事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

NHKが死者の分も受信料請求:死亡後に相続人は解約手続をするべきか

魚拓:http://archive.is/Oo5Yd

なんと、NHKから既に亡くなった方の分の受信料の請求がきているとのことです。

この場合に支払い義務はあるのでしょうか?また、相続人はどのように振る舞えばいいでしょうか。

ネット上にはこの点に関してとんでもないデマがあるので、原理原則と法律の規定を確認しながら記述していきます。面倒だという人は具体的にどうすればいいのかの部分だけ見ればいいでしょう。

ここでは、典型的な家族関係の場合について記述していきます。イレギュラーな世帯環境の場合には完全には当てはまらない可能性があることを予め付記しておきます。

追取材した結果は以下

きちんと解約の手続を取りましょう

結論から言うと、まず第一に、被相続人が死亡したら、相続人はNHKに被相続人の死亡通知を送付しましょう。 「放置するのがいい」というのは、後に示しますが良いことはないので気を付けましょう。

第二に、被相続人が死亡してから解約を忘れていて年月が経っていた場合でも、相続人はまずは死亡通知を送りましょう。その上で、死亡時から通知の時点までの受信料の支払いを争うかどうかを決めるべきです。
※追記:この記事で違法なことを書くつもりはありません。相続人がNHKから請求されたときに嘘をつくよう扇動することには加担しません。NHKは相続人が誰か、通常は把握できないし答える義務もないのですが、バレる危険を冒してまで嘘をつくことはこのブログでは推奨しません。だいたい、NHKが相続人と思われる者に請求してくる時点でバレてるのではないでしょうか?

相続人ではないなら、相続人と間違われるような行動はしないようにしましょう。

解約の際の水際作戦でNHK側が嘘をついたりブラフをかましてきたりするかもしれませんが、そういった負担はまた別の話です。

なお、イラネッチケーについては以下を参照。

1:NHKの受信料債権の相続について

この問題は、故人の受信料債権を相続するのか?という話と、故人の受信契約者の地位を相続するのか?という問題は別個に論じられなければならないと言えます。

受信料債権の問題とは、故人が受信料の支払いを滞納していた場合です。

最初に受信料債権の相続について見ていきましょう。

原則:相続は「一切の権利義務を承継」

民法

第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

「一切の権利義務を承継する」とあります。但書きで「一身専属権」は違うとありますが、NHK受信料は関係ありません。

したがって、受信料債権(受信料を支払う義務)も被相続人の死亡によって相続人が承継することになります。これが原則です。

相続放棄の場合

(単純承認の効力)
第九百二十条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

(限定承認)
第九百二十二条 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

相続には大きく分けて3つの方法があります。単純承認、限定承認、相続放棄です。

このうち、被相続人(死亡者)のNHK受信料債権が問題となるのは単純承認と限定承認の場合です。どういう場合にそうなるのか、方法は何か?については弁護士事務所のHP等を探すといいでしょう。相続放棄をするつもりだったのに、ある行動をしてしまったことで相続したとみなされることがあるので注意しなければなりません。

相続放棄は文字通り相続しないということですから、当然故人のNHK受信料債権も相続しません。したがって、この場合には基本的には問題はないということになります。

ただし、典型的な世帯環境ではない特殊な場合には注意が必要だと思います。ケースバイケースなので、よくわからなかったら事情を全て弁護士等に相談してください。

受信料債権が消滅時効にかかっている場合

最高裁判所第2小法廷 平成25年(受)第2024号 放送受信料請求事件 平成26年9月5日

受信料債権は,年又はこれより短い時期によって定めた金銭の給付を目的とする債権に当たり,その消滅時効期間は,民法169条により5年と解すべきである。

このように、NHKの受信料債権は現行民法169条の「定期給付金債権」であると解されています。そのため、5年の消滅時効にかかるとされています。

相続した場合でも故人の滞納分が5年の時効にかかるようになれば、支払義務はないということになります。

相続人がとるべき手段

これまで見てきたように、故人が滞納してきた受信料債権を承継した場合、時効にかかっていない分については相続人が支払うべきということになります。

相続の時点からNHKに全く連絡を取らず、更に期間が経過して残りの債権を時効消滅させることも法的にはできますが、「あまりよろしくないと思われるので支払いましょう。」NHKから請求される額は未払い分の受信料額そのままではなく、延滞利息も含むものになるので結構バカにできません。

