事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例(ヘイト規制条例)の法的問題点 憲法94条違反?

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大阪市のヘイト規制条例というと大阪市外の方は無関係と思うのではないでしょうか?

しかし、そうではないのです。実は、大阪市に全く足を踏み入れたことがなく、全く無関係な方でも、ヘイト規制条例に違反するとして不利益を被るかもしれません

ここでは実際の事例を元に大阪市のヘイト規制条例の問題点を整理します。

大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例の適用事例?

大阪市から条例に抵触するとしてメールが来た方がいらっしゃり、そのメールの内容が暴露されています。上記サイトの運営者である小坪慎也さんにはメール本文の引用を許可頂きました。なお、大阪市からメールが送られたのは小坪さんではありません。

本メールによって迷惑を被っている方の特定を防ぐため伏字が含まれます。

大阪市ヘイトスピーチ審査会事務局
メールアドレス : ca0014@city.osaka.lg.jp
住 所 :大阪市北区中之島1-3-20
TEL :06-6208-7612

 私ども「大阪市ヘイトスピーチ審査会」は、地方自治法第138条の4第3項及び大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例(平成28年大阪市条例第1号)に基づき設置された大阪市長の附属機関であり、大阪市長から諮問を受けて表現活動が同条例に規定する「ヘイトスピーチ」に該当するかどうか等について調査審議を行います。
 このたび、インターネットブログ「○○○○」に以下のURLで表示される記事について、条例全面施行日である平成28年7月1日以降も掲載を継続した行為が、同条例所定の「ヘイトスピーチ」に該当するかどうか等について、大阪市長から諮問を受け、調査審議を行っています(案件番号 平28-○○)。
 「http://   」
 本件に関し、同条例第9条第2項では、「審査会は、調査審議の対象となっている表現活動に係る申出人又は当該表現活動を行ったもの(以下これらを「関係人」という。)に対し、相当の期間を定めて、書面により意見を述べるとともに有利な証拠を提出する機会を与えなければならない。ただし、関係人の所在が判明しないときは、当該関係人については、この限りでない。」と規定されています。
 そこで当審査会は、貴方の所在・連絡先、氏名又は団体の名称を当審査会宛にご連絡くだされば、貴方が、上記記事を投稿・掲載した行為の目的等に関する意見を述べるとともに有利な証拠を提出できる機会を確保したいと考えております。
 つきましては、平成30年○月○日(○)までに、次の内容についてご連絡くださいますようお願いします。

<個人の場合>
(1)氏名
(2)住所
(3)連絡先(電話番号・電子メールアドレス)

<団体の場合>
(1)名称
(2)代表者氏名
(3)所在地
(4)連絡先(電話番号・電子メールアドレス)

 個人の場合は(1)及び(2)、団体の場合は(1)から(3)に関する情報をご提供いただいた場合のみ、当審査会から貴方あて、改めて意見提出機会等付与に関する書類を送付する予定です。すべての情報をご提供いただけない場合やご連絡がない場合は、条例第9条第2項ただし書規定の「所在が不明の場合」に該当するとして有利な証拠を提出する機会を与えないと判断する場合があります。
 なお、ご提供いただきました個人情報については、大阪市における「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」に基づく業務(条例第9条第2項に基づく意見等提出手続、本件表現活動がヘイトスピーチと認定された場合の条例第5条第1項に基づく氏名又は名称の公表等)のためにのみ使用します。
 どうぞよろしくお願い申し上げます。

大阪市ヘイトスピーチ審査会
  会長 坂 元  茂 樹

(ご参考)
○ 大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例
http://www.city.osaka.lg.jp/shimin/page/0000339043.html
○ 大阪市ヘイトスピーチ審査会
http://www.city.osaka.lg.jp/shimin/page/0000366957.html
○ 大阪市ヘイトスピーチ審査会規則
http://www.city.osaka.lg.jp/shimin/cmsfiles/contents/0000339/339043/shinsakai

上記メールを要約すると以下です

  1. あなたのブログに掲載されている内容が大阪市の条例に反すると考えている
  2. なので審査をするが、その前に反論があれば期限までにどうぞ
  3. ただしそのためには氏名、連絡先、住所等を教えろ
  4. 反論がない、又は認められない場合には審査してURL等の公表措置(不利益措置)を取るぞ

何が問題か?

