事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

自民党、内親王女王が婚姻後も皇族の身分保持できる案を議論、「女性宮家」の語は使わず:安定的な皇位継承の確保に関する懇談会

勘違いで「静謐な議論」の邪魔をしてはいけない

自民党の安定的な皇位継承の確保に関する懇談会の報道

自民党の「安定的な皇位継承の確保に関する懇談会」の18日の動向に関する報道が相次ぎました。共同通信時事通信朝日新聞FNNなどが報じてますが、産経新聞記事が正確で認識にブレが無いと思われます。

自民懇談会が女性皇族の「婚姻後の身分」を議論 「女性宮家」の文言は用いず - 産経ニュース

自民党は18日、「安定的な皇位継承の確保に関する懇談会」の会合を開き、政府の有識者会議が令和3年に取りまとめた報告書のうち、内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持できる案について議論した。一部の野党が創設を目指す前例のない「女性宮家」という文言は用いられなかった。残る旧皇族の男系男子の復帰案などは次回以降に協議する。

~省略~

女性皇族の婚姻後の身分をめぐっては、皇室にとどまり当主となる「女性宮家」創設を重視する論点整理を立憲民主党がまとめている。ただ、木原氏は記者団に「有識者会議の報告書には(女性宮家という言葉が)入っていない。そういう前提で話をした」と説明した。

内親王女王が婚姻後も皇族の身分保持できる案を議論、「女性宮家」の語は使わず

自民党が「内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持できる案*1について検討をしたことをもって「『女性宮家』を認めるのか!許せん!」という反応がSNSでは見られますが、何重にもに誤った認識の者が居ます。

まず、産経新聞記事にある通り、自民党は「女性宮家」という用語を使っていません。

これは、「女性宮家」という言葉には定義が無く、その意味内容について論者ごとに様々な状況が想定されており、話が嚙み合わないことになりかねない状況だからです。

実際に政府も「女性宮家」という用語は退位特例法の附帯決議の文言を引用する際以外は使っていませんし、立憲民主党の馬淵議員の質疑に対する答弁でも法令上の用語ではないために使用しないことを明言しています。

女性皇族=内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持した先例と故安倍晋三元総理大臣の見解

その上で、女性皇族(この議論においては内親王・女王を指す)が婚姻後も皇族の身分を保持することについては、先例があります。

徳川家茂と婚姻した和宮親子(かずのみやちかこ)内親王殿下のケースです。

そして、故安倍晋三元内閣総理大臣も、この例を念頭に女性皇族が婚姻後も皇室に残る制度について「あり得る」としていました。この場合、配偶者の身分は民間人のままです。

安倍晋三 回顧録【電子書籍】[ 安倍晋三 ] 260~261頁

 女性宮家は、内親王が結婚後も皇女として皇室に残る、という意味ではあり得ると思いますよ。憲法上、民間人と結婚した人を特別な地位にできるかどうかという論点は残りますが、皇族の減少で、負担が大きくなっているのは事実です。ご結婚されて民間人になった時、プリンセスなどの称号を持って、いろいろな式典に出席していたただくことは十分考えられるのではないでしょうか。英国王室でも、女性は結婚後もプリンセスのままです。

 幕末には、孝明天皇の妹の皇女和宮が、公武合体のために14代将軍の徳川家茂に嫁ぎましたが、その前に内親王の地位を与えられ、結婚後も徳川和宮にはならず、和宮親子内親王という地位でした。

ただ、女性宮家は、母方が天皇の血を引く女系天皇につながっていく危険性があるわけです。男系男子に限った皇位継承を世論に流されて変えるべきではありません。何百年、千年という尺度で考えなければいけない話ですから。

「婚姻の無い女性皇族が当主の宮家」は桂宮淑子内親王殿下の先例有り:これは「女性宮家」か?

さらに、「婚姻の無い女性皇族が当主の宮家」も先例があります。

桂宮淑子(かつらのみやすみこ)内親王殿下(幼名:敏宮(ときのみや)のケース。

天正年間に創設された四世襲親王家の一つであり、光格天皇の皇子の盛仁親王が継承して改称した桂宮は、敏宮の異母弟の節仁親王が継承していましたが、節仁親王が天保7年(1836年)3月5日に夭折し当主不在となっていました。

敏宮は天保11年(1840年)1月28日、閑院宮愛仁親王と婚約し、天保13年(1842年)9月15日に結婚を前に内親王宣下を被るが、その2日後に愛仁が薨去。

桂宮家は他に子女が居なかったため淑子が文久2年(1863年)12月23日に桂宮を継承、その後も独身のままでした。

「女性宮家」には定義が無いので、この例をも「女性宮家」の先例とする論者が居ます。そういう意味であれば、女性宮家には先例がある、と言えます。

「婚姻後も女性皇族が当主である宮家」と「内親王が結婚後も皇女として皇室に残る」がどう異なるのかは定かではありませんが、両者が異なるという理解である者にとっては、前者の場合の配偶者の身分は皇族になるというものと理解されていると考えられます(皇位継承権はまた別問題)。

現在の自民党の議論では産経報道の限りでは「女性宮家を認めるにしても一代限り」「女性皇族の夫や子は皇位継承権を持たないことを明記すべきだ」「婚姻後の女性皇族が皇籍と戸籍両方を持つ案」などが議論されているようですが、最終的にどうなるかは現時点では不明。

有志の会が衆議院議長に提出した意見書では「立法府の議論は皇室の選択肢を増やすためにあるべき」と指摘されていますが、女性皇族の選択肢を制度的に1つに限定することの無いものとする効果が「内親王が結婚後も皇女として皇室に残る」案にはあると言えます。

岸田政権憎しで自民党を非難している界隈が誤解を元に皇位継承問題についても怒りを殊更に表明しだしていますが、先例と議論されている内容を国民の側が正しく認識して不適切な反応をしないということが、政治家らの「静謐な議論」に資すると言えます。

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*1:現行皇室典範では民間人と婚姻した女性皇族は臣籍降下することとなっている