事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

兵庫県市長会有志の稲村和美支持表明に中曽千鶴子告発:代理人の徳永弁護士『公務員の地位利用で公選法違反』

どうなるんだろう?

兵庫県知事選での兵庫県市長会有志の稲村和美支持表明

令和6年11月に実施された兵庫県知事選において、「兵庫県市長会有志」の名目で市長22名が稲村和美候補を支持表明したことについて。

この行為については一定の批判をしてきましたが、ここに来て公選法違反だとして刑事告発が為されました。

中曽千鶴子元川西市議が刑事告発・徳永弁護士『公務員の地位利用』

令和7年1月7日付で兵庫県民の中曽千鶴子元川西市議が刑事告発、代理人の徳永信一弁護士が記者会見で理由を説明しました。

主張されている違反行為とその理屈を整理します。

公選法136条の2の公務員の地位利用による文書図画頒布等による推薦支持?

公職選挙法

(公務員等の地位利用による選挙運動の禁止)
第百三十六条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、その地位を利用して選挙運動をすることができない。
一 国若しくは地方公共団体の公務員又は行政執行法人若しくは特定地方独立行政法人の役員若しくは職員
(省略)
2 前項各号に掲げる者が公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)を推薦し、支持し、若しくはこれに反対する目的をもつてする次の各号に掲げる行為(省略)は、同項に規定する禁止行為に該当するものとみなす。
一 その地位を利用して、公職の候補者の推薦に関与し、若しくは関与することを援助し、又は他人をしてこれらの行為をさせること。
二 その地位を利用して、投票の周旋勧誘、演説会の開催その他の選挙運動の企画に関与し、その企画の実施について指示し、若しくは指導し、又は他人をしてこれらの行為をさせること。
三 その地位を利用して、第百九十九条の五第一項に規定する後援団体を結成し、その結成の準備に関与し、同項に規定する後援団体の構成員となることを勧誘し、若しくはこれらの行為を援助し、又は他人をしてこれらの行為をさせること。
 の地位を利用して、新聞その他の刊行物を発行し、文書図画を掲示し、若しくは頒布し、若しくはこれらの行為を援助し、又は他人をしてこれらの行為をさせること。
五 公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)を推薦し、支持し、若しくはこれに反対することを申しいで、又は約束した者に対し、その代償として、その職務の執行に当たり、当該申しいで、又は約束した者に係る利益を供与し、又は供与することを約束すること。

徳永弁護士の告発状を見ると、公選法136条の2の「地位利用による文書図画頒布等による公職の候補者の推薦支持」の禁止行為に違反したという主張をしていました。これによって禁止された選挙運動に該当するものとみなされるという法文の建付けになっています。

具体的な行為は、1⃣兵庫県市長会が雇用する事務員に対し、2⃣市長会室に設置している複合機から県庁記者クラブに加盟している新聞社に宛てて、記者会見の実施案内書をFAX送信させ、さらに3⃣兵庫県庁2号館4階新聞社室で記者会見を行い、4⃣稲村和美氏を支持表明し、5⃣その旨の文書を記者らに配布し、その趣旨内容が全国紙含む各氏で掲載されテレビ局でも報道された、というものです。

ざっくりまとめると、「市長としての地位が無ければできない行為だろ」という主張が「地位利用」として書かれています。

まあそうなんですが、なんだかスッキリしないものを感じてしまいます。

兵庫県市長会が地方自治法上の届出組織?全国的連合組織としての全国市長会の下部組織?

徳永弁護士は、兵庫県市長会は地方自治法上の届出組織、全国的連合組織だ、と主張しています。これは「公務員の地位利用」にかかる話です。

地方自治法

第二百六十三条の三 都道府県知事若しくは都道府県の議会の議長、市長若しくは市の議会の議長又は町村長若しくは町村の議会の議長が、その相互間の連絡を緊密にし、並びに共通の問題を協議し、及び処理するためのそれぞれの全国的連合組織を設けた場合においては、当該連合組織の代表者は、その旨を総務大臣に届け出なければならない。

※告発状では「263条」と書いてあるが「全国的連合組織」と書いてあることから「263条の3」の間違い。枝番号は別条文扱い。

これに該当するのは「地方六団体」と俗に言われている全国知事会・全国市長会・全国町村会・全国都道府県議会議長会・全国市議会議長会・全国町村議会議長会です。

徳永弁護士の主張では「兵庫県市長会は全国市長会の下部組織だ」としています。

全国市長会会則

第21条の2  委員会の委員長及び副委員長、特別委員会の委員長、都道府県市長会の会長並びに部会の会長は、理事会及び評議員会に出席し、意見を述べることができる

第7章  支部、都道府県市長会及び部会

第27条  全国を北海道、東北、北信越、関東、東海、近畿、中国、四国及び九州の9地区に分かち、地区毎に支部を置く。支部に事務所を置き、支部内各都市間の連絡にあたる。
 支部内の都道府県毎に都道府県市長会を置く都道府県市長会に事務所を置き、都道府県内各都市間の連絡にあたる。

確かに、全国市長会のHPでは9地域に支部が置かれ、それ以外に各都道府県の市長会が置かれ、都道府県内各都市間の連絡等にあたっているとあり、都道府県市長会会長の全国市長会役員会への出席が認められるようになった、とありますが…

これって下部組織と言ってよいものなんでしょうか?

9地域は「支部」で下部組織扱いで良いでしょうが、都道府県市長会に「事務所」は置かれてますが、どうも扱いが別のように見えます。各地の会則はそれぞれ別であり、全国市長会の会則をそのまま引っ張ってるということでもありません。

この点は、全国市長会と都道府県市長会の関係の実態がどう判断されるか、という事実関係に尽きるでしょう。

兵庫県市長会雇用事務員に市長会室設置複合機から新聞社にFAXさせたのは公務員の地位利用?

次に、兵庫県市長会雇用事務員に市長会室設置複合機から新聞社にFAXさせたのは「公務員の地位利用」でしょうか?

告発状では日にちは書いてありますが、時間帯が書いてないのが気になります

どの時間帯に指示/依頼したんでしょうか?仮に市長会のリソースを使っていても、アフター5だと私的な行為とされる要素が強くなります。

事務員は、職制上の命令で行ったのでしょうか?自発的に協力したんでしょうか?

この辺りも公務員労組に関する制度運用との整合性が迫られます。

もしかして、ここにメスをが入るように期待して告発したんですか?

いや、まさかー。でもそれって色んな人に怨まれませんか?

「新聞その他の刊行物の発行・文書図画の掲示頒布、などを援助し、又は他人をしてこれらの行為をさせる」?

記者クラブに対して記者会見の案内状を送付して記者会見に来させるというのは、何も公権力が無ければできないということはなく、私人でも散々行われて来ました。

記者会見した内容を報じるか否かは各メディアの判断ですし、報じる内容をどう構成するかも各メディアの編集権の問題です(内容が妥当かはともかく)。

市長らが稲村和美氏を支持表明し、その旨の文書を記者らに配布した行為は、記者会見のための一資料として提供したにすぎない、とされないでしょうか?

確かに「市長有志」は、やりすぎだと思いますが…

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