条例の規定と上記メールの手続の両方に問題があります。

メールを受けた側も複数の論点で反論していますが、ここでは絞って記述します。

大阪市のヘイトスピーチ規制条例の問題1:行為の対象

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大阪市のヘイトスピーチ規制条例の問題の1点目は行為の対象に関するものです。

上記メールによれば、今回問題視されているのは「インターネットブログ「○○○○」に以下のURLで表示される記事について、条例全面施行日である平成28年7月1日以降も掲載を継続した行為」が条例に違反するということです。

大阪市ヘイトスピーチ規制条例は行為の対象が不特定であるという問題

上記メールには適用条文(何条違反だからこういうメールが来ているのか)が不明ですが、「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」の規定のうち、ブログ掲載行為を捕捉し得るのは5条1項2号ア及びイしかありません。

第5条 市長は、次に掲げる表現活動がヘイトスピーチに該当すると認めるときはー略ー 当該表現活動を行ったものの氏名又は名称を公表するものとする。ただしー略ー
(1) 本市の区域内で行われた表現活動
(2) 本市の区域で行われた表現活動(本市の区域内で行われたかどうか明らかでない表現活動を含む。)で次のいずれかに該当するもの
ア 表現の内容が市民等に関するものであると明らかに認められる表現活動
イ アに掲げる表現活動以外の表現活動で本市の区域内で行われたヘイトスピーチの内容を本市の区域内に拡散するもの

http://www.city.osaka.lg.jp/shimin/cmsfiles/contents/0000339/339043/170601zyourei.pdf

最初に5条1項2号イについて。これはどういう場合を想定しているのでしょうか?

たとえば大阪市内での行為を録画した動画をブログ掲載していたなどが考えられます。

この場合、ヘイトの定義が妥当であるか?の問題になるので、【大阪市のヘイトスピーチ規制条例の問題3】で論じます。
(現時点での予想ですが、上記事例ではこちらの問題なのではないかと思います)

より本質的問題なのは5条1項2号アですので、以下ではこの場合について書きます。

大阪市ヘイト規制条例5条1項2号は属人主義の規定 その問題点

大阪市ヘイト規制条例5条1項2号は属人主義の規定になっています。

「大阪市民ではない者」の大阪市「」における行為が、「大阪市民に対するヘイトだから」という理由で大阪市の条例によって不利益措置の対象とされていることです。

大げさに言えば、大阪市とは何ら関係のないあなたが何気なくブログをUPしたら、いきなり大阪市から上記メールが来てブログの名前などを晒されてヘイトスピーカーのレッテルを貼られる、ということになりかねません。

一般的な感覚から、5条1項2号アは「何かがおかしい」と思うでしょう。

以下で他の条例の場合と比較してみます。

普通の条例の場合:青少年保護育成条例の場合

青少年保護育成条例」を知らない人はいないでしょう。

青少年(18歳未満の者)とのみだらな性交渉や性行類似行為を禁止した条例で、全国で制定されています。名前はそれぞれ異なりますが、都道府県単位で制定されています。

これは刑法では同意があっても性行が犯罪になる年齢が「13歳未満」と規定されているところ、それ以上の年齢であれば同意があれば犯罪にはならないということになっている状態をカバーするために制定されているものです。

しかし、かつては長野県だけが青少年保護育成条例がありませんでした。そのため、長野県内であれば13~17歳の未成年と自由恋愛ができるとして「遠征」する者もいました。私の知人の男(当時も成人)の話ですが、週末に車で数時間かけて長野県に行って17歳未満の高校生と「交際」していた者もいました。
(条例がある都道府県でも高校生と交際している別の知人もいましたが、それは相当真摯な交際ならお咎めなしとなる運用がなされているからです)

なお、青少年保護育成条例がなかった時代の長野県民(成人)が条例のある自治体で18歳未満の者と同意のある性行を行えば、形式的には当該条例違反として処罰の可能性があるということになります。

条例の効力の範囲は、基本的に自治体の領域内

このようにして、基本的に条例の効力の範囲というのは「都道府県の領域単位(行政区画単位)」であるのが原則であるというのが分かると思います。

これに対して、大阪市のヘイト規制条例では、大阪市の外部での行為であっても、ヘイトの相手が「大阪市民」であれば条例違反になるという属人的な規定になっているのです。これがどれほど異常なのかがわかると思います。

さて、一般的な感覚は抜きにして、大阪市の条例5条1項2号アは、法体系上はどのように問題なのでしょうか? 