また、全く連絡を取らないと、受信機が設置されている場合には被相続人の死後も受信料を支払う義務が発生する余地があります。これが次の問題です。

小括1:被相続人死亡時までの受信料債権は相続人に支払い義務あり

被相続人死亡後のNHK受信料債権

NHK受信料債権についての相続の可能性

これまで図の左側について話をしてきました。
しかし、問題なのは図の右側です。NHKの見解は「被相続人死亡後も自動で解約にはならず、解約通知がされるまでは受信料債権が発生し、相続人はこの分についても支払い義務がある」です。

したがって、死亡によって当然に解約されたと言えるかが問題になります。

2:日本放送協会の受信契約は承継されるのか?

NHKの受信契約は民法上に規定されている典型契約ではなく、放送受信契約という基本契約によります。なので、放送法やNHKの受信規約を見ていき、「死亡により効力を失う」などの文言がないかを確認します。

放送法64条

放送法

第六十四条 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。

旧放送法32条も同様の規定となっています。

受信契約は「受信設備の設置」と紐づいていることがわかります。

放送法には契約者の死亡による扱いについては規定されてません。

日本放送協会放送受信規約と解約規定

日本放送協会放送受信規約

(放送受信契約の成立)
第4条 放送受信契約は、受信機の設置の日に成立するものとする。

魚拓:https://web.archive.org/web/20180625010629/https://pid.nhk.or.jp/jushinryo/kiyaku/nhk_jushinkiyaku_290530.pdf

こちらでも受信機設置の日が契約と結びついています。

そして、解約についても規定があります。

第9条 放送受信契約者が受信機を廃止することにより、放送受信契約を要しないこととなったときは、直ちに、次の事項を放送局に届け出なければならない。
(1) 放送受信契約者の氏名および住所
(2) 放送受信契約を要しないこととなる受信機の数
(3) 受信機を住所以外の場所に設置していた場合はその場所
(4) 放送受信契約を要しないこととなった事由
NHKにおいて前項各号に掲げる事項に該当する事実を確認できたときは、放送受信契約は、前項の届け出があった日に解約されたものとする

  1. 受信機を廃止すること「等」により受信契約を要しないこととなったことを
  2. NHKが確認できたとき
  3. 届出があった日に解約されたものとする

さて、どう考えればいいでしょうか。

『放送受信規約9条の「等」に死亡が含まれると解されるから、被相続人が死亡したことによって受信契約は終了/解約して相続人に承継されず、死亡の事実があれば当然にそれ以降の受信料は支払う必要は無い』と言えるでしょうか?

世帯が同じ場合

 

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NHKに伺うと、この場合は被相続人の死亡通知の他に名義人変更の手続が必要です。

この場合に相続人が受信料契約は被相続人死亡によって解約/終了したと言うことは困難だろうと思います。滞納していた受信料債権がある場合の扱いは既に述べた通りです。

もちろんこれは受信設備を設置している場合の話です。同世帯の者の死去をきっかけに受信設備を廃止したということであれば、廃止の通知をすれば契約は解約されます。

世帯が別の場合

被相続人死亡後のNHKの受信契約世帯別

被相続人死亡後の受信契約の扱い

NHKに世帯別の死亡者の契約について伺ったところ、「既存の被相続人の契約は解約しないと残存しており、死亡後であっても解約までの間の受信料は相続人において支払うこととなる」という返答でした。

