総務省が4市町の特別交付税から、ふるさと納税による収入分を考慮して減額する措置を講じました。これは悪質です。
『役人が議会のチェックを経ない告示で実質的に法体系を変更している』という問題意識の下に、個人的な感想を書いていきます。
この件は以下でも記述しましたが改めて触れていきたいと思います。
- 「過度な返礼品」へのペナルティではなく「儲けすぎたこと」に対する措置
- ふるさと納税の減額措置はなぜ悪質なのか
- ふるさと納税は寄付金
- 地方交付税法の規定と総務省の裁量
- 総務省令で事後的な減額項目を追加するのは良いのか?
- 特別交付税の減額措置は自治体間の衡平の見地から財源調整をするためのもの
- ふるさと納税が減額事由となるのはありなのか
- 総務省令で特定の「寄付金」の控除は可能なのか?ふるさと納税制度との関係から
- 泉佐野市などの自治体は闘うのか?
「過度な返礼品」へのペナルティではなく「儲けすぎたこと」に対する措置
石田総務大臣は今回の特別交付税減額措置を「ペナルティではない」と発言しました。
それは、「過度な返戻品等を行った」ことに対するものではないという趣旨でした。
それとは異なり、「儲けすぎた地方自治体」に対して減額措置を行ったのです。
その意味において、実質的にペナルティと言ってよいでしょう。
ふるさと納税の減額措置はなぜ悪質なのか
素朴に考えの概略をまとめると以下になります。
- ふるさと納税は元々自治体への特別交付税から控除されない扱いだった
- 歳入の豊かな自治体への特別交付税の交付が財源配分の均衡から好ましくないとしても、事後的な省令改正で新たに項目を設けることによって特別交付税から控除するのは不意打ちで卑怯
- 特別交付税の算定上の控除事由に事後的な要因を設ける事自体は良いとしても、増収分を控除するのは、有権者の意欲や自治体の工夫を削ぐ行いであり、何かおかしい
- 今回の省令改正は、4自治体を狙い撃ちしたものなので不当
- 寄付金である「ふるさと納税」を「控除する」規定を総務省令で設けるということが、地方交付税法の解釈としてありうるのか
単純化すれば、「事後的に」「議会のチェックを経ない省令を改正」することで「特定の寄付金」歳入を考慮して「減額」措置が行われたのですが、それって良いの?という疑問です。
ふるさと納税は寄付金
「ふるさと納税」と言われていますが、税制上は税ではなく「寄付金」の扱いです。
これまでは特別交付税から控除される対象になっていませんでした。
地方交付税法の規定と総務省の裁量
地方交付税法(特別交付税の額の算定)
第十五条 特別交付税は、第十一条に規定する基準財政需要額の算定方法によつては捕捉されなかつた特別の財政需要があること、第十四条の規定により算定された基準財政収入額のうちに著しく過大に算定された財政収入があること、交付税の額の算定期日後に生じた災害(その復旧に要する費用が国の負担によるものを除く。)等のため特別の財政需要があり、又は財政収入の減少があることその他特別の事情があることにより、基準財政需要額又は基準財政収入額の算定方法の画一性のため生ずる基準財政需要額の算定過大又は基準財政収入額の算定過少を考慮しても、なお、普通交付税の額が財政需要に比して過少であると認められる地方団体に対して、総務省令で定めるところにより、当該事情を考慮して交付する。
2 総務大臣は、総務省令で定めるところにより、前項の規定により各地方団体に交付すべき特別交付税の額を、毎年度、二回に分けて決定するものとし、その決定は、第一回目は十二月中に、第二回目は三月中に行わなければならない。この場合において、第一回目の特別交付税の額の決定は、その総額が当該年度の特別交付税の総額のおおむね三分の一に相当する額以内の額となるように行うものとする。
まず、特別交付税は総務省令で定めるところにより、その額を算定しています。
総務省令とは、【特別交付税に関する省令】です。
今回の措置は、この省令を改正する告示である【特別交付税に関する省令の一部を改正する省令(総務省令第二十号)】によって行われました。
そこでは寄付金一般ではなく、「ふるさと納税」に限定して減額事由としています。
総務省令で事後的な減額項目を追加するのは良いのか?
