事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

政府の民間チャーター機による有料邦人輸送の理由:邦人退避・保護の外務省の内規と過去の事例

何度も話題になると思われるのでまとめ。

イスラエルからの邦人退避に「日本有償・韓国無料」自己責任批判

https://archive.is/k6fh4 https://archive.is/eIGGK

立憲民主党の泉健太代表やジャーナリストの江川紹子氏などが、政府がチャーターした民間機によるイスラエルからの邦人退避に関し、搭乗費が有償であることを「韓国は無料」と比較して批判していますが、コミュニティーノートが付くなどされて反論を受けています。

国際的には一般に軍用機で運ぶ場合は無料、民間機は有料

今回、韓国が軍用機を派遣し、それに日本国民も50人程度が搭乗しましたが、国際的には一般に軍用機での輸送では無料とされ、民間機チャーターの場合は有料としている例が多いです。

令和5年10月16日(月)午後 | 官房長官記者会見 | 首相官邸ホームページ

  • 引き続き定期商用便を利用して出国するという現実的な選択肢がある
  • 実際に航空券を購入して定期商用便で出国している日本人も多くいる

松野官房長官は、今回に関してはこれらの事情を踏まえ、総合的な判断としてチャーター便の利用者に1人当たり3万円を負担してもらうことにしたと説明しました。
※アラブ首長国連邦(UAE)のドバイまで8人の利用

また、アメリカやイギリスも同様の費用徴収を行っていること、外務省発表の危険レベルと直接関係するものではないことも明示しました。

自衛隊機については、2023年4月のスーダン在外邦人等輸送において搭乗者に運賃の負担はお願いしていないと承知している、と回答しました。

こうした対応は従来の政府の方針と変わりません。

小泉・菅直人政権時代の答弁「唯一の移動手段でない限り費用負担」

平成23年9月12日現在  エジプトからの邦人救出に関する質問主意書

チャーター機を派遣する場合、同機が唯一の移動手段でない限り、受益者負担の観点及び商用便を利用する他の邦人旅行者等との間の公平性確保の観点から、利用者に応分の費用の負担を求めることとしている。今回は、チャーター機の借り上げに要した費用を利用予定者数で割った額から、支払の簡便性及び余剰金の発生防止の観点から千円未満の額を除いた額である三万四千円を、一人当たりの負担額としたところである。また、当初チャーター機の利用を予定していたもののその後商用便の利用に変更した者からは、当時の現地の状況に鑑み、費用を徴収しないこととしたところである。そのため、実際の利用者全員から負担額を徴収しても不足額が生じることとなったが、これについては、政府の重要な任務の一つである海外邦人保護業務の実施により生じた経費として、国庫にて負担することもやむを得ないと考えている。

当時民主党だった現在立憲民主党に在籍している菅直人議員が総理大臣として政権を担っていた時代も同様。立憲民主党の泉代表は、これを無視しているのでしょうか?

「唯一の移動手段でない限り費用負担」という一定の基準が示されています。

それ以前の小泉政権時代も同様の答弁をしています。

緊急事態時における在外邦人等輸送のための政府チャーター機利用者よりの搭乗費用の徴収規程

平成十六年六月二十二日 内閣総理大臣

小泉純一郎衆議院議員小林千代美君提出イラクにおいて拘束された邦人三名の解放から現在に至るまでの政府の対応に関する質問に対する答弁書

一について
 海外における邦人の生命及び身体の保護等の事務の遂行に当たって政府が要する経費は、政府が負担することとしている。本人又はその家族(以下「本人等」という。)の航空費、滞在費等、本人等にかかわる経費については、本人等に負担してもらうこととしている。
 このような基準について、特段の内規等は定めていないが、政府が海外において邦人の生命及び身体の保護等に当たる場合には、従来からこのような基準に基づいて対応してきているところである。
 また、本人等が政府チャーター機を利用する場合については、外務省の内規である「緊急事態時における在外邦人等輸送のための政府チャーター機利用者よりの搭乗費用の徴収規程」(平成十一年六月三十日制定。以下「徴収規程」という。)に基づき国際航空運輸協会(IATA)が定める正規片道エコノミークラス料金分の負担をしてもらうこととしている。
二について
 お尋ねの今回の事件についても、従来の事案と区別して扱う理由がないので、一についてで述べた基準に従い対応した。
 また、拘束された邦人三名は、バグダッドからドバイへの移動に当たって政府チャーター機を利用したが、この政府チャーター機については、徴収規程に従い、国際航空運輸協会(IATA)が定めるその区間の正規片道エコノミークラス料金分の負担をお願いした。

政府チャーター機を利用する場合の搭乗費徴収については、外務省の内規である「緊急事態時における在外邦人等輸送のための政府チャーター機利用者よりの搭乗費用の徴収規程」に基づいているとしています。

2020年に武漢からチャーター機により退避した者の航空費の扱いは例外的に無料

第201回国会 26 政府チャーター機の利用に係る費用の負担に関する質問主意書

一について

 今回のチャーター機により退避した者の航空費については、武漢市を含む湖北省の状況等様々な点を考慮して、政府が負担することとし、所要の調整を進めている。

二及び五について

 お尋ねについては、商用便を利用する他の邦人旅行者との公平性の確保等の観点から、本人又はその家族(以下「本人等」という。)の航空費等の本人等に関わる経費について、本人等に負担してもらうこととしているものであるが、今回のチャーター機により退避した者の航空費については、武漢市を含む湖北省の状況等様々な点を考慮して、政府が負担することとし、所要の調整を進めている。

最も近いところだと、2020年に中国の武漢市からチャーター機により退避した邦人に関しては、当初は8万円の費用負担を求めるとしていましたが、例外的に政府負担としました。

まとめ:政府による在外邦人退避の民間チャーター機は予算計上、妥当な政策なのか

外務省 令和5年度予算の概要

政府による在外邦人退避のための民間チャーター機手配等のための経費は予算計上されています。額は1.8億円。

既に政府見解にあったように、「受益者負担」及び「商用便を利用する他の邦人旅行者等との間の公平性確保」の観点からこうした建付けになっていると説明されています。

このように理屈は付けられるとは思いますが、それだけで全てを説明しきれるかというと難しいと思われます。

究極的には「そういう政策にするかしないか」という選択問題だと言えるでしょう。

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