憲法94条の条例制定権の逸脱?

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憲法94条
第九十四条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる

憲法94条は地方自治を規定しています。

原則的に自治体は条例を制定するのに国の方針に合わせるということはありません。

しかし、「法律の範囲内」に限られると規定されているのです。この「法律の範囲内」は地方自治法14条1項の「法令に違反しない限りにおいて」と理解されています。

地方自治法
第十四条 普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。

  1. 法令に違反しない限りにおいて
  2. 第2条2項の事務に関し

とあります。つまり、以下が導かれます。

  1. 地方自治法2条2項の事務に関しない条例は制定できない
  2. 上記事務に関するものでも法令に違反した条例は制定できない

地方自治法は法令ですから、大阪市条例5条1項2号アが地方自治法第2条2項に違反していればそれは法令違反であり、憲法94条の条例制定権の逸脱となり、憲法違反になります。

地方自治法2条2項の事務:「地域における事務」とは

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地方自治法2条2項
第二条 地方公共団体は、法人とする。
○2 普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。

地方自治法2条2項の事務については、「地域における事務」とあります。

大阪市の条例5条2項2号アがこの範囲を越える場合には、違憲になります。

では、地域における事務とは何でしょうか?

国と地方公共団体の役割分担はどのようになっているのでしょうか?

国が本来果たすべき役割については地方自治法1条の2第2項にあるもの(長いので省略しつつ)を整理します。

国と地方の役割分担について(上図)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000467822.pdf

  1. 国際社会における国家としての存立にかかわる事務
  2. 全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務
  3. 全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割

上記が国が本来果たすべき役割で、原則的には自治体の役割ではないということです。

上記の地方自治法1条の2第2項は「地方公共団体との間で適切に役割を分担する」こととするとしています。この適切な役割分担はヘイト規制条例4条2項にも規定されています。

本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(ヘイトスピーチ規制法)

第五条 省略
2 地方公共団体は、国との適切な役割分担を踏まえて、当該地域の実情に応じ、本邦外出身者に対する不当な差別的言動に関する相談に的確に応ずるとともに、これに関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう、必要な体制を整備するよう努めるものとする。

したがって、国と自治体の役割分担を越えた条例は、それ自体ヘイト規制法にも反するということにもなります。

大阪市外での大阪市民への行為は「地域における事務」か?

果たして、インターネット上のブログの掲載行為を大阪市民に対するものだからとして不利益措置を行うというのは、地域における事務=自治体の役割でしょうか?これは、国が全国的な視点に立って行うべき事柄ではないでしょうか?

ヘイト規制法では「当該地域の実情に応じた施策」を講じるべきとされています。しかし、大阪市民が市域外で受けた行為について、「地域の実情」と言えるでしょうか?

しかも文言上、ヘイトとされる行為者が相手を大阪市民と思っていなくとも規制対象になります。わざわざ「大阪市民」という属性をあげつらってヘイトを行うことは想定しがたく、この条例を運用するときに被害者を名乗る者が申出をすれば規制の対象となってしまいます。

この点について判断の指標となるべき裁判例を私は知りません。おそらく、ほとんど先例のない領域の話なのではないかと思います。

小括1:大阪市ヘイト規制条例は法令に反し憲法94条違反

大阪市ヘイト規制条例はインターネット上の行為についても捕捉しようとする点で先進的なものであり、その取組自体は好意的に評価しています。

しかし、条例5条1項2号アは、地方自治法に違反し、よって憲法94条に違反するのではないでしょうか?

