事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

NHK受信料:イラネッチケーの購入と設置の際の3つの注意点

「イラネッチケーという商品をテレビに取り付ければそれだけでNHK受信料は払わなくてよい」

このように思う方もいらっしゃいますが、この理解は危険です。

イラネッチケーについては、正確な理解をして処置を施さないとNHKに請求される可能性があります。

また、どうしても弊害の影響が出る可能性があるため、それを認識した上で購入するべきであるという点もここで整理していきます。

NHKから死後の請求が来た場合の対処法は以下を参照

受信契約をしていない人がNHKから訴訟提起された場合の理解は以下を参照。

イラネッチケーの購入方法

2018年6月現在タイガ商事がAmazonネット通販でのみ販売しています。

製品名称:iranehk 関東広域圏向け地上波カットフィルタ― (UHF26,27ch用) IRANEHK-AK27AB26N

製品ページの商品の説明欄に注意書きが書いてあるので、確認するといいでしょう。

また、iranehk 生駒山送信所向け地上波カットフィルタ―(大阪UHF13,24ch用) IRANEHK-BK24BB13NNも販売しています。

1:イラネッチケーが有効な地域

製品名に「関東広域圏向け」 「関西地域」とあることから、一部の地域でしか使えないということがわかります。

これは関東であれば東京スカイツリーのテレビ電波が届く地域、関西は生駒山の電波が届く地域でのみ有効ということであり、関東・関西であっても使えない地域はあります。

2:イラネッチケーで他の放送が見れなくなる可能性

製品の注意書きにもありますが、他の放送電波の受信に影響を与える場合があるようです。この場合の対処方法も増幅器を使うものなどいくらかあるようですが、具体的な対処方法についてはタイガ商事が個別に相談を受け付けています。

返品も受け付けていますが、製品の初期不良を原因とする場合のみ、商品到着から3日以内に連絡するようにと書いてあります

3:イラネッチケー設置で「受信機廃止等」になる?

NHK解約の条件は「受信機の廃止をすること等」です。

結論から言えば、イラネッチケーを完全強固に固定すれば「受信機の廃止をすること等」にあたるという見解が正当だと言える状況になっています。

しかし、100%言い切ることはできません。その点について確認していきます。

事実の問題

放送受信規約では「受信機の設置」をしている場合に契約しなければなりません。

解約は「受信機を廃止すること等」に行えます。イラネッチケーを取り付けてもたとえばイラネッチケー機器の不良でNHKが見れてしまう場合には事実として受信機の廃止「等」にならないと言えます。

この場合は理論上、受信料を払わなければならないでしょう。

法的な評価の問題:立花孝志氏の裁判での東京地裁の判断

法的に受信機廃止「等」と認定されない可能性もあります。

『イラネッチケーを取り付けて現実に視聴できなくても、受信機=テレビが存在するのは確かなのだから、「受信設備の設置」は未だ継続していることになる』

このような判断をしたのが東京地方裁判所 平成27年(ワ)第26582号 受信料等請求反訴事件 平成28年7 月20日です。

 放送法及び本件規約が受信設備の「設置」という外形的事実を基準として,これに当てはまる者に放送受信契約の締結を義務付け,その者が原告の放送を実際に視聴するか否かにかかわらず,等しく受信料の支払義務を負担させるものとしていることに照らすと,本件規約9条が定める同契約の解約の要件に当たるか否かについても,同様の外形的事実を基準として判断すべきものと解するのが相当である。

 被告は,本件工事を行ったことにより,本件受信機で原告の放送を受信することはできない状態にあると主張するが,被告の主張によっても,被告の自宅に原告の行う地上系によるテレビジョン放送を受信する機能を有するデジタル放送対応テレビが設置されているという外形的事実に変わりはなく,被告が本件工事の施工を依頼した者に復元工事を依頼するなどして本件フィルターを取り外せば,本件受信機で原告の放送を視聴することができるのであるから,本件フィルターが取り付けられたことにより原告の放送のデジタル信号が遮断されて現に原告の放送を視聴することができない状態にあるとしても,これをもって,被告が「受信機を廃止すること等により,放送受信契約を要しないこととなった」ということはできない。
 したがって,本件解約届の提出によって本件契約が解約されることはなく,被告は平成28年3月分の受信料の支払義務を免れない。

これはあの「NHKから国民を守る党」の立花孝志さんが債務不存在確認訴訟を起こした事例です。東京地裁は「受信機の設置」の有無という外形的事実を基準に契約義務の発生或いは解約の成立を判断するとしています。

本件ではイラネッチケーを付けていても受信機の設置という外形的事実は変わらず、立花さんが取り付けたイラネッチケー(本件フィルター)は取り外し可能だから放送を視聴できる可能性も変わりがないとして、立花さんに受信料の支払い義務があるとしました。

イラネッチケー設置方法:取り外し容易でなければ「視聴可能性無し」?

この判決を受けて、立花さんは次のように考えました

だったら取り外せなくすればいいんじゃね?

