国民の側が邪魔をしてはいけない。
- 有志の会(吉良州司・北神圭朗・福島伸享・緒方林太郎)
- 「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議に基づく政府における検討結果」に対する意見書
- 皇室・皇位継承にかかわる議論の作法、原則的な考え方:皇位継承の議論は先例に基づいて
- 絶対的な正解を我々は知らないという前提:立法府の議論は皇室の選択肢を増やすため
- まとめ:舞台は国会へ。「静謐な議論」を形成するのは政治家だけでなく国民も含まれている
有志の会(吉良州司・北神圭朗・福島伸享・緒方林太郎)
皇位継承等についての意見書を提出 - 福島のぶゆきアーカイブ
3月12日、有志の会(吉良州司・北神圭朗・福島伸享・緒方林太郎)らが額賀衆議院議長、海江田衆議院副議長に対して、皇位継承等についての意見書を提出したことを報告しています。
「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議に基づく政府における検討結果」に対する意見書
名称は【「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議に基づく政府における検討結果」に対する意見書】です。*1*2*3
【一.皇位継承等を議論するにあたっての基本姿勢】
●立法府の役割は、将来にわたって安定的に皇位の継承がなされるよう、皇室典範において定める「枠組み」を作ることである。
●悠久の皇室の歴史において先例のないことを可能とする枠組みを作ることには、極めて慎重であるべきである。
●これまで皇室の歴史において守られてきた先例を議論する場合には、立法府は悠久の日本の歴史の中での直近の民意を受けているに過ぎない存在であることに強く留意すべきである。
●「皇室はかくあるべき」「皇位継承はかくあるべき」という皇室についての「べき論」を行ってはならない。
●それぞれの皇族の方の配偶者のあり方などは一義的には皇室において決めるべきことであり、立法府の議論は皇室の選択肢を増やすために行うものである。
【二.政府における検討結果への意見】
●「今上陛下から秋篠宮殿下、次世代の悠仁親王殿下という皇位継承の流れをゆるがせにしてはならない」という考え方は、妥当である。
●皇族数確保のための、
①「内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することとすること」は、妥当である。配偶者と子は原則として皇族としての身分を有するべきではない。
②「皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とすること」は、限定的に認めるべきである。具体的には、内親王・女王の配偶者となる場合が考えられる。この場合、当該内親王・女王が皇位継承資格を持つかどうかの検討が必要である。
③「皇統に属する男系の男子を法律により直接皇族とすること」は、皇統が途絶える危機にある時などの非常時の方策であり、現時点で結論を出すべき事柄ではない。
●以上を踏まえると、①、②を担保するための皇室典範の具体的な改正案の策定にとりかかるべきである。
以上
皇室・皇位継承にかかわる議論の作法、原則的な考え方:皇位継承の議論は先例に基づいて
有志の会の【二.政府における検討結果への意見】は、まともな事を言っており、他の組織体も同様の見解が多いので、ここで改めて詳述はしません。
ここではその前段となる【一.皇位継承等を議論するにあたっての基本姿勢】について触れておきます。
今回の意見書は衆議員の議長・副議長宛て、つまりは国会という立法府においてこれから議論を行うに当たっての「心得」を示したものと言えます。
ただ、「べき論」という言葉遣い、あまり望ましい使い方ではないなと。
【規範から導かれる論ではない議論の仕方】という意味で使われることが多々あります。*6
他方で、「選択肢の幅を持たせずに結論を決め打ちする論」みたいなニュアンスで「べき論」を書いてる人が世の中にはちらほら見かけます。
有志の会の言う「べき論」の意味の整合性を採ると、「理念・理想を語るだけで存在していない規範を創造するな、皇室の伝統・先例・憲法といった規範から説き起こした見解を話せ」「自分らの論が絶対に正しいものであるという前提に立って結論を決め打ちするな」の両方の意味と捉えると、納得できるものになると思います。