大阪市ヘイト規制条例の問題2:不可解な立案の経緯

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大阪市ヘイト規制条例の問題の2点目は、立案の経緯が不可解だということです。

大阪市ではヘイト規制条例を立案するにあたって、専門家で構成される「検討部会」とその他有識者で構成される「審議会」で複数回議論が重ねられて条例案が議会に提出されました。

特に5条1項2号アの規定があのような文言になったのは、その経緯に非常にいかがわしいものがあるのです。

検討部会や審議会では元々は大阪市内の行為のみが対象だった

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平成27年1月16日の第六回検討部会の資料である報告案では、条例5条1項2号アに相当する規定は大阪市内の行為のみを規制対象とする(属地主義)のが妥当である旨の記載になっていました。上の図は中間とりまとめの文ですが、そこにおいても同様です。

つまり、ずっと属地主義である前提で議論が進んできたわけです。

これがどうして大阪市外であっても大阪市民に対するものであれば規制対象(属人主義)となるようになったのか?実は全く議論の痕跡が見当たりません。

不思議なことに、平成27年1月16日の検討部会【非公開措置】が採られていたのです。非公開議事録の要旨には、属地主義から属人主義への変更については書いてません。

その次の議論は2月10日の審議会ですが、この時点ではすでに条例5条1項2号アに相当する規定は属人主義の規定に変わっており、特に疑義が差し挟まれることもなくその後の条例案提出に至っています。

同年2月25日の市長への答申でも、属人主義の規定でした。

その後、議会においてもなぜ条例5条1項2号アに相当する規定が属人主義になっているのかという点について質疑はありませんでした。

結局、属人主義の規定はノーチェックで議会を通過、条例制定となっています。

橋下徹市長は属人主義の規定への方針変更に関与しているのか?

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条例案を検討したのは市民局ダイバーシティ推進室人権企画課です。市民局は市長の直下にある多数の部局の一つですが、条例の大枠の方針は市長から要望として示されていたふしがあります。部会の専門委員を選ぶのは市長です。出来上がった条例案を市長も答申において確認したはずです。

当時の市長は橋下徹氏であり、弁護士として法律のプロですから関与していたのではないかと考えるのは在り得る話です。

ただ、市長が具体的な条文の文言について逐一口を出すのか?というのはかなり微妙なところです。検討部会にも弁護士がおり、審議会にも部会の委員の弁護士が会長となっていました。そのため、橋下氏が条例の規定について細かく注文をつけたとはあまり考えられません。

あり得るとすれば、実験目的で無理やり属人主義の規定をねじ込んだのではないか?というもの。このような発想は法曹でなければ思い浮かばないと思います。

小括2:属地主義から属人主義への変更経緯を明らかにせよ

属人主義の規定は平成27年1月16日の非公開の検討部会で決められたのか?

それとも別の場面で決まったのか?

たとえ当時非公開の措置をとっていたとしても、大阪市民対象なら大阪市外の行為でも規制対象となるという属人主義の規定になった理由、方針変更をした理由を明らかにするべきではないでしょうか?

大阪市のヘイトスピーチ規制条例の問題3:ヘイトの定義

これまで属人主義であることを問題視してきました。

「いやいや、ヘイトは悪いことなんだからうだうだ言うな」

こう思う方もいるかもしれません。

しかし、そもそも「ヘイト」って何でしょうか?

大阪市の条例は、この点についても問題があります。

ヘイトの定義の問題:権利、自由の「制限」

大阪市の条例2条1項1号イでは単なる「権利・自由の制限」もヘイトにあたるとされています。侵害ではなく制限。民事不法行為よりも緩い(違反になりやすい)規定です。これはヘイト規制法の定義とも異なります。

要するに大阪市の「ヘイト」の意味内容が恣意的に捉えられる可能性が高いということです。

なぜ「制限」とという文言になったのかは、30回の審議会の議事録において、「侵害よりも広くとらえるため」という目的であると名言されています。

また、条例制定過程では、単なる批判、非難は対象外であることが明言されていました。しかし、「侵害」ではなく「制限」という文言で規定されているため、事案毎に相当幅の広い判断が下される虞があります。実際には運用によってかなり左右されるのではないでしょうか。

大阪市のヘイト規制条例の好意的な評価

大阪市のヘイト規制条例で良いと思うのは、ヘイトの定義として「日本人に対する表現」も規制対象になるということが文言上も可能性として残され、更には公開されている条例のQ&Aにおいて、日本人への表現も規制対象となる」と明言していることです。
※ヘイト規制法の規定ぶりから解釈の余地がある趣旨からは穿った見方(本邦外出身者たる日本人のみ対象という理解)もできますが、もしもそうであるなら国民に対する裏切り行為です。

ヘイト規制法では「本邦外出身者」へのヘイトが規制対象として規定されていたことからすれば前進していると言えます。

本来的には国の法令によって「ヘイト」「ヘイトスピーチ」という用語の定義を明確にするべきであり、現在の状況は日本人の表現の自由に対する萎縮効果を生じさせていると言え、許す訳にはいきません。