これは被相続人の受信契約が相続人に承継されるという話のように聞こえますが、確立した裁判例があるわけではなさそうです。

弁護士ドットコムを見ると、受信契約が承継されるかどうかは争う余地があると書かれています。

小括2:受信契約が相続(継承)されるかはグレーゾーン

相続人が一人の場合、一切の権利義務を全て自己が承継するのですから、被相続人の家財道具も自己の財産になります。TV等=受信設備が設置された状態で相続すれば、受信設備設置の状態は継続しているので、受信契約は相続人が承継するという事になりそうな気がします。

仮に、「相続人が死亡通知をNHKに出さずに、被相続人の世帯住居に被相続人の死後住んでおり、相続人がNHKを視聴できる状態にあった」という場合を考えると、受信料の支払いを免れることとなるため、「死亡時」ではなく「死亡の通知時」としたこともやむを得ないということになりそうです。

例えば、あなたが自宅と別荘にテレビを置いていたとして、両方で受信料を支払うことになりますが、これと同様に扱うとNHKは考えているのではないでしょうか(この場合は一方の受信料は半額にできる手続がありますが)。

ただ、後述するようにNHK受信料や受信契約の性質は一般の性質と異なり、裁判所はNHK受信料は「特殊な負担金の性質を有する」とも言っており、受信契約は相続されないという判断がなされる可能性もないわけではないと思います。

この件について再度取材した結果、コールセンターと営業所で言っていることが矛盾していました。NHKふれあいセンターでは嘘をつくよう教育しているようです。

VHFアンテナしかない世帯の場合

死亡後のNHK受信料VHFアンテナの場合

再掲

魚拓:http://archive.is/Oo5Yd

この方の事案の特徴として「VHFアンテナしかない」ということがあります。VHFアンテナとは地上アナログ放送を受信するための設備で、地上デジタル放送は受信できないものです。2012年3月末に地上アナログ放送は停止されたので、それ以降は受信契約は発生しないものと思われました。

しかし、NHKに確認したところ「具体的事情を伺ってからでないと判断できない」と言われました。

素朴に考えればNHKの放送を受信できない状態になったのだから、支払い義務はないと考えるのが自然です。しかし、放送受信規約の以下の規定を見ると、問題がありそうです。

(アナログ放送の終了に関する措置)
2 第9条の規定にかかわらず、放送受信契約者がNHKのテレビジョン放送のうちアナログ方式の放送(以下「アナログ放送」という。)の終了に伴い、NHKのテレビジョン放送を受信することができなくなり、第1条第2項に定める受信機の設置がないこととなったときは、アナログ放送の終了日(以下「アナログ放送終了日」という。)から1年以内に、次の事項を放送局に届け出なければならない。
(1) 放送受信契約者の氏名および住所
(2) 設置がないこととなった受信機の数
(3) 受信機を住所以外の場所に設置していた場合はその場所
(4) NHKのテレビジョン放送のうちデジタル方式の放送を受信することができない事情
3 NHKにおいて前項各号に掲げる事項に該当する事実を確認できたときは、放送受信契約は、アナログ放送終了日に終了したものとする

「アナログ放送の終了日から1年以内に…届け出なければならない」

1年以内に届け出たなら通知の時点ではなくアナログ放送終了日に契約が終了するものとされますが、現在は既に1年を過ぎています。この場合にどう扱われるのか、この規定からはわかりません。

法的な判断は闇の中ですが、放送を受信できないのに受信料を払わなければならないのはおかしいので、うまく調整できないものかと思います。

受信料は民法552条の定期贈与というデマ

ネット上ではにわかに「NHK受信料は民法552条の定期贈与であり、規定上、死亡で解約されるとなっている」「よって、何もしなくても契約は解約される」というとんでもないデマが飛び交っています。

NHK受信料が被相続人の死亡で当然解約されるかどうかは争う余地がある事は示しましたが、その根拠が「定期贈与」というのは明確に誤りです。

なぜ「定期贈与」を根拠とするのが誤りなのかを示します。

贈与契約の意味

民法

第五百四十九条 贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

そもそも、世の中の契約形態の全てが民法に記述されているわけではありません。民法契約編の各節に規定されている契約形態は「典型契約」と言われており、これに当たらない契約も世の中にはたくさんあります。