絶対的な正解を我々は知らないという前提:立法府の議論は皇室の選択肢を増やすため
皇位継承につき、絶対的な正解を我々は知りません。
ただ、男系継承が連綿と行われてきたという歴史が途絶えてしまというのは不可逆的な事象であり、間違っていた場合には取り返しがつきません。なので、可能な限り避けるべき事態、ということが言えます。この説明は2017年から一貫して書いています⇒女系天皇を避けるべき理由 - 事実を整える
歴史的淘汰によっても生き残り、多数人によって長い年月をかけて醸成されてきた伝統に対し、当代限りの人間の理性・自己の能力の過信をしないこと、それが保守思想の原点です。
「継続してきた事実状態の尊重」という価値観が世の中にはあります。だからこそ民法で時効取得という制度がありますが、これは所有占有関係の係争にのみ妥当する法理論ではなく、あらゆる場面で優先される普遍的な「法」として存在しています。
そのために皇位継承者・皇族数の確保の手段を論じているのですから、その中においても同様に、絶対的な正解を押し付ける態度は慎むべきでしょう。
その上で、【それぞれの皇族の方の配偶者のあり方などは一義的には皇室において決めるべきことであり、立法府の議論は皇室の選択肢を増やすため】というのは、当たり前のようでいて改めて言語化したことの価値が大きいと言えます。
皇位継承というのは、天皇・皇族方の家の話です。そのため、本来的には外部者が口を出すのは憚られるものです。ただ、公の存在として国家財政が使用されているという関係で、臣下による一定の関与は妨げられるべきではない。閑院宮家創設に深く関わった新井白石の例などがあります。
しかし、天皇・皇族にもっとイニシアティブ・プレゼンスがあるべきです。旧皇室典範の皇族会議と現行の皇室会議では皇族方の員数に違いがあります。
現行法上は国会議員が国会で議論することが必然となっていますが、旧皇室典範下ではそうではなかった。多くの政治家が皇室の議論に深く関わらざるを得ないがために政治マター化してしまっており、選挙を意識した政治家らでは議論を進めるのが困難になっていました。
現在の政府・政党での議論が「退位特例法の附帯決議」から始まっているという事実がそれを物語っています。退位特例法はなぜできたのか。
その起点は上皇陛下が天皇在位中の「おことば」でした。
「立法府の議論は皇室の選択肢を増やすため」について、ここでいう「選択肢を増やすこと」というのは、あくまで伝統・先例に基づいたものであり、伝統・先例を破ることに繋がる選択肢を生むようなものは含まれないと考えるべきでしょう。
まとめ:舞台は国会へ。「静謐な議論」を形成するのは政治家だけでなく国民も含まれている
自民党も近々結論を出すと見込まれており、皇位継承策について①政府②政党の議論が煮詰まってきています。これまでに日本維新の会やNHK党、立憲民主党も意見書を提出しました。
そこに③国会としての結論を出す時期が迫ってきていると言えます。
こうした中、マスメディアはどう動いているのか?
政党や政治家に不信感を抱かせたり、怒りを向けるように文言を操作しています。
そうした怒りに駆り立てられる国民があまりに多いと、政治家が正論に近い政策を実施できなくなります。事実やロジックを知ること、学ぶこと、自分が知らないということを知る態度が肝要であり、それが日本国の歴史を形成・継承していくことに直結するのだということをひしひしと感じています。
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*3:政府における検討結果⇒「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議 報告書
*4:意見書の別の項で「べき」が使われているのを捉えて矛盾だの言うのは筋違い。これは「義務」の意を表す助動詞。それはただの「べき」=「べし」という言葉の意味の言及であって「べき論」ではない
*6:法律・行政界隈でこの用語法で「それはべき論に過ぎない」と言う人がたまに居る。カジュアルな会話でみられるだけで公式な議論では使われない。割と自由にその人の主義主張を出発点に言える論。このような意味の用語として「法解釈論」に対置された「立法論」という言葉があります。