ただし、この「日本人」が「本邦外出身者」のみを指すという意味であるならば、それは許す訳にはいきません。

小括3:「ヘイト」の定義は国も大阪市も疑問

  1. 「権利利益の制限」のみでヘイトに当たり得る規定は疑問
  2. ヘイトの被害者に日本人が対象となる旨を明言していることは好意的に評価できる
  3. ただし、その「日本人」には純日本人が含まれないとするのであれば許し難い
  4. 本来は国の法律で日本人が被害者になることも含めたヘイトの定義に修正すべき

「ヘイト」の定義は国も大阪市も疑問であり、大阪市は「日本人も対象」になり得る文言であり、QAでそうだと明言したことは良いことですが、未だ「日本人属性」に対する攻撃を補足しているかは不明です。

大阪市のヘイトスピーチ規制条例の問題4

条例そのものではなく、条例に基づく行政施策を実施しようとする「運用」の問題がメールから読み取れます。

メールは行為の特定が無く、適用条文の記載もない

正直信じられないという思いです。大阪市のレベルはどうなってるんだ?と思います。

ブログ掲載行為が規制対象となり得るのは5条1項2号ア及びイのみであると指摘しましたが、メールにはそのいずれも記載がありません。何らかの法令に違反した場合になされる通知において、違反した条文の記載が無いというのは非常に不親切です。

メールを受けた者は、何の行為がダメなのかが分からないという状況に陥ってしまいます。反論メールを書こうにも、行為の特定が無ければ対処のしようもありません

こんな杜撰な運用を行っているのを見るにつけ、大阪市は、とにかく規制事例を作りたい、既成事実を作りたいと躍起になっているとしか思えません。審議会の議事録でもそういう意識は垣間見えてきます。

大阪市のメールは大阪市ヘイト規制条例5条3項違反

大阪市のヘイト規制条例5条3項には、公表しようとするときは「公表する理由」を表現者に通知しなければならないと定められています。単にサイトのURLだけを示して条例に違反しているとだけ伝えることは、理由を述べたことにはならないと考えます。

つまり、メールはそれ自体が大阪市ヘイト規制条例に違反しています。

理由は具体的なものでなければなりません。単に「ヘイトした」が理由にならないというのは当然でしょう。具体的にどういう内容のヘイトをしたのかが特定されていなければ、理由を通知したことにはなりません。

しかも上記メールは「ブログ掲載行為」が違反としましたが、ブログ記事をインターネット上に閲覧可能な状態にしておくこと自体は適法な行為です。それが違法になるのは、内容が違法な内容である場合です。メールの文面では内容について触れておらず、ブログ掲載の時点で違反であると言っていることになり、正直、頭の中身を疑うレベルの酷さです

ブログ記事の中身としてどの内容なのか?それは記事なのか、画像なのか?動画なのか?それは誰に対するヘイトなのか?画像や動画であればどこで行われたヘイトなのか?こういった特定をせずに国民に対する不利益措置を取ろうとするのは言語道断です。

もっとも、「誰に対するヘイトか?」については被害者保護の観点から必ずしも特定すべきではないとは思います。その点を配慮しつつ行為を特定することは可能です。

小括4:大阪市が条例5条3項の「公表する理由」の不掲載

  1. 大阪市は行為の特定をきちんとせよ
  2. メールのテンプレートは改善すべき

小坪慎也議員が紹介した事例は、大阪市自身がヘイト規制条例5条3項の「公表する理由」の不掲載で違反しているといえます。

大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例の問題点まとめ

大阪市のヘイト規制条例の問題点をまとめると以下です。

  1. 規制対象の行為が「大阪市民」という属人的なものが含まれており憲法違反
  2. 属地主義から属人主義の規定に変更になった審議過程に疑問がある
  3. ヘイトの定義がおかしい
  4. メールの運用自体が大阪市ヘイト規制条例に違反している

大阪維新の会は議会も掌握し、市長も維新の会の吉村洋文さんが就任しています。彼もまた弁護士資格者です。条例を直ぐに改正しろなどとは思いませんが、少なくとも現在の恥ずかしい行政運用は是正すべきです。

以上