事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

韓国軍の海自P1哨戒機に対するレーダー照射事件:CUESと韓国軍のマニュアル

韓国海軍艦艇クァンゲト・デワン

防衛省:http://www.mod.go.jp/j/press/news/2018/12/21g.html

2018年12月20日(木)、能登半島沖の日本EEZ圏内で、韓国海軍「クァンゲト・デワン」級駆逐艦から、海上自衛隊のP-1哨戒機が火器管制レーダーを照射されました。

  • レーダー照射の事実はあったのか?
  • レーダー照射の目的は?

この情報の理解について混乱があることと、韓国側の説明が異常であることについて整理していきます。

※追記:この記事は12月28日に防衛省が映像と資料を公開する前に、日韓の主張を整合的に理解するとこうなるという予想を書いたものです。その後の事実からは韓国側が嘘をついていることがほぼ確定です。

韓国軍は北朝鮮船捜索のためにレーダー使用と説明

北朝鮮漁船救助の際に日本哨戒機へ火器管制レーダー照射=韓国軍魚拓はこちら。

韓国軍の消息筋は「漂流中だった北の漁船が近くの船舶に救助信号を送り、わが軍が海軍駆逐艦(広開土大王・3200トン)を派遣し、救助作業を行った」と述べた。また、「出動した駆逐艦は遭難した北の船舶を迅速に見つけるため火器管制レーダーを含むすべてのレーダーを稼働し、この際、近くの上空を飛行していた日本の海上哨戒機に照射された」と説明した。

日本「韓国軍艦艇、自衛隊哨戒機に火器管制レーダー照射」魚拓はこちら

国防部も担当記者団の携帯電話に文字メッセージを送り、「わが軍は正常な作戦活動中にレーダーを運用したが、日本海上哨戒機を追跡する目的で運用した事実はない」と明らかにした。

「正常な作戦活動中に火器管制レーダーを含むすべてのレーダーを稼働」

火器管制レーダーを稼働させていたということを認めています。

「火器管制レーダー」と「光学カメラで撮影」

日本哨戒機接近し撮影用光学カメラ稼働 ビーム放射はせず=韓国軍魚拓はこちら。

光学カメラを使う際、追跡レーダー(STIR)が共に作動されるが、哨戒機にビームは照射しなかったという。

 複数の韓国軍消息筋は当時の状況について、「東海で遭難したとの通報を受けて出動した駆逐艦『広開土大王』が船舶捜索のためのマニュアル通り、航海用レーダーと射撃統制レーダーをフル稼働していた」として、「その後、日本の哨戒機が艦艇の方向に接近し、光学カメラを運用した」と説明した。

 日本「味方に銃撃つか」vs韓国「射撃用レーダー撃たなかった」魚拓はこちら。

複数の軍消息筋によると、20日午後3時ごろ、独島(ドクト、日本名・竹島)北東200キロ沖の公海上で、韓国海軍「広開土大王」(DDH-971)が漂流中の北朝鮮漁船に対する捜索・救助作戦を行っていた途中、日本海上自衛隊の海上哨戒機P-1が近接してきたため、これを識別するために電子光学標的追跡装備(EOTS)を作動した。

「広開土大王」はこの日、別の射撃統制レーダー「MW-08」は稼動させていたキム・ジンヒョン予備役海軍少将は「MW-08は精密探索が可能なので救助活動にもよく利用する。悪天候の時も使っているレーダー」と説明した。別の軍消息筋は「威嚇飛行をしていたのはむしろ日本海上哨戒機のほう」とし「無線電話で国籍や正体を明らかにしなかった」とした。

 

  • 光学カメラ(EOS)を作動したという事実
  • 射撃統制レーダー」の型式としてMW-08を言っていることが判明
  • 光学カメラ作動時に追跡レーダー(STIR)が共に作動していた(が、P1哨戒機には向けていないとのこと)
  • P1の方が威嚇しているという主張も
  • 無線電話で国籍や正体を明らかにしなかった

後に分かったのはこれらの情報です。

火器管制レーダーを稼働させていたということは取下げていない模様です。

火器管制レーダー+光学カメラだったということですね。

そして、レーダーにも複数種類あることが分かりました。

“欠陥”は韓国駆逐艦か、韓国海軍組織か。海自哨戒機にレーダー照射 - FNN.jpプライムオンライン

IHSジェーン軍艦年鑑2018-19によれば「クァンゲト・デワン」級駆逐艦は、空中の飛翔体を360度捜索するSPS-49v5対空捜索レーダー、水上及び低空を捜索するMW08レーダー、いうなれば、空中の標的に狙いを定める火器管制レーダー、STIR180レーダー、航海用のSPS-55Mレーダー、それに、敵味方識別装置UPX-27が搭載されている。
もちろん、これらのレーダーや電波装置は、使用する周波数帯がそれぞれ、異なっている。

後に引用しますが、防衛省は「火器管制レーダー」を検知していると言っています。

FNNの記事中ではMW08レーダーがそれにあたります。
(ただ、防衛省・自衛隊や韓国軍がそのような分類をしているかは今のところ分かりません。)

どうも、韓国側の種類分けと日本側の種類分けが異なるような気がします。

STIR-180とMW-08の説明の違い?

これは一つの見方ですが、日本側が問題視しているレーダーと韓国側が「問題ではない」と主張しているレーダーの型式が異なっている可能性があります。

前掲FNNの解説では(STIR-180)のアンテナが向いていることからそれがP1に向けて照射されていたと断定していますが、この点は留保すべきでしょう。

しかし、これにはいろいろと疑問符がつきます。

「照射は2回、数分間」との事実との整合性

韓国艦レーダー照射は2回、数分間「意図的な事案」 - 産経ニュース

政府関係者によると、P1は最初の照射を受け、回避のため現場空域を一時離脱した。その後、状況を確認するため旋回して戻ったところ、2度目の照射を受けた。P1は韓国艦に意図を問い合わせたが、応答はなかった。照射は数分間に及んだとみられる。

 「火器管制レーダーを作戦行動中に稼働させていた」ということであれば、照射が2回、数分間どころではないのでは?と思います。

P1が一旦空域離脱をしてから再度レーダーの圏内に突入したことによるものの可能性はあるのでしょうか?

