愛知朝鮮高校の無償化を求めた訴訟で最高裁でも原告敗訴となりましたが、これに関する報道が少しミスリーディングなので本件の内容を整理します。
- 朝鮮学校無償化訴訟
- 朝鮮学校無償化愛知訴訟、最高裁でも敗訴
- 「勘違いする者」が出現
- 教育内容以外の不当な支配
- 教育内容が朝鮮総聯による不当な支配を基礎づける判示
- 朝鮮学校は「自律的運営の欠如と朝鮮総聯の介入」が本質
朝鮮学校無償化訴訟
朝鮮学校無償化訴訟は東京・大阪・愛知・広島・福岡で提起されていました。
このうち、東京と名古屋と福岡は元生徒ら(卒業生)が原告、広島と大阪は朝鮮学校の運営法人が原告です。
最高裁判決が出ていたのは東京・大阪訴訟で、いずれも原告(朝鮮学校・卒業生側)が敗訴しています。大阪訴訟では地裁で原告が勝ちましたが、高裁で覆りました。
広島・福岡は地裁で原告が敗訴した後、高裁での審理が続いています。
広島高裁では2020年10月16日、福岡高裁では10月30日に判決言渡しの予定です。
朝鮮学校無償化愛知訴訟、最高裁でも敗訴
2審の名古屋高等裁判所は、去年10月、「学校の運営に朝鮮総連=在日本朝鮮人総連合会が介入し、北朝鮮の政治指導者を崇拝しその考えやことばを絶対視するようになっている。教育基本法に規定がある『教育の不当な支配』にあたり、国の判断は違法とは認められない」と指摘し、1審に続いて元生徒らの訴えを退けました。
朝鮮学校無償化愛知訴訟も、最高裁で敗訴が確定しました。
しかし、この記事だけを見ると、「教育内容」だけをもって教育基本法上の「不当な支配」を認定したと理解する者が出てきます。「朝鮮総連の介入」も、「教育内容」にのみかかっている書き方になってます。
教育基本法
(教育行政)
第十六条 教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない。
「勘違いする者」が出現
すべての子どもが差別なく教育を受ける権利すら守れないなんて、まともな国じゃない。 https://t.co/H2R9XNdSiM
— 影書房 (@kageshobo) 2020年9月4日
「教育の不当な支配」を持ちだすのなら、日の丸・君が代の強制に反対した教員への不当処分に対する裁判でも、「強制と処分はおかしい」という判決を出すのが筋では。
— 影書房 (@kageshobo) 2020年9月4日
NHKの記事を引用する者が、「教育内容」だけのせいで「不当な支配」が認定されたと勘違いしてこのようなツイートをしています。
まぁこのアカウントは確信犯でしょうけど
こういう存在を再生産する報道はやめていただきたい。
教育内容以外の不当な支配
名古屋地裁 平成30年4月27日判決 平成25(ワ)267 平成25(ワ)267
最高裁判決文は手に入っていませんが、名古屋高裁の判決文を見ると、名古屋地裁の判決文を踏襲しており、補充主張に対する追加的判示が為されている部分が多いため、ネットでも見れる名古屋地裁の判示内容から、「教育内容」以外の事情で「不当な支配」を認定したものを示します。
朝鮮総連の傘下団体の教育会が実質的に朝鮮学校の運営をしている疑念
a すなわち,愛知朝鮮学園の理事会は,同学園の業務を決し,理事の職務の執行を監督するとともに理事長を選任する機関であり(私立学校法64条5項,36条2項,35条2項,愛知朝鮮学園寄附行為〔甲全4の10〕5条2項,17条),評議員会は,理事を選任するほか,予算や事業計画など学園の業務に関する重要事項に関する諮問を受ける機関である(私立学校法64条5項,38条,42条1項,愛知朝鮮学園寄付行為〔甲全4の10〕6条1項,22条)等,いずれも愛知朝鮮学園の運営に関して重要な役割を果たすべき存在である。
b しかしながら,前記イ aのとおり,朝鮮総聯のホームページには,平成24年3月まで,「朝鮮学校の管理運営は,朝鮮総聯の協力のもとに,教育会が責任をもって進めている」との記載が存在していたのであり,この記載は,朝鮮学校の運営が朝鮮総聯の傘下団体である教育会において実質的に行われているのではないかとの合理的疑念を生じさせるものである。
朝鮮高校の管理運営をしているとする愛知朝鮮学園については、朝鮮総連と人的に密接な関連を有し、北朝鮮から多額の資金援助を受けていることが認定されましたが、それだけでは「不当な支配」の合理的疑念を認定するべきではなく、一般的関与を超える介入であって、教育本来の目的を歪めるものに至っているかを検討するべきだとしてこのような詳細な認定をしています。
その事情の一つとして、朝鮮総連の傘下団体の教育会が実質的に朝鮮学校の運営をしている疑念が指摘されています。この根拠がホームページ上に「朝鮮学校の管理運営は,朝鮮総聯の協力のもとに,教育会が責任をもって進めている」との記載が存在していたことです。現在は消されていますが、魚拓はこちら。
愛知朝鮮学園の借入債務が教育会名義で会計上の意思決定が自律的に行われていない疑念
c また,準学校法人が学校の運営費のために行う借入金は,評議員会に諮問した上で(私立学校法64条5項,42条1項1号),理事会において決すべき事項であるところ(同法64条5項,36条2項),前記イ bのとおり,平成23年時点で愛知朝鮮学園がRCCに対して負っていた約14億円の借入債務は,学校運営費のための借入金であるとの説明がされているにもかかわらず,その多くが教育会名義での借入れとなっている。しかも,支援室からの確認に対し,愛知朝鮮高校は,上記借入債務について,理事会・評議員会の意思決定の有無を確認できない旨の回答をしているほか,借入れの詳細が分かる書類も学園内には存在しない旨を回答するなど( イ,同エ),理事会・評議員会において意思決定を自律的に行っている準学校法人とは考え難い回答をしている。