3/20総務省省令改正が言及されていない。事後ルール変更は酷いんじゃないか。交付税交付金を役人に配分させるとろくなことない→国から自治体に年2回交付される特別交付税の今月分の交付額が決まり、ふるさと納税の寄付金が多額になっている大阪 泉佐野市な… https://t.co/HxkxcukuPk
— 高橋洋一(嘉悦大) (@YoichiTakahashi) March 23, 2019
さて、地方交付税法15条2項では12月と3月に特別交付税の額を決定することになっています。これは、当該年度の途中で追加発生した要素を考慮して金額を決めるということです。
特別交付税は多くは災害などで必要な経費が発生した場合に手当てするためのものなので、総務省令自体が「事後的な変更を予定している」と言えます。なので、事後法的な告示の改正をしていることそのものが悪いという指摘をしても、ほとんど無意味でしょう。12月を過ぎてから3月分にかかる内容を変更して良いのか?という指摘は可能と思われますが。
問題は、「特定の寄付金」たるふるさと納税を、特別交付税の算定上控除することまで総務省令でできるのか?それは地方交付税法で認められているのか?という解釈であるように思います。
特別交付税の減額措置は自治体間の衡平の見地から財源調整をするためのもの
地方交付税法逐条解説 第3版/ぎょうせい/遠藤安彦 197頁
「当該事情を考慮して交付する」とは、特別交付税の交付に当たり、当該地方団体に特別の財政需要、減額すべき額の多寡、財政事情の内容等を総合勘案して交付すべき額を決定することをいう。ー中略ー 特別交付税は、全地方団体の共有財源であり、かつ、財源調整を目的とする交付税の一部であるとともに、その年度の最終措置として決定されるものであることから、地方団体のあらゆる財政事情を総合勘案して定められることが、地方団体間の衡平の見地から必要とされているのである
交付額の算定にあたっては、総合判断によるということが一般的に説明されています。
文言を見てみると、特別交付税の算定方法を定めた地方交付税法15条1項では(途中にいろいろ書いてますが)『普通交付税の額が財政需要に比して過少であると認められる地方団体』に対して諸々の事情を考慮して特別交付税が交付されるとあります。
「財政需要に比して普通交付税が過少」であれば支出されるかもしれないということからは、「歳入が多い場合」に特別交付税の算定から控除してもよい場合があるというのはちょっと想像しにくいと思います。
しかし、自治体間の衡平を図る趣旨から減額措置も取られているのが実態です。
例えば、競馬や競輪等の公営競技による収益金の額が多額である場合には減額となる計算がなされることが当該総務省令には書かれていますし、「その他…財政収入が…過大…であること」を考慮して定める額が控除される規定もあります。
ふるさと納税が減額事由となるのはありなのか
総務省|平成30年版 地方財政白書|第1部 3 地方財源の状況
ただ、市町村の「歳入」は、各種税収である一般財源に加え、国庫支出金、都道府県支出金、地方債、その他の収入があります。
総務省が分類している「その他」の中には預金利子や財産収入がありますが、これらは包括的な形としては特別交付税における減額事由として明示的に掲げられていません。
予測ですが、公営競技による収益金が減額事由になっているのは、公営競技が国や地方自治体に財政的貢献する目的でありそのために賭博罪の適用が回避されている一方、公営競技が実施される自治体にはどうしても地域的な偏りが出るため、公営競技を実施できない自治体とで収益差が生じるため特に明示的に規定しているのではないかと思われます(現実には赤字のところが多く存在するが)。
そうではない形での収益までも減額措置の考慮事由に加えることは、当然に認められるという性質のものではないのではないでしょうか?
そこで、ふるさと納税制度が出来た趣旨から考える必要があると思うのです。
総務省令で特定の「寄付金」の控除は可能なのか?ふるさと納税制度との関係から
これまでは特別交付税の算定根拠の法令の文言に注目してきましたが、本件はふるさと納税制度も含めた法体系全体をも解釈すべき事柄ではないでしょうか。
お世話になった地域にふるさと納税をしたのに「ふるさと納税が多いから交付金は減らします」と言って無効化されるのはいいのでしょうか?
ふるさと納税によって自治体間の競争が進むことを奨励しておきながら、地方交付税法15条の特別交付税が自治体間の衡平を図る趣旨であるからといって、寄付金が過大であることを減額事由にして良いのでしょうか?
それは、ふるさと納税制度が、所管官庁がいったん集めた税金を分配するという制度の外に置かれたことと整合性はあるのでしょうか?
制度の趣旨。しばし総務省官僚がふるさと納税の趣旨とかいっているけど、あれはデタラメ。制度の趣旨は、税金配分を総務省官僚ではなく国民が行うというところ。だから創設するとき総務省は自分達の権益が侵害されると猛反対しただろ。だから常に総務省はふるさと納税を潰したがっている
— 高橋洋一(嘉悦大) (@YoichiTakahashi) February 13, 2019
ふるさと納税研究会報告書でも概ね同様のことが書かれています。
泉佐野市などの自治体は闘うのか?
2019年3月22日の総務大臣の発表に関する市のコメント/泉佐野市ホームページ
本日の石田真敏総務大臣の記者会見において、本市を含む4つの地方自治体について、3月に配分される特別交付税の減額が発表されたとの報道がありました。
20日に改正された省令に基づく措置とのことであり、総務省から本市に対して、まだ正式な連絡は来ておりません。
本市としましては、このことを厳粛に受け止め、市政運営や市民サービスに影響を及ぼさないよう、しっかりと対応していきたいと考えております。
本件で自治体が国と法廷闘争を繰り広げるのであれば応援したいのですが、ここでも述べたように特別交付税が自治体間の衡平を図るという趣旨に基づき減額措置をしていることから、基本的には自治体側が負け筋ではないでしょうか。
ただ、獣医学部の新設が半世紀も妨害されていたように、議会のチェックを経ずに自分らが恣意的に決められる告示によって、実質的に法体系を変更する官僚らの横暴を許してほしくないなと、勝手ながら思った次第です。
以上