そして、平成28年8月29日に再度、債務不存在確認訴訟を東京簡易裁判所に提起しました。訴状の中で次のように処置を施したと書いています。

原告が、平成28年8月27日に原告現住所に設置した「テレビ2」は、被告の放送だけを遮断する機能を有したカットフィルタ(以下「イラネッチケー」と言う。)が、アンナナ入力端子から取り外し出来ないように、強力な接着剤と、一度締め付けたら緩めることが出来ないボルトで取り付けられています。この取り付け方法は、もしイラネッチケーをアンテナ入力端子から取り外そうとした場合、「テレビ2」の入力端子がつぶれてしまい、「テレビ2」は、被告の放送も民放の放送も受信出来なくなる(部品取り替え修理をしないとすべての放送の受信が出来ない程度の故障になる)ように取り付けられています。

魚拓:http://archive.is/dd3yA

「取り外しが容易か否か」 という基準は、いろんな法律の解釈の場面で登場します。

結局この訴訟は平成29年1月19日に債務は不存在であるという判決になったのですが、判示は以下のようになっています。

NHKは裁判で債務が存在しないことを争わないと主張していることをもって、原告(立花)の法律上の地位の危険や不安が終局的に除去され、裁判所が容認判決をせずに訴訟を終了させても、将来に禍根を残すことがないとまでは言えない。よって、原告(立花)の本件訴えは適法である。

どういうことか。

まず、この裁判の中でNHKは立花氏に債務は存在しないことは認めていました。しかし、そもそも裁判をするようなことではないため、訴えは訴訟要件を充たさず却下(門前払い)されるべきだ、と主張していたのです。

上記の判示も、立花氏の訴訟が訴訟要件を充たしているかどうかについての判断をしているだけであり、取り外そうとすると受信機が壊れるようにイラネッチケーを取り付けたことが「受信機の廃止をすること等」にあたるかどうかは判断していません

したがって、この判決を理由として「イラネッチケーを固定すれば大丈夫」と断言することは避けたいと思いますが、これはNHKの戦略だったのだろうと思います。

NHKとしては「そこを争点にすれば受信機の廃止をすること等にあたると認定されてしまう」という認識だったのでしょうから、このNHKの訴訟を通した態度をもって、「イラネッチケーを固定すれば大丈夫」と予測するのは十分あり得るものだと思います。

裁判の経過をまとめているブログがあるのでそちらで概要を知るといいでしょう。 

東京高裁の訴訟事例における受信契約の解釈

イラネッチケー裁判とNHK受信料

では、なぜNHKはイラネッチケーを完全強固に固定されれば「受信機の廃止をすること等」にあたると考えたのか?ヒントは過去の東京高裁の別の事案の判示にあると思います。「被上告人」がNHKです。

東京高等裁判所 平成23年(ツ)第221号 放送受信料請求上告事件 平成24年2月29日

(2) 被上告人はー中略ー放送受信契約が受信機設置の時から成立し、受信料債権も受信機設置の時から発生するから、受信料債権は受信機設置の事実に起因するものであり、基本権である定期金債権が存在せずー中略ー主張するが、いずれも理由がない。すなわち、ー中略ー受信料とは文字どおり受信(視聴可能性)の対価であり、受信と受信料に対価性があることは明白である。

東京高裁は受信料は「視聴可能性の対価」と言っています。

「電波を受信したこと」 でもなく「現実の視聴」でもなく「視聴可能性」です。

つまり、テレビを持っていてもなんらかの装置が壊れてNHKの映像が見れない(音声も聞けない)という場合には「電波は受信していると言い得るけれども視聴可能性が無い」のと同様に、イラネッチケーを完全強固に固定してしまえば仮に電波は受信していると言えても視聴可能性が無いと言ってしまっていいと思われます。

まとめ

  1. イラネッチケーが有効な地域で
  2. イラネッチケーが適切に機能しているとして
  3. イラネッチケーが完全強固に固定されている場合には
  4. NHKの放送の視聴可能性がないと判断される可能性が極めて高い

「イラネッチケーを完全強固に固定すれば受信料を支払わなくていいと裁判で判決が出た」というのは事実として違いますが、「NHKの態度からはイラネッチケーを完全強固に固定すれば受信料を支払わなくていいと推測される」というのは正当な認識です。

イラネッチケーは生産量を抑えているようなので、一時的に品切れになる場合があると思いますし、大量発注ができるかはタイガ商事に相談すれば良いと思います。

NHKの放送を受信しないテレビの販売可能性

魚拓:http://archive.is/LA6yD

ソニーの株主総会で株主からNHKだけが映らないテレビ、NHKだけが録画できないブルーレイ、NHKだけが接続できないプロバイダも検討して欲しいという要望が出されました。

現状は多くのテレビ製品がBCASカード付属のものがあり、テレビ購入=受信機設置=NHKとの契約義務発生根拠となっています。

この状況が改善されればイラネッチケーは不要になるかもしれませんが、業界が簡単に動くとは思えませんし、NHKもテレビの生産に関与しているので一筋縄ではいかないでしょう。

※追記:2020年6月26日、ここで予想したことが現実となり、NHK敗訴となりました。

以上