贈与契約の場合、「当事者の一方が」「無償で」という文言から、贈与契約には「対価性」がありません=無償契約。定期贈与も同じです。

そして、定期贈与が死亡で当然に効力を失うとされているのは、定期贈与契約は当事者同士の信頼関係を基礎として成り立っているのだから、死亡によって効力が残るのはおかしいという理由からです。これが民法552条の趣旨です。

対して、NHKの受信料契約の性質はどのようなものでしょうか?

NHK受信料契約の性質

東京高等裁判所 平成23年(ツ)第221号 放送受信料請求上告事件 平成24年2月29日

受信料債権は、現行法上、私人間の契約に基づく債権と構成されておりー中略ー受信料とは文字どおり受信(視聴可能性)の対価であり、受信と受信料に対価性があることは明白である。

NHKが送信している放送「に対して」契約者が受信料を支払っている。

これは「対価性」がある=有償契約ということになります。

さらに、受信料の性質については「特殊な負担金の性質を有する」ともあります。

東京地方裁判所平成29年3月29日

放送法は,原告を公共放送事業者と位置付けて,国や他者からの独立性及び中立性を確保するため,原告に対して,営利目的の業務及び広告の放送を禁止する一方,その財政的基盤を確保するために,放送受信設備を設置した者に対し,放送受信契約の締結を強制しており,放送受信契約に基づいて支払義務が発生する放送受信料は,公共放送事業者である原告に対して納めるべき特殊な負担金としての性質を有するものというべきである。

したがって、NHK受信料が民法上の典型契約である定期贈与契約であるとする見解は、全く性質の異なる話をしていることになります。明確にデマです。NHKの受信料は「放送受信契約」によって発生しています。

田中宏弁護士の指摘:522条デマ

参考:https://twitter.com/tanakah/status/1011887444868792322

おそらく、既に示した「NHK受信料債権は定期給付金債権(民法169条)である」とする最高裁の判例を勘違いしている(させている)のでしょう。契約の性質の話と、債権の性質の話は別個の話です。 

既に示した弁護士ドットコムの回答を見ても、受信契約が死亡によって当然に解約されるという見解は「あり得るかもしれない」程度の言及であり、ましてや民法552条を根拠にしているわけではありません。

デマを信じて「死亡しても何もしない」とすると、相続人は最大5年分の受信料債権と延滞利息を支払うことになります。これはNHKを利する結果となっています。

それから郵便法42条云々の件も、相続人であれば本来全く問題になり得ません。デマサイトの記述は、相続人なのに相続人ではないと振る舞ってズルをしようとする者が書いた記事のように思います。

冒頭で書いたように「被相続人が死亡したらNHKに死亡通知をして解約手続を取る」これがNHKから身を守るための最善の行動です。

民法改正後は受信料債権の法的性質はどうなるか?

こちらでも言及していますが、改正民法では定期給付金債権の規定も債権の短期消滅時効の規定もなくなることになっています。

そのため、消滅時効の期間は10年になるのではないか?と予想しています。

まとめ

  1. 被相続人への受信料督促がきたら、相続人は死亡通知を送付して解約すべき
  2. 受信料債権は相続される
  3. 受信契約が当然相続されるかは争う余地がありそう
  4. よって、被相続人死亡後、現在までの受信料債権の扱いも断定できない
  5. 現行法上は受信料債権の消滅時効は5年だが、改正後は不明
  6. VHFアンテナの場合でも、個別事情による
  7. 「死亡で当然解約でありその根拠は民法552条」はデマ

NHKから身を守るには「テレビを買わない」「解約する」というのが最善です。

「イラネッチケーを取り付ける」という方法もありますが、注意点があるので以下を参照してください。

以上