事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します

【余命大量不当懲戒請求】弁護士に対する共同不法行為が成立するのか?

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余命大量不当懲戒請求事案の大きな論点に「共同不法行為は成立するのか?」というものがあります。

本稿ではこの点に絞って検討していきますが、細かい説明は省いていきます。

共同不法行為とは何か?

民法

第七百十九条 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
2 行為者を教唆した者及び幇ほう助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

共同不法行為とは民法719条に定められているものです。

この領域はそもそも「共同不法行為とは何か?」というレベルで見解が定まっておらず、学者も各者各様の論じ方をしています。

典型的な想定例とされているのは、集団暴行で各人が別々の部位を負傷させた場合、傷害結果全体について加害者の全員が賠償責任を負うというもの(719条1項前段)、工場排水による河川の汚染において、一つの企業が輩出した汚水だけでは問題となる基準を超えるの汚染は引き起こされないが(誰による損害かが不明)、流域の企業全体が排出した汚水によって基準を超える汚染が引き起こされて被害が生じたような場合です(719条1項後段)。

共同不法行為のリーディングケースと呼ばれているのは最高裁判所第3小法廷昭和39年(オ)第902号 損害賠償請求事件 昭和43年4月23日の「山王川事件判決」です。しかし、この事件がリーディングケースであるとする位置づけに疑問を呈する見解も存在します。原審の認定によれば、被告(1社)の排水がなければ損害は生じなかったとされており、一般の不法行為(709条)でも処理する事もできたからです。

共同不法行為の事例はどれか?

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民法Ⅱ債権各論[第三版]内田貴533頁の図をもとに作成

問題状況を講学上の観点から類型化して共同不法行為なるものの中身を明らかにしていこうとする見解があります。

1番目は集団暴行の事例。2番目は河川の汚染の典型事例があてはまります。

3番目は独立の不法行為がたまたま同じ人に対して発生したに過ぎないような場合です。例えばAグループは公園でサッカーをしていたところ民家の1階の窓ガラスをサッカーボールで割り、Bグループは隣の空き地でサッカーをしていたところ同じ民家の2階の窓ガラスを割ってしまったような場合です。また、同時に同じガラスを割った場合もこれに含まれるとされます。

4番目は集団暴行で死亡者が出たが、誰の行為が死の結果に寄与したのかが不明の場合などです。

これらの内、共同不法行為の事例と想定されているのは1,2,4番の話です。3番目は共同不法行為とは想定されていないのが通説のようです。なぜなら、この場合は709条で各人に責任を負わせれば足りるのであり、わざわざ719条を規定した意味がなくなる上、各行為者の行為も客観的に関連共同していない(それぞれの損害とは無関係の別々の行為が行われているだけ)からです。

共同不法行為の効果

共同不法行為が認められると、加害者たちは賠償すべき損害全体について連帯して賠償する義務を負います。ここでの連帯は不真正連帯債務であると解されています。この不真正連帯債務の詳細は書きませんが、たとえば1人の加害者に対する免除の効力が他の加害者に及ばないという効果があるとする判例があります。

「余命3年時事日記」事例の行為について

余命大量不当懲戒請求東京弁護士会宛て

余命ブログからの懲戒請求の事案は、「殺到型不法行為」と呼ばれることがあります。今回の事案は、以下のような特徴があると言われています。

  1. 懲戒請求書のテンプレートを余命ブログ上で用意していた
  2. 余命ブログの名を冠した書籍にもテンプレートを附属させていた
  3. テンプレートは特定の弁護士の懲戒請求の目的と読める記述があった
  4. 大量の懲戒請求書は一度、余命氏の所在に送られた上でまとめて弁護士会に送付された
  5. 余命氏本人は懲戒請求をしていない

もちろん、これに当てはまらない懲戒請求もあったと思われますが、大枠としてはこのような理解でいいでしょう。この図だけを見ると、先に掲げた図の1番目の「加害行為一体型」或いは2番目の「損害一体型」の共同不法行為として捉えるべきということになりそうです。

しかし、懲戒請求の具体的文面を考えて記述したのは各請求者個人であると言えるとすれば(コピペがあったという事情はひとまず無視します)、懲戒請求の一つ一つは独立していると考えられます。そうすると、前掲図の3番目「独立不法行為競合型」と考えられ、共同不法行為の事例ではないという判断がなされる可能性もあります。

さらに言えば、被害弁護士が主張する内容によっては、「大量の」懲戒請求のうちの一つであるという事実が伏せられ、単に一つの懲戒請求による被害を訴えるものとされる可能性もあります。

共同不法行為成立の抗弁? 

こちらのエントリで、共同不法行為の構成を取る場合には請求認容額が少なくなること、共同不法行為の構成を取らない場合には請求認容額が弁護士の損害以上の過大なものになることをしてきしました。

そのため、弁護士側が共同不法行為の構成を取る「旨味」はないことになります。

同じ分析をしている以下のブログでは、次のように述べます。

魚拓:http://archive.is/02j5U

むしろ,​懲戒請求者側が「損害全体を一個の被害と捉えるべきで,既に他の人たちから和解金をもらっていて被害は全て回復されているからもう請求権なんか存在しない」​と主張する方が「まだあり得る」かもしれません。

どういうことかと言うと、弁護士から訴訟を起こされる懲戒請求者の側から、共同不法行為をいわば「抗弁」のように主張して、自らが支払うべき賠償額を減らそうとする主張をするのではないかということです。

このような主張をすることは自由ですが、弁護士側が共同不法行為を主張していない場合、裁判所が共同不法行為を認定することはできるのでしょうか?

仮に、弁護士が「大量の懲戒請求」の事実を前提に主張を組み立てており、しかし、共同不法行為の法的構成を取らないという場合、共同不法行為か否かは法的な判断のため弁論主義とは関係ないから、裁判所は共同不法行為の認定をすることに障害はないと思うのですが、どうなんでしょうか。

ここは多くの弁護士もどうなるかわからないと予想しています。

弁護士の提訴負担と訴訟の方針

このように、訴訟提起するにしても弁護士側の負担も相当なようです。

そのため、960人を一気に提訴するのではなく、数十人を選んで訴訟をし、その結果を待ってから和解に応じていない全員に訴訟提起する方針のようです。

高島弁護士の見立てでは、数十人単位で主観的併合の訴状を出すのではないかと考えられています。

まとめ

余命ブログの記述を発端にした大量懲戒請求事案の中で、記者会見動画をUPした佐々木・北弁護士の訴訟提起は6月末を予定しています。

そこで正確な主張がわかると思いますし、訴訟の進行によって新たな問題が出てくるかもしれません。裁判所の訴訟指揮によって当事者の主張も変化する可能性もあります。

殺到型不法行為の事案の公平な解決はどのようにするべきか、裁判所がどのように事件を扱うのかを追ってみるのは勉強になると思います。

以上