝刊37面の記事です。

WEB版は1か月後には削除されていますが、何か謝罪や修正等があったわけでもありません。この事は以下でまとめています。

名古屋スタディ

No association between HPV vaccine and reported post-vaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya study
Sadao Suzuki⁎ and Akihiro Hosono
 日本の若い女性におけるHPVワクチンと報告されたワクチン接種後の症状との間に関連性はない:名古屋研究の結果

いわゆる「名古屋スタディ」と呼ばれる大規模調査論文が重要かつ有名です。

こちらの論文の内容説明については本稿の取り扱える範囲を超えるので紹介にとどめます。

まとめ:日本人を舐めて英語記事内容を隠蔽する朝日系のハフポストと日本語版ブルームバーグ

  1. ランセットの論文とブルームバーグの英語版には、日本国内においてメディアの報道によって安全性が証明されているHPVワクチンの接種率が低下した、ということが明確に書かれている
  2. ランセット論文ではさらに日本国内にとどまらず他国のワクチンに関する認識に影響を与えた可能性すらあるとしている
  3. ブルームバーグの日本語版は、英語版から「安全性が証明されているHPVワクチン」という情報と、ランセット論文のリンクを隠蔽している
  4. ハフポストは英語版のリンクも貼りながら、内容は日本語版のリンクに依拠しており、更には日本語「訳」と、両者が同一であるとする事実誤認の記述をしている

日本語版ブルームバーグもハフポストも、日本人が英語が読めないと思っているのか、こうした情報の歪曲をしているのです。

とはいえ、ハフポストはリンクを貼っているだけ、読者に検証の機会を与えているため、かなりマシだと言えるでしょう。オールドメディアはそれすらしないのですから、かなり悪質です。

おそらくこの内容は更に「濾過」されて朝日新聞や週刊誌・ネットメディアに転載されるでしょうが、そうするともはや検証可能性がゼロになっているでしょう。

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