- 愛知朝鮮学園の借入金債務が教育会名義
- 借入債務について理事会・評議員会の意思決定を確認できない
- 借入れの詳細が分かる書類も学園内には存在しない旨
これでは会計上の意思決定が愛知朝鮮学園の自律的判断において行われているとすることは困難でしょう。
他の訴訟の判示でも指摘されていますが、これでは補助金を投入しても教育に使われるのではなく別目的に転用される危険が高いでしょう。
愛知朝鮮学園の理事会開催状況が不存在
そして,上記借入れが行われたのは平成9年から13年頃のことではあるが,愛知朝鮮学園は,現在の理事会の開催状況についても,理事会開催を裏付ける書類(出欠票や欠席者の委任状等)は特に存在しないと回答している上( エ),役員名簿と理事会等の出席者が一部合致していないことも確認されており(乙184),さらには,平成24年3月時点で前記bのとおりのホームページの記載もあったのだから,本件不指定処分時に,愛知朝鮮学園の理事会・評議員会が法令に従って自律的な意思決定を行っていると合理的疑念なく認められる状況ではなかったといえる。
【理事会開催状況が不存在】などという学校の管理運営の母体なんてもはやあり得ないでしょう。別の存在によって実質的に運営されていると考えるのが筋です。
教育内容が朝鮮総聯による不当な支配を基礎づける判示
教育内容についての言及は、これらに加えてのものでした。
改めてここでも紹介します。
次に,愛知朝鮮高校における教育内容について見るに,この点においても,朝鮮総聯が愛知朝鮮学園に「不当な支配」を及ぼしているのではないかとの合理的疑念が存在するといわざるを得ない。
a まず,前記イ aのとおり,朝鮮高校が使用している教科書は,平成22年以前まで朝鮮総聯中央常任委員会に置かれた「教科書編纂委員会」によって編纂されており,総聯中央副議長が責任者になるなど,朝鮮総聯の意向を色濃く反映した教科書編纂がされていたことがうかがわれる。その後,教科書の編纂者は「学友書房 教科書編纂委員会」と改められたが,学友書房も朝鮮総聯の事業体である上,学友書房が朝鮮総聯中央の指導の下で教科書編纂を行っていたことは,「朝鮮新報」の記事から認められる。
b もっとも,前記 のとおり,在日外国人学校が外国本国ないし在日民族団体から教育内容について影響を受けること自体は一般的にもあり得ることであるから,上記aの事実のみをもって「不当な支配」が合理的に疑われることにはならない。しかしながら,朝鮮高校で使用されている教科書には,北朝鮮の最高指導者を絶対視し,これを賛美・礼賛する表現が多数見られるのであって(前記イ b),その内容は,授業内容に対する批判能力が未だ十分とはいえない後期中等教育段階にある生徒に対して,一方的に偏った観念を植え付けるものなのではないかとの疑いを抱かせるものである。
c また,このような教育は,その規約上,北朝鮮の政策を高く奉じ,朝鮮総聯の綱領を固守することを任務としている朝青を通じて,朝青の加盟員である愛知朝鮮高校の生徒に対し,課外でも行われているのではないかとの疑いが存在する(前記イ c)。さらに,朝鮮総聯は,朝鮮学校において,北朝鮮の最高指導者を崇拝し,その考えや言葉を絶対視するような教育を行うべきことを,教職同等を通じて,校長や教員に繰り返し指導していることも認められる(前記イ d)。
- 教科書編纂が朝鮮総聯指導の下行われている
- 朝鮮高校で使用されている教科書には北朝鮮の最高指導者を絶対視・賛美礼賛
- 朝青による課外授業でも上記指導が行われている疑惑
- 生徒だけでなく教職員らに対する指導も存在
朝鮮学校は「自律的運営の欠如と朝鮮総聯の介入」が本質
こうしてみると、教育内容に基づく「不当な支配」の認定は、補助的な要素だというのが分かるでしょう。
むしろ、朝鮮学校が自律的運営が為されておらず、会計処理の主体であったり、運営の主体が朝鮮総聯やその傘下組織によるものであるという疑念を生じさせる事情が本丸であるのが見て取れます。
たとえばアメリカ礼賛の日本の私立高校があったとして、その運営においてアメリカの関与がまったく存在せず、自律した管理運営の事実が認められるのであれば、教育内容がアメリカ礼賛だったとしても、「不当な支配」は認められない可能があると考えられます。もっとも、そのような教育内容それ自体が是認しがたいため、ここは立法課題とされるべきだと思います。
逆に礼賛とまではいかないが巧妙なプロパガンダが要所に仕掛けられていた場合、管理運営への他国の介入の程度によって不当な支配が認定されるでしょう。
したがってNHKの報道は少しミスリーディングではないでしょうか?
朝鮮学校側は名古屋高裁において、「教育内容」については不当な支配の考慮要素とするべきではないと主張していましたが、それも退けられています。
朝鮮学校側は「教育内容への日本政府の介入」を強調して報道対応していますが、それはいつもの「差別」「お涙頂戴」の世論戦術なので、それに加担するような報道になってはいけないと思います。
以上