防衛省の見解と韓国側の説明の異常な点

防衛省・自衛隊:韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について

防衛省としては、20日(木)のレーダー照射事案の発生後、海自哨戒機の機材が収集したデータについて、慎重かつ詳細な分析を行い、当該照射が火器管制レーダーによるものと判断しています。その上で、火器管制レーダーは、攻撃実施前に攻撃目標の精密な方位・距離を測定するために使用するものであり、広範囲の捜索に適するものではなく、遭難船舶を捜索するためには、水上捜索レーダーを使用することが適当です。
 加えて、火器管制レーダーの照射は、不測の事態を招きかねない危険な行為であり、仮に遭難船舶を捜索するためであっても、周囲に位置する船舶や航空機との関係において、非常に危険な行為です。なお、韓国も採択しているCUES(洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準)において、火器管制レーダーの照射は、船舶又は航空機に遭遇した場合には控えるべき動作として挙げられています。

「火器管制レーダーは広範囲の捜索に適するものではない」

これは(MW-08)も(STIR-180)も同様のハズです。

しかし、韓国側は「駆逐艦『広開土大王』が船舶捜索のためのマニュアル通り、航海用レーダーと射撃統制レーダーをフル稼働していた」「MW-08は精密探索が可能なので救助活動にもよく利用する。悪天候の時も使っているレーダー」と説明しています。

マニュアル通り」と言っていますが、このマニュアルがおかしいのでは?

CUES(洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準)

防衛白書によると、CUESとは、西太平洋海軍シンポジウム(WPNS)参加国の海軍艦艇および海軍航空機が、洋上において予期せず遭遇した場合における安全のための手順、通信方法などを定めるもの(法的拘束力を有さず、国際航空規則や国際条約などに優越しない。)とあります。

Code for Unplanned Encounters at Seaの原文。これが最新版かは分かりません。

2.8.1では、誤解される行動を取らないために避けるべきものが規定されています。

その中でa項を見ると、「遭遇した船舶や航空機に対して銃砲・ミサイル・火器管制レーダー・魚雷管やほかの兵器を向けて攻撃のシミュレーションをすること」があり、これは控えるべきとされています。

つまり、韓国側はCUESに反する行動をしていたということになります。

韓国側からの言い訳として「最初から火器管制レーダーを稼働させていたのであって、その圏内にP1が入り込んできただけだ」と主張する可能性があるでしょう。

ただ、それはCUESに反する韓国軍のマニュアルがあったせいであると言えます。

おそらく、問題は韓国軍のマニュアルにあったということではないでしょうか?

さて、その上で、韓国側の主張には別個におかしいと思われる点があります。

P1哨戒機からの無線に応答しなかったのはなぜか?

前掲記事では、韓国側は無線に応答しなかった理由として「国籍や正体を明らかにしなかった」ということを持ち出しているようです。

また、「P1が威嚇的であった」という主張も出てきているようですが、であればむしろ韓国側からP1哨戒機に向けて何らかの警告無線があってしかるべきでしょう。

韓国軍の主張は他にも「海洋警察に向けたものだと思った」というものがあるのですが、これはちょっと信用できませんよね。

ここは憶測になりますが、以下のような論理ではないでしょうか?

今回の事案は日本EEZ圏内の話です。

なので、本来は質問の主導権は日本側にあると思われます。

無線で何者かから問い合わせがあったなら、それに対する応答義務は、他国のEEZ圏内に入っている韓国側にある。

本来はこのような運用となるべきはずが、韓国側は無線の相手側が「国籍や正体を明らかにしな」い限りは応答しないという行動を取ったのではないでしょうか?

もしこうであるならば、韓国側の行動は不合理なものでしょう。

その原因は「訓練不足」ではないでしょうか?

そうすると、韓国側の行為が日本側を挑発する故意ではなかった、という説明は整合性がとれることになります。

ただ、それにとどまる話であっても今回の韓国側の対応が不当であると言う結論になりそうです。

まとめ:韓国軍のレーダー照射事件の実態の予想

  1. 火器管制レーダー+光学カメラを稼働していた
  2. 「照射は2回、数分間」との事実との整合性は不明
  3. 韓国側はCUESに反するマニュアルを運用していたと思われる
  4. P1からの質問に応答しなかったのは訓練不足による対応すべき行動の認識の誤りではないか?

おそらく「韓国軍の認識としては当たり前の行動をしていたが、国際常識から外れたものであったため日本側は異常な行動として受け止めた」というあたりが真相だと思います。

それを韓国側は日本のせいにしようとしているだけのような気がします。

上記は善意解釈をした結論ですが、韓国側が「マニュアル通り」という部分も「レーダー照射していない」という部分も嘘である可能性をどうしても考えてしまいます。

韓国は関東大震災の火災による犠牲者の写真を「朝鮮人虐殺の被害者」の写真として紹介するという捏造も行っていますし「問題のすりかえ」を行うのは常套手段なのでしょう。

以上

※追記:韓国軍はCUESの解釈を誤った運用をしている可能性について

※追記2:防衛省はSTIRを火器管制レーダーとして問題視しているということが確定しました。

「火器管制レーダー特有の電波」としていることから、射撃管制機能がついているがそれ以外の用途もあるMW08ではないでしょう、という見方が正